エピローグ
エピローグ
ミミックランドの件が片付いた翌日。
俺は王宮に程近い喫茶店のような店のテーブルで、一人、ヘルマールを待っていた。
この王都でやるべき事は、もう何一つ残っていない。あとは、次のダンジョンに出発するだけだ。
アリスをどうするかが、迷いどころだった。
こちらとしては、連れて行っても問題ないけど、アリスが王都でやっていけそうなら置いていっても構わない。その方が身軽で動きも取りやすい。
その辺りも考えて俺とヘルマールで話し合った結果、不当な扱いを受けているなら一緒に脱出、そうでないなら会わずに去る、という事に決まった。
それで今、ヘルマールは、王宮に潜入して、アリスの様子を探りに行っているのだ。
俺は待っている間暇だったので、ブライアンからの手紙を取り出す。
これはオリジナルではなく、ヘルマールに読んでもらって書き写したものだ。
要するに一回読んでしまったので、だいたいの内容は頭に入っているのだけれど……。
◇
タクミよ。この手紙が無事に届いている事を祈る。
この手紙がおまえの手に渡っているのなら、たぶん私は死んでいるのだろう。
むしろ全てが計画通りに行ったなら、おまえの目の前で死んでいるかもしれないので、あえて言うまでもない事かもしれないが。
こうして手紙を書いたのは他でもない。
おまえに頼みたい事、おまえでなければ頼めない事があるのだ。
私は王都からやや南の方にある農村に生まれた。
豊かとは言えなかったが、穏やかで心地のいい村だった。
私はその村で育ち老後を迎える。ずっとそんな時間が続くのだと思っていた。
しかしその村はもう残っていない。
シーフギルドに滅ぼされたのだ。
全ては私がいたせいで。
私が八歳の頃、村に神官がやって来た。
あの大神官だ。当時はそれほどの地位でもなかったようだが。他人のスキルを調査するという仕事は今と変わらなかったようだ。
そして《宝箱設置》を持つ者を見つけたらシーフギルドに報告するという裏の仕事も。
かくして、私の《宝箱設置》は明らかとなった。
あの者は「使え」とは言わなかったものの、「使うな」とも言わなかった。
村長に促されるまま、私は人前でスキルを使った。何も疑わずに。
当然のごとくレッサーミミックが出現して、大騒ぎになったのだが。
それから数日後、私は誘拐された。シーフギルドに。
閉じ込められ、奴隷リングを首に付けられ、自分の出したレッサーミミックを自分の力で倒せるようになるまで魔物と戦わされ……。
何度心が折れそうになったことだろう。
だが私は諦めなかった。
いつか村に帰れる時が来ると思っていたのだ。
《宝箱設置》のスキルレベルが上がって、ミミックを出せる様になった時、私はそれを隠した。これがの鍵となると思ったからだ。
それからまた少したって、私の生まれた村にほど近いダンジョンを担当する事になった。
チャンスだと思った。
私は奴らの隙をついて解除石を奪って奴隷リングを外し、パーティーメンバー全員を殺して逃げ出したのだ。
旅をして、どうにか村にたどり着いた。だがそこには別の村があった。
見知らぬ村人達に話を聞いて回ったところ、彼らは移民だとわかった。
山賊に襲われて滅んでしまった村を、数年前に復興したのだと言う。
その『山賊に襲われた』というのは、私が村から誘拐されたのとほぼ同時期だった。
つまりシーフギルドは《宝箱設置》を目的に私を誘拐したという事実を隠蔽するために、村一つを滅ぼしたのだ。
帰る所のなかった私はシーフギルドに戻った。
自分以外のパーティーメンバーが全滅した事は、魔物に負けたからだ、と説明した。
当時のギルド長が私の言葉を信じたかは解らない。
まあ、その一ヶ月後に殺したので関係ないが。
私は自分の故郷が滅ぼされたと知った時に思った。
シーフギルドに復讐をしなければ死んでも死に切れない。
そしてシーフギルドがこれ以上《宝箱設置》を持つ者やその周囲の人間に非道な行いをできないようにしたい。
復讐は簡単だった。
だが問題は予防だ。
