14 勇者ルーンベルクの正体
俺をルーンベルクだと思っている家の主は、急に優しくなった。
「あのぉ~」
と台所に入ってきて、
「さっきは失礼な事を言いました。良かったらお口直しに、どうかなと思いまして……」
と言い、パンケーキを持ってきた。
クスリも買えない貧乏設定なおうちなのに、贅沢な嗜好品まであるのかい?
きっと床の下には、金貨の入った壺でも隠しているに違いない。
この主、きっとそのうち、罠を仕掛けてくるつもりなのだろう。
だが、なんともうまそうなパンケーキである。上にはクリームがたっぷり塗ってある。
俺は遠慮なく手にとって、パンケーキをむしゃむしゃ食べた。
もし毒入りだったら、ビッチに恵んでやればいいだけのこと。
「どうぞ。ごゆっくり」
主は丁寧にお辞儀をして、食堂から去っていった。
ビッチはビービーギャーギャーうるさい。
『お腹すいたー! 一人だけズルい! なんか頂戴!』
「さっきケチャップ付きの割れた皿をやっただろうが! しばらくそれを舐めとけ」
『あんなのすぐになくなるよ。もっと頂戴!』
うるせぇ。
俺は、ビッチが空腹で疲労困憊していくのを待っているんだ。
それよか、突如優しくなった主達の不穏な行動が気になる。
このまま俺の事を、勇者ルーンベルクと勝手に命名されても困る。
いっその事、もうこの家から出て行った方がいいのかもしれん。
とりあえずビッチには、釘を刺すつもりでけん制しておくか。
どう切り出せば自然だろうか?
『――誰かが俺の事をルーンベルクと呼んでも、それは別人だからな』と言っておくのは、はあまりにも露骨か?
あ、そうだ。
「おい、ビッチ。ルーンベルクって野郎を知っているか?」
ビッチに、あらかじめ予備知識を入れておこう。
ルーンベルクって野郎は、どこかで大活躍しているカッコいい勇者だと大々的にPRしておけば、さすがに俺とは一致せず、その名前を耳にしても受け流すだろう。
俺も『勇者ルーンベルク』と言われても、無視を貫いておけばいいだけのこと。
だけどビッチは俺の心配をよそに、
『うん、知っているよ。この世界でその名前は一人しかいないから、間違いなくあの人だよ』
と即答した。
なんだよ。
ビッチの知り合いか。
だったらもう安心だ。
俺とルーンベルクは赤の他人だ。
家の主が何と言おうとも、もはや関係ない。
「ちなみに、どんな奴だ?」
『私のお兄ちゃん。
閻魔が長男で、ルーンベルクは二男だよ。
邪神なのにね、『お前らの悪行の数々は、邪神であるこの俺でさえ目に余るわ!』と家族みんなと大喧嘩をして家出しちゃったんだ。風の噂では、闇に隠れて悪を斬っているとか。邪神なのに良い事をして回っている不良のお兄ちゃん』
は?
勇者ルーベルクの中身は邪神で、さらにビッチの兄貴かよ?
わりと世間は狭いんだな。
とにかく家の主は、俺をルーンベルクと勘違いしているようだ。
うまく立ち回れば、もうしばらくパラサイトができるかもしれないな。




