kyasuvl pafect ~覚めたあとのbreakfastはいかが?~
天井が見えた。
彼は夢から覚めた。
意識が朦朧とするのか、彼は頭を抱える。
朝起きた時、特有の貧血感があるが、きっとそれであろう。
彼はケータイを開き、時刻を確認する。
九時三十二分。彼にしては寝た方だ。
そして、さっき見た夢を思い出し、彼はこう言った。
「またか‥‥‥」
彼は、ベッドから起き上がる。
(あの夢は夢ではない。記憶だ)
彼は自分に言い聞かせる。忘れないように。
そう、確かに合った事だ。潜入作戦、仲間、謎の女、そして、マトリョーシカ。
しかし、彼の記憶と彼の体に矛盾が発生する。あまりにも違う点がある。彼は洗面台の前に立った。
一つは、歯磨きするために。
一つは、現実を分からせるために。
そこには、高校生ぐらいの彼―――炎雷がいた。
――――――――――――――――
若返りの薬‥‥‥、アポトキなんちゃらというのがあるらしいが、元々三十代の彼が高校生になる若返りの薬‥‥‥、そんな薬があればノーベルさんも大喜びだ。喜んで賞と研究費をくれるだろう。
しかし、それは薬ではない。
ため息を深く吐き、歯磨きを終わらせた俺。
リビングへ移動すると先客がいた。
「おっはー。今日はいい目覚めかい?」
朝御飯の『トーストピクアプジャム』(大層な料理名だが、オーブンで焼いたパンにジャムをのっけただけである)をかじりながらテレビを見てこちらに目も向けない女の子だった。
彼女は哭沢女命と言う。
見た目は小学生だ。髪の毛は黒で腰まであり、プールの時とかめんどくさいと思うのだが。服はなぜか年中パジャマで、同じ色、同じサイズのパジャマが何十種類もあるらしい(本人談)。
先程、見た目が小学生ぐらいだと紹介したが、実は高校生である。もちろん高校へ行くときも体育の時も昼食の時も帰りの時もパジャマである。先生方が一番困るような人だ。
「目覚め悪い。またあの夢さ、貴女の夢。あとその古い挨拶やめて」
「うっさい。私は好きなんだからこの挨拶。あなた変ね」
「朝起きて最初の挨拶がそれかよォォォォォ!言うな!貴女も変でしょ!‥‥‥貴女も変でしょ!」
「何故二回も言ったのよ、あと自分の事は否定しないのね‥‥‥」
「ううっ!」
こんな調子が毎日続いているのだが、実はまだ何も教えてもらっていない。あの時、『ばるくぷはー』と言った(と思う。俺は外国語は苦手だ)謎の言葉とか、『仲間』の存在。あと、俺はどうして高校生になっているのか。
まずは、情報が欲しかった。何かに頼らないと心が折れそうだった。
「あのさ」
「ん?」
「ずっと聞きたかったんだがさ」
「ん」
「ばるくぷはーって何ぞや」
「普通に聞きなさいよ、普通に」
「いいだろうが。聞き方だって人それぞ」
「ええっと、ばるくぷはーじゃなくて『KP』。」
「ひとの話を遮るな」
「まずクプファーっていうやつ知ってる?」
「知らないから聞いてるんですけど」
女命は頭を抱え、大袈裟に首を振った。それは世界の常識なのか。知っとかないといけないのか。
「クプファーっていうのは、肝臓の類洞で赤血球の破壊に関係する食細胞よ。発見した人の名前がそのまま名前になってるの」
なんとまぁ、クプファーとはクプファー細胞の事だったのか。
「じゃあヴァルって何だよ」
「変異体っていう意味の『variant』の最初の三文字から」
「ヴァルクプファー細胞っていうのは変異体なのか?」
「そう、詳しくはわからないけどね。カッコ笑い」
「自分で言うな自分で。文字にしないとわからない類いのやつ言葉にするのを止めろ」
ここで女命が言っていた『KP』の謎(ここまで大袈裟に言うほどではなかったが)がわかった。
「と言うか、変異体ってだけだろ?何が出来んだよ」
「‥‥‥はぁァァァァァァァァァァァァァァァ。何も分かってない。あの時見なかったの?」
「何時、何を」
「あの夜、見たでしょ?変異体の『能力』っていうやつをね」
「あの何でも『食べる』というやつか」
そう言った瞬間、女命は椅子から立ち上がり盛大な(一人だけだ)拍手を俺に送った。
それをどうでもいい目で睨むと、女命は椅子に座り、言った。
「『キッチン作成開始』。‥‥‥まあ、その能力には欠点があって」
「ちょい待とうか女命さん!何何何なの?いきなりキッチンとか何とか言い出して怖い怖い!何する気ですかい!」
「キャラを統一しなさいよ。どこにどうつっこんでいいかわからないわ」
「それぐらい慌ててるってことだよォォォォォォォ!察せよォォォ!」
「はぁ、そーなのね。‥‥‥んっ、ふぅ。『キッチン作成完了。起動‥‥‥完了』」
「次は何を!?もうやめてぇな!このテンションめんどくさいんじゃ!」
「一つ目の欠点。さっき言った『キッチン』を作らないとこの能力使えないのよ。更に起動も。料理の下ごしらえをするようなものね」
「わかった!わかったから先ずは落ち着こう!そしてそのキッチンとやらを解除してぇ!」
「二つ目の欠点は‥‥‥、五月蝿い。あなたの『声を食べる』」
