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03魔術士ギルド


「どうだ、これが魔術士ギルドの本部、オウリエント城。三百年の歴史を誇る建物だぞ」

 自分の事のように自慢するのは、委員長達と共に現れたギルド員の男の方。アガズ・ヘイスティングス。

「……すごいですね」

 俺はただただ見上げるしかない。

 石造りの塔が何本もそびえたっている。一つ一つの塔の高さは百メートル近くあり、先端は

 何か魔術的な意味でもあるのか、所々に細密な彫刻のような物が見える。

 そんな塔がいくつも隣接して並んでいて、まるで壁のように見えた。


 総じて言えば、サクラダファミリアを数倍サイズに拡大したような巨大建築だ。


「見かけでただの石の城と思うなよ。壁に組み込まれた彫刻のような物は、一つ一つが防御術式だ。山を吹き飛ばすぐらいの攻撃を受けても、衝撃を分散し、耐え切る事ができる」

「……」

 ホントかよ。それはさすがに嘘だろう。


 さて。

 なんで俺がこんな所にいるのかと言えば……なりゆきだろうか?

 ダンジョン内で委員長達に見つかった後、ごく普通に「せっかくだからついて来るかい?」と聞かれたのだ。

 俺は、ヘルマールは断固反対して逃走に入るのだろうと思っていた、のだが……なぜか何も逆らう事なく、従ったのだ。


 ちなみに、もう一人の女性のギルド員は、俺達の後ろから油断なくヘルマールを見張っている。

 隊列はアガズが最前列、次が俺とヘルマール、女性ギルド員、そして最後尾が委員長達だ。

 何か意味深だが。

 ……もしかして、ヘルマールが召喚者を襲ったらいろいろ問題になるから、それを防ぐ盾になるつもりなのかな?

 ヘルマールはそんな事しないんだが。


 ギルドの建物の前には門番がいた。魔術士らしくローブを羽織っていたが、杖の代わりにハルバードを持っている。

 アガズが手をあげると、同じように手をあげて挨拶してくる。

「あれ? 行った時より人数増えて……げっ」

 門番はヘルマールを見て顔色を変える。

 過去に何かあったのか。しかしアガズは手をパタパタ振る。

「ああ、気にすんな。ウルリズアには勝てないからさ」

「そういう問題じゃありません。そいつは魔術士ギルドに唯一反抗したデモニックイーターですよ? ……しかも、暴食と強欲では……」

「その話はなしだ。俺が大丈夫だと言っているんだから心配するな」

「また暴走したらどうするんです」

「気にするな。最悪でも、せいぜい、建物が一つ半壊するぐらいだろ? 野放しにしておくよりはずっといい」

「しかし……」

「なにかあったら俺が、というかソレイト導師が責任を取る。いいからさっさと入れろ」

「あの、強欲の担当って、確かソレイト導師ではなく……」

「いいからさっさとしろ」

 なんか揉めてるなぁ。


 しかし、話の中に出てきたウルリズアって誰だろう? ヘルマールに勝てると言うなら相当の物だが……。

 もしかして、さっきから無言で一緒にいるこの女の人かな。鑑定。



ウルリズア・ディアボロス


攻撃: 95K

防御: 95K

追尾: 75K

回避: 70K

探知: 70K

隠密: 93K

適性:500K


スキル:ワーグ語、第一階梯属性魔術、煉獄属性魔術、城塞属性魔術

固有スキル:デモニックイーター(暴食)



 うわぁ? インフレ酷いです。

 ステータスはおおよそヘルマールの二倍。確かに強いようだが……、高難易度の魔術は使えないようだ。

 と言っても、ヘルマールだって第三階梯とか使ってるの見た事ないけどな。単に炎とかを飛ばしあうだけなら、圧倒的にこっちの方が強い。


 その不利を悟ったからヘルマールは素直に従ったのか?

 ……いや、何か他に理由がありそうな気もするけどな。


 ◇


 押し問答の末、どうにか俺達はギルドの建物の中に入ることができた。

「いやあ、時間をとってしまってすまないね。意思統一されていなくてね」

 アガズはヘラヘラと笑う。


 建物の中は、特に飾り気のない四角い廊下だった。

 天井に等間隔で、薄明かりを放つ照明がついているが、光が足りなくて薄暗い。

「ああ、ツヅキさん。今日の反省会はまた後日。ちょっと我々は彼に用がありますので」

 アガズは委員長を追い払いながら、俺の首根っこを掴む。

「えっ、ちょっ、俺ですか?」

「もちろんヘルマール君も一緒だよ。さあ来たまえ」

 笑顔でそういいながら、下手な作り笑いにしか見えなかった。

 抵抗もできずに、ズルズルと廊下を引っ張られる。


 委員長が手を振って言う。

「そっちの用事が終わったら、話し合いましょう。中庭にいると思うわ」

「あ、ああ……」

 引き摺られるように連れて行かれる俺、黙ってついてくるヘルマール。


 俺は囁きでヘルマールに呼びかける。

(おい、ヘルマール。大丈夫か? さっきから様子がおかしいぞ?)

