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31ブライアン死す

タグで知ってるかもしれないけど念のため


※残酷な描写アリ


 ハイパーミミック。

 俺がいつも出しているレッサーミミックとはまるで形が違う。

 ミミック系列である以上、宝箱として機能しなければいけないはずなのだけれど……。そのルールは俺の思い込みであって、この世界では違うのだろうか?


 あるいはもしかして、あの抱えてる壷の中にアイテムが入っているのだろうか?

 ダンジョンによっては、そんな特殊宝箱があってもおもしろいかもしれない。

 ただ、この女神像は形が独特すぎる。

 ラストダンジョン、しかもラスボスが天使系か何か。それぐらい限定的な場所でしか使えそうにないな。実に普遍性がない。


 ロクシエールは震えながらハイパーミミックを指差す。

「待ちなさい。ブライアン。それは、その……あれなの?」

「ハイパーミミックである」

 ブライアンはポケットから何か取り出す。

 懐中時計だろうか?

「デモニックイーターについては詳しく聞いていないが、ステータス的には、これぐらいの相手がいなければ無力であろう」

「こっ、こんな場所でこんな物を出したら、どうなるか解っているんですか? ミミックランドが、いや王都そのものが破壊されてしまいますよ」

「……」


 ブライアンはそれには答えず、平然とミリアスに向かって言う。

「そうだミリアス。ワシの机の引き出しの裏に、タクミに宛てて書いた手紙があるのだが、持ってきてくれないかね?」


 何言ってるんだこいつ。俺はここにいるんだから、何か言いたいことがあるなら今直接言えばいいだろ? だいたい、いつハイパーミミックが動き出すか解らない。下手したら、手紙が届く前に俺は死んでいるんじゃないか?

 それなのに。

 まるで、今はそんな長話をしている時間がないかのように言う。あるいは、ミリアスをこの場から遠ざけるためのように……。


「まさか……」

 俺はある可能性に思い至る。

 証拠もなく、推論に推論を重ねる事になるが……つじつまは合う。

(え? 何? タクミはこの状況がわかったの)

(ああ……。今までわかっている範囲では、シーフギルドは《宝箱設置》のスキルを持った奴を捕まえて、奴隷リングで無理やり従わせている。だから《宝箱設置》のスキルを持った奴は、シーフギルドに対して非協力的で、あえて俺達を見逃したりもした。……だよな?)

(うん、それが? ……あっ)


 そうだ。ブライアンも《宝箱設置》のスキルを持っている。


 今まではシーフギルドから与えられる指示に嬉々と従っているかのように見えたが……それが全て演技だったとしたら?

 協力を拒むのではなく、もっと積極的に、破壊活動を狙っていたとしたら?

 自らの命を捨ててでも、復讐しようと思っているとしたら?


 ロクシエールと大神官という大物が二人揃って同じ部屋にいる。

 普段なら、理由もなくミミックを出せばすぐに対応されてしまうだろう。しかし、ヘルマールという高ステータスの敵対者に全員の注意が向いている今の状況なら?


 こんなチャンスは二度と巡ってこないだろう。

 だから……。


「ブライアン。まさかあなた」

 ロクシエールも同じ答えに至ったらしい。何かの意志を持ってブライアンに手を向ける。

 だが完全に手遅れだった。


 ブライアンが手にした懐中時計をハイパーミミックに向かって投げつけるのと、

「奴隷リング、ブライアン・カーデナイト、ペナルティーキル!」

 ロクシエールがそう叫ぶのは、ほぼ同時だった。


 懐中時計がハイパーミミックの胴体に当たる。


『クカカカ?』


 ハイパーミミックが動いた。殆ど一瞬で百八十度回転してこちらに背を向ける。

 同時に奴隷リングが発動する。

 ズバシュッ、と音がしてブライアンの首が絞まり、千切れ、頭がボールのように飛んだ。ブライアンは死んだ、即死だろう。


 だがハイパーミミックは自分に触った不届き者を許さない。

 無数のレーザーがシャワーのようにばら撒かれ、そのうちの何本かがブライアンの胴体を突き抜ける。

 ブライアンの体は空気を入れすぎた風船のように膨らみ、弾け散った。


 バラバラと降り注ぐ血の雨。


 ハイパーミミックとブライアンを結ぶ線の延長上には大神官が立っていた。

「かはっ? ……なぜ、私が」

 レーザーの一発が当たったのか、左肩の辺りが消失して血が噴き出している。

 あれは、現代日本でも助からないかもしれない。

 この世界だったら回復魔術でも使えばなんとかなるのだろうか?


 ブライアンは、これを狙っていたのか?


 そして二人の近くにいたロクシエールも無事ではなかった。

 ブライアンに向かって伸ばしていた右腕の、半ばほどから先がなくなっている。

「あっ、あっ、ああああっ……」

 絶望に満ちた目で自分の腕を見て、それからハイパーミミックに目を向ける。

「ゆっ、許さな、い……」

 ロクシエールは左手にシキノクリスを構えた。

 シキノクリス、『それが生きてる相手なら、たとえ神でも殺してみせる』とか大げさな説明がついていた気がするが……大丈夫なのか?

 相手はレーザーだぞ?


