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8宝箱設置はダンジョン内で


 三十メートルはあろうと思われる距離を頭から落下。下はおそらく硬い石。

 導き出される結論は、死。


「うわあああああっ……ぐがっ?」


 だが、俺は穴の底に叩きつけられる寸前で何かに止められた。

 いや、抱えられた? でも誰もいない?

 何が起こったのかはよくわからないけど、放り投げられるように床に下ろされる。

「なんだったんだ……」

 呆然としている俺の近くに、ドン、と音を立ててブライアンが着地する。

 燕尾服のほこりを払いながら、床に転がる俺を見下ろす。

「……ん、そういえば、君はレッサー・ミミックに勝てるほどの力はなかったのか……ステータス的にもここで着地するのは難しかったはず。よく無事だったな」

 え?

「どういう事だ? もしかして、今の、イベント着地とかじゃないのか? 俺、そういう補正とか何もない『ただの穴』に突き落とされたのか?」

「悪いが、おまえが何を言ってるのかよくわからん」

 メタ発言だから通じなかった。


 というか、なんであの高さを落ちて、この人達は普通に着地してるんだよ。

 そういえば、ヘルマールも、全力移動したら床が壊れるとか言ってたけど、ステータスが上がるとそういうのも可能になるのか。

 やっぱりステータス高い方がいいんだな。


 それにしてもだ。

 死ぬのは絶対に嫌だけれど、死に方にも優劣はあると思う。

 モンスターに負けるならともかく、大丈夫だと思ったから突き落とされたら死んだって、死因としてはかなり最低な記録を残すことになるぞ。

 こいつらとの付き合い方は考え直した方がよさそうだ。


 先に下りていたロクシエールは

「あ、すみませんでした。まさか着地できないとは思っていなくて……」

 ムカつくなぁ。

 謝るのかバカにするのか、どっちか片方にしろよ。

「ここ、本来はミミックでは満足できない人のための場所ですからね。それなりの強さが求められるんですよ」

 ロクシエールは微笑んでいる。

 こいつ、人として信用できない。シーフだからとかじゃなくて……俺が死んでも、笑顔でヘラヘラしてそうな感じ。

 と、俺の横にミリアスが着地してくる。

 そして俺に何か差し出してくる。

「これは……俺の剣と皮鎧?」

 いいのか? 俺一応、捕虜とかそういう立場だろ?

「この武器で私と戦おうとか、そういう事は考えないで欲しい」

 言われなくても抵抗する気はない。どうせ勝ち目ないしな。

「でも、それならどうして俺にこれを?」

「ダンジョンは危険が多い。あなたに死なれるとこちらにとっても損失になる」

「あ、ああ……」

 利己的な理由とは言え、一応心配してくれているのか。


 ロクシエールがパンパンと手を叩く。

「では、これからダンジョンを攻略していきます。私が先導、後方警戒はブライアン、ミリアスはタクミさんの直護衛とします」

 そして俺達は歩き出す。


 しかし、この世界の迷宮という奴に潜るのは初めてだ。

 壁を見る。

 青い壁。石だろうか? 材質は何だろう? しかも壁はうっすらと光っている。たいまつが置いてあったのは入り口の辺りだけで、あとは壁の自然発光で照らされているのだ。

 不思議だな。

 辺りをキョロキョロ見回していると、ミリアスに怒られた。

「どうでもいい物に見とれていると、異変を見落とす」

 ミリアスが言う。確かにな。気をつけないと。

 でも何に気をつければいいのかよくわからないんだよな。

 一本道なら、前か後ろからしか襲われないんじゃないの? そっちはレベル高い二人が守ってるんだし、大丈夫だと思うんだけど?


 観光でもなく戦闘でもなく……。今の俺って、ダンジョン内を護送されるだけじゃないか。正直、つまらない。


 一層目を十分ほど歩いた頃、遠くから唸り声のような物が聞こえた。

 敵か?

 近づいてくる足音。

 真っ黒なイノシシが走ってくる。



《ダーク・スクロファ》


攻撃:3000

防御:2000

追尾:2500

回避:1000

探知:2000

隠密:1000

適性:500


スキル:突進



 うえ、ちょっと強いぞ。大丈夫か?

