36 泉の神1
『少年よ。
賢者はどうした? どこへ行ったのだ? 待たなくても良いのか?
賢者は強大な魔法を操り、そして冒険において水先案内人を務める重要な役割なのだぞ』
勇者ルーンベルクはそんなことを言っているが、気にせず冒険を始めた。
だって実際はただの爺さんだよ?
ボケているんだよ?
戦闘能力皆無だよ?
下手に冒険についてくるより村で迷子になっている方が安心だよ。
そのうちおばさんのいる自宅まで戻ってくるさ。
だから言ってあげた。
――ルーンベルク。賢者は俺達を先に行かせるために一人で炎の魔人と戦っているんだ。俺達は彼の勇気を無駄にしてはいけない。さぁ、急ごう。
『そ、そうだったのか……。熱い漢だ』
――それよりか、確か神と呼ばれる存在は、この世とあの世を自由に行ききできるんでしたよね? 最寄りで手ごろな神を知りませんか?
『そういえば、ひとつ山を越えて東の国を通過し、さらに進んだところに迷いの森という樹海があり、その森の奥深くのどこかに泉があるのだが――』
わりとアバウトですね。
たどり着けるかな……
『その泉に斧とか投げ込んだら、金髪の女神が出たとかいう噂を聞いたことがある』
イソップかよ。
『出現率は極めて低いらしいから気をつけろ』
気を付けるも何も……
まぁいっか。
ようやく話が前に動き出したような気がする。神に会えば、閻魔のいるあの世とやらに移動できる。そこで閻魔が「誰だ! キサマ!」とか叫んで身構えているうちに間髪入れずアイテムボックスに叩き込んでやれば俺の勝ちだ。
俺達は村を出てくねくねとした山道をしこたま歩き、ようやく山頂付近までやってきた。
道中、ワイルドドッグの群れがやたらめったら襲ってくるが、次々にアイテムボックスに叩き込んでやった。
俺が手をかざしたら、シュッと消える。
かれこれ120匹以上は倒した。
みんなは衝撃波みたいな技で、瞬時に消滅させているように見えているのだろう。「さすが暗黒神様。強すぎます」と俺を褒め称えている。気持ちいいからもっと褒めてくれ。
実際は毎度のように、アイテムボックス内でモンスターの断末魔の雄叫びと『わんわん、怖い、うまうま』という不気味な奴の声がこだましているだけなのだが。
されど金もアイテムボックス内だ。
いつもの如く、ビッチがいるから取り出せない。
お小遣いは日本円換算三万円しかない。宿屋に一泊したら終わっちまう。くそう。すぐに野宿になるじゃねぇか。
次の街で誰か就職させて金を稼がせるか。
ということで、東の国に到着すると、召喚士のシャルアを日雇いの職に就かせた。
女神を呼び出す為に、所持金300コロン(三万円)を使って鉄の斧を購入した。
アイテムボックスに収納したいが、きっとビッチが食っちまうだろう。
仕方ないので、俺は鉄の斧を装備することにした。
攻撃スキルがないから、装備した斧を振る事さえできないのだが。
東の国を通過し、迷いの森の手前までやってきた。
森の入り口でお弁当タイムをすることにした。
アリサが手製の弁当を作ってくれたようで、それをみんなで突っついている。サンドイッチにソーセージ、蒸した芋と質素だがなかなかうまい。
「おいしいですか?」
「うん。うまうま」
ヤベ。ビッチの口癖がうつってしまった。
『ボッチ君。私にもちょーだい』
――てめぇは山犬をたらふく食っただろう? それで我慢しとけ。
『あーん。あーん。ボッチ君がいじめるよー。いいもん、わんわんの骨で遊ぶから。ボッチ君なんて仲間にいれてあげないんだからね』
勝手に遊んどけ。
ビッチはごそごそ遊んでいる。
どうも一人ではないようなのだ。
遊び相手は誰だろう?
まさか兄貴じゃないだろうし、ワイルドドッグは全部骨になっている。
あ、スライムか。
まだ生きてやがったのか。
『ビ……ッチ……サ……マ……』と震える声でビッチの相手をしている。可愛そうに。ビッチにほとんど食われて、かなり衰弱しているようだ。
【アイテムボックス】
紐パンをはいた破壊神 × 1
邪神像 × 287/300
スライム × 1/10
犬の骨 × 276
白くなった排泄物 × 3




