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短編つめあわせ

私のお供はサーキュレーター

掲載日:2015/06/16

暑くなってまいりました。うちにはサーキュレーターしかありません。

 稀代の魔術師に懐かれてしまいました。

 ええ、主にサーキュレーターのおかげで。




 ヴーと音を立てて回るサーキュレーター。

 こいつが私の命の恩人。




 もう三年も前になるのか、

 私は王座に座る中年の外国人に見下ろされ、

 後ろに回りこんだフルフェイスの甲冑男に剣を突きつけられていた。

 なにこれ?謁見の間ってやつ?


「…。…ケ……リィ……!…ッガ……デ………ウィ?」


 やばい。日本語じゃない。英語でもない。


 これはあれでしょうか?もはや定番の異世界トリップ。

 どこか他人事に、暢気にそんな事も考えたけれど、

 実際はまったくもって余裕など無くて、叫び出さなかった自分を褒めたい。

 すでに血の気もすっかり引ききっていて、気を失う寸前だった。ちょっと吐きそうだ。


「きゃ」


 グイっと髪を掴まれて、顔を上げられたらしい。王様の冷たい顔が更に良く見えた。

 喉もとの剣も更に強く押し当てられる。切れる。切れる。切れちゃう。

 すでに頭は真っ白だ。


 相変わらず王様は何かをしゃべり続けているけれど、私には分からない。

 沈黙を続ければ続けるほど、周りの空気は更に重くなり。焦りを生む。

 その時、私はふと王様の視線の先に気付いた。


 腕に抱きかかえていたのはサーキュレーター。

 3千円もしなかった安物だ。私の腕から間抜けにコードも垂れている。

 こんな恐ろしい非日常に、なぜサーキュレーターひとつ抱えて放り込まれなきゃならんのかと嘆いたが。

 仕方が無い。丁度、夏物を出そうとしてサーキュレーターを引っ張り出したところだったのだ。

 異世界トリップももっとタイミングを考えて欲しい。

 風呂上りとか、トイレで便座またいだ瞬間じゃ無かっただけマシ?




 若干、サーキュレーターちゃんに和んだところで状況は変わらない。

 ぼんやりサーキュレーターを眺めてしまった事に気がつき、

 慌てて視線を王様に戻すと、なぜか王様が腰を浮かしていた。はて?


 サーキュレーターと王様を交互に見る。

 ……もしかして、これ超兵器に見えてたりするのだろうか?

 試しにサーキュレーターを王様の方に向けてみた。

 どよめきが起こってしまった。


 あ、まずい。これってどう収集つけたらいいんだろう?