 ロクシエールは刀身がぐねぐねしたダガーナイフを構えて待ち構えている。

 巨乳眼鏡とピンク髪が合わさって、とろそうに見えるのだが。

「この迷宮に出没するザコ敵です。そんな怯える必要はありませんよ」

「いや、あなたのステータスと比べるとですね……」

「《レッグ・アレスト》」

 ロクシエールが呪文を唱えると、地面から生えた鎖がイノシシに巻きつく。


 ジャガキン、と金属がこすれる音と共に、イノシシは足を取られてその場にひっくり返った。

 うっわぁ。すごく痛そう

「どうですか?」

 えへん、と胸を張るロクシエール。そういうポーズを取ると大きく揺れますな。

「思ったより、強いんですね」

「当然ですよ。ギルド長ですから」

 そしてロクシエールはダガーを持ったままイノシシに近づくと、背中の辺りに手を当てた。

「《マナ・スティール》」

 これは……まさか?

「MPを、盗んでいる?」

 これがゲームならありふれた技。回復専門でないキャラが使う回復技、程度の認識。

 しかし、冷静に考えるととんでもない技だ。どこから何をどうやって盗んでいるのか、まるで見当もつかない。

「魔術系のシーフが盗める物は、形のある物だけではないのです」

 すごいな。

「もしかして、スキルとかも盗めたりするの?」

「は?」

 ロクシエールはバカにしたように笑う。

「自分より弱い魔物の戦闘技術に、盗むものなどありませんよ」

「それもそうですね」

 なんという自信。


 俺達がそんな会話をしている間にも、イノシシは暴れて鎖から抜け出そうとする。

「じゃ、トドメ刺しちゃいますね」

 ロクシエールはそう言うと、変な形のダガーでイノシシの首筋を突き刺した。

 イノシシはビクリと体を震わせた後、光となって消えていく。

 ……あんな小さなダガーで一撃?


 ここで改めて、ロクシエールのステータスを確認。



ロクシエール・フィードリチカ


攻撃:681

防御:451

追尾:731

回避:851

探知:1201

隠密:1501

適性:700


スキル:ワーグ語、タフス語、第一階梯属性魔術、転移魔術

固有スキル:シーフマスター



 なんでこの数字で、さっきのイノシシに勝てるんですかね? 武器かな? 鑑定。


《シキノクリス》

『この武器を装備すると即死ポイントが見える。それが生きてる相手なら、たとえ神でも殺してみせる』


 うわぁ。

 どこの直死の魔眼さんですか。

 さすがシーフギルドの長。宝には目がないのだろう。いい武器を持っている。

 こんな武器があれば、俺でも無双できるんじゃないか。

 ただ、この武器があっても、相手の行動速度に追いついて刺すか、動きを止めるかしなければ、刺す事ができない。

 逆に言えば、動きさえ止めれば、亀と戦った時みたいに死ぬまで殴り続ける事も可能なわけで……。

 レッグ・アレスト。あの技は、俺も覚えたい。


 けれど、どのスキルに属する魔術だったんだ?

 第一階梯に含まれるのは、火水風土、だったか。それらの中に、トラップのような属性があるようには思えない。

 じゃあ、転移魔術か? それも何か違う気がする。

 ここにヘルマールがいたら教えてもらえただろうか?


 こんな感じで、十数回の戦闘を挟んで、進んだ。

 ロクシエールは、全て、初手で足をかけて転ばせて、MPを回収し、ダガーで刺す、という戦い方を繰り返した。

 何度階段を下りた事だろう。

「そろそろ十層です。目的地が近いですよ」

「もうそんなに来たのか」

 俺は天井を見上げる。流れている何かの光。透明な管の中を細かい粒子が流れているような感じ。

 あれは、なんだろう?

「ふふふ。タクミ君。君になら、あれが見えているんじゃないかね?」

「ブライアンにも見えてるの?」

「あれが見える。それこそ、宝箱設置のスキルを持つ仲間の証よ」

 なるほど。

 あれが宝箱設置に関わる物なのか?

 で、あの光って何なの?


 ロクシエールが歩く方向は、光の流れていく先と同じだった。

 この先に何があるというんだ?

 宝箱設置の正しい使い方、シーフギルドが五百年守り通した秘密、?


 行き止まりにぶつかった。

 ミリアスが壁に近づき、隅の方に両手をつけて十秒ほど何かしていたかと思うと、カチャリ、と音がした。

 そして壁が両側に大きく開いた。通路の一マス分を壁で区切って隠していたような感じだ。


 これは、隠し部屋?

 

 隠し部屋の中央には、宝箱が置いてあった。

 俺が何度も召喚したミミックと、寸分の違いもない。木でできた宝箱。その宝箱に向かって、光の粒子が流れ込んでいる。

「そこに宝箱があるでしょう」

「あ、ああ……」

 これが本物の宝箱だ

「ブライアンが、一昨日の夕方、あなたを連れ帰った後、ここに来て仕掛けた物です」

「って事はミミックじゃないか!」

 危なく騙される所だったわ。

「違いますよ。あれは宝箱です。中には……何入れましたっけ?」

「鉄の剣だ。今はどうなっているかな」

 ロクシエールとブライアンが何の話をしているのかよくわからない。

 そんな中、ミリアスがバンバンと箱を叩く。

「大丈夫だから、開けてみろ」

 これだけ叩いても動き出さないなら、ミミックではないのだろうか?

 それでも安心できないので一応鑑定。


《普通の宝箱》

『熟成されたミミック。ヒャッハー、産卵の時間だ』


「なにそれ怖い!」

 しかも文章がおかしい。誰の視点で説明してるんだよ。

「大丈夫だって、言ってるだろうが。早く開けろよ、話が進まない」

 ミリアスがキレた。

 うむむ。


 俺はアイテム変化でミミックに食われないものに変化できる。そしてミミックを一人で何とかできるだけの実力者が三人もついている。

 なら、やってみるか。

「えい……」

 覚悟を決めた俺は、宝箱を開けた。


 キラキラと奇妙な光があふれ出してくる。

 まぶしい。

 なんだこれは? 確かに宝箱を開けるとそういう演出があったりするけどさ。何が光ってるの? もしかして、さっき天井を流れてた光の粒子ってそういう事なの?


 光は数秒で収まった。

 箱の中を見てみると、剣が置かれていた。

 拾い上げてみる。


《聖なる鉄の剣》

『攻撃+300、悪霊系の敵にダメージ二倍』


 剣だ。

 今俺が使っている物よりはいい剣だと思う。

 しかし、それだけだな。

 悪霊系特攻というニッチさが今一つな気がする。果たして需要はあるのだろうか?


 ちなみに、俺が開けた箱は、光を伴って消えてしまった。

 なんか魔物を倒した後みたいだったが……そういう物なのか、としか思わない。


 ともかく、今の宝箱はミミックではなかった。ちゃんとした宝箱だった。これは大事だ。

「つまり……宝箱設置のスキルがあれば、宝箱の場所がわかるのか?」

 ゲームによっては、シーフには隠された仕掛けや宝を見つける能力があったりする。

 それが見えているのか? でも俺はシーフ技能なんかないぞ?

 あるいは宝箱設置のスキル持ちがシーフギルドに所属する事と何か関係が?


「違いますよ、おバカさん」


 ロクシエールが言う。

「言ったでしょう。それは、ブライアンが設置した物なのです」

「証拠は?」

「見せられる形ではないですね」


 だが俺には鑑定スキルがある。

 熟成されたミミック、と表示されていたがあれは何だったんだ?

 納得いかない。


 ロクシエールは言う。

「そもそもですよ? ダンジョン内に宝箱があるって、どういう事なんですか? おかしくないですか?」

「いや、何もおかしくないと」

「いいえ、どう考えてもおかしいです。魔物がうごめく場所、無限に魔物が沸き続ける場所。そんなダンジョンの中に、人間が作ったとしか思えない宝箱が置いてあって、人間が使用するのに適した武器や防具やポーションが入っている。どう考えてもおかしいですよ……」

「それは……」

 宝箱は、人間基準で作られたとしか思えない?

 自然に発生するわけがない?

「だったら、誰かが先回りして宝箱を設置しているとでも言うのか、……え?」


 宝箱を、設置? 宝箱設置?


 俺はブライアンの方を見る。こいつが、これを設置した?

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。おかしいだろ? まさか、さっきの宝箱……いや」

 この宝箱がそうであると認めたら、芋づる式に、他の事も認めなければならなくなる。ありえない。

 だが、そう考えないとつじつまが合わない。


「宝箱は全部、シーフギルドが、置いてるって言うのか?」


 ロクシエールもブライアンもミリアスも、

 誰も否定の言葉を発しない。


 ……マジで?


マジです

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