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02ウィスプ


 翌日。

 昼過ぎに町を出て、北の森へと入る。

 向かうはダンジョンだ。

「そのダンジョンはシカルマ遺跡って呼ばれているよ。いわゆる『狭義のダンジョン』ってやつだね」

「なんだそれ?」

 狭義のダンジョンなどと言うからには、広義のダンジョンもあるのか?

「最近では、魔物が自然発生しているところは全部ダンジョンっていう扱いになってるんだけど……本来のダンジョンは、人工的で堅牢な場所を指すんだ。いわゆる地下遺跡型の事を言うんだよ」

「なるほどね」

 いままで行った事のあるダンジョンは洞窟とか廃城とか、森その物がダンジョン扱いとか、そんなのばっかりだったけれど。

 やはりダンジョンと言ったら遺跡だ。それはこの世界でも同じらしい。

 そういえば、ミミックランドの地下ダンジョンは、これに近いものなのかな。

「もっと厳密に言うと、限りなく地下牢に近い空間じゃないといけないんだけどね」

「スケルトンの要塞の地下空間みたいな所か?」

「そうそう。あんな感じ」

 と言う事は、ここから行く所もそういう場所なのか。


 木々の生い茂る道を進んでいくと

(あ。まずい、人がいる)

 ヘルマールに手を引っ張られて茂みに連れ込まれた。

 よく解らないまま、茂みの中をコソコソ進んでいくと、行く手の先に柵があった。

 柵の周囲五メートルぐらいは草が刈られていて見通しがよくなっている。

 こっそり近づいて突破するのは難しそうだ。


 さっきまで進んでいた道の所には頑丈そうな門があって何人もの見張りが立っていた。

(なにこれ、検問みたいな物があったなんて)

 さすがのヘルマールも困惑している。

 ダンジョンがこんな扱いを受けているとは。

 見張りの立っている向きからしても、ダンジョンを警戒しているのではなく、侵入者を追い払うためにいるようだ。

 このダンジョンは、魔術士ギルドに独占されているのか?

 深い闇を感じる。

 MMOでそんな事やってたら晒されるぞ。でもここだと掲示板がないから大丈夫なのか。

 しかも、魔術士ギルドは軍事にも一枚噛んでいる。……と言う事は王の公認ももらっていると考えるのが自然だ。誰も叩けない。

 むしろ、流れの冒険者が超強い魔術士になって暴れ出したら困るので、管理するのは必然なのかもしれない。


 理屈はわかるが、俺達からすれば不便なのには変わりない。

(前に来た時はいなかったのか?)

(いなかったよ。でも私は魔術士ギルドの側から入ったからね。こっちは違うのかもしれない)

(そっか。でも、こんな柵は突破できるだろ?)

 俺でも蹴飛ばすか何かして破壊できそうだ。

 ヘルマールの手に掛かれば見つからずに突破したり、そもそも柵を壊さず侵入する事など容易いはず。

 しかしヘルマールは申し訳なさそうに首を振る。

(ごめん……なんか、無理っぽい)

 なぜだ。

 もしかして、魔術士ギルドの管理下にあるから逆らえないとかそういう話か?

 デモニックイーターって、魔術士ギルドに洗脳でもされてるのかな?

(ここは無理じゃないか? 諦めて他のダンジョンに行こう)

(嫌だ。私は魔術士ギルドに負けたりなんかしないよ)

 ヘルマールは意固地にこのダンジョンに拘っている。

(でも、入れないんじゃ仕方ないだろ?)

(ううん。秘策があるんだ)

 ヘルマールは笑う。

 嫌な予感がした。


 ◇


 最後の一メートルだけは、やたら硬かった。

 だがヘルマールの道を阻むことはできない。

「《ベドロック・ブレイク》」

 最後の呪文と共に、岩盤のごとき硬き壁すらも粉砕され、直径一メートル程の穴が開く。

「よしっ、開通!」

 シュタッと飛び降りるヘルマール。

 俺はその後を追って着地。

 ここはもうダンジョンの中だ。


 何をしたのかって?

