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俺のアイテムボックスに、ビッチな女の子をぶち込んでみました  作者: 弘松 涼
第一章 伝説は始まる……破壊神と創造神の物語
15/70

15 俺は勇者ルーンベルクです。徹底的に崇めなさい。

 家の主はゴンザと名乗った。

 ゴンザは髭もじゃで、山賊のような容姿のおっさん。

 見たまんまの小悪党だけど、近所では身寄りのない三人を預かっている質素で心優しいおじさんでまかり通っているようだ。


 近所のおばさんが、「ゴンザさん。これ、うちの畑で取れた芋だけどみんなで食べてや」と持ってきてくれる。


「いつもすまねぇなぁ」

 と、ありがたそうに芋の入った籠を受け取るゴンザ。


 貰うとぽつりと独り言を漏らした。

 聴力62なので、些細な音でもキャッチできる。


「あのババア。こうやって善行ptアップを狙っているんだろ? せこいババアだ」


 まさにどうしようもない小悪党です。





 次の日の早朝。

 朝食を済ませた後、台所から去ろうとした俺に、


「アリサにお客人、ちょっといいかな?」

 とゴンザに呼び止められた。


「今夜はお客人の歓迎パーティーをしようと思っているんだ」


「え、本当ですか!」

 アリサは嬉しそうに手をパチンと合わせた。


「あぁ。アリサの命の恩人なんだもんな。だからこれから買い出しに行って欲しいんだ。特別奮発して牛鍋にしようとおもっているんだ。隣町まで行って、牛肉を買ってくれないか? で、お客人には悪いけど、ボディーガードを頼みたいんだ」



「はい。別に構いませんが」

「悪いですわ。旅人さんにボディーガードを頼むなんて……」


 ゴンザはさっとアリサに耳打ちした。

「おい、アリサ。俺は知っているんだ。お客人にホの字なんだろ? 俺が許す。きっとお客人はいい人だ。だからこうやってシチュエーションを用意してやっているんだ。頑張ってこい」


「え? あ……。は、はい」





 こうして俺は、アリサと隣町まで行くことになった。

 アリサは腰までの赤い髪をした美少女である。


 道中しきりに話しかけてくるけど、俺は真正ボッチ。

 やめてくれ。

 辛いんだ。



 それよか、俺は知っています。

 この後、盗賊仲間だった召喚士の男にこっそりモンスターをけしかけてもらい、俺の実力を試す算段なんでしょ?


 夕べ、ゴンザが寝室で話していた、その古典的で分かりやすいストーリーを一部始終聞きましたから。


 もし俺が勇者ルーンベルクだったら、とりあえず俺を崇め奉り、良い気にさせて困りごと相談室を作って一儲けしようという計画らしい。

 困っている人は救われ、善行ptは増えるし、金だって集まる最高の手法だと大笑いをしながら話していた。


 もし俺がルーンベルクでなければ、旅人をかばうアリサごと、モンスターの餌にしてしまうという極悪なアイデア。


 さすが、見事なまでの小悪党ぶりである。


 いや、俺はウエルカムよ。

 勇者ルーンベルクになってあげる。


 俺はボッチ&コミュ症だから、困っている人を見つけて『お金頂戴』なんて言えねぇだろうし、腐っても人助けだから悪行ptが上がる事はないだろうし、そんでもって金がザクザク入って大切に崇められる。


 大抵こういう仕事は、ナンバー2がちょっとばかし悪い方が儲けられる。

 だからゴンザを配下にするのは決して悪くねぇ。

 

 とにかくそうなったら、もはやアイテムボックスに格納されている金なんてとり出す必要がない訳だし、ビッチを永久にアイテムボックスの番人にしておけばいい。



 一応ビッチがいる建前上、ルーンベルクではないとだけ言い張っておく必要はあるだろうが、これで俺の弱点は皆無になるわけだ。



 さて――

 これから俺が披露してやる圧倒的強さで、間違いなくルーンベルクだと誤認されるだろう。

 早くルーンベルクになりてぇぜ。

 


 そんなワクワクした気持ちで、街道を歩いていた。


 良い天気だ。

 アリサ。

 あんまりくっつくな。

 あんたはゴンザに利用されているだけなんだ。

 俺はそれを知っていて、止めようともしない。

 グルになってビジネスをしようとしている、その程度の低俗ボッチだ。

 そんな目で見つめられると、罪悪感で心が痛くなる。



「ガルルル!」


 どこともなくわいて出てきた全長4メートルはあるだろう、巨大な化け物。

 ライオンの顔に鱗のあるドラゴンの体。


 出てきた、出てきた。

 きっとこいつの事だろう。

 

 その昔、RPGでお目にかけたことがある。

 確かキメラとかいう、わりとハイレベルな怪物。


 如何にもこの辺をうようよしている雑魚モンスターではない。

 腕利きの召喚士が、呼び出した魔獣に違いない。



 アリサは恐怖で言葉を無くし、俺の袖を掴んでいる。



 俺は小声でつぶやいた。

「おい、ビッチ。胃袋空けて待ってろよ。今からすごいご馳走をぶっこんでやるからな」

『わーい』



 俺がキメラに手をかざした、その時だった。




 木陰から一陣の風がキメラに向かって吹き荒れた。



 刹那――

 キメラがチリとなり、消滅した。



 風の正体は、紺のボロい布のマントをまとった黒い長髪の男だった。

 表情は冷たく顔には影があるが、わりとイケメン。



 俺は奴に向かって、

「誰だ! てめぇ!?」と叫んだ。


「礼には及ばない」


「だから誰かって聞いているんだ?」


「ただのさすらいの旅人。人は俺の事をこう呼ぶ。勇者ルーンベルクと」



 マジか。

 いきなりオリジナル登場かよ!?





『お兄ちゃん。助けてー』


 ビッチ。

 叫ぶな。叫ぶんじゃねぇ。

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