47 暑い夏の思い出
とりあえず屋外に出た。
今日は一段と暑い。
夏真っ盛りってやつか。
お空の太陽が、容赦なくギンギンと照り付けてくる。
『あーん、あーん、暑いよー!』
またビッチが泣いている。
うるせーな。
涼しげな露天商がある。
ひげ面の魔道士風のおっさんが一人。
手のひらから氷を出してかき氷を作っている。
露天商の前には、小さな子が群がっている。
赤いシロップはイチゴ味か?
なんともうまそうだ。
俺にはさっきゴンザから貰った金が少しばかりある。
いっちょ買ってみるか。
『ボッチ君。あたしにもちょーだい』
誰がやるか。
『あーん。あーん』
俺はかき氷を買って、口にした。
なんだ、これ。
うま過ぎるぞ!!
このうまさ、どう表現したらいいのだろう。
まるで灼熱の砂漠で散々さまよい瀕死状態になったところで出会った奇跡のオアシスとでも言ったらよいのだろうか。
ひんやりと口で溶ける冷たい氷が俺の火照った体をやさしく冷やし、甘酸っぱいストロベリーのシロップのうま味が俺の頬を柔らかく溶かす。
一言で言うとだな。
つまり最高だ。
どうだ。
ビッチよ。
欲しいだろ?
『あーん、あーん。かき氷が欲しいよー』
ビッチはビービー泣いている。
今まで俺を散々苦しめてきた破壊神。
人類を不幸のどん底に叩き落としてきた暗黒ファミリーの一人。
だけどまるで小さな子どものように、泣き続けている。
奴の不幸は俺の喜びのはずである。
『あーん、あーん、欲しいよー』
だけど――
不覚にも俺はもう一つかき氷を買い、アイテムボックスに格納していた。
『あーん、あ……。
あ!
あああ!
かき氷だ!
うまうま』
俺はビッチに餌を与えてしまった。
すごく後悔したのは言うまでもない。
ビッチは俺の宿敵。
俺を苦しめてきた張本人。
だけどビッチは泣くのをやめて『わーい、わーい』と喜んだ。
なんかビッチが嬉しそうにもしゃもしゃ食べているのをかわいく感じてしまった。
不思議な感覚に襲われていた。
どういう訳か俺は、もうひとつかき氷を格納してやった。
ビッチは飛び上がって喜んでいるようだ。
ビッチは恥ずかしそうに言った。
『ボッチ君、ありがとう』
ビッチのありがとうに俺は「どういたしまして」と答えていた。
あの宿敵ビッチに。
不思議な友情が芽生えた瞬間だったのかもしれない。
それはただの想い過ごしだ。
だって俺たちは宿敵同士。
油断した方が死ぬ。
心を許してビッチをアイテムボックスから取り出すと、俺は抹殺されるのだ。それはビッチ自ら口にした揺るぎない事実である。
だけど。
かき氷を『うまうま』と言いながらむさぼるビッチを、不覚にもかわいいと思った。
きっと俺はこの暑さで頭がやられたのだろう。
とある暑い夏の思い出。
俺はビッチをかわいく感じた。




