5 ビッチはいろいろ考える
よく食べるビッチのおかげで随分と強くなれた。
レベル21
HP:125
その辺の雑魚モンスターに小突かれても、怪我をしないくらい頑丈になれた。
俺は木の根っこを背もたれにして、小休止をしていた。
暖かい日差しを浴びてうとうとしている。
何やらビッチの声が聞こえてくる。
他にも誰かいる。
『もっと奥。そこ、そこよ。ああぁ、いいわ。もっと強く突いて。そこ、ゆるいんだから』
『破壊神さま。一生懸命ついていますよ。ボクあんまり固くないから難しいです』
『言い訳しない。しっかりついて。ほら、抜けちゃったじゃない』
『はぁはぁ。破壊神さま。かなりゆるいですね。ガバガバです。まったく手ごたえがありません』
『ちゃんと腰に力入れている?』
『腰なんてありません』
『あ、そっか』
『それよりか、ボク、もう限界です。破壊神様……』
『その呼び方、あんまり好きではないのよ。折角アウェイにいるんだから、もうちょっと気の利いた呼び方はないの?』
『はぁ。ではなんと?』
『私の名前は、ビチィルディスビッチ・エフフォーヌ・フロデリカ・レザナビチ・ラ・ビチルビチビチビッチナス』
『長くて覚えられません』
『死神のお姉ちゃんは、略してビッチちゃんと呼ぶわ』
『ではビッチ姫様と呼ばせてもらいます』
なんだよ。
やっぱりあんたは、ビッチだったのか。
『て、スラ太郎。手を緩めるなよ。もっと激しく突きなさいよ。全然立ってないわよ。ここ、ゆるいんだからね』
『あ、はい』
ところであんたら、何をやっているの?
言及したくないんだけどさ。
『姫様。やりました。ちゃんと立ちましたよ』
『じゃぁね。次は、ここも突いて頂戴』
『え、まだするんですか? もうボク、限界です』
『じゃぁ次、スラ次郎。上になってね。ほら、ここよ。ここ。頑張って突いて!』
『あ……ハイ。フン、フン、フン、フン、フン……。はぁはぁ』
『だらしないわね。私が上になるわ。あなた、下ね。しっかり立たせるのよ』
『……あ、はい』
……。
アイテムボックスの中はズンズンと振動している。
ビッチよ。
そっちに娯楽が無いのは分かるけど、あんた、スライム相手に頑張りすぎだよ。
それから数時間。
振動は収まることがなかった。
ビッチは『ハァハァ』、スライムは『ヒィヒィ』言っている。
『ふぅ~。こんなところか』
『ボク、もうくたくたです。でも姫様。すごいですね。まさかモンスターの骨でお屋敷を作っちゃうなんて』
――なぬ、屋敷だと?
『まぁ長期戦になりそうだからね。ここの地盤は弱いから、巨大なサイクロプスの骨を柱として地中深くまで叩き込んでおかなければ、屋敷が崩れてしまうのよ。
それより私は天才でしょ? モンスターの骨を活用して椅子や、ベッドまで作ったよ』
『あ、はい』
『モンスターを急いで食べたのは、建具材が欲しかったから。そしてあなたは家来になってくれそうだから、食べずに生かしておいたってわけ。すべて計算しているんだから』
『ボクを口に入れて、オエッって吐かれましたが、食べようとしたんじゃないんですね』
『あ、当たり前じゃない』
スライムは6匹いる。
つまりビッチの手下は6体になってしまったというのか。
会話は続いている。
『あー疲れたー。スラ次郎、肩を揉みなさい。スラ五郎、お茶入れて』
『お茶の葉っぱ、ありませんよ』
『使えないのね。
それにしても暇ね。動きがないところをみると、あのボッチ君はもう寝たようね。
なんかゲームでもしましょうよ。ゴブリンの後頭部でサイコロを作りなさい』
『え、あ、はい』
『それより姫様。どうやったら元の世界に戻れるのでしょうか?』
『簡単よ。ここに閉じ込めたボッチ君の名前を知ればいいだけ。名前さえ分かれば、心の奥に呼びかけて寝ている彼を操ることができるから』
『なるほど。でも、名前を知るってなかなか難しそうですね?』
『どうして? 名前なんて別になんだっていいのよ。偽名でも』
『え、そんないい加減なもので大丈夫なんですか?』
『うん』
『だったら姫様が勝手につけちゃえばいいのでは?』
『そうしたいのはやまやまなんだけど、ボッチ君が、それが自分であると認識できないとダメなの。逆に言えば、ボッチ君がどっかで名乗った名前を知れば、もう終わりよ。
ククク。どうしてくれようか。破壊神をこんなところに封じ込めた重罪で、煉獄へ叩き落としてあげようかしら』
なんと。
うかつに偽名すら名乗れないってことか。
だがこのビッチはかなり間抜けだ。
俺が寝ていると勘違いして、作戦をモロにばらしてやがる。