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40 奴隷市

 エーンブルクの街についた俺達奴隷は、奴隷市場と呼ばれる一角の檻に閉じ込められた。

 この通りにはたくさんの檻が並んでおり、可哀そうな子供たちが、醜悪な笑みをこぼしているおっさんやおばさんに買われていく。



 俺達の檻の奴隷は総勢6名。

 バイヤーのおっさんは、奴隷を買いに来た奴らに売り込みを始めていく。



 張り切っているのはレオだけだった。



 俺は檻の隅でへばっていた。

 だって朝から何も食わしてくれないのだ。

 バイヤーのおっさんは、「いい主に買って貰えたらたらふくご馳走してもらえるから気張れや」とか言っていたが、いい主なんて必要ない。


 コロシアムの餌行きでいい。

 早く連れて行ってくれよ、といった気持ちで檻の奥でうつ伏せ状態のままへばっていた。



 ビッチは朝から『お腹すいたよー。あーん、あーん』と泣いている。

 うるせぇ。お前、何歳なんだよ? と聞きたくなる。



 檻の少年少女たちは次々と売られていく中、レオだけは売れ残っている。

 通りすがる客が、「へぇ、元気なガキだ。どれ、どれくらい力があるのか試させてくれ」と、鉄の剣を渡したところ、意外にも振る事はもちろん持ち上げることすらできなかったのだ。


「腹が減っているから……」

 と言い訳をしていたが、確かに腕力はあまりないようだ。


 剣士風の客が、

「おい、安くてもいいから道具持ちの小僧が欲しいんだよ。アイテムボックスなんてすぐに一杯になっちまうし。あっちでへばっているガキはどうなんだ?」と俺を指さしてきた。


 俺?

 勘弁してよ。

 ビッチのおかげで相当レベルが上がったから、鉄の剣なんて軽々持ち上げられてしまうぜ? スキルがないから、振ることはできないだろうけど。




 *




 そして三日経った。

 さすがに粗末な飯くらいは恵んでくれた。

 カビの生えたパンだったが俺には貴重なタンパク源だ。


『お腹すいたー!! 自分だけズルいよ!』


 ――ビッチ。うるせぇ!



 それにしてもレオはなんだか寂しそうに檻の隅を見つめている。

 なんとしても自分を売り込まないと、モンスターの餌にされちまうから気持ちはよく分かるけど。

 


 そして四日目の朝だった。

 遂に待ちに待ったモンスターの餌になる日。


 レオは奴隷商に迫り寄り、

「待ってください。オレ、役に立ちますから」と嘆願を繰り返している。


 だが奴隷商のおっさんは冷ややかなまなざしで、「ダメだな。こちとら商売だ。恨むんじゃねぇよ」と言い放ってコロシアムを運営している業者に俺達二人を売りとばした。


 契約をして今夜はいつもの檻に一泊。

 明日、俺達はコロシアムに奴隷用の馬車で届けられる手筈らしい。


 レオは部屋の隅で三角座りをして泣いていた。

「おまえ……。怖くないのか?」と聞いてきた。


 まぁ俺はビッチに効率よく餌を与える為に、剣闘士の道を選ぼうとしているだけなのだから怖いとかそういう感情は皆無なのだが、確かにもし俺がレオだったら無茶苦茶怖いだろうな。

 力のない子供が、モンスターの餌になるんだから。

 奴隷商人は酷いことをしやがる。


 俺はレオに「安心しろよ。逃がしてやる。チャンスを作ってやるから」と言ってやった。


「え? いいよ。無理すんなよ……」とレオは苦笑いを返してきた。


「マジだって。ちょっと待ってな」


 丁度夜だし、逃げるには好都合だ。

 檻の周りには、奴隷商人のおっさんしかいない。奴は如何にも人身売買をしていそうな人相の悪い巨漢で、腹の出たチンピラ風のハゲ親父である。俺達にはカビパンしかくれないのに、自分だけ豪勢な骨付き肉をほおばっている。