(うん……そんなことないよ)

(強がり言うなよ。魔術士ギルドは苦手なのか?)

(ここには、いい思い出があまりないからね)

 らしいな。

(隙を見て逃げ出そうか)

(うん……タクミ一人だけでも逃げて。私なら、いつでもなんとかなるからさ)

(そんなわけには行かないだろ)

 そんな風にこそこそ相談しているのを知ってか知らずか、ウルリズアは後ろから俺達を無表情で眺めながら、ついて来る。



 廊下をずっと歩いて、一つの扉の前に止まる。

「ここが僕の仕事部屋でね……ん?」

「っ……」

 急に眉を潜めるアガズ。

 ウルリズアが、すばやい動きで前に出て室内に入った。

 数秒の間。

「……はあ、やれやれ」

 アガズは深いため息をつくと、俺を引き摺ったまま室内へと入る。

(え? 今のは何だったんだ?)

(……私にもわかんないよ)

 部屋に異常があってウルリズアが突入したのだとしたら、そこまでは理解できる。

 だが、なんで安全の報告も何もないのにアガズは普通に入っていくのか。それがおかしい。何だろう、この違和感。


 室内には、事務机や、応接セットや、本棚や……それっぽい物が並んでいた。

 そして部屋の真ん中に、雪の様に真っ白いタキシードを着た男が立っていた。

 何をふざけているのか、背中に刀を背負っている。魔術士ギルドにいるのだから魔術士なのだろうが……とてもそうは見えない。

「ったく。おまえか。何の用だ」

 アガズが嫌そうに言うと、白タキシードの男はせせら笑う。

「邪険にするな。ヘルマールが捕まったと聞いたから急いでやって来たんじゃないか。なあ?」

 そう言ってヘルマールに笑いかける

(……知り合いか?)

(知ってるけど、仲良くはないよ)

 かもな。


 と、白タキシードは俺の方を見る。

「ああ、君もいるんだね。タクミ・モリハシ。その筋では有名だよ」

「その筋?」

「なんでも王女にレッサーミミックをけしかけたとか」

「あれは事故だ」

「そうかい」

 そもそも、おまえは誰なんだよ。

 名乗らないなら自分で調べるか。

 鑑定。



イスフェルド・キルトンボード


攻撃:115K

防御:115K

追尾: 87K

回避: 81K

探知: 81K

隠密:110K

適性:595K


スキル:ワーグ語、第一階梯属性魔術、白煙属性魔術、静寂属性魔術

固有スキル:デモニックイーター(傲慢)



 またデモニックイーター?

 なんかさっきの『暴食』のステータスよりも強くないかこいつ。

「とりあえずの問題は、ヘルマールの扱いをどうするかだろうね」

 白タキシードことイスフェルドは言う。

「戻ってきたのはまあいいが、魔術士ギルドの敷地内に野放しでは、ご老人達も納得しまい?」

「そうだな。手は考えてあるさ」

 アガズは言いながら、イスフェルドを避けるように部屋の端を歩いて席に着く。

 ウルリズアは、警戒を解こうとしない。

 こいつら、相当仲が悪い様に見える。まるで今にも殺し合いが始まるんじゃないかと。

「門番の前で、勝手にソレイト殿の名前を出したようだが?」

「他に手がなかったんだ。仕方ないだろう。事後承諾なら取れると思ったのさ」

「まあそれは私も否定しないがね……しかし、ヘルマールのコントロールが可能とは思えない。君はどうする気なんだね」

 イスフェルドの言葉にアガズは答える。

「ヘルマールに奴隷リングを着けるしかないだろうね」

 ピクリ、とヘルマールが反応した。


 そういえば、デモニックイーターも奴隷リング着けられてるんだっけ? 前にそんな話があったような気がする。

 でも、ヘルマールはそれを内側から破壊したって話だったような気がする。また付けても破壊されるだけじゃないのか?

 と、俺の考えを見抜いたかのように、アガズはヘルマールの方を見る。

「どうせ、また壊せばいいと思っているんだろう? 残念だが改良型を用意してある。無理に外すと、キーを持った人間が死ぬ」

 それにも意味があるとは思えない。ヘルマールからすれば敵である魔術士ギルドの一員。人質としての価値などあるものか。

「だから発動キーは、彼に渡す事にしよう」

 そして俺の方に視線が来る。


 え? 俺に?


