表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/43

31時間稼ぎ


 俺達が着地したのは、ミミックランドから数百メートルは離れたどこかの見知らぬ建物の屋根の上だった。

「ずいぶん飛んだな……どこだよ、ここ……」

「さあ? とりあえず逃げただけだし」

 ヘルマールも知らないらしい。

 まあ、王都の中ではあるし、俺がホウキに変化して適当に飛べばなんとかなるだろうけど。

 俺は倒れたままのアリスを抱き起こす。

「どっかケガとかしてないか?」

 服もボロボロだし、あちこちに血のにじんだ包帯。楽しい暮らしができていたとは思えない。

 それなのに、アリスは悲しそうな顔で謝る。

「あの、ごめんなさい」

「え?」

「シーフギルドに捕まった時、あなた達の事を聞かれて、私、喋ったらダメだと思っていたのに……」

 ああ。そんなのあったっけ。

「んー。それは仕方ないんじゃないかな」

 俺が言うとヘルマールも頷く。

「そうそう。むしろ黙秘したまま拷問され続けて殺されたりしたら、こっちの寝覚めが悪いしさ」

「そんな……」

「結果的に、みんな生きて脱出できたからこれでいいだろ? それで、これからどうする?」

 なんだかんだで、いろいろあったけれど、時間はまだ昼過ぎだ。

 夕方まで何をするか決めなければ。

 俺としては、こんな王都に用はないし、ヘルマールも同じだろう。

 つまりアリス次第なのだが……。

「あの……私の武器屋って、今、どうなってるんですか?」

 当然の疑問。

 アリスの武器屋はなくなってしまった。物理的に。

「何も残ってなかった。どこまでが敷地だったのかもわからないぐらいに……」

「そうですか」

 肩を落とすアリス

 ヘルマールがアリスの方に手を乗せた。

「大丈夫だって。またやりなおせるよ」

「いえ……それは、いいんです。どうせ取り上げられてしまう店でしたから」

 アリスは気丈に言う。

 でも本来なら、土地と建物は諦めるとしても、思い出の品ぐらいは持ち出せたんじゃなかろうか?

 それが、俺達が関わったせいでこうなった。

 俺達の目の前にいるのは、宿無し一文無しで服もボロボロのケガ人だ。

「近所の人達に謝った方がいいんでしょうか?」

「いや、それは別に必要ないと思うよ」


 武器屋の近所の人達は本当に無関係なので可哀想だとは思う。

 でも俺達の味方ではないからな。それどころか、自分の建物を破壊した悪人の言う事を素直に信じて俺達が犯人だと思い込んでいる。

 救いがたいバカだ。

 こっちから何かしてやる必要性を感じない。

 誤解を解こうにも、実行犯のブライアンは死んでしまったし、他の宝箱設置者を引っ張り出してもあんまり意味ないし……。主犯だったロクシエールと大神官も死亡済み。

 うん、諦めよう。


 アリスは困った顔になっている。

「私は、どうしたらいいんでしょう……」

 今回の剣では、近所の人の善意に頼るわけにも行かないだろう。

「さあね……一緒に来る?」

 ヘルマールが聞くと、アリスは迷いながらも何かを答えた。

 だが、その声は、

 ミミックランドの方から響いた爆音にかき消された。、

「……」

 俺達はそっちを見る。

 けっこう離れたと思ったんだけどな。

「ハイパーミミックと、誰かが戦ってるのかな?」

「逃げている、だと思うよ。……」

「シーフギルドじゃ倒せないのか?」

「無理じゃないかな? 私でもいけるか怪しいし……」

 ヘルマールでも厳しいのか。

 じゃあ、無理だな。

「あれ、放っておいたら王都が崩壊するのかな」

「まあ、ヤバイかも知れないけど……騎士団が出て制圧するでしょ?」

 騎士団が? ……ん? ちょっと待てよ?


(なあ、ヘルマール。俺が王宮に潜入する事って可能か? できれば誰にも見つからずに)

(え? その気になれば可能だけど、どうする気なの?)

(いや、何か嫌な予感がする)

(嫌な予感?)