 柵の手前から地面を掘って地下を進み、ダンジョンの内壁付近まで到達。最後の最後に地面の真ん中をくりぬいて、ダンジョン内壁を破壊し、見事潜入せしめたのだ。


 とうとうやってしまった。

 ダンジョン物、最大の禁忌。『壁に穴を開けて進む』


 というか、こんなトンネル掘って魔術士ギルドに見つかったりしないかな?

「後で埋めておくから大丈夫」

 何が大丈夫なんだか。


 未来への不安はさておき、ここはもうダンジョンの中なのだ。

 辺りを見回す。

 石か何かでつくられた青い壁。うっすらと光を放ち、辺りの視界を確保してくれている。

 不思議な雰囲気を持った四角いトンネル。

 適当な所をぶち抜いたせいで、通路のど真ん中だった。右に進むか左に進むか。


 俺達はなんとなく左に向かって歩き出す。入り口から遠そうな方に行きたかった。

「ここではどんな魔物が出るんだっけ?」

「ウイスプだけだよ。本当にそれしか出てこない」

「やりやすいのか、やりにくいのか……」


 少し歩いていると、魔物と遭遇した。

 人魂を思わせる、炎の球体。それが宙を浮いている。


 あれがウイスプかな? 鑑定。



《ウイスプ》


攻撃: 100

防御: 100

追尾:  70

回避:  50

探知:  50

隠密:  70

適性:2600


スキル:発火体、打撃無効、切断無効



 なにこのステータス。頭おかしいの?

 適性が高いのはいいけど、ちょっと極端すぎないか?

「どんな生態をしていたらこんな事になるんだよ」

「魔物に生態なんてないよ。一説には、古代の魔術士が魔術適性を高めるために生み出したとも言われているけど」

「なるほどね」

 まるで倒した者の魔術適性を上げるだけの機械。

 きっと、古代人にも効率厨がいたんだろうな。


「こんな偏ったモンスターが出てくるダンジョンがあったら、そりゃ魔術士ギルドも本部を置くよな」

 魔術適性のステータスを上げたかったらここに通うのが一番効率がいい。

 王国から見れば果ての僻地で、かなり不便だが、拠点を構えるだけの意義はある。

 ただし、魔術だけ強いヒョロヒョロのモヤシが育ちそう……。

 砲撃隊でも編成してるのかな?


 俺がそんな事を考えている間にも、ウイスプは空中でふらふらと漂っていた。

「あれ、攻撃はしてこないのか?」

「触らなければダメージは受けないよ。向こうから近寄ってくる事もあるけど……探知も低いから」

「本当に稼ぎに特化してるんだな」


 さてと、とりあえず倒してみるか。

 炎系なら、弱点は水だろうか?

 だが俺はまだ水系魔術は使えない。ならば氷か?


「《フリーズ・ショット》」


 俺は氷の塊を飛ばす。命中。パキン、と音がして炎は消えてしまった。

「……あれ?」

 ステータスを確認すると1ずつ上がっていた。倒した事にはなっているらしい。

 全部同時に上がってるのは、この前のハイパーミミックのせいかな。一体でどれぐらい上がるのか知りたかったけれど、しばらくは参考になりそうにない。

「もっと、下の方に行ってみようか? 魔物の出現率が高くなるから効率がよくなるよ」

「そうだな……、ここって何階まであるんだ?」

「さあ? 百層まであると言われているよ。実際に潜った人はいないと思うけど」

 凄いな。

 俺もいつかそこを目指してみようか。



 歩いていると天井を白い光の粒子が流れているのを見つけた。

 鬼脈だ。

「ここにもあるのか……」

 ダンジョンだから当然か。

 ここは、宝箱設置の出番だろうか?