「そんな事をして、どうするつもりだね? 何の解決にもなっていないと思うのだが?」

「大事なのは、奴隷リングを破壊されないことだ。完全にコントロールする必要はない。時間をかけて説得すればいいんだ」

「穴だらけのアイディアだな」

「他にどうしろっていうんだ? 代案があるなら言ってみろよ」


「おい、ちょっと待てよ」

 俺は口を挟む。

 これ俺とヘルマールの行く先を決めようって言うんだよな? 俺達の同意もなく。冗談じゃないぞ。

「それは、俺に奴隷リングを着けるのと同じ事じゃないか? 俺はそんな物受け入れる気はないぞ」

 アガズは首を傾げる。

「ん? そんな事を言った覚えはないよ?」

「……同じ事だろうが」

 俺が、魔術士ギルドの言いなりになるわけがない。俺に奴隷リングの権限を渡したらヘルマールを縛る事はできない。

 ただし、俺を監禁して拷問するなら話は別かもしれない。

 俺が拷問に耐えたとしても、それをやめさせるためにヘルマールが勝手に従うなら、魔術士ギルドは目的を達成できる。

 たぶん実際には拷問すら必要ないだろう。


 イスフェルドは、どうするんだい? と言いたげにアガズに視線を向けた。

 アガズはため息をつくと、疲れた様に言う。


「タクミ君。君は、この場でヘルマールを殺した方がいいと言うつもりかな?」


 同時に、ウルリズアがヘルマールの方を向きながら身を屈める。何の構えか解らないが戦闘態勢に入ったようだ。

 ヘルマールは懐に手を入れた。たぶん、服の中でステッキを握っているのだろう。だが、それを取り出したら殺し合いが始まる事になる。

(タクミ、私が合図をしたら廊下に逃げて。可能なら、魔術士ギルドの敷地の外まで)

(おい待て。相手のステータスは倍。それも二人だぞ……)

 加えて言えば、ヘルマールには魔術士ギルドの魔術士を殺せないという制約も掛かっている。

 この場においては、範囲攻撃を封じられているに等しい。勝てる可能性は一パーセントもない。

 だが、他に手もないのも事実。どうする?


 イスフェルドが軽く手を打った。

「仕方あるまい。とりあえずはそれにしよう。近日中に何か考える」

 ウルリズアはゆっくりと立ち上がる。

 アガズも、ほっとしたように頷いた。


 演技、かな?

 俺やヘルマールはともかく、アガズ達は本気で戦うつもりはなかったのかもしれない。

「ほら、君が付けろ」

 アガズは机の引き出しから紐のような物を取り出し、俺に渡す。

「いや、これどうやって……」

「ヘルマールの首に一周させるんだ。それだけでいい」

 俺は紐を手にヘルマールの前に立つ。

「へへ、仕方ないよね」

 ヘルマールは力なく笑いながら上を向いた。


 それでも俺が躊躇っていると、イスフェルドに肩を叩かれた。

「タクミ君、悪いが今は従ってくれないかね? 悪いようにならないよう、私が考えてあげるよ」

 ……なんか信用できないんだよなこいつ。


 だが、ここは、これをやらないといけないようだ。

 俺はヘルマールの首に手を回すと紐をかけた。紐は勝手に締まり、透明になって消えた。これで完了か。

 ……ネックレスか何かだったらよかったのにな。


 俺はアガズを睨む。

「絶対に使わないからな」

 アガズは何も言わずに目を逸らした。

 ……こいつの事、好きになれそうにないな。


 うむ。魔術士ギルドは、とりあえず全員敵だと思った方がいい。

 念のためアガズのステータスも見ておこう。

 鑑定。



アガズ・ヘイスティングス


攻撃: 3800

防御: 3800

追尾: 3000

回避: 2800

探知: 2800

隠密: 3700

適性:20000


スキル:ワーグ語、第一階梯属性魔術、冥府属性魔術、晩花属性魔術、静寂属性魔術

固有スキル:宝箱設置



 えええ?

 おい、ちょっと待て! その固有スキルはどういう事だよ。おまえが一番の地雷じゃないか!



今回登場した変な名前の人達まとめ


『アガズ・ヘイスティングス』

男、人間、宝箱設置のスキル持ち


『ウルリズア・ディアボロス』

女、デモニックイーター(暴食)


『イスフェルド・キルトンボード』

男、デモニックイーター(傲慢)

(厳密に言うとプロローグにも出てるので初登場ではない)


『アムエルザ・アークマイン』

女、デモニックイーター(嫉妬)

(厳密に言うと今回は出ていないけれど、この章の重要人物なので念のため)


『マリキア・ソレイト』

人間、魔術士ギルド内でもそこそこ偉い人

(厳密に言うとまだ出てない)


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