52 あーん、あーん、あーん、あーん(書籍化)
『あーん、あーん』
またビッチがビービー泣いている。
俺のアイテムボックスに、ビッチな女の子をぶち込んでみましたが読みたいよーと駄々をこねている。
俺は猛烈に弱っている。
だって、そんなの無理に決まっている。
第一、本屋さんに売っていないんだぜ?
くそう。
どうすればいいんだ?
渋々と自伝を執筆しようと思い雑貨屋に行って紙とペンを購入してみたが、ムムムムム……
か、書けない。
そうか。
アイテムボックス無双化と引き換えに、スキル習得完全不可状態になっているんだっけ。
くそったれ。
執筆するにはライティングスキルがいるのか。
断片的に箇条書きくらいならできる。
「おい、ビッチ。箇条書きのメモを送るから、それを読んでくれ。ちゃんとカナも振っておいたから」
タイトル:俺のアイテムボックスに、ビッチな女の子をぶちこんでみました
1、ビッチに騙されて異世界に入った。
2、ビッチを騙してアイテムボックスを強化した。
3、なんか色々しているうちに、ビッチがあーん、あーんとしか言えなくなった。
現在に至る。
『あーん、あーん(面白くないよー。ちゃんとしたお本で読みたいよー)』
なんてわがままな奴なんだ。
『あーん、あーん(ククク。もう終わりだ。これからもっと浸食していくぞ)』
『あーん、あーん(怖いよー)』
なら、絵本でも読めや!
しかしどうしたらいいんだ!?
『あーん、あーん(書籍化)』
なんだと?
ビッチは今、小さな泣き声で書籍化と言ったのか!?
それはつまり『俺のアイテムボックスに、ビッチな女の子をぶち込んでみました』を書籍化させろというのか。
ム、無茶だ。
でも駄目元で出版社に相談してみようかな。
だってこれは、世界を邪神の魔の手から救う為なんだし。
出版社の方も分かってくれるかもしれない。
『あーん、あーん(ククク。愚かな。無理に決まっている)』
そりゃそうだ。
ビッチなんて後半はアイテムボックス内でずっと、あーん、あーん、と泣いていただけだし。
そもそもシナリオなんてあったのか。この話に。
コロシアムがどーだとか、奴隷商人があーだとかなんかあった気がするけど、あれは結局どうなったんだ!?
もう読者様は覚えていないぞ。どうやら作者も記憶が曖昧みたいだし。そんなので書籍化なんてできるわけない。
『あーん、あーん(ククク。分かったか。ボッチよ。仮に万が一、こんな話が書籍化してみろ。まったく売れぬわ! 出版社は大赤字になり、大損害を与えてしまう。出版社に悪いとは思わないのか!)』
くそう。
まさに正論だ。
ん?
だが、さっきの台詞、なんかおかしいぞ。
邪神なのに、出版社の心配をしている。
他人の不幸が嬉しい種族のはずなのに、これは妙だ。
『あーん、あーん(俺だってたまには他人の事を心配するんだぜ? アハハハ)』
これは怪しい。
もしかして、邪神は書籍化を危惧しているのか。
確かにビッチはこの話なら読むだろう。
そうしたらビッチの知力は回復する。
もともと低かった当初の水準くらいは戻るだろう。
つまり、この話を書籍化すれば、邪神を封じ込めることができるってのか。
……ハードル高すぎだぜ。
『あーん、あーん(自費出版)』
もっと無理だから。




