61 ビッチにバカにされる
『あーん、あーん』
またビッチがビービー泣いている。
うるせぇな。
今度は何だ?
『あーん、あーん(トランプさんが選挙で勝っちゃったよー)』
誰だ? そいつ?
『あーん、あーん(え?? 知らないの? 君の祖国の星のナンバーワンの大国の新リーダーだよ。そんな有名人を知らないなんてダメじゃん? ボッチ君、もうちょっとは勉強しなくちゃ!)』
ビッチにバカにされた。
てか、俺はキサマによく分からん異世界に誘拐されたんだぞ?
その時刻を日本時間に換算して2015/10/11 19:47
ちゃんと証拠も残っているぞ。
ほら、第一話の投稿日時を見てみろよ。
その頃の日本人の何人が、トランプさんを知っているんってんだ?
少なくとも一般凡夫クラスは知らんぞ。
お前は知っていたのか?
『あーん、あーん(え? え? あ、……まぁ)』
てか、どうしてそんな情報まで分かるんだよ?
『あーん、あーん(あたしは、これでも神様だからね)』
偉そうになんか言っているが、その癖してアイテムボックスから出る事はできない。
なんとも微妙な神だ。
『あーん、あーん(トランプさんが大統領になったら、日本はどうなっちゃうのかな?)』
知らねぇよ。
てか、俺、もう帰れねぇんだろ?
『あーん、あーん(あたしを出してくれたら、帰らせてあげるよ)』
マジか?
『あーん、あーん(うん)』
ビッチを信用していいのだろうか。
それにビッチの中には邪神も住み着いているんだ。
ビッチを出したらこの世界の将来が危ない。
『あーん、あーん(いいじゃん。どうせ地球に帰ったら関係ないじゃん)』
確かにそうだ。
いや。
待てよ。
キサマ、ビッチではないな!
『あーん、あーん(え? え? え?? 何を言ってるの? あたしはビッチだよ)』
いや。
その反応はおかしい。
あからさまに自分はビッチだと言い張っている。
明らかに動揺している証拠。
ビッチには知恵がない。
それなのに、ここ数日、カープだとか、更にはアメリカ大統領の話をしている。
それはつまり――ここ数日、俺と和んで、こうやって信頼関係を結んで、ここから脱出をもくろんでいた。
出る為の算段をしていたってわけか。
さすが邪神。
ビッチより知恵がある。
『あーん、あーん(ククク、よくぞ見破った。だが約束は守ってやる。俺を出せば、お前を地球に返してやるぞ)』
ほんと?
『あーん、あーん(なんなら血の盟約という取引をしても良い。虚実を申したら、俺は裁かれる)』
そんなのあるの?
『あーん、あーん(ある。信じられなかったら、お前の傍にいる妖怪の小娘に聞いてもらってもいい。大抵の人外なら知っている約束を守らせる手法だ)』
ほぅ。
その時だった。
か弱い泣き声がしてきた。
『あーん、あーん(ボッチ君、たすけて……)』
……ビッチが弱りきっていることにまったく気付かなかった。
俺はこのままビッチを見捨てて、地球に帰ってもいいのだろうか。
『あーん、あーん(ボッチ君、たすけて……)』