 壁際にいて、一人被害を逃れたミリアスが首を振る。

「ギルド長、無理だ、やめろ……」

「一撃、一撃だ……」

「やめよう。ギルド長。あなたが死ねば、奴隷リングが……。今あなたの生死と直接リンク状態になっているのは三十人ぐらい……」

「うるさい。私はやるといったらやるぞ……。おまえも手伝え!」

「……解った、一秒だけなら、時間は稼ぐ」

 ミリアスは渋々と言った様子で、ダガーナイフを左手に持ち、床に向ける。

 ……あのナイフ、どこかで見た覚えがある。アリスの武器屋かな?



 ヘルマールが俺の服を引っ張る。

(タクミ。あれはまずいよ。外の二人が終わったら、次は私達の番だ)

(……あのレーザーって魔術だよな? この檻なら、防げるんじゃないか?)

 でもあの本数だと、何本か隙間を抜けてくるかな?

(ステータス的に考えて、体当たりされたらお終いだよ)

 確かにその通りだ。

 俺はヘルマールの方を見る。一応アリスにも聞こえるように声で。

「ヘルマール、武器があればここから脱出できるのか?」

「え? できるけど……さっきはないって」

「ある。剣と鎚と槍、どれがいい?」

「あっ……」

 ヘルマールもすぐに気付く。

「選べるなら、鎚がいいかな。ちょっと強引な事するからハンマー的な物がよさそう」

 なるほど。多分いける。

「あともう一つ、この狭いところでミミックだしても大丈夫か?」

「それは任せて」

 本当に大丈夫だろうな。ちゃんとやってくれるって、信じてるからな?

「《宝箱設置》」

 俺はレッサーミミックを出して、それに触れる。


《鍛冶の金槌》

『武器タイプ:軽鎚 攻撃力+24300 特性:防御ステータス20%上昇、命中ステータス10%低下』


 なんか前と性能が変わっているような気がする。攻撃力、一桁バグってない? でも、とりあえず変化は成功したのでよしとする。

 そして暴れ出すミミックに動じる事なく、ヘルマールはアリスを掴みあげるとミミックの口の中に叩き込む。

「えっ、なんで私が、ぎゃああああああっ」

 ちょっと。何やってんの……。


 手段の是非は別として、レッサーミミックの動きは止まった。

 ヘルマールは俺を拾い上げると、レッサーミミックを叩き潰した。


(ヘルマールの人でなし!)

(これが一番速いんだから仕方ないでしょ)

 そういう問題じゃない。「アリスは噛まれたけれど、タクミが武器変化できたので問題ありません」ってか?

(で、どうする?)

「こうする。うっおりゃぁぁっ!」

 ヘルマールはゴルフのごとく俺を振りかぶると、檻を構成する金属棒の根元に向けて遠慮なく叩き付けた。


 ゴォン、と鈍い音がして棒が曲がる。

「うおりゃぁっ! うおりゃ、うおりゃ、うおりゃ!」

 叩く叩く叩く叩く叩く。

 何回もそんな事を繰り返して、三本ほどの棒をどうにか力づくで曲げた。


 鎚のままの俺を外に放り出し、アリスを引っ張り出して、一仕事したかのように大きく伸びをする。

「思ったより簡単に壊せたね。もしかしてタクミの攻撃補正上がってる?」

「それが、数字は増えてるんだけど、表記のルールがいつの間にか変わったみたいで、よくわからない」

「そうなの? これも変なスキルだし、後で検証した方がいいのかな……」

 また妙なタスクが追加されたな。



 俺達がそんなノンキにやっている間にも、シーフギルド組は決死の戦いに挑んでいた。

「あああああっ!」

 ロクシーエルはシキノクリスを振り上げて、雄たけびなのか悲鳴なのかわからない声を上げながらハイパーミミックに跳びかかる。

 一方ハイパーミミックはレーザーで迎撃しようとした。が。

「こっちだ!」

 ミリアスがダガーを投げつける。ハイパーミミックはそちらを振り向く。

 レーザーが乱射され、細かい木屑が燃えながら飛び散った。


 本当に、一秒だけ稼いだ。


 そしてロクシエールはハイパーミミックに肉薄する。弱点かどこかに向かって振り下ろされたシキノクリスは……届かなかった。 

 ハイパミミックは女神像の足の部分でロクシエールを蹴飛ばしたのだ。

 そこ動くのかよ。


 どれほどの威力があったのか。

 ロクシエールは胴体を上下分断されて、あっちとこっちに吹っ飛んだ。

 やはり近接攻撃で挑んでいい相手ではなかった。


 これで向こうは全滅してしまったが、俺達はどうするべきか。

 ヘルマールは首を振る。

「私達は逃げよう。とりあえず私の体は丈夫だけどさ、アリスが……」

「それもそうだな」

 あんまり放置したくないんだけどな。

「でも、あれは走って逃げられそうな相手じゃないね」

「もう一回、ミミック出すからホウキに変化して……」

「違う、それじゃ間に合わない。《ダーク・ルメサイア》《ダーク・ルメサイア》《ダーク・ルメサイア》」

 ヘルマールは魔術を連射する。

 光の弾が、斜め上に向かって飛んで行き、天井をぶち破り、その向こう、二階の壁を破壊し、さらに少し離れた別棟の屋根を押しのけた。

 何をする気だ?


 あ、ハイパー・ミミックが気付いた。こっち来るぞ。

「《エアカタパルト》」

 空気が渦を巻き、圧縮される。

 俺達三人はそのまま斜め上、ヘルマールが開けた大穴に向かって叩き出された。



本編とは何の関係もないけれど


なろうコン、落ちました


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