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30ハイパーミミック


 大神官を前に立てて、シーフギルドの中へと進む。

「《ダーク・ルメサイア》」

 閉鎖された防火扉をヘルマールが破壊して進む。


 普通に開けろよ。

 もしくはもういっそ壁を壊して進め。

(ちょっと派手にやりすぎじゃないか?)

 俺がヘルマールに囁くとヘルマールはニヤニヤ笑う。

(いいのいいの。これぐらいやってもバチあたらないって……だいたいさ、コソコソするのはシーフの得意技でしょ? シーフを敵に回した私達がコソコソしても意味ないんだってば)

(そういう問題か?)

(それにさ、大騒ぎした方がいいんだよ。そうじゃないと、時間稼ぎされちゃうからね)

(時間稼ぎ?)

(例えば、アリスを連れてどっかに逃げちゃうとか?)

 いやいや、それはないだろ。

 だって、順序で言えば、シーフギルドが俺達を呼び出したんだぞ。

 まあ、今の状態は計画からはほど遠いのかもしれないけどさ。

(今すぐアリスを引っ張り出してこないと、ミミックランドが崩壊するとか、それぐらいは怯えて欲しいな。それだといろいろ捗るでしょ?)

 こいつ、容赦ないな。

 しかしそんな上手く行く物かな?


「待った!」

 階段を上がって二階の廊下を歩いている時に、後ろから声が掛かった。

 振り返ると、ミリアスが立っていた。

 ああ、こんなやつもいたっけ。

「この前ミミックに食われた恨み、今ここで晴らす!」

 俺が何かする前に、ヘルマールが即座に反応した。

「《グラビティーバインド》《チェーンアレスト》」

「《ダミーウッド》」

 何かのスキルを使いながら飛び退くミリアス。もしかしたらそれは、この状況を読んで用意していたスキルなのかもしれない。

 だが、二連続で魔術を放ったヘルマールの前では無意味だった。


 闇を束ねたような鎖に絡みつかれて、床に転がるミリアス。

 その隣に、一抱えほどの丸太がどさりと音を立てて転がる。

 えっ? 何この丸太?

「ちょっと待て。この丸太ってどこから出てきたんだ?」

 意味が分からない。もしかしてこれがスキル?

 どんな状況で役に立つスキルなんだ?

「くっ……私の速度を上回るとは……」

 何か悔しそうにしているミリアス。この人が何をしたかったのか全然わからない。

 でも、どうでもいいか。

「これは、人質が二人に増えたって事かな」

「そうだね」

 ミリアスをロープで後ろ手に縛って立たせる。

 ……でも相手はシーフだからな。この程度だと、油断したらすぐに逃げられそうな気がする。


「待てぇぃ!」

 廊下を進んでいると、今度は前から誰かがやってきた。紳士服を着た男……ブライアンだ。

「ギルド長はおまえらと交渉がしたいそうだ。あとあんまり建物を壊さないでくれ」

 確かに壊しすぎだよな。

 けど、交渉か……。

 ヘルマールが無言で大神官を軽く蹴る。

「交渉って言うのは、この大神官とアリスを交換するという話か?」

「こちらの要求は微妙に違うが……だいたいそういう物だと思ってくれていい」

「そうか……一応聞くけど、アリスは無事なんだろうな?」

「当然だ。今はギルド長の所にいる。彼女を大事に思うなら、大人しくワシについてくる事だな」

 勝手にそれだけ言って、ブライアンは歩いていく。

 俺はヘルマールに相談。

(どうする?)

(行くしかないよ……主導権取られちゃったけど)

 まあ、これは仕方ない。次が本番か。アリスをスムーズに取り戻せたら、もうここに歯用はない。


 俺達はブライアンの後を歩く。

 先を行きながらブライアンは、言う。

「しかしタクミよ。おまえもなかなかやるではないか。同じミミック使いとして誇りに思うぞ」

「お、おう」

 別に、俺はミミック使いとかになりたかったわけじゃない。もうちょっと普通の勇者になりたかったよ。

「聞けば、王宮の兵士を相手に。シーフギルド随一の宝箱設置スキルを持つこのワシが認めよう。おまえは、ミミックマスータの称号を持つに相応しい」

 そんな称号いりません。


 廊下を歩いて階段を降りてまた廊下を歩いて……この前のギルド長の部屋ってこんなところだっけ? 三階だったような気がするんだけど……。

 とにかく、目的地らしき部屋の前まで着いた。

 ブライアンが扉をノックする。

「来たぞ」

 内側から特に返事はなかったが、ブライアンは勝手に扉を開けて、中に入っていく。

(タクミ、どうしよう?)

