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2人食いボックス


「ステータスが戦闘に向いてないっぽい人や、使い道がよく解らないスキルを得た人は、名乗り出てください。こちらで調査します」


 カームさんがそう言って、俺を含む五人が名乗り出た。

 俺達は外へと連れ出される。イリス女王もついて来た。

 青い空に白い雲。きれいな空だ。

 少し寒い気がするが、悪い気候ではないようだ。

 これで、俺がチート能力持ちだったら何も恐れるものはないと言うのに。

 せっかくだから、一緒に居るクラスメートのステータスを見てみよう。


高橋健一


攻撃:900

防御:1080

追尾:740

回避:800

探知:900

隠密:800

適性:200


スキル:ワーグ語

固有スキル:破滅ロッド


 たしかにステータスは抑え目だ。それでも、俺よりよっぽど強いけどな。

 スキルは破滅ロッド。これが意味不明だ。どんな効果があるんだろう?

 他三人も、だいたい同じような感じだった。


 共通して言える事は、俺より低いステータスの人はいないっぽい、って事だ。

 これでスキルがハズレだったら、俺の異世界生活、おしまいじゃないか。


 歩いてたどり着いた先は、白っぽい砂が敷かれた中庭のような所だった。

 静謐な空気が漂う中、一人の老人が待っていた。

 服装的に神官っぽい。

「召喚者のみなさんようこそ。私は大神官の、カサギです。私は《スキル説明文解放》の固有スキルを持っています。こんなスキルですよ」

 そう言って、空中にウインドウを開く。


《スキル説明文解放》

『対象のスキルの説明文をいつでも読めるようにする、他者に使う場合には同意が必要』


 そのままの内容だった。

 でも、これはこれで便利というか、一国に一人は必要なスキルだ。むしろ俺が欲しいぐらい。

「じゃあ、僕からお願いします」

 高橋が前に出る。

「ではやりますよ。《スキル説明文解放》」

 大神官が唱えると、高橋の体が少し光った。

 そしてウィンドウが表示される。


《破滅ロッド》

『杖を装備して「アホカンタ」と唱えながら敵を殴ると即死させる。魔術適性の高い相手には成功率が低い』


 これは……ワリと強力なスキルだと思う。

 けれど説明がなかったら使えなかっただろう。偶然で「アホカンタ」なんて唱えるわけないからな。


 次は女子の春日さん。

 ステータスは総じて700前後で、スキルは《時間停止5秒》と《強制メイド服》

 大神官は首を傾げる。

「時間停止は、そのままの意味では?」

「えっと、あの、もう一つのスキルの方がやや不安で」

「確かに、これは見たことがないですね。《スキル説明文解放》」


《時間停止5秒》

『自分以外の時間を停止させて、5秒間だけ活動できる。おまけで敵の頭上に馬車を設置する攻撃技あり』


《強制メイド服》

『メイド服を着ていない時は全ての能力値が五分の一になる。スカート丈は膝上十センチを維持する事(プラマイ5センチまでの誤差許容)』


「え? それ強くない?」

 某少年漫画シリーズでラスボス張れる能力じゃないか。

 しかも馬車を落とすおまけ付きだ。この世界にはロードローラがないのかな。


 でも時止めとメイド服の組み合わせって「時を止める程度の能力」の方なんじゃ?

 よくわからん。


 いや待て。

 メイド服を着ていない今、ステータスがこの数字になるなら、装備を整えたら全ステータス3500前後の強キャラが完成するのか?

 防具を自由に装備できないという欠点はあるが、時止めの使い方しだいではいくらでも化ける。むしろ勝ち組だ。

 いいなぁ。

 とはいえ、俺がその能力だと女装になっちゃうからさすがに欲しくないけど。


「メイド服、ですか? しかも膝上……」

 春日さんは膝の辺りに手を当てて悩んでいた。

 今の制服のスカートより短くなるからな。女子としては難しい選択かもしれない。

 でも、背に腹は変えられないだろう。遅かれ早かれ、メイド服を着て戦う事になるに違いない。


 そんな感じで説明文が続いた。

 他の二人は完全な支援系だった。防御力の低さをなんとかできれば、ダンジョンでも活躍できるだろう。

 そして最後は俺の番だ。


《鑑定(万能)》

『対象のステータスを視認できる』


《交渉》

『交渉の成功率が上がる』


《マイナスカリスマ》

『交渉の成功率が下がる』


《宝箱設置EX》

『宝箱を設置できる。レベルが上昇すると、設置できる数が凄く増える』


《アイテム変化EX》

『攻撃を受けると自分がオニギリになる。レベルが上昇すると他のアイテムにも変化できるようになる』


 交渉とマイナスカリスマは予想通りだった。

 お互いの効果が矛盾している。

 宝箱設置は、名前のままで説明になっていない。


 そして最後の奴!

 これ不思議の迷宮シリーズの罠合成じゃないか! あんまりだ!

