1 プロローグ
ふと考えてみた。
最強の攻撃ってなんだろう?
一振りで大地を切り裂く伝説の魔剣。
天空を貫く雷の刃。
はたまた強大な魔獣召喚。
だけどそれはイタチごっこだ。
強い攻撃なんて、次々に出てきて、それを追っかけ続けなければならない。
まるでどんどんと凄い奴がでてくる格闘漫画のように。
俺は驚異のボッチだ。
孤独がいい。
授業中はいつも一人。
こうやってくだらないことを考えているときが一番の幸せだ。
器用な連中は、友達とか彼女とか競うように作っているが冗談じゃねぇ。
貴重な俺の妄想タイムを邪魔されるなんて耐えられない。
そんな俺は、今日も妄想しながら道端を歩いていた。
目の前に天使のコスプレをした女が、スピーカーを持って街頭演説をしている。
「私は生と死を司る破壊神です。だれか異境の地エルファラードを救ってください」
は?
生と死を取り扱っているのに、破壊神ってなんだ?
異境の地エルファラードを救えだと?
あんた、一応、神って設定なんだろ?
自分でやれや。
あんなのと関わりたくねぇ。
どーせ、あやしい勧誘なんだろ?
俺にも声をかけてきた。
うぜぇ。
「あの、あなたエルファラードを救ってくださらない?」
「いやだ」と即答してやった。
「お姉さんが彼女になってあげてもいいのよ?」
女を見た。
胸を強調したコスチュームで確かに美少女ではある。
こいつに誑かされて、何らかの商品を買わされた奴がたくさんいるんだろうな。
「おい、あんた。今まで何人の勧誘に成功した?」
「えーと、エルファラードに来てくださったのは1581人。性行までいったのは0人。あはは、君が初めてかも?」
いきなりビッチネタまで言ってきやがった。
やっぱりそうだ。
絶対にこいつ、悪徳商法をしている。
俺は昔テレビで悪徳商法を撃退している番組を見て、心の底から燃えた。
このビッチな悪女を追い込んでやる。
最悪、どうしようもなくなったら警察に逃げ込めばいい。
俺は勇気を奮って、ビッチについて行くことにした。
自称、破壊神のビッチは、
「手を握ってください」
と言ってきた。
なるほど。
こうやってビッチはボッチの心を掴む気なんだろう。
ふっ。
相手が悪かったな。
俺はビッチなんかに興味がない。
あんたの手を握ったところでビクっとこねぇよ。
笑って触ってやった。
だが――
俺は唖然とした。
マジだった。
俺の目の前に壮大なスケールのRPGが広がっているのだ。
どうやらここは小高い丘の上のようだ。
雄大な城や、のどかな街並みが一望できる。
――こ、これは現実なのか?
「えーと、ちょっと説明しますね。まず初期に、お小遣いを100コロン手にしています。そして簡易的ですが装備も用意されています。モンスターを倒したら経験値がたまり――」
と、よくあるRPGの世界観と遊び方の説明をしていたビッチだったが、最後にアイテムボックスがあって、手に入れたアイテムは何でも入ります――と教えてくれた。
「何でも入るのか?」
「限界はありますが」
「ボーナスパラメーターとか、初期の装備や金も全部いらん。その代りひとつお願いできないだろうか?」
「えーと。交渉ですか? いいですよ。私は神様ですから大抵のことはできます」
「そうか。レベルが上がったらスキルとか呪文とか覚えるんだろ? それも全部いらない。どうせみんなそんなのをせこせこ鍛えているとは思うが、聞くところによると、誰もエルファラードを救えなかったんだろ?」
「あ、はい。みんな途中までは進むんですが、神官あたりから苦戦していくんです」
「俺はすべて捨てる。その代り一つだけ強化してくれ」
「なるほど。ようやく出てきましたね。私はそういった人が現れるのを待っていたのです。知略を使い攻略する者を。さぁ何です? 言いなさい。出来ることとできないことはありますが」
「俺のアイテムボックスを強化してくれ。上限を取っ払って何でも入るようにして欲しい」
「え? そんなことでいいんですか。簡単ですわ」
ビッチは何やらブツブツ念じた。
「はい、これで何でも入りますわよ」
俺は即座にアイテムボックスを開くと、ビッチをぶちこんでやった。