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3レベル上げの方法


 それから、三日が過ぎた。

「《宝箱設置EX》」

 例の中庭で、俺は宝箱設置する。もちろん正体はミミックだ。

「アホカンタ!」

 高橋が杖を振って叩く。

 光と共に消滅するミミック。

 この三日、ずっとこれを繰り返している。ルーチンワークと化した。

 高橋が手をあげた。

「あ、ごめん。俺MPなくなった」

「オッケー、休憩にしよう」

 俺の方は、MPだけはやたら多いようで、まだまだ余裕がある。


 本来の俺の目的は、ミミックの発生率の調査だ。

 ミミック化してしまうのは運が悪いだけで、何回も繰り返せば本物の宝箱が出る事もあるのではないかと思ったのだ。

 この三日間、ずっとスキルを試し続けて、さっきので千と五十回目だ。千回繰り返してダメだったら諦めようかな、と軽い気持ちで思っていたりも舌のだが……。本当に一度も成功せず、全部ミミック化した。

 絶望しか感じない。

 これはもう、そういうスキルだと思うしかないのか。


 ちなみに、非アクティブのミミックしか出てこないとは言え、俺の手に終える強さではないので、誰かに始末を頼むしかない。

 いろいろ考えた末、高橋に頼んだ。

 杖で殴るだけで即死させるスキルの練習台としてこれほど適切な物もないだろうから。

 ミミックを千匹倒した高橋は、攻撃が776、適性が819、それ以外の全ステータスが1000ずつ上がっているらしい。

 俺にはこの世界の成長システムがよくわからない。どう計算したらそうなるんだろう?

 まあ、俺のステータスは全く成長していないので、考えても仕方ないんだけど。


 他の人達も、今日からダンジョンに潜るとかで、俺の出番はまるでない。どうしたもんだか。

 ちなみに、ミミックのステータスはこんな感じだ。


《レッサー・ミミック》


攻撃:1000

防御:3000

追尾:2750

回避:1900

探知:3800

隠密:8000

適性:500


スキル:奇襲アタック


 レッサー、って事は、スキルレベルを上げれば、もっと上位のミミックも出せるようになるのだろうか?

 なっても意味がないと思うけど。


 いっそここに居座って、みんなのための経験値部屋でも開こうかな、と思っていたら、カームさんが「王都の端にミミックランドという施設があるそうです。そこに行けば、いつでもミミックを倒し放題なのだとか」とか言い出した。

 まじかよ。俺の出番本当にないのな。


 っていうか、そのランド、近いうちに見学に行こうかな。

 もしかしたら、俺みたいに《宝箱設置》のスキルを持った人が働いてるのかもしれない。俺の居場所もあるかも。


 ちなみに。

 もう一つのスキル、アイテム変化の方は、更にどうしようもない。

「性能としては悪くないけど……ちょっと微妙ですね」

 いろいろな人に見てもらった結果、そんな評価だった。

 武器変身した俺は、名工が打った上質な魔剣と同じか少し劣る程度の強さ、らしい。

 売った時の値段は金貨二百枚ぐらいになるだろう、と。

 高いのか安いのかよくわからないけど、できれば身売りはしたくない。


 というか、このスキルは何かの間違いなんじゃないか?

 これは俺が持つべきスキルじゃない。

 女の子が持つべきだ。

 可愛いくて素直だけど、ちょっと不幸(例えばハーフエルフで差別を受けているとか)そんな美少女が持つべきだ。

 そして、武器に変身して宝箱に隠れている所を俺が発見して、戦力アップ&いちゃらぶハーレムになる。そういう展開こそが正しいんじゃないか?