 俺は奴隷商に向かって、

「おい、おっさん、ここを開けろ。さもないとぶっ殺すぞ!」と言ってやった。


 いくら悪党だが、相手は人間だ。

 ビッチの餌にするには少々心が痛む。



 だが奴隷商の悪党は、「なんだ小僧! 恐怖のあまりとうとう狂ったか。まぁいい。憂さ晴らしに一発殴らせろや!」と間抜けにも鍵を開けて檻に入ってきた。



 拳を唸らせて迫ってくる。


「危ない! どうして挑発なんてするんだよ!」とレオは叫ぶ。


 俺は奴隷商に向かって、

「あ~あ。おとなしく逃がしてくれれば助けてあげようと思ったが、あんた、どうしようもないクズだな」


 手をかざし「入れ!」と念じた。



『わーい。丸々太ったブサメンがやってきた!』


『なんだ、ここは?

 お、可愛い子ちゃんがいるじゃないか? しかもすっぽんぽん。いいねぇ。奴隷にして売ってやるぜ』


 もしかしてビッチは空腹のあまり自分の服まで食っちまったのか? 下は紐パンだったぞ。まぁいいか。


『それにしてもいい女だな。売る前に俺っちが試食してやるぜ。うひひ』


『エヘヘ。おじちゃん、おいしそうだね』


『じょうちゃん、あんたもな』


『ありがとー。私ね、これからおじちゃんを食べちゃうけどい~い?』


『俺っちを食べてくれるのかい? そうけ? そうなのけ? 食べてくれるのけ? はぁ、はぁ、じょうちゃん、なんて張り艶のある肌なんだ。マジでうまそうだ。じゅるぅ』


『はぁ、はぁ、おじちゃんだって油ぎっしゅでとってもおいしそうだよ。もう我慢できないよ……。じゅるるるぅ』


『可愛い顔して、よだれまで垂らして迫ってくるなんて、なんてイヤらしいんだ。まさにあんたは正真正銘のビッチだぜ!』



 うん、そいつ、ビッチだよ。




 そして3秒後。

 奴隷商の悲鳴が聞こえ、俺のアイテムボックスに白骨の文字が表示された。




 驚いているレオに、「おい、早く逃げろよ。誰か来ちまうぞ」


「もしかしてお前、正義の味方ってやつなのか?」


「ちげーよ。ただの腹ペコ娘の飼い主だ。もういけよ」


 さっきまで泣いていたレオは、口元に笑みをためて、

「……なぁ、おまえ。コロシアムに潜む悪党共も一掃する気なんだろ? 良かったらオレにも手伝わせてくれよ」



 なんだよ、その壮大なる勘違い。

 俺とビッチは俗欲の塊だ。



「いいよ。だってお前は剣だって持ち上げられないんだろ?」

 


 レオは悔しそうに地面を見つめて、

「オレだって男に生まれていたら……」と漏らした。


「は、お前、男だろ。何を言ってんだ?」


 レオは金色の髪をカリカリとかきながら、

「あはは。いや、オレはもっと男らしくなりたいんだ。力には自信がないが、魔法だったら才能があるかもしれんし。とにかく頼むよ。お前がさっき使った魔法みたいなヤツを教えてくれよ」



 根負けした俺は、「死んでもしらねぇからな」とため息交じりにいった。檻を開けっ放しにしているのも妙な話なので、内側から南京錠をかけておいた。



 明け方になるとコロシアムの業者がやってきた。

 シャープなメガネにオールバックの髪型。ストライプ模様の黒服を来た如何にも計算高い商売人風男性だった。


「あれ、奴隷商の親父はどこだ?」

 とか言ってきたので、

「あ、急用ができたみたいだよ」と誤魔化しておいた。





【アイテムボックス】

 破壊神 × 1

 ブサメンの骨 × 1

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