44 詐欺師と修羅
コロシアムの全面改装が終わるまで丸5日かかると言われた。
「そんなに待てん!」
オリジナル様にばれる確率が高まるじゃねぇか!
1級魔法建築士を30人投入しての大掛かりな修繕だったらしいが、「じゃぁどっかい行く!」とダダをこねまくり、3日まで短縮に成功した。
やれやれだ。
さて3日間どうやって暮らそう。
一文無しだし。
最高のホテルを用意させることもできそうだったが、ここの連中とは必要以上話さない方が無難だろうし、身元を抑えられるようなマネはしない方がいい。
ばれたら大変だ。
「ごめんねー」で逃げるつもりだから、ホテルなんて用意させたら簡単に抑えられちまう。俺はビッチがいなければ基本無能だ。
部屋でくつろいでいる時に、外から鍵をかけられたら完全に終わりだ。
閉じ込められちまう。
そうなったらビッチと同じ処遇を辿ることになる。
封印されるのはビッチだけでいい。
だから3日間、街で金を稼いで生活を凌ぐことにした。
どーせ、ここはコロシアムまである大都会だ。
いくらでも仕事なんてあるだろう。
そんなことを考えながら、街をテクテク歩く。
どうも俺は社会不適合者のようだ。
職安に入ったらすぐに吐き気がした。
真面目にディスクワークなんてできそうにないし、スキルだって皆無。
どうせ名前が名乗れないから、やばい仕事を探してみた。
職安の前でアルバイトのおっさんが求人広告を配布しており、その中にはわりとある。
やばいのが。
俺は最強だし、悪行pt184億だ。
今更ちょっと上がってもどうってことはない。
少々の悪行なら手を染めてやるぞ。
コロシアムのオーナーに、『ホテル代よこせ、手ごろな宿を見つけて自由に泊まるから』と言えば良かったのかもしれないが、俺は光の精霊使いという設定。貧乏くさいマネもできず、フラフラと歩いていた。
そして見つけた。
超ボロい仕事を。
街頭で配っている広告に、こんなのがあった。
『あなたのアイテムボックスは大丈夫???
セキュリティーは万全?
ハッカーがあなたのアイテムボックスを狙っている!
朝起きたら、アイテムボックスが空っぽになった、その前に――』
サイバーサタンというセキュリティー会社の広告だ。
裏には怖い漫画まである。
ある日、アイテムボックスの中身がすべて盗まれて、家賃が払えず、ごはんも食べれず、困り果ててパンを盗み、豚箱にぶちこまれ、会社はクビ、離婚、友人からは泥を投げられ、そして自殺。
そしてアイテムボックス盗難被害にあった年間自殺者が1万人を超えた。
それは一年間で魔王に殺されている勇者数を凌駕している、と書かれてある。
おそろしい広告や。
でもハッカーがアイテムボックスに侵入できるのか?
ビッチに聞いてみよう。
「おい、ビッチ。ハッカーとかがアイテムボックスに侵入できるのか?」
『できるわけないじゃん! だせよ! あーん、あーん』
やっぱりか。
破壊神でもできないくらいだ。
ハッカーなんてのがいても無理だ。
確かに俺のアイテムボックスは強化されている。
でもそれは収容スペースと収容種別についてだ。
セキュリティーなんてことはお願いしていない。
それ以外はノーマルと変わらない。
つまり、これは詐欺。
詐欺集団なら騙した金をたんまり持っているだろう。
悪い奴をぶっ倒して、それを頂戴するか。
善行ptも上がって一石二鳥だ。
俺はテトテト歩いて、サイバーサタンの事務所がある貸しビルまでやってきた。
そして階段で三階まで上がる。
ちょっぴり緊張したが、ドアをノックした。
「いらっしゃいませ」
スーツ姿の男性が俺を迎え入れてくれた。
おや、先客がいるみたいだ。
肩までの髪をした20代前半くらいの女性が、社員とカウンター席を挟んで座っている。
切れ長の細い目で一見怖そうでもあるが、丁寧な口調で話している。
「すいません。私、こういうことに疎く……」
「はい。女性には多いですよ。ですがご安心ください。我々のセキュリティーは最高峰です」
「それは助かります。念のために中に入っているものを教えてもらっても大丈夫ですか?」
「え、どうしてですか?」
「万が一、盗品や危険な薬物を所持されている場合、我々には通報する義務がございます。もちろん問題なければ、所持品を他言しません」
「そうでしたか。ご安心ください。私はそのようなものを所持しておりません。あなた方は使命感と責任感を持って仕事しているようなので、私はあなたを信用します」
アイテムボックスを展開して、中身を見せていく。
やはりここの会社、悪党集団のようです。
ゴンザのように口角にしわを、目元をニヤリとした。
されど真剣な顔つきで、
「わりと高価な物をお持ちなのですね。失礼ですが、この宝剣はどうされたのですか? かなり高価な物のように思えますが」
「……実は国王の友人がいまして、以前、彼を救ったことがあります。その感謝の印としてこの剣をいただきました。断ったのですが、友情の印とまで言われ、さすがに断ることができませんでした」
「ちなみに何をされたのですか?」
「言わなくてはいけませんか?」
「いえ、大丈夫です」
王様を助けたのか。
あのおねーさん。
偉い人みたいだね。
それに金持ちっぽいし、ここが悪の巣だと教えて恩を売りまくってたっぷりお礼貰っちゃおうかな。えへへ。
「えーと、ですね」と話しかけた俺。
唖然とした。
女性は「なんだ……」と身をひるがえす。
同時に威圧的な視線をぶつけてくる。
「え? え?」
「キサマ。心に悪を宿しているな! いくら取り繕うが私には分かる」
「え? え?」
この女性、もしかして悪行ptが読み取れるお人なのか!?