 元ネタ通りなら剣を十回振るぐらいの時間で元に戻れるのかもしれないけど、何一つメリットはないし、デロデロされると即死する。そんな能力いらない。


「な、なかなか独特の構成ですねぇ。オニギリって何ですか?」

 少し困ったような顔で言う大神官。

 何って、お握りだと思いますよ、はい。


「宝箱設置と言うのは、どういう事なんでしょうか? 箱を出すだけですか?」

 イリス姫が言って、カームさんと大神官は顔を見合わせる。

「まさか、中身までも生み出せるのか?」

「試してみないとわからないですね……ちょっと、ここで使ってみてくれませんか?」

 二人に促されて俺は一歩前に出る。

「わかりました」


 ふふふ。わかったぞ。

 このスキルはきっと、中身の入った宝箱を自由に設置できるスキルだ。

 ここで宝箱を生成し続ける事によって、迷宮の奥に潜らないと入手できないようなチート装備を量産できるんだな。俺は安全な所にいるままで!

 いや、あるいはダンジョン内で物資が切れた時に、宝箱を設置して欲しい物を入手できる能力かもしれない。

 もしそうなら、ダンジョン探索で必要不可欠な人材になりえる。


 さあ、やってみよう。


「《宝箱設置EX》」


 俺が唱えると、目の前に木で作られた宝箱が出現した。

 人が中に入れそうなぐらいの大きな木箱だ。

 特に変なところはない。ごく普通の宝箱だが……。

 宝箱の真価は外側ではない。中に何が入っているか、だ。

「わ、私があけてもよろしいかしら?」

 姫様が少し興奮した様子で言う。王族ならダンジョンに潜ったりしないだろうし、始めて見たのかな?

「ええ、どうぞ」

 俺は一歩横に退いた。

 イリス姫は俺の隣に立つ。

 何が違うんだろうな。

 この人、クラスメートの女子と変わらない年齢のはずなのに……、物凄く年上で、なおかつ幼い雰囲気も持ち合わせているような。

 あ、なんかいい匂いがする。花の香水とかつけてるのかな。

 魔王を倒したらこの人と結婚できるんだっけ?

 俺も魔王討伐、頑張っちゃおうかな?


 イリス姫が宝箱に触ったとたん、宝箱の蓋が勢いよく開いて触手が飛び出してきた。

「えっ? なにこれ?」

 俺も何が起こっているのか分からない。

 宝箱が襲ってくるなんてありえない…………いや?

「まさか、ミミックか!」


 ミミックとは、ダンジョン内で宝箱に化けて冒険者を待つ敵モンスターだ。

 こちらが油断しているタイミングで襲ってくる事、同じランクのモンスターより強めに設定されている事、などが多く『みんなのトラウマ』となりがちである。


 なんでこのタイミングでミミックが出てくるんだよ!

 触手は、イリス姫の体にグルグル巻きつくと、箱の中へと引っ張り込んでしまう。

「ぎゃああああああああっ!」

 それまでの優雅さが嘘のように物凄い悲鳴を上げるイリス姫。

 上半身が箱の中に消え、足だけがバタバタ動いている。

「えっ、ええええっ?」

 どうすんだこれ? ともかく俺は何とか助け出そうと姫に近づいて、


《パッシブスキル発動》


 は?

 何かが聞こえた思った途端、体が硬くなって俺はその場に倒れた。

 石化した? これもミミックの攻撃か? そんな能力があるのか?

 俺が混乱している間にも、イリス姫の下半身すら箱の中に消えた。


 他の皆も混乱している。

「な、なんだこれは!」

「ミミックです!」

「カーム殿、なんとかしてください!」

「今は刀を持っていないんです! 誰か武器を! そうだ召喚者達に頼めば」

「ここには杖もメイド服もないぞ……ああ、どうする。姫様もタクミ殿も飲み込まれてしまいましたぞ」

 いや、俺は外に倒れているんですけど?

「剣、なんかそこに剣が落ちてますよ!」

「おお。これなら!」

 近づいてくるカームさん。

 そして体を持ち上げられるような感覚。

 え?

 もしかして俺を持ち上げた?


「たぁっ!」

 威勢のいい掛け声と共に、俺を振り下ろすカームさん。石化しているとは言え、人を打撃武器に使うとは、酷いなり。

 しかし効果は絶大だった。

 ズバァァン、と空気が破れるような音が響いて、宝箱がバラバラに砕け散る。

 破片は光となって消え、後には倒れたイリス姫だけが残った。

 さすが騎士団名誉団長。おじいちゃんでも強いんだな。


「ひっ、ひっ、ひいっ……」

 イリス姫は、顔を涙でぐちゃぐちゃにして、振るえながらこちらを見ている。

 ひどい事する気でしょう薄い本みたいに! の顔だった。

 よほど怖い思いをしたのだろう。腰の辺