58 レストラン
子泣きジジィのお孫さんとレストランにやってきた。
わりと高そうだ。
スタイリッシュな黒服を着たウエイターがオーダーを聞いてくる。
「いらっしゃいませ。伊藤と申します。本日のご注文はどのような趣向にいたしましょう?」
「どんなのがあるの?」と俺は聞いた。
眼鏡の中央をくぃと指で持ち上げ、「本日のおすすめはじっくり煮込んだひのきの棒のソテーに、ひのきのサラダがおすすめかと思います」
ひのきの棒を食うんかい?
まぁ偉くけったいな店に来たもんだ。
純和風な子泣きじじぃのお孫さんは、時折、棒読みで「あーん、あーん」と言う。
新言語体系のあーん、あーんも訳せるようになってきた。
無表情の棒読みで
「あーん、あーん(もしかしてお爺ちゃんを抹殺した我々共通の敵がどこかに潜んでいて、この会話を聞いているかもしれません。ですから敢えて暗号でお話したいのですが、私が言いたい意図、聞き取れますか? ……って無理ですよね?)」
残念なことに聞き取れちゃったよ。
どうしたものか。
「泣いてばかりいても分からんし」
と、ごまかそうとした。
子泣きジジィのお孫さんはニッコリ笑った。
「あーん、あーん(さすが私が心に決めた人です。私が嘘を見破れる能力を考慮し、見事な回答をしてくださいました)」
あ、そうか。
この子、ウソが見破れるんだった。
俺がさっき発した『分からん』という言葉が嘘ってことは見破られている。つまり俺は子泣き系のあーん語が理解できるということがばれてしまった。
今度はアイテムボックスからびーびー泣き声が聞こえてくる。
『あーん、あーん(ぼっち君、なに内緒話しているの? 言えない事があるの?)』
いっぱいあります。
「あーん、あーん(お話している間に、ひのきの棒のソテーがきたようです。先にお食事しましょう)」
『あーん、あーん(お腹、空いたよー)』
おい、ビッチ、ひのきの棒、食う?
『あーん、あーん(うん!)』
俺は食べたふりをしながら、ひのきの棒をアイテムボックスに転送した。
『あーん、あーん(ひのきの棒、うまうま)』