「確かにぼく、ちょっとばかりおいたをして悪行ptはちょろっと高いですが、これはですね。色々深い訳がありまして」
「悪行ptのことではない。どうせあれは適当なザルシステム。それに私は他人のカオスフレームを読む力などない」
え? え? この人何者なんだよ!?
「キサマを見た途端、突如精霊が騒ぎ出した。つまりキサマの心の内に強烈な邪が潜んでいる。これは人間のものではない。神クラス。キサマ! もしや修羅の国に刺客か!?」
とんでもございません。
タダのボッチです。
それに心の内ってなんですか!?
アイテムボックスの内にビッチを飼っているだけです。
そんでもって修羅の国って何さ。
もしかして、あんた――
『あーん、あーん。アルファリアさん。たすけてー』
マジか。
こんなところで、いきなりオリジナル登場か。
くそったれ。
何とか繕わなくては。
「おねーさん。こんなところで大声出したら、お店の人が困るじゃないか。それに言いがかりはやめてくださいよ」
「私は修羅の国で育った。修羅の国には心の休まる場所などない。敵を認知したと同時に斬ってきた。
キサマの体内には完全たる悪が眠っている。
それも破壊神クラスの」
まさにビンゴ。
「だから即座に斬る。いでよ! 光の精霊!」
マジっすか!?
俺は悪党の黒服に目配せした。
ほら、変な人が社内であなたのお客様にいちゃもんつけているよ。
たすけてー。ヘルプミー!\(゜ロ\)(/ロ゜)/
「お客様、どうなされたのですか?」
俺は黒服に向かって、
「この人、きっと凶悪な犯罪者です。クスリもやっています。俺には分かります。これは特有の幻覚作用と思われます。はやく警察呼んだ方がいいですよ」
そもそもここは悪党の巣窟。
警察呼ぶ気満々だったというか、おまわりさんに「ここに悪党がいます!」と告げ口までしておいた。俺が詐欺集団のお金を拝借した後、合図と同時に侵入してもらうつもりだったが、まさかそいつを使うハメになるとは。
だけど。
この人。
光の精霊使いなんだよね。
果たして警察如きが勝てるのか?
やっぱ、アイテムボックスしかないよね。
アルファリアは聖なる言葉っぽいのを詠唱している。
きっとすごい魔法が来ちゃうのね。
もうこなったら仕方ない!
――入れ!
ごめん。アルファリアさん。
あなたには何も恨みがありません。
それにあなたの彼氏のことはよく知っております。
だけど、俺にはアイテムボックスしかありません。
どうかビッチと仲良くやってください。
あなたの彼氏も100日は生きられると言っておりました。
頑張って長生きしてください。
心から応援しております。
刹那の瞬間、俺が彼女に送ったエール。
されどすごい事が起きた。
アルファリアは俺のインボックスの念派をかわしたのだ。
どうして軌道が読める!?
「さっきのは何だ? 強烈な邪念を感じた。キサマ。何をした? だが残念だったな。我が祖国では隙を見せたら殺される。如何なる呪法だろうが、すべて見切ることができる。そして悪を斬る!」
マジですか?
この人、もしかしてルーンベルクよりも強いんではないだろうか。
最強だ。
もはや俺に勝ち目なんてない。
絶望に打ちひしがれた、その時だった。
槍や棒を持った憲兵集団が突入してきた。
警察部隊のようだ。
「おまわりさん。この人クスリのやり過ぎで幻覚が見えています。初対面の僕のことを邪な心を持っている破壊神だとか訳の分かんない事を言う悪の権化です。お願いです。助けてください!」
「女、おとなしくしろ!」
おまわりさんに勝てるはずもない。
だけど、アルファリアは俺をギロリと睨むだけで、攻撃をしようとしない。
もしや。
俺は自分の勘を頼りに叫んだ。
「警察の人は毎日死にもの狂いで市民を守っている立派な人なんだぞ。迷惑をかけるな!」
「当然だ。警察は市民の鏡。小さなことから凶悪犯罪者まで幅広く対応している善行者。彼らに迷惑をかけられぬ。……もしかして、私、多大な迷惑をかけてしまったのか?」
「そうだよ。仮にあなたの言う通り、俺が破壊神とやらだったらどうすんのさ。ここでバトルしたらこんなオンボロビル木端微塵だよ。それ、あんたのせいだから」
「確かにそうだ。もし私が攻撃をしていたら、キサマは破壊神となって反撃にでていた。それに気付かず私は愚かな行動をしてしまった。
わ、私はどうしたらいいんだ」
この人もこっち系?
ちょろいぜ。
「お回りさんに逮捕されて反省するといいよ、うん」
「そうする」
しょぼんとしたアルファリア。
彼女には、手錠がかけられた。
『あーん、あーん。行っちゃやだー。アルファリアさんが捕まっちゃたよー』
やったー!ヽ(^o^)丿ヽ(^o^)丿ヽ(^o^)丿ヽ(^o^)丿
これでオリジナル様は檻の中だ!!
俺を邪魔する分子はすべて消えた。
いろいろ尋問されて彼女は自己紹介をするだろうけど、警察もまさかこのマッドな犯罪者が光の精霊使いとは思わないだろう。
いや、思ってもいい。
数日もてば。




