37 泉の神2
背の高い木々が生い茂る迷いの森。
幾度となく同じようなところをクルクル回り、散々迷い、心が折れかけ、諦めかけ、それでも前進すること半日。
ようやく広い泉にたどり着いた。
勇者ルーンベルクの話では、鉄の斧を泉に投げ込むと女神に会えるそうな。
強欲なゴンザ達には、あらかじめ徹底的に指導しておく必要があるだろう。
「いいな、泉の女神はまず金の斧を持って浮上する。あなたが落とした斧はこれですか? と問いかけてくるがこれはトラップだ。絶対にNOと答えるんだぞ」
「なんでですか? 貰っとけばいいじゃないですか?」とゴンザ。
「だから言っただろう。女神は俺達が正直者かどうか試しているんだ」
「すんなり返してくれればいいのに、わりと面倒な性格をしているんですね」
「知るかよ。それが女神の仕事なんだから仕方ないだろ。とにかく次に銀の斧を持って浮上してくるが、そいつもNOと答えるんだぞ」
「勿体ねぇ」
「実はこの一連の作業はだな、正直者にご褒美を与えるシステムなんだ。最後に鉄の斧を持って浮上するから、そこで俺達はYesと首を縦に振るんだ。そうしたら全部の斧がもらえる」
「隊長。ちょろいですな。その女神、バカなんじゃないんですか?」
「あぁ、バカかもしれんが、そういうシステムなんだから仕方ないだろ。だが俺達の任務はそこからだ。女神が斧を渡そうとしたところを皆で飛びかかり、抑え込むんだ。いいな。相手は神だから手加減するなよ」
「え? 女神を抑え込んでどうするんですか?」
「捕縛するんだよ。そこでシャーマンのレガスの出番だ。女神に呪術をかけて俺達のしもべにしてくれ」
レガスはひとつ笑い、
「さすが暗黒神さま」とドクロ水晶を取り出して儀式の準備を始める。
アリサは「そ、そんな……」と漏らし、泣きそうな顔で見ている。
そして俺は斧を、泉に投げ込んだ。
しばらく待つが……
……何も起きない。
「隊長。どうしちゃったんでしょうね?」
そういえばルーンベルクは、女神の出現率は低いとか言っていた。もしかして外出中だったのか? もしそうだったら三万円もする斧が台無しじゃねぇか! クソッタレ! 女神、弁償しろ!
アリサは湖を指さして、
「あ、何か浮いてきましたよ」
それは赤い何かだった。
じんわりと泉が紅色に染まっていく。
もしかして俺はやってはならない事をしてしまったのではないのだろうか。
シャーマンのレガスがガタガタ震えている。
「さすが暗黒神さまです。悪行ptがすごい勢いで急上昇しています」
恐る恐る瞳を閉じてカオスゲージを覗いてみた。
さっきまで悪行ptは182億だったはずが、数字がクルクル回り――
184億でピタッと止まった。
【悪行履歴】
罪のない女神を斬殺する。
悪行ptが、2億も増えてしまった。
そして湖に、衣を来た金髪の美女がプカリと浮いた。
頭に斧がささっている。
イヤーーー!!!!!!!!!
俺はとんでもないことをやっちまった。
ビッチがビービーはしゃぎだした。どうも喜んでいるみたいだ。
『お姉ちゃん! キター! 助けてー!』
俺の目の前には大鎌を持ったビッチの姉貴こと死神が現れた。
「やぁ、ボッチさん。また会いましたね。今度は罪のない女神を手にかけるとは……。ですが今日はあなたの敵ではありませんわ。死んだ者の水先案内人として現れただけですから」
そう言って、死神は湖に浮いている女神に向けて手のひらをかざす。
女神は白い球体に包まれていく。
このままあの世とやらに成仏するのだろうか。
まてよ。
これは好都合だ。
姉貴を利用して、あの世に行けばいいだけだ。
「なぁ、俺もあの世に連れて行ってよ。今なら普通界とやらに連れて行ってくれるんだろ? もう普通界でいいからさ」
「は? 駄目よ。あなたの悪行ptは……。どういう訳かすごいことになっているから。即地獄行きですわ」
「えー、いやだ。なんとかならないのですか? 何でも手伝うからさ」
俺は慎重に言葉を選んでいる。
生きたまま地獄に行けるように取り計らってもらうつもりだ。
地獄に到着次第、姉貴もすぐに妹とご対面させてやるぜ。