 なんで俺の方にこんな能力をつけたんだ。神様、空気読め。


 ◇


 それはさておき

 クラスの皆は、強さごとに班分けされてダンジョンに行ってしまったし、高橋も最大MPを上げるための訓練を受けるとかで、俺はやる事もない。

 これでテンプレみたいに「前からおまえの事は嫌いだったんだよクズが」みたいに言われたらどうしようかと思っていたら、何の言葉もなかった。

 ああ。それが普通だよな。


 ただ一人委員長が「あなたは、私達の帰りを待つという立派な役割が……」とか取ってつけたような慰めの言葉をかけてくれた。

 逆にツライんだよなぁ。



「……というわけで、俺もレベル上げに挑戦しようかと思うんですよ」

 二番目に弱いクラスメートと比較してもステータスの差が際立っているからな。

 そしてスキルも役立たず。

 たぶん、この先、どんなに努力しても差が開いていくんだろうけど……。だからって、城に引きこもっているのも、ちょっとどうかと思うのだ。


 俺の考えに、名誉団長のカームさんは賛同してくれた。

「確か、あなたは敵対モンスターも鑑定する能力がありましたね」

「はい。だから、敵がどれぐらい危険かはちゃんとわかりますよ」

「では、一つ忠告を。決して、自分よりステータスが高い相手に挑んではいけません。勝てませんので」

「いや、それは解ってますけど……」

「勝てません。死にます」


 カームさんは怖い顔で近づいてくる。

「いいですか? 理屈の上では、同じステータスの者どうしが殺し合えば、どちらかが死に、残った方も瀕死に近い状態になるか、遅かれ早かれ死にます。ステータスの数字は絶対です」

「は、はい」

「戦いを挑むなら、とにかく死なない事です。死ななければ、いつか強くなれます。いいですね?」

「わかりました」

 俺だって、死にたくはない。強くなりたいだけなのだ。


「次に、どんな魔物と戦うか、ですが……自分よりステータスの高い魔物を狩ると、ステータスが上がりやすいです」

 え? それおかしくね?

「さっき言った事と矛盾してませんか?」

「……だから無理をしないようにと釘をさしたのです。促成栽培は、諸刃の剣です。しかし、今教えなくて、後であなたが自分で気付いて無茶をしたら困るので。……えーと、あなたの攻撃はいくつでしたっけ?」

「250です」

「だとすると、攻撃が250の魔物を一匹倒せば、攻撃が1上がります」

 世知辛いな。

 もっと一気にドバッと上げる方法はない物か。

 いや待て……ステータスが高い相手を狙いたくなる人が多いのはそれが理由か。危ない危ない。忠告された側からそれを忘れたら命がいくつあっても足りないぞ。

「難しく考える必要はありません。攻撃50の魔物を五匹でもいいんですよ」

 なるほど。

「つまり、大物を狙うより小物を大量に狩った方が安全で効率もいい、って事ですね」

「そういう事になりますな」

 問題は、そんな都合よく弱い魔物が出てきてくれるか、って話だが。

 だって俺、ザコの代名詞のコボルトよりも弱いんでしょ?

 どうすりゃいいわけ?



 とりあえず、鉄の剣と皮の鎧をもらった。


《鉄の剣》

『攻撃+200、回避-100』


《皮の鎧》

『攻撃-100、防御+200』


 装備はステータスにマイナス補正が掛かる部分があるので、これ以上の物を装備させてもらえなかった。

 先が思いやられる。

 おまけで、三日分の食料と毛布。それから魔術で水を浄化する道具を貰った。

 かなりの強行軍になりそうだ。

 三日後に、どれだけ成長できている事やら。


 馬車に乗って城を出る。

 カームさんは、護衛をつけた方が……、と言っていたけれど、他の人と協力して戦うと、ポイントが分散されてしまうらしい。

 必要なのは成長速度。そのためには、ソロで突っ切るしかない。


 都は全方位を高い壁で囲まれていて、馬車がいけるのはそこまで。

 門を出たら、歩いて進むしかない。

 門番がいろいろ教えてくれる。

「こっちの門は、通商路にもあまり使われていません。ほとんど兵士の育成用です。そこそこのモンスターがいます。それと、門から少し離れた所にコボルトの住む洞窟がありますが、絶対に近づかないでください」

「わかりました」

「それと、北の山岳地帯で数日前に謎の爆発現象が起こって山が吹き飛んだそうです」

 えっ?

「関係ないかもしれませんが、一応、気をつけてください」

 そんなの、何をどう気をつけろって言うんだ?

 とりあえず、北には行かない方がいいって事かな?