 俺は鬼脈を辿りながらダンジョンの奥へと目指す。


 途中でなんどかウィスプと出会うが、一匹ずつしか出てこない。簡単に倒せた。


 ◇


 どれほど歩いただろう? 何階層も下まで降りてきたが、未だに鬼脈の終着点が見えない。

 この辺りまで来るとウィスプも集団で出てくるようになったが、エアカッターとかを宛てればまとめて倒せる。切断無効じゃなかったのか? 風属性だから通るのかな?


 歩いていると、直径二十メートルぐらいはありそうな円形の広大な縦穴にたどりついた。深さは数十メートルはありそうだ。

 鬼脈はその中心を下へと向かっている。


「《エア・バッグ》」

 着地用のクッションを出してから飛び降りた。

 帰りはホウキで飛べばいいからな。


 下の床の中央に、鬼脈が突き刺さっていた。

 ここに宝箱を設置しよう。

「あ、タクミ。ちょっと待って。敵だよ」

 ヘルマールに言われて上を見上げると、いた。百匹を超えるであろうウィスプが。

「これは、ちょっと数が多くないか?」

「えー、この程度なら行けるでしょ」

「いやいや、無理だって」

「無理だったら私がなんとかするから、やるだけやってみようか。ほら」

 スパルタだなぁ。


「《エアカッター》《エアカッター》《エアカッター》」

 俺は半ばヤケで魔術を連射。

 ウィスプは次々に消滅していくが、まるで減った様子がない。

 それどころか次々に増えていっている気がする。

 俺が倒す速度より沸く速度の方が早いんじゃないか。

「あーあ、やっぱこれは無理だったかなー。どうやって倒そっかなー」

 ヘルマールは楽しそうに笑いながら俺を見ている。早く助けろ、なんかこいつら少しずつこっちに近づいてきてるぞ。


「《クインテット・ウォータードール》」

 誰かが魔術を唱えた。ヘルマールではない。


 俺の頭上に水の塊がいくつも発生した。水の固まりは空中を自在に飛びまわりながらウィスプを飲み込んでいく。それに飲み込まれたウィスプは、バチバチと消滅していく。

 ほんの十秒ほどで、天井を埋め尽くしていたウィスプは全滅していた。

 なんだ今の魔術。


 俺がヘルマールの方を見ると、ヘルマールも驚いている。

「え? 今の何? 重ね掛け系の魔術を詠唱破棄したの?」

 ヘルマールが驚くって相当なあれだぞ。どうなってるんだ。


 部屋に繋がった通路から誰かが入ってくる。

 ローブを着てフードを被った女性。魔術士らしく長い杖を持っている。銀縁の眼鏡をかけたその人は……


 ……委員長だった。

「あれ?」

「森橋君? なんでここに?」

「委員長こそ、どうしてここに?」

「戦いに備えて魔術適性を上げるって言われて、魔術系でステータスが高い人はみんなこっちに来てるのよ」

 あー、要するに俺達と同じ理由か。

 そう言えば、最後に王宮に行った時、委員長はどこかに出かけてるって聴いたような記憶がある。

 あれ伏線かよ。


 そして委員長の後ろからやって来る五人ほどの集団。

 ……うち三人は、クラスメートだった。

 委員長と同じ理由でここにいるのだろう。

 あとの二人は、何者だ?


 若い男と、俺達より少し上ぐらいの感じの線が細そうな女性。

 この二人も、魔術士のローブを着ている。


 男の方が俺を見つめて、奇妙な笑みを浮かべながら言う。

「今、このダンジョン内には誰もいないはずなんだけどね。どこから入ってきたのか」

 ヘルマールが体を硬くしながら俺の腕にしがみついてきた。


 まずい。

 こいつ、魔術士ギルドか?

 出会ってはいけない相手にさっそく出会ってしまったのか?


 やっぱりここには、こない方がよかったのかな?



この時のタクミはまだ知らなかった。

ステータス表記が二度とされないかもしれない事を……

(だってあれ、面倒だし)


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