26 ビッチの過去1
ビッチは犬が怖いと口にしているからといって、安易にアイテムボックスに入れてはならない。
とんでもない化学反応を起こすかもしれないからだ。
夢のお告げ通り、ビッチがパワーアップしやがったらどうなるんだ!?
勇者ルーンベルクの寿命が、更に減っちまうじゃねーか。
ビッチの特性を知る為にも、ルーンベルクにビッチの過去を教えてもらいたいが、その事を本人の耳に入れる訳にはいかない。いつもやっている要領で脳波による会話をしたい訳なのだが、いくら頑張ってみても、どうもこちらから接続ができないようなのだ。
仕方ないので、ルーンベルクが話しかけてくるのを待った。
なんだかアリサが妙な事を言っていたので、出来るだけ事を急ぎたい。
焦燥だけが募る。
だってアリサは言ったのだ。
――悪い子になりますから……と。
アリサは聖女のように心の澄んだ子だ。
なんとしても、悪の道にだけは進ましたくない。
その後に『あなた好みのビッチを目指しますから』と続けた。
少々頑張ったところで、ビッチのような破壊神にはなれないのだ。
それに俺、ビッチのこと嫌いだし。
いや――
どうもしっくりこない。
なんだか俺は、スゲー勘違いをしているような気がする。
俺は『良い事』と言ったつもりだった。
だけど、アリサは、
良いこ、と――と、『こ』と『と』の間を一度切ったのだ。
なんか別の意味に聞こえてならない。
良い子とできない。
確かにそう聞こえた。
だからアリサは、悪い子を目指すと言ったのか?
できるって何が!?
ぐぅ。
頭が痛い。
『お水、マダー?』
こいつ、まだ起きてやがるのか?
「おい、ビッチ。俺達の会話聞いていたんだろ? 教えろ。俺は何か重大な勘違いしているのか?」
『色々えろえろ』
やはりビッチだ。
何を言っているのか、さっぱり意味が分からん。
聞いた俺が間違いだった。
明け方近く、ようやく勇者から連絡があった。
『おはよう。魔人狩りの少年』
296/300になっているのに、わりと爽やかだ。
こちらも「おはようございます」と返し、念のため、ビッチが眠っているのか問うてみた。
『ビッチは寝なくとも死なない仕様だから、滅多に眠る事はない。そして俺に抱きついたまま、キツツキのようにカリカリやっている。喉が渇くと無理をしてスライムを飲んでいる』
『お兄ちゃん。またボッチ君とお話しているんでしょ? いつも私をのけものにして……。グスン』
だって、そりゃーあんたが、ちょっとずつ兄貴を削っていくからだ。
――それよりか教えてくれ。ビッチは犬嫌いと言っているが、それは本当か? もし本当なら、獰猛な犬をアイテムボックスに突っ込んで、隙を作り、その間にあなたを救います。
『いかん! ビッチは凶暴な犬を見るとだな――』
なんですと!?
もしかして、あれは正夢だったのか?
『困惑させてすまん。
順序立てて話す。
ビッチと犬には、因縁たる過去があるのだ。
この話をする前に、まず俺達の過去から話さなくてはならない。天界と地獄界にまつわる悲劇の物語を。俺達兄弟姉妹を引き裂く運命の歯車は、ここから回り始めた』
ビッチと犬。
それほどまで、大スケールな物語なのか?
いったいビッチと犬に、どのような過去の因縁があったというのだ!?