(つまりさ……)


 俺とヘルマールは今後の方針についてアリスに聞こえないように相談。


「と言う事は……初手はこれ。《シャットダウン》」

 ヘルマールはにステッキを向けて呪文を唱える。

「えっ? ちょっ……」

 アリスは白目を向いた後、ガクリと首を落とした。意識を失ったようだ。

「なんか怖いんだけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。ほらタクミ、早くホウキになって」


 俺はレッサーミミックを出して噛まれてホウキに。レッサーミミックはヘルマールが片付ける。ヘルマールは、ホウキになった俺に跨って、アリスを布で包んで荷物用に吊り上げて飛び立った。

 向かう先は王宮。

 ヘルマールはステルスモードになって

 ホウキ状態の俺も見えなくなるのは知っていたが……

(このやり方だとアリスも見つからないのか?)

(そういう魔術で固めてるからね。所有物扱いだよ)

 ……ってことは、俺も所有物扱いなのかよ。別にいいけどさ。


 当面の目的は、アリスだ。短時間でもいいからアリスをどこかで預かってもらわなければいけない。

 でも、武器屋のご近所さんに頼るのも困難な状況だし、預かってくれそうな場所を探すのは時間が惜しい。宿屋に押し込んでくるとかでもよかったんだけれど、万が一の時の避難誘導とかまで考えるとアリスを一人にするのは不安が残る。


 となると、もう委員長に頼るしかないんだよな。

 俺とアリスの共通の知人なんて他に思いつかないし……。


 そういうわけで王宮に忍び込んだのだが……委員長が見当たらない。

 このままだと、目的未達成のままタイムアップになりそうなんだけど……。


 あ、中庭に高橋がいる。

 ちょうどいい。

(ヘルマール、着陸だ)

(オッケー)

 中庭の少し離れた所に着陸。

 俺は人間に戻る。

「あれ? 森橋君? いつ帰ってきたの?」

「今、ちょっとな……。っていうか、その腕。何かあったのか?」

 高橋は腕を吊っていた。まるで骨折でもしたかのように見える。

「ああ、これ? 町に出たミミックと戦った時にちょっとね……」

「そっか」

 そう言えば、こいつの固有スキルって破滅ロッドだよな。

 当たれば一撃必殺だけれど近接技だから、どうしても前衛になるのか。防御低いのに。

 骨折ですんでよかった、と言うところだろうか?

 いや、前の世界だったら大事なんだけど……あの建物ごと破壊した力と向き合ったと考えれば、腕一本ですんだのは幸運だった。

「あのミミックを暴れさせたのって森橋君?」

「それは俺じゃない」

「……そっか。ならいいや、信じるよ」

「ありがとう」

 日本人の好かな。

「ところで、委員長に用があったんだけど、今どこに?」

「委員長って言うか、魔術系の人達は、遠くのダンジョンに行っちゃったよ? 適性があがりやすい穴場があるんだってさ」

「……え。王都にいないのか?」

 まずいな。

 でも、一時的なら、なんとかなるか?


 俺が後ろを振り返ると、ヘルマールの姿はなく、アリスだけが地面に横たわっていた。

「ちょっと、この娘預かってもらえないか?」

「そ、それ誰? 怪我してるみたいだけど……」

「アリス。武器屋のアリス、って言えば委員長は思い出してくれる、たぶん」

「よくわからないけど、まあいいや。でも委員長が戻ってくるの、いつになるのかわからないよ?」

「それはどうでもいい。でも、念のため大神官の部下には教えないでくれ」

「……森橋君、あの人と何かあったの?」

 いろいろあったんだよ。


 せっかくだから、第二の目的もここで果たしておく。

「あと。一つだけ言っておく。これから、ミミックランドに出動するように言われるかもしれない。でも絶対に行くな」

「え? なんで?」

「……とにかく行くな。今度はきっと骨折じゃすまないから。これは皆にも伝えておいて」

「何がいるのか知らないけど、破滅ロッドが当たれば、今度こそ……」

「それはやめろ」

 ロクシエールはそれやって、何もできずに死んだんだぞ。

「でも……」

「あれはレーザー撃ってくるから。近づく前にやられる。とにかく頼んだからな」


 ◇


 衛兵に見つかる前に王宮を脱出。

 俺はまたホウキになって、ヘルマールと一緒に空を飛ぶ。

(あの人、友達か何か?)