「もうやめ、ムグッ!‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「えー、こほん。二つ目の欠点は、私がお腹いっぱいと感じている時や、何らかの理由でキッチンが破壊されたときね」
「‥‥‥!‥‥‥‥‥‥‥!?‥‥、‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!‥‥‥。‥‥‥‥‥‥‥‥‥!」
「あーらそんなにお顔をまっかっかにしちゃって。キ・モ・イ・ぞ?」
「‥‥‥‥‥‥‥!‥‥‥‥!‥、‥‥‥!?‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!!!!‥‥‥‥!!!」
「因みにあなたも『KP』の持ち主。何の能力かは自分で探しなさい」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥!‥‥‥‥!‥‥‥‥‥‥!」
「‥‥‥ック、ハハハハハ(わざとらしい笑い)ああごめん。声食べてたわね。なんかドタドタと暴れている人がいたから笑ってしまって」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「キッチンは作った場所にとどまるの。一応、無限に作れるし、私が死んでも消えることはない。まあ、私以外だと、特殊な能力じゃないと見ることが出来ないわね。キッチンが破壊された場合、『食べた』ものは全て持ち主に戻るわ。‥‥‥『キッチン解除』」
「っぷはぁ。‥‥‥え?‥‥‥声が出た!」
やっと声が出た!と、女命に向かって言ってみた。
‥‥‥凄い形相で睨まれました。
「今度は静かにね?」
「ハイ」
まさに、『蛇に睨まれた蛙』だ。
――――――――――――――――
「あなたの『KP』は何?」
女命がいきなり聞いてきたので、俺は少し驚いた。
少し考え、素っ気なく、知らねぇと答える。
女命は、何か考えのあるような笑顔を見せると、
「それなら、探しなさい」
と言った。
「探しなさいって言われても、何処をどう探せばいいんだよ」
「気にしないでいいのよ。ただフ~ラフラと、またはブ~ラブラと歩いて、夕方になったら帰ってきて」
「フ~ラフラかブ~ラブラかはどっちでもいい。‥‥‥わかった。行ってくる」
俺はこのパジャマのまま外に出ることにした。
「待ちなさい」
『行け』と言われたのに『待て』と言われたらイラッとくる。
「今度はなん」
「ホイッ」
「うわァ!?」
何をしたか分からないだろうが、女命は何か反りのある棒状のものを投げてきた。
振り向いた瞬間に投げて来やがったので顔面クリーンヒットだ。ああー、鼻が痛ぇ。
「護身用」
それだけ言うと、女命はさっさと自分の部屋に戻ってしまった。
俺の顔に見事命中した棒状のものは、日本刀だった。
しかし、ただの日本刀ではない。
まず、刀が鞘から抜けない。
よく見ると、差表の部分にまるで拳銃の安全装置レバーみたいなのがある。少し小さめなそのレバーは、俺から見て左に回すと『UNLOCK《解除》』、右に回すと『LOCK《固定》』、更に右に回すと『PASSWORD INPUT《解除ID入力》』だそうだ。
次に柄だが、普通の日本刀なら柄は木製で、その上に鮫皮を張り、柄巻きと呼ばれる帯状の細い紐を巻くのだが、まあ、この刀は違う。
柄は金属製だ。その上に何故か古い包帯が巻かれてある。巻かれてある分だけで十分なのだが、余った包帯は頭金からぷらーんと吊るされている。無駄に長い。
刀身は見ることが出来ない。ロックされているからだ。俺は解除IDも知らないし。
何故これを護身用に?
「ああ、そうそう。ご近所さんも知ってるから一応言っておくんだけど」
女命は、部屋のドアを半分開けて、自分の顔をひょこっと出した。
そして、この日一番の衝撃を俺に与えてくれたのだった。
「あなた、私の『彼氏』としてこの家にいるから。逃げ場無いわよ」
その言葉に対して、俺の答えは簡単だった。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
こうして、哭沢家は数十年ぶりに五月蝿くなる。
どうも、五月雨度巳です。
今回の主人公、炎雷です。
勘のいい人ならお分かりでしょうが、この不思議な名前は『古事記』を元にしております。
『古事記』というのは、ロマンチックで、カッコいい話と思う方もいらっしゃる事でしょう。
ですが、私は少し違うと思います。
血の繋がった兄弟と絶えず喧嘩し、盟友を信じず、見下し、夫婦で争い、猥褻で、わがままで、決まり事を守らず、泣いたり、笑ったり、そして簡単に命を殺める。
そこには、きっと別の視点が見えるはずです。
今までの話は、個人的な見解です。
「そうかも知れないけど、わしはろまんてぃっくでかつKakkoii話がよみたいんじゃああああ!」
という方はあんまり気にしないで下さい。作者の見解ですので。
興味のある方は、ぜひとも『古事記』を読んでみては?
それでは。
『古事記』ということで、あの最強夫婦が登場する!‥‥‥かも?
五月雨度巳