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62 誘惑

『あーん、あーん』



 ビッチはビービー泣くのが仕事とばかり思っていた。

 だがビッチはビービー泣きながら、俺とコミュニケーションをとってきたのだ。

 大抵はくだらねぇことばかりだが、時に面白い話題であったり、感情の吐露だったりを率直に話しかけてくれていた。



 だが――




 今、アイテムボックスでビービー泣いているのは、ビッチの体を蝕む悪の化身だ。




『あーん、あーん(さぁ、ボッチよ! 取引をしようではないか。こんな微妙な苦境にいつまでも立たされているなんて、もううんざりだろ?)』



 あ。

 まぁ。



 異世界転生したら大抵のなろうヒーローなら、チート化して大活躍しながら、ヒロインとかチョロインとかたくさんでてきて、主人公の取り合いを始めるってのが相場なのに、そういった傾向が全く見受けられない。

 ひたすら主人公を苦境に立たせるなんて、この作者、サービス精神が欠けているんじゃねぇかのか?



『あーん、あーん(ククク。そうだな。色々欠けているが、それはシークレットの話だ。あまり本編に出すな。とにかくボッチよ。もしこのまま地球に帰ったらどうなると思う?)』



 だるい受験戦争やら、就職やらで苦しむだろうな。そしてなんとか頑張って奇跡的にマイホームを建ててもローン地獄で苦しみ、最終章には老後の心配やらで、相当めんどくさい思いをするだろう。




『あーん、あーん(そうだ。それが凡夫の限界だ。だがキサマはもはや凡夫ではないのだ!)』



 なに?



『あーん、あーん(この世界で手に入れたアイテムボックスはそのまま持っていける)』



 そうなのか?

 まぁ確かに、アイテムボックスがあれば旅行とかも軽装備で済むし、わりと便利なのかもしれないな。

 だけど、スキル習得不可のマイナス要素もおまけでくっつくんじゃねぇだろうな。



『あーん、あーん(もちろんそうだ)』



 ダメじゃん!

 だったら、俺、無能のままじゃん。

 絶対に戻らねぇぞ!



『あーん、あーん(話は最後まで聞け! 地球においてスキルなど不要だ)』



 それはどういうことだ?




『あーん、あーん(簡単だ。キサマにはいくらでも格納可能な無敵のアイテムボックスがある。気に入らない奴は片っ端からぶち込んで、脅し上げ、能力のある者を手下にすればいい。キサマに特別なスキルなどなくとも、手下が馬車馬のように働いてくれる。そもそもなまじ高いスキルなんてあったら、他人の仕事が気に入らないから自分が働かないと気に入らない状態に陥るぞ。そんなの嫌だろ)』



 この邪神……




 ちゃんと分かっているじゃねぇか。





 なんという説得力だ。

 まさにそれはボッチニートの楽園ではないか。



 そうか。

 俺はアイテムボックスを振りかざして地球を支配できるのか。



『あーん、あーん(そうだ。この世界の神は俺だが、地球という世界の神は、ボッチよ、キサマしかいないのだ。どうだ? 地球に行きたくなっただろ? 無限アイテムボックスさえあれば、地球人なんぞ一捻りよ! 逆らう奴には全員入れと念じればいいだけだ)』




 た、確かに……



 い、いや。

 待て!



 お前は知らないのか?



 最近の地球人はわりと強いんだぞ。

 スー〇ーマンとかバッ〇マンとかアメリカンヒーローがあちらこちらで出没しているし、海賊王になるんだとかいう人や、金髪になったら戦闘力が急上昇する人もいるんだぞ。他にも指先一つでダウンさせる正義の超人までいるぞ。最近では手首とかをかじると巨人化する人も大人気なんだぞ。あの人にはなんか勝てそうな気がするけど。

 だけど殆どの正義のヒーローに、俺なんかが勝てる訳がない。




『あーん、あーん(何を恐れる。キサマには異次元ルーラがあるではないか。強い相手が出てきたら登場と同時にアイテムボックスに送り込んでやれ!)』



 うぅ。



『あーん、あーん(キサマは欲しくないのか? 意のままに動かせる奴隷が。目も眩むほどの財宝が)』




 うぅ……



 もうひとりのビッチはか弱い声で泣いている。



『あーん、あーん(ボッチ君……)』

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