 何にせよ、俺は小さな門を押して、都の外に出る。


 俺の冒険は、始まったばかりだ。

 勇者見習い、タクミの今後の成長と活躍を祈って。


 ◇


「って、なんだよ……打ち切りエンドじゃあるまいし」

 門を出た先は、普通に針葉樹が生えた林だった。

 嫌だなぁ。春先には花粉とか出そうだ。


 それから俺は三時間ほど林の中を歩き続け……迷った。

「どこだよ、ここは……」

 どっちを向いても、木が生えているだけ。地図もコンパスもない。

 さらにマズイのは、この三時間に、一匹の魔物とも遭遇していない事だ。

 どうするんだよ、この状況。思った以上に、難易度高いじゃないか。

 誰か俺にステータスください。

「食料、食べるか……」

 俺は疲れて、食事をとることにした。

 ちょうど、近くに大きめの石があったので、その上に腰掛ける。

 さてと、荷物を……

「ぐあっ!」

 足に痛みが走った。

 なんだ? 攻撃か? どこから?

 俺は辺りを見渡すが、そんな物はどこにも……。

「痛っ……」

 また足をやられた。

 血が出ている。くそう……防御の数値ってどこに適用されてるんだよ。詐欺じゃないのか。

 それとも、俺よりステータスが高い相手なのか?


 とにかく、動かないのはマズイ。

 俺は座っていた石から離れて、近くの木に背を預ける。


 敵はどこだ?

 辺りを見回しても、何の変哲もない森の風景が広がっているだけだ。

「おかしい」

 透明な敵、か?

 それとも、カメレオンのように、擬態しているのか?

 俺は周囲にある物を片っ端から鑑定する。


《木》《木の枝》《葉っぱ》《地面》《道端の石》《ストーン・タートル》


 あっ、なんか変なのが混じってた。もう一度確認。


《ストーン・タートル》


攻撃:300

防御:5000

追尾:50

回避:50

探知:50

隠密:5000

適性:10


スキル:なし


「なっ? なんだとっ?」

 それは、俺が座った大きな石だった。

 石だと思ったら、魔物だったのだ。それも、なんか極端なステータスの。

 俺は足を押さえながら、考える。


「こいつを、狩って見るか」

 ステータス的には俺より上位なのかもしれないが、追尾と回避の極端な低さを見るに危険は少ないだろう。

 ようするに、動きが遅い。

 時々首を伸ばして噛み付いてくるが、そんな攻撃が当たるわけないし。


 俺は剣を抜くと、ストーン・タートルに切りかかった。


 ◇


「おかしいな……」

 攻撃を始めてから五分ぐらいが過ぎた。

 俺は被弾なし。

 なにしろこの亀、頭からしか攻撃を放てないから、後ろに回り込めば安全なのだ。亀も俺を攻撃しようと百八十度ターンを試みるのだが、俺が横歩きして逆側に回り込む方が断然早い。

 そして、こっちの攻撃は二百発ぐらい当てたと思う。

 しかし何かが変化した様子はない。

 剣の刃が丸くなってきたような気がするんだけど、これ、研ぎ石とか必要なんだろうか?


 それからさらに数分は殴り続けて、もしかしてこれダメなんじゃね? と思い始めた頃、バキッ、と音がしてストーンタートルの背中に割れ目ができた。

「やったか?」

 少し待つが、倒せた様子はない。ストーンタートルは、こちらを攻撃しようと、ノソノソ回転している。

 まだダメなのか。


 俺は背中の割れ目に向けて、剣を付き降ろす動作に変えた。

 何十回か突くと、さらにバキバキと割れ目が広がり、穴ができた。

 その穴に剣を突き刺す。奥まで押し込む。

『ぎっ、ぎいいいいっ』

 酷い悲鳴を上げるストーン・タートル。

 苦しんでいるようだが、こっちも、早く終わらせたい。


 ストーン・タートルは数十秒ほど暴れた後、息絶え、光になって散って消えた。

 まったく、酷い戦いだった。

 剣は、亀の甲羅を叩き割るのに適していない。

「町に帰れたら、ハンマー系の武装を用意してもらったほうがいいかな」


 さてと。ステータスを確認してみよう。



森橋卓巳


攻撃:251

防御:181

追尾:250

回避:250

探知:200

隠密:601

適性:540



 攻撃と防御と隠密が1上がっていた。

「……」

 割に合わない、ダメだこれ……。


敵一体を倒したタイミングで、1だけステータスが上がる変態仕様

まぐれで強敵を倒しても高速レベルアップできないよ、やったね


(※余ったポイントは次の敵を倒した時に持ち越されるので無駄にはなりません)


それでも、防御25、隠密8……先は長いです


なお、ストーンタートルは(発見さえできれば)序盤から終盤まで稼ぎやすい安牌です

発見できれば、ね

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