64 リーダーの掟
『あーん、あーん』
ビッチの肉体を占拠した邪神は、声高らかにビービー泣いている。
『あーん、あーん(ククク。どうだ? ボッチよ。地球の帝王になる決意はついたか)』
俺が君臨すれば、5人の戦隊ヒーローがパーティを組んで襲ってくるらしい。
その時、どうしたらいいんだ?
まず、脅威はレッドだ。
レッドは戦隊ヒーローのリーダーだ。どんな困難に陥っても、みんなに勇気を与えるのがレッドの仕事。だからまずレッドから血祭にあげればいい。
ん?
まてよ。
おい、邪神。
やはり将来俺とぶつかるだろう戦隊ヒーローのリーダーもレッドなのか?
『あーん、あーん(無論そうだ。レッドがリーダーだ)』
今まで疑問にすら思わなかったけど、どうしていつもいつも戦隊ヒーローのリーダーはレッドなんだ?
『あーん、あーん(実は過去にレッド以外のリーダーが存在した)』
なんと。
『あーん、あーん(戦隊シリーズ二作目にあたるジャッカー電撃隊がそうだ。スペードエースが実質的なリーダーでパーソナルカラーはレッドなのだが、その上にビッグワンというのがいてな、奴のパーソナルカラーは白だった。俺的はビッグワンの方がリーダーに思えた)』
知らねぇよ。
だが、要するに赤以外にもリーダーになる恐れがあるってことか?
『あーん、あーん(ない)』
どうして言い切れるんだ。
『あーん、あーん(実はあの後アンケートを取ったらしく、戦隊ヒーローを愛する子供たちにはどうも赤に人気が集中しているようなのだ。赤は決断力と行動力を連想させ、まさにリーダーの色にふさわしいという結果が出た)』
なるほど。
戦隊リーダーが赤なのは、アンケート結果なのね。
『あーん、あーん(そうだ。アンケートは重要だ。それにジャッカー電撃隊は戦隊ヒーローシリーズではないという議論まで飛び出した。つまり赤をリーダーにしないとのけ者にされるという過去の判例があるのだ)
そうか。
やっぱ赤がリーダーなのか。
でもセーラー〇ーンのリーダーは黄色じゃないか!?
『あーん、あーん(セーラー〇ーンに合体ロボは出ないだろ? あれは変身系のジャンルに属する。仮面ラ〇ダーや宇宙刑事ものに近い位置にある。だからリーダーカラーには、別の法則が用いられる。だが今回の敵は合体ロボだ。だから変身ヒーローの法則など無視しておけばいい。
それに人間が変身して戦闘力を上げるために必要なテクノロジーは今の地球の科学レベルでは不可能だ。そもそも変身して強くなれる能力は番組だから面白いのであって、現実的に考えたらあまり意味がない。正体を隠すという意味もありそうだが、仮面〇イダーなどは、ショッカーに囲まれてへんしん! と言っているだろ? あれは単に子供たちが燃えるだけで、その間隙だらけだし、どうしてショッカーがその間に攻撃してこないのか、誰もつっこまないし、そこを突っ込んではいけない空気もだしている。もっと問題なのが、セーラー〇ーンやキューティー〇ニーの変身シーンだ。どうして全裸になる?? 圧倒的に無防備になっているんだぞ! 誰か突っ込めよ。単に視聴率狙いだろ!?
要するに簡単に言うと、合体ロボを操縦するリーダーは赤なのだ!)
なるほど。そうだったのか!
さすが邪神、頭がいい。
なら赤から準備につぶしていけばいいってことで大丈夫か?
『あーん、あーん(何を消極的な戦法を考えているのだ? お前は入れと念じるだけで勝てるのだぞ。まとめて地獄におくってやれ!)』
だって怖いもん。
『あーん、あーん(ククク。そうか。なら更にすごい能力までつけてやろう)』
なんだ?
『あーん、あーん(キサマが地球に転生後、魔王に君臨する際中、もし困ったら、その都度能力を更新してやろう。これでお前を脅かすものは皆無だ。どうだ、すごいだろ?)』
すごいね。
『あーん、あーん(そろそろ決断はできたか?)』
あ、うん。
で、どうすればいいの?
『あーん、あーん(簡単だ。お前の名前を教えてくれればいい。ただそれだけだ。それでお前は地球の神になれる!)』
俺の名前はヒロ――
うぅ。
どうしたんだろ。
ゾッと背筋に悪寒が走った。
何か嫌な予感がする。
待ってくれ、邪神。
もしかしてビッチが聞いているかもしれない。
ビッチに聞かれたらまずいんだ。
『あーん、あーん(その心配は不要だ。俺はビッチを完全に封じ込めている。ビッチがボッチの名前を知ろうとも、もはや何もできない。泣くことすらできないのだから)』
それでもちょっと心配だ。
『あーん、あーん(ではこういうのはどうだ? 紙に地球の文字で名前を書け。それをアイテムボックスに転送してくれたらいい。ビッチは知能が圧倒的に低い。ハッキリ言ってアホだ。だから地球の文字など読めやしない)』
そうか。
その手があった。
さすが邪神は頭がいい。
俺はサラサラと名前を書いた。
俺はヒロ――
そしてアイテムボックスに転送した。
『あーん、あーん(ククク)』
邪神はいつものように不気味に笑っている。
『あーん、あーん(なるほど、キサマの名前はヒロ――)』