(まあ、仲が悪かったわけではないから……)

(でもさ、ああは言ったけど、無理だよね。出撃するなとか)

(そうか?)

(仮に今回は行かないとしても。勇者として召喚された以上、戦いに出ることにはなるし、戦ってれば犠牲者だって出るもんだよ?)

 確かに、ヘルマールの言うとおりだろう。

(でも、仮にいつかはそうなるとしてもさ、あれは相手が悪いし、クラスメートに責任を押し付けたくはないって言うか)

(その気持ちは、まあ解るけどね……)


(ブライアンは、何を考えてたんだろうな)

(え? 復讐じゃないの?)

(そうだろうけど……それだったら、俺達が来るのを待つ必要はないだろ?)

 もしかしたら、ブライアンは待っていたのではないだろうか?

 ハイパーミミックを、後片付けできる誰かが来るのを。

(そうだとしたら、迷惑な話だよね)

(まったくだ)

 ミミックランド上空に到着。


 何をやっているのか解らないが、あちこちで爆発が連発している。

 どこから手をつけたもんか。

(あ、あそこに人が隠れてるよ、結構な大人数)


 俺達はそこに着陸。

 十人ぐらいいた。

 しかも、その集団を率いているのはミリアスだった。

「あれ? 生きてたのか?」

 ロクシエールがに殺された時、一緒に死んだんじゃなかったのか?

「ふふふ。ダミーウッドに騙されたな」

「なんなんだよ、そのスキル」

 万能丸太か何かか?

 他の人達はざっと鑑定してみた限りでは、宝箱設置とか鑑定とかのスキル持ちのようだ。

「こいつらは、本来はギルド長の預かりだったんだが、管理権限を変更して今は私の奴隷になっている」

「どさくさに紛れて何やってんだよ」

「避難するだけだ」

 ああ、あれか。

 テンプレ的な奴隷リングか。

 主人が死ぬと奴隷まで一緒に死ぬとかいう……。

 ロクシエールが死んだから、こいつらも一緒に死んでしまう。それを防ぐため、ミリアスは奴隷のいる所まで行って、わざわざ管理権限を変更したのだ。

 いい所あるじゃん。

「ちょっと、脱出に手間取っている。今回だけでも協力してもらえないか? 時間稼ぎだけでいい」

 俺はいいよ、と答えようとしたのだが、ヘルマールが間に割ってはいる。

「タダで?」

「……ここにブライアンがタクミ宛てに書いた手紙がある」

 あ、それ本当にあったんだ。ミリアスを遠ざけるための方便かと思った。

「仕方ないな。時間稼ぐだけでいいんだね……」

「ああ。これを渡しておく」

 何かを渡される。ビー玉ぐらいの大きさの塊だった。

 なんだこれ?


《炸裂弾》

『投擲すると魔力を利用して炸裂する弾、大岩を破壊するほどの威力がある』


 うん。武器、かな?


「それで、この人達はどうする気なの?」

「ミミックランドの出口まで先導したい……だが、ハイパーミミックがあっちに行ったりこっちに行ったりしていて、どの出口が安全なのかもよくわからない状態なんだ」

「だったら、壁に穴を開けて出ればいいじゃん。《ダーク・ルメサイア》」

 ヘルマールが外壁を吹き飛ばす。


「ありがとう。じゃあな!」

 ミリアスは手紙を俺に押し付けると、穴から外に出て行った。奴隷達もそれについて走っていく。


 俺は手紙をポケットに押し込んで、炸裂弾を見る。

「これ、威力が表示されないけど、単純な破壊力は今の魔術より低いって事だよな?」

 これを持っていたのに自分達で壁を壊さなかったという事は、そうなる。

 ハイパーミミック相手じゃ、あんまり頼りにならない気がしてきた。

 お守り程度に思っておこう。


「さてと。片付け忘れたフラグはあるか?」

「フラグって何? たぶん、万全の状態だと思うよ」


 壁を壊した爆音に気付いたのか、ハイパーミミックが建物を壊しながらこっちにやってくる。

 時間稼ぎとは言ったが。

 別に倒してしまってもかまわないのだろう……というか、そもそもそのために戻ってきたんだけどな。

「俺達で何とかするしかないんだよな、これ」

「まあね……」

 さてと、やるだけの事はやってみるか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