 サーキュレーターのコードは電源に繋がれていないし、動かない。

 そもそも動いたところで、まっすぐそよそよ風を送るだけだ。


 未だ、剣を突きつけられている私は詰んだ。と絶望し、日本人特有の愛想笑いをしてしまった。

 さらに周囲がどよめく。王様の顔色も悪い。ここで笑顔はまずかった。

 ああ、本当にどうしたらいいんだろう?泣きたい。




 その時だ。

 目の前にいきなり青い影が降ってきた。

 ローブからこぼれる金髪、目の覚めるようなアイスブルーの瞳。

 どこからどう見ても魔術師ですって男が目の前に立っていた。


 成敗されちゃう?引きつった愛想笑いをする私をがん無視し、

 男はサーキュレーターをわしっと掴む。

 勝手に取り上げて、興味深げにあらゆる角度から眺め出した。


「……ゥ…ゼ……?……ッピヒュ……ズ…ァ?」


 キラキラしい顔で話しかけてくるが分からない。

 ただ、この場の空気が変わった事だけが分かった。

 首を傾げていると、男は大きく頷き、くるりと王様の方に向きなにやら話し出す。

 そうして私はこの魔術師に、問答無用に拉致られたのだった。






 男の名前はヴィーズリクト。王宮筆頭魔術師なのだそうだ。


 あの後、石造りの塔の一室に押し込まれ、おでこの前で手をかざし変な呪文を唱えられた。

 するとあら不思議。唐突に言葉が分かる。

 ファンタジーのお約束だなぁと思ったけれど、

 こんなんあるならもっと早くやってくれよと怒った私は悪くない。


 言葉が分かると不思議なもので、この世界の人に対する得たいの知れない恐怖は薄くなった。

 だいたいヴィズのせいだけど。

 ヴィズはヴィーズリクトの愛称だ。これ以外で呼ぶと拗ねる。

 20代後半の男が拗ねる姿はちょっとどうかと思う。

 お約束の美形だけども、ちょっと本当にどうかと思う。


「チセ、チセ。出来たよ。試して。どらいやー」

「はーいって、熱っつう!」


 ウィズの持って来た物はオリハルコンで作られたドライヤー。

 熱伝導のある金属で作ったものだから、スイッチ押した瞬間熱くなる。アホか。

 しかしオリハルコンって希少金属じゃないのか?


 天才魔術師であるウィズは能力がカンストしすぎてて、もはや人じゃなかった。

 ある程度の熱とか衝撃が近づくと自動で魔力障壁が展開して、こういう危険が分からないのだ。

 なので、ウィズが私の世界の白物家電を作った時には、私が最初にテストをする。

 これが二人の間の当たり前のルールになった。


「外側は熱を通さない素材にしなきゃ駄目だよ。持てない」

「そうか!火とかげの爪とか牙を加工すればいけるかな?あ、これなに?」

「えっと、これはオーブンレンジ。食材を暖めたり加熱したりできる家電」

「へぇ~。詳しく教えて」


 私のスケッチにもの凄い勢いで食いつくウィズ。

 こいつ多分、でっかい家電ショップにいけば鼻血出すに違いない。


 私を拉致った魔術師は言葉が通じるように呪文を唱えると、怒涛の勢いで質問を始めた。

 主にサーキュレーターについて。

 異世界の話とか私の身の上とか、立場とか保護とかそういうの一切、考えていないようだった。

 彼の興味はサーキュレーター一点。


 コードの先の電源について話すと、説明を求められ。

 電力について話すと仕組みを聞かれた。

 一般人の私に専門的な話が出来るはずもないが、ウィズは天才だった。

 つたない私の世界の話は、彼の創作意欲を大いに刺激するらしい。

 数時間で、サーキュレーターは動くようになり、更に興奮した彼に説明を求められる。


 いつしか家電とか電気製品のスケッチを彼に見せ、

 彼が興味を惹かれた物をこの世界の代用品で製作するようになった。

 この国の人は彼を、このチート野郎と思っているに違いない。

 ウィズはその気になれば世界をとれる。

 なぜか白物家電に夢中だけど。


 私の住む場所は元々ウィズの研究室だったけれど、今は半分工房だ。

 熱中するウィズを尻目にサーキュレーターのスイッチを入れる。


 ヴーと音を立てて回るサーキュレーター。

 こいつが私の命の恩人。


 サーキュレーターって空気を循環するためのもので、本来の使い方じゃないのだけど。

 私はあえて扇風機代わりに使う。

 なんだって使う。夏でも冬でも。

 だって、命の恩人。


 それにプラスチックもアルミもこの世界には無い。

 ウィズだって作れない一点もの。

 私だけのサーキュレーターだ。


 ちなみに王様の部屋には扇風機が置いてある。

 クーラーは冷えすぎて苦手らしい。

 謁見の間の茶番劇は今では外交の場でも話される笑い話になっている。


 寂しいなって思う時、サーキュレーターをつければ、いつの間にか傍にはウィズがいる。

 召喚の呪文ですか?


 異世界にトリップした私が、世界を救うわけでも、恋をするわけでもなく。

 サーキュレーターにただ命を救われた。そんなお話。

ごめんなさーい。短編はどうしても誤字脱字が多くなります。すみません。


お読み下さいましてありがとうございます。とても嬉しいです。

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