自分が生きている間ならともかく、死んだ後までもその状態を維持できる方法。それは誰かに託す事しかない。
だがこの思いを誰に託せばいいのか。それがわからなかった。
できる事なら、同じ《宝箱設置》を持つ者に任せたい。
だがそれだけではダメだ。
シーフギルドを上回る力、それがなければ、いずれまた同じ組織を作られてしまうだろう。
《宝箱設置》を持って生まれただけの者では、その力を発揮するのは難しい。
そんな思いを抱えたまま、何年もが過ぎていった。
そんな時に現れたのがおまえだった。
異世界から来た、という点は気になった物の、普通とは違う《宝箱設置EX》の使い手。そしてこの世界に来て数日なのにも関わらず、強力な現地人を味方につけた事。
おまえには何か特別な物があるのだろう。きっとおまえなら、はずだ。
だから頼む。
私が死んだ後も、シーフギルドを押さえつけられるだけの力をつけた組織を作り上げて欲しい。
おまえだけが、《宝箱設置》のスキルを持って生まれた者の希望なのだ。
追申
せっかくなので一つ、教えておく。
《宝箱設置》は使い続ければスキルレベルが上がり、より高度なミミックを生み出せるようになる。
だが、おまえの持つ《宝箱設置EX》は違うスキルなのかもしれない。
既に気付いているかもしれないが、本来の《宝箱設置》ではミミックを一体しか出すことができない。
それに対し、おまえは複数のミミックを同時に設置していたとミリアスからも聞いている。それが普通とEXの違いなのだとしたら……《宝箱設置》の使い方は大きく変わるだろう。
実際、ダンジョン内に設置するなら一人で数多く設置できたほうがいいし、レッサーミミックで十分なのだから。
そのスキルをどう使うかまで指示するつもりはない。
おまえ自身のために役立ててくれる事を願う。
◇
「うーん?」
なんていうか、重い物を預けられてしまったような気がする。
俺みたいなのにそこまで期待されても困るんだよな。しかも強力な現地人て、ヘルマールまでメンバーにカウントされてるし。
……全ての《宝箱設置》のスキルを持つ者の希望、か。
「タクミ、何ボーっとしてるの?」
気付けば目の前の席にヘルマールが座っていた。
もう戻ってきたのか。
俺は手紙をポケットにしまう。
「おかえり。アリスは何やってた?」
「医務室みたいな所で寝ていたよ。騎士団のおじいちゃんが話してるのを聞いたけれど、巻き込まれた被害者、って事になってるみたい」
「そっか」
「大丈夫そうだったから、声は掛けないで置いた。きっと、この町でもうまくやっていけるよ」
「そうだな」
「あと、他の召喚者の人達も元気そうだったよ」
「まあそれは昨日の今日だし……特に変化はないだろ」
「それよりさぁ、どうする気なの? 作るの? 組織」
ヘルマールは、俺がポケットに押し込んだ手紙を指差す。
「いや……作らないよ」
「えー」
俺の答えに、ヘルマールは不満げだった。
なんだよ、やりたかったのか?
「俺には無理だよ」
「そうかな? タクミだったらできるんじゃない?」
「そりゃ、できるだけの事はするけど……いや、できたとしてもやらないかな」
俺はそんな大きな物を背負える器じゃなかったって話だ。
俺を信じて復讐決行に踏み切ったブライアンには悪いが、諦めてもらおう。
俺達は喫茶店を出る。
空は青く晴れ渡っていて、気持ちのいい風が吹いている。
「それはそれとして、次に行くダンジョンは、どんな所なんだ?」
「魔術適性が上がりやすい所かな。ウイスプって言う敵がいっぱい出てくるよ」
「ウイスプねぇ」
「……魔術士ギルドに近いから、本当はあんまり行きたくなかったんだけどね」
少しくらい笑みを浮かべるヘルマール。
「嫌なら無理する事ないんだぞ?」
「大丈夫だよ。なんかタクミと一緒なら、なんとかなりそうな気がするし」
そう言ってヘルマールは笑った。
とりあえず第一章完、という事で
設定の整理とかの都合でしばらく休みます
ちなみに、第二章は、魔術士ギルド編 を予定しています
四月半ばまでには始められると思います