(行くしかないよ)

 俺達も大神官とミリアスを前に立てて扉を潜った。


「そこで止まりなさい!」

 数歩入ったところでそう言われる。


 室内には意外にも、ギルド長のロクシエールの他には、アリスしかいなかった。

 もっと大勢で待ち構えてると思ったんだけど……ヘルマールが相手じゃ、何人いてもあまり意味がないからかな?

 アリスは、手に頑丈そうな手錠を嵌められ、足も鎖で縛って歩けないようにされている。口を布で覆われていて、喋れそうにないが、こっちを見て何か言いたそうだった。

 服があちこち破けたり血で汚れていたり……命は無事でも、かなり酷い目にあわされていたようだ。

 ブライアンはロクシエールの隣に立つ。

「あなた達は、本当に面倒な事をしてくれますね」

 ロクシエールは穏やかに言うが、目が笑っていない。

「面倒な事をしてるのはシーフギルドの方だろ」

「建物を壊す必要がありましたか?」

「町を丸ごと壊すのはいいのか?」

「ちっ……」

 今回、シーフギルド側には一分の正義もないからな。

「悪く言うなら好きなようにどうぞ。でも、こちらには人質がいる事をお忘れなく」

「人質はこっちも同じだ……。一応、要求を聞こうか?」

「いろいろありますが……まず、この少女は我々にとってはさほど重要ではありませんね、タクミ・モリハシと交換したいのですが、どうします?」

 ロクシエールは妙な要求を突きつけてきた。

 俺なの? なんで?

「ちょっと待って。こっち、人質、人質」

 ヘルマールが大神官を指差すと、ロクシエールは首を振る。

「そんな人知りませんね」

「ちょっ、ちょっと待て。私を見捨てるのか……」

「…………何やってるんですか、ドジ」

 ロクシエールは吐き捨てるようにそう言うと、シキノクリスを取り出し、アリスの首筋に当てる。

「どうしますか? あなた方にとっては応じる価値のない取引かもしれませんが……交渉が決裂しても、こちらに失う物はないのをお忘れなく」

「あくまで大神官あるいはミリアスとの交換を要求する」

 そこは譲れない。

「待った。私は人質にカウントしないように」

 ミリアスはそう言いながら、ひょいと、一動作でロープから抜け出し、部屋の壁際まで逃げた。

 シーフだからな。縄抜けぐらいはできるか。

「……大神官との交換を要求する」

 俺は言いなおした。

 ロクシエールは苦々しい顔になったが……首を振る。

「まあいいでしょう。こうしないと話が進みそうにありませんから。ブライアン」

「んむ」

 ブライアンはアリスの足を縛っていた鎖を解くと、乱暴な手つきでこっちに引っ張る。

「んぐっ、んぐぅっ」

 アリスが何かもがいているが、口をふさぐ布のせいで声になっていない。何か伝えたいことがあるのかな?

 救出したら聞いてみよう。


 ブライアンはアリスを俺達の足元に投げ捨てるように転がすと、大神官の手をとる。

「どうぞ、こちらに」

 ……俺の知ってる人質交換と微妙に違う気がするが、交換自体は成立したので、とくに異存はない。

 とりあえず俺はアリスに近寄って口を覆っている布を取ってやった。

「もう大丈夫だ……」

「ゆ、床に……」

「え?」

 俺は辺りを見渡す。ロクシエールがにやりと笑った。

「バカが……」


 ガシャン、と床から何本もの金属棒が生えてくる。


 え? 何これ?

 前後左右。数十本もの棒が生えていた。全方位を囲まれている。棒と棒の隙間は十センチほど。

 ……これは、客観的に見て檻のような役割を果たしているのでは?

