56 あーん、あーん?
「あーん、あーん」
うるせぇな。
またビッチがビービー泣いているのか。
いや、どうも違うようだ。
なぜなら、俺のアイテムボックスはいたって静かだ。
今は夜。
どこかで赤ん坊が泣いている。
「あーん、あーん」
どこかに赤ん坊がいるのか。
悪寒を感じた。
どうも嫌な予感がする。
こんな話を思い出したからだ。
とある青年がいた。
あーん、あーんという泣き声を追いかけていくと、そこには小汚ねぇジジィがいた。
ジジィがあーん、あーんと泣いているのだ。
ニヤニヤした顔であーんあーんとのたまわっている。
ぶっちゃけかなりキモイ。
だが心優しき青年は、それなりに哀れに思ってジジィを抱き上げた。
すると体重がだんだんと重たくなり、青年を押しつぶした。最後は岩のような重量で青年の命を奪ったとか。
奴の名は、妖怪、子泣きじじぃ。
俺は恐る恐る、泣き声の方に近づいて行った。
俺には無敵のアイテムボックスがある。
もし泣き声の主が脅威だったら、即座にアイテムボックスにぶちこんでやる。
子泣きじじぃでも関係ねぇ。
こっちには子泣きビッチが、アイテムボックスで待機しているんだ。
石になってもガリガリかじるぜ?
クネクネした裏道を進んでいった。
もちろん俺はどきどきしていたさ。
もし本当に赤ちゃんなら大変だ。
こんな真夜中に外で放置されているかもしれないんだ。おまわりさんなり、憲兵なりに届けてあげなくてはならない。
でも。
もし、あーんあーんと泣くじじぃがいたらどうしよう。
そんな気持ちで俺は声のする方へ向かっていった。
そして声はあの突き当りに向こうから聞こえる。
俺は勇気を奮って、突き当りを曲がった。
俺は仰天した。
そこには。
奴がいた。
ビッチ。
てめぇ。
どうして、そんなところに。
「あーん、あーん」
「おい、ビッチ。どうしてそんなところにいるんだ?」
「あーん、あーん(あのね)」
あーん、あーんという言語体系は、まさにビッチだ。
どうして?
てめぇは俺のアイテムボックスの番人に成り下がっていたはずだろ?
「あーん、あーん(ボッチ君に会いたくてやってきたの)」
そしてビッチは近づいてくる。
二パッと笑った。
無邪気な笑みってやつだ。
緑色の長い髪にエメラルドグリーンのつぶらな瞳。
ちょっぴり童顔ではあるが、16、7の少女のような容姿。
使える言語はあーん、あーんだけど、紛れもなく美少女ではある。
ダメだ。
それ以上近づく名。
だって、あんたは破壊神。
この世界を不幸にするのが使命。
「あーん、あーん(大丈夫だよ。ボッチ君。あたしといっしょになろっ)」
そこで俺は目覚めた。
なんだ、夢か。
全身汗まみれだ。
てか、俺、どうして路地裏で眠っているんだろ。
どこともなく聞こえてくる。
「あーん、あーん……」
ドキリとした。
俺はびくびくしながら、声のする方へ向かった。
もしビッチがいたらどうしよう。
そんな気持ちで道を曲がった。
あ。
ジジィだ。
子泣きジジィがいた。
「ヒャッハァー、小僧よ! まんまと騙されたな! わしの命に成り下がれ!」
ジジィは俺に飛びかかってきた。
俺は手をかざして「入れ」と言った。
『うぅ。ここはどこじゃ』
『あーん、あーん(あ、小汚いジジィがキター。まずそう)』
『なんじゃ。めんこい小娘。どうしてあーんあーんと言っておる? まぁわしもあーん、あーんなら得意じゃが。ほれ、あーんあーん』
『あーん、あーん(大意:あなたもあーん語が使えるの? でもそれはあたしの専売特許よ)』
『あーん、あーん(大意:解読不能言語のあーんあーん)』
『あーん、あーん(大意:あなた、ただ適当に泣いているだけじゃん。失格)』
『あーん、あーん(大意:おそらく、うぎゃー)』
子泣きジジィはビッチに食われたようだ。




