表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/43

4行き倒れの少女


 中断された食事を再開する事にした。

 渡されていた荷物を開けてみると、硬そうなパンが二つと干し肉のような物。そして白い塊が入っていた。

 この白い塊は何だろう? 鑑定?


《シチューのルー》


 ふむ。料理をしろと言うのか、この俺に。自慢じゃないけど家庭科の成績はあまりよくないぞ。

 それに、野菜もないし、鍋もない。

 加えて言えば、水もない。

 どうにかしてないと……。


 というか、パン二つだけで三日分なのか……。そこそこ節約していかないと足りなくなる。

 あるいは、自力で食えるものを見つけろと言うのだろうか。

 この森にも、食べられる野草とかあるのかな? 後で探してみよう。


 俺はパンの一つを四等分して、それを食べた。

 お腹はいっぱいにならなかったけれど、今はガマンする事にする。


 次に今後の方針だ。

 できるだけ多くの魔物を倒したいけれど、亀を狩るのは、無理があるかもしれない。もっと攻撃の数値を上げてからでないと効率が悪すぎる。

 けれど他にわかった事もある。

 この辺りの森には魔物が隠れている。それは普通に見ただけではわからないが、鑑定を使えば発見できる。

 今までは漠然と歩いていたけれど、これからは目に入るもの全部に鑑定を使いながら歩く事にしよう。


 そう決めてから出発して、十分も歩かないうちに、木の枝に巻きついて葉っぱの中に隠れている魔物を見つけた。


《ガート・スネーク》


攻撃:120

防御:60

追尾:80

回避:50

探知:380

隠密:800

適性:50


 弱そうだが、これなら俺でも勝てるか……。

 剣で殴ると枝から落ちてきた。そこにもう一発振り下ろしてトドメをさすと、光になって消えた。

 ザコだな。

 ステータスは……防御と探知と隠密が上がった。この世界の成長システム、本当によくわからない。

 三時間ほど森の中を歩き回って、十匹ぐらいの蛇を倒したら、ステータスはこうなった。



森橋卓巳


攻撃:255

防御:191

追尾:253

回避:252

探知:210

隠密:611

適性:540


「うーん?」

 ステータスの上がり幅が少ないせいか、あまり達成感がない。

 RPGで、始まりの町から出た直後の草むらでスライムを延々倒し続ける、あの作業感を思い出す。

 これ、一日で各ステータスが10上がるとしても、4000とか5000のクラスメートに追いつくには一年以上かかる計算だ。


 あれ? この計算が正しいなら、一年かそこらあればこの世界の人でもその域に達せるのではないだろうか?

 わざわざ異世界から人を召喚する意味はあるのか?

 なんでこの国の人は、異世界からの勇者を召喚してるんだ?

 スキルが目的だろうか?

 そういえば、クラスの皆も、妙な固有スキルを持っていたけれど。


「もしかして、ステータスに拘るよりも、新しいスキルを覚える方がいいのか?」

 俺も自分のスキルをもっと活用したい。

 例えば俺の宝箱設置はミミックを生み出してしまう。しかし、あのミミック、今は敵だが調教したら戦力にできるんじゃないか。

 それとアイテム変化は、変化できる武器を増やせば何か有用な使い道があるかもしれない。

 都に帰ったら調べてみよう。


 いつの間にか、日は西の空に傾き始めている。

 もうすぐ夜が来る。その前に、野営地を見つけないと。

「毛布しかないから、雨がよけられそうな場所を探して……いや、それより水か」

 都を出てから半日ぐらい水を飲んでいない。

 夜までに川か池を探さないと……。


 俺はできる限り真っ直ぐに歩き続ける。

 運が良かったのか、一時間ほど進むと水の流れる音が聞こえてきた。


 細い川だが、濁った水が流れている。

 カップで掬って、荷物にあった浄水器に注いでみる。……透明になった水が出てきた。 飲んでみたが、特にへんな味はしなかった。この浄水器、ファンタジーのわりには性能がいいようだ。


 辺りに魔物がいないようなら、今夜はこの近くで寝る事にしよう。

 念のため、鑑定……ん?


 向こう岸に、何か落ちている。黒い布のような物……いや、黒い服、を着た人間?


《遭難者》


「遭難者?」

 鑑定スキルにすら遭難者と表示される、筋金入りの遭難者だ。……もうちょっと近づかないと正しい情報が出ないのかな?

 ここからではよくわからないけど、死んでいるのだろうか?

 いや、指がちょっと動いたような気がする。生きているのか? それなら早く助けに行った方がいいだろう。


 俺は川を見る。これ、渡れる深さかな?

 剣を川底に突き刺してみる。泥が溜まっているけど、あんまり深くはなさそうだった。

 俺は靴と靴下を脱いで、川を渡った。


 そして遭難者に近づく。

 黒を貴重とした服。スカートだが、女性……いや、女の子だろうか?

 尖った三角形の帽子を被っている。星をイメージしたような飾りがいくつか。

 これは……魔女、というか

「魔女っ娘?」

 この世界にも、そういうジョブがあるのだろうか?

 魔物の擬態ではないか不安になったので、念のためもう一度鑑定。

 今度はちゃんと名前が出た。



ヘルマール・アンカーボルト


攻撃: 48K

防御: 52K

追尾: 42K

回避: 36K

探知: 35K

隠密: 42K

適性:257K


スキル:ワーグ語、マズラグ語、タフス語、第一階梯属性魔術、第二階梯属性魔術、第三階梯属性魔術

固有スキル:デモニックイーター(強欲)



 うおわ?

 このKって何だ? まさか、千を意味するKだろうか?

 いや、それはいくらなんでもおかしくないか?


 本当にKが千の意味だとしたら、攻撃48Kとは48000。俺の攻撃は255だから、それの百九十倍だ。

 クラスで一番攻撃値が高かった人が、4600とかだったと思うけど、それと比べても10倍以上。何だこの強さ。

 適性の257Kは257000、俺のおよそ五百倍。

 さすがにおかしいと思うんだけど、なにかの表記ミスだろうか? あるいはKの意味が違うのか。


 スキルの第一階梯属性魔術というのも意味がわからない。クラスメートの誰かが火属性魔術とか持ってた気がするけど、そういうのとは違うのか?

 あと、言語が三つもある。……それはどうでもいいか。


 どうする?

 起きて襲い掛かってきたりしたら、俺は瞬殺される。

 女の子だから大丈夫? いや、俺が今日一日やってみて、レベルアップがどんなに大変かはよくわかったんだ。

 普通に生きてたら、この年でこんなステータスになるわけがない。

 何をしたんだ? やっぱり魔物か? あるいは、この階梯魔術とかに不老不死でも入っているのか。

 というか、もうこいつが魔王か何かなんじゃないか?


 もし魔王だとして、俺はどうする? 今ここで殺してしまうか? いや……ステータスが本当なら亀の十倍も硬いんだぞ。とてもそんな風には見えないけれど。

 俺では勝てないに違いない。

 だいたい、魔王だとしても、相手の意向も確認せずに殺してしまっていい物か。


 いや、別に魔王と決まったわけじゃなかった。

 単にステータスが高いだけで疑心暗鬼になってどうする。


 と、足を引っ張られた。

「ん?」

 下を見ると、魔女服の女の子が、俺の脚に手を伸ばしながらこっちを見上げていた。

「お願い、何か、食べる物を……」

 ……うん?

 本当に行き倒れなのか?

「もう、三日もマトモな物を食べてなくて……」

「あ、ああ」

「たべものください……なんでもしますからぁ」

「な、なんでも?」

 それってエロい事でもいいのか? と悪乗りしそうになったが、冗談が効かなそうな状況だったのでそれは控える。


「これから、夕飯にする所だったんだ。一緒に食べるか?」

「うん……」

 少女は力なく笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