「閉じ込められた?」

「《ダーク・ルメサイア》 ……あれ?」

 ヘルマールは魔術で檻を破壊しようとするが、放った呪文は効果を発揮せずに消滅した。

「無駄ですよ。その檻は魔力を吸収する素材で作られています。製作した魔術士ギルドによると《暴食》の基礎技術だとか」

「ちぇっ、あいつかよ……」

 暴食って、七つの大罪の一つだよな。

(もしかして、デモニックイーターの一つか?)

(そうだよ。タクミと会う前に戦った相手。もちろん私が勝ったけど)

(同じようにこれも壊せないのか?)

(無理……でもないか。ただの檻だもんね。タクミ、剣とか鎚とか持ってない? 私が本気を出せば壊せない事はないと思うけど……)

(ごめん、置いてきた)

 まさか必要になるとは思わなかった。


 一方、大神官とロクシエールは何か話し合っている。

「こんな物を用意しているなら、別に私を見捨てるような演技なんて必要なかったんじゃないかね?」

「スムーズに相手の言う事を聞いたら、逆に怪しまれてしまうのですよ」

 完全に勝者の余裕を見せている。



 唐突に、パチパチパチと手を叩く音がした。

「見事な物だな。流石はわが弟子」

 ブライアンだ。

 俺はおまえの弟子になった覚えなどないが?

「これで終わりと思うなよ?」

「いいや、最後だ……」

 ブライアンは、どこか楽しそうに言う。

「最後に一つだけいい事を教えてやろう。タクミ。おまえの判断は全て正しかった」

「何?」

「ロクシエールは、おまえを使って《宝箱設置EX》が《宝箱設置》とどう違うのかを調べ、それが終わったら殺そうとしていたんだ」

「それは解るよ」

「違う。一ヶ月前の話だ」

 ん? ブライアンは何を言ってるんだ?

「考えても見ろ。おまえをいつまでも手元に置こうとすると王宮側に説明がつかない。黙っていてもいつかばれるかもしれない。かと言って、王宮側の人間を皆殺しにする事も不可能。それなら、おまえを殺して全ての秘密を闇に葬るしかないと考えたのだ」

「……」

「だから、提案を拒んで逃げる。こちらが追撃を始めれば即座に本拠地に乗り込んでくる。その判断は全て正しかった」

 どうして急にこんな話を? まるで、過去を清算するかのように……。

 何を考えている?


(ねえ、この人何の話してるの?)

(俺にもわからない。というか、とてつもなく嫌な予感がするんだが……)


 ブライアンは、俺達の方に手を向ける。

「さてと。最後に一つ、いい物を見せてやろう……………」

 大きく息を吸い、高らかに叫んだ。


「《宝箱設置》ハイパー・ミミック」


 部屋の中央に白い女神像があった。

 スラリとしたスタイル。芸術的なプロポーション。その顔は、ここではないどこかに思いを馳せるように、遠くを見つめている。

 女神は両手で壷を抱きしめているのだが、それだけが妙に不自然な気がした。


 それでも俺は、何かに操られるように言う。

「なんだ、このうつくしい女神像は……」

 

 いやいや何言ってるんだ俺。十秒前までこんな物なかっただろ?

 あまりにも違和感なく出現したから受け入れてしまったけど、話の流れ的にあれだよな?

 鑑定?



《ハイパー・ミミック》


攻撃: 27K

防御: 81K

追尾: 74K

回避: 51K

探知:102K

隠密:216K

適性: 13K


スキル:奇襲



 うん。やっぱりだ。

 なんかブライアンが前にそんな事を言っていたような気がしないでもないけど、あれ冗談とかじゃなかったんだ。

 一部ステータスでヘルマールすら大幅に上回っているんだけど、これ収拾つくのかな?



参考数値として、現時点のヘルマールのステータスを置いておきますね



ヘルマール・アンカーボルト


攻撃: 49K

防御: 54K

追尾: 44K

回避: 38K

探知: 38K

隠密: 48K

適性:257K


スキル:ワーグ語、マズラグ語、タフス語、第一階梯属性魔術、第二階梯属性魔術、第三階梯属性魔術

固有スキル:デモニックイーター(強欲)



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