13 俺はさすらいの勇者?
オムライスを食べている俺を冷ややかな眼差しで見ている、家の主と奥さん。
どんなに蔑まれようが、疎まれようが、もうしばらく厄介になるつもりだ。
昼飯を食べ終わった後、食器を洗うのを手伝おうとした。
姉のアリサが、
「あ、旅人さん。そんなことはいいですから」
と言って俺の食器を手に取ろうとする。
俺の手が触れると、アリサは「あっ」と頬を染めて食器を落とした。
ガシャーン。
食器が割れる音が食堂に響き渡る。
主は不機嫌そうに立ち上がり、
「お客人。皿だってタダじゃねぇんだ。どうしてくれるんだよ!?」
と怒鳴ってきた。
エラく小さなことで怒っているが、俺はパラサイト。
主を卑下する権利はない。
アリサは黙々と片付けようとする。
「ここは俺が掃除しますから。アリサさん。危ないですよ?」
主は、
「そうだ。アリサ。怪我したら損だ。この家にはクスリだってねぇんだから。お客人に任せて、お前はちょっとこい。エリナもだ」
みんなが食堂から出て行った。
物片付けは数少ない得意分野だ。
俺は床に散乱している皿に向かって『入れ!』と念じた。
『ケチャップのついたガラクタ、キター!』
ビッチ。
それでも舐めとけ。
部屋の外から声がする。
「お前ら。あのお客人をいつまで泊めておくつもりなんだ?」
「居たいだけです」とアリサ。
主は、
「なら悪いけど、お客人にも働いてもらう。そう伝えて貰えないか?」
「いえ、いけません。私が頑張ります。私の仕事量を増やしてください」
「あたしも頑張ります」
「駄目だ。もう十分過ぎるくらい仕事はして貰っている。だからこれ以上働かせる訳にはいかない。それにだな……」
話は一旦そこで途切れた。
奥さんが横やりを入れたようだ。
「お前さん。もういいだろ。あんたらも、早く仕事に戻りな」
二人の娘が消えた部屋の外。
主と奥さんは場所を移し、何やらヒソヒソ話を始めた。
ガーゴイルを8体倒して、レベルは42まで上がっている。
HP:289
MP:0
パンチすらできないのに筋力やら体力といった基本ステータスは増えている。聴力という項目もいつの間にか62になっていた。
だからなのか、意識を耳に集中したら、主たちのヒソヒソ話を聞きとる事ができた。
「何で止めるんだ!?」
「だってお前さん。あの子らに、あの事を言う気かい? そんなの駄目だろう。聞いたら出て行っちまうよ」
「だな……。
すまん。
俺達の悪行ptがあまりにも高すぎて、このままだと地獄に落ちてしまう。だから善行を積むために身寄りのない娘と、まともに腰の立たないジジイを養ってやっているだけだしな。娘は、日々のカオスゲージがギリギリプラスになるラインでこき使っている訳だし、これ以上仕事をさせれねぇ。
あと三年養えば、俺達のカオスゲージはプラスに振れる。
そうしたら、また悪さができるしな」
「そうだよ。お前さん。
この世界の設定をうまく利用すれば、盗みなんて小さな犯罪はやりたい放題さ。
それよか、あの坊や。おかしくないかい?」
「そりゃ、おかしいさ。
あいつ、キチガイだろ?
助けた娘の家に上がり込んで、そのまま居座る意地汚いヒモタイプさ」
「いや。そうじゃなくて、もし仮にあの子達が言ったように、簡単にモンスターを倒せるだけの実力があるのなら、どうしてこんなあばら家に居候するんだい?
モンスターを倒したら金を落とすんだよ?
ガーゴイルを倒すだけで、一年以上は遊んで暮らせるというじゃないか?
今日なんて露骨に嫌がらせをしたんだよ?
それなのに手伝いまでしようなんて、おかしいじゃないか?」
「言われてみたら確かにそうだが……。
多分アリサに一目惚れしたんじゃねぇのか?
アリサもまんざらじゃないようだったし。
もしかして、モンスターに金でも渡して、グルになってアリサ達を騙したのかもしれないな」
「それならいいんだけどさ」
「お前、何をそんなに心配しているんだ?」
「あんたは聞いたことが無いのかい?
最近出るんだよ」
「出るって何が?」
「ボロをまとい、身分を隠して、時にこのようなあばら家に忍び込んでは悪を裁く正義の勇者が」
「俺も聞いたことがある。
もしやあの小汚い小僧が、さすらいの勇者ルーンベルクとでもいうのか!?」
誰だよ?
さすらいの勇者ルーンベルクって?
「しぃ! 声が大きい。
あくまで可能性の問題だけど、あんたもあたいも小悪党。こんな小物をあの大物勇者が狙わないだろうけど、用心しておいた方がいい」
「だな」
しばらく黙り込んでいた主だったが、手をポンと叩いて、
「お、おい。俺は、天才だ。今、スゲーいいことを思いついた!」
「何さ?」
「あのな。あの勇者を利用してだな……」
「……すごいよ、あんた。あたいら殺人を犯しても天国に行けるね」
「だろ? あはははは。まずはお客人が、本当に勇者ルーンベルクかどうかチェックをしなくてはならんな」
――俺が、さすらいの勇者ルーンベルク?
やめてくださいよ。
ビッチを飼っている、ただのボッチですから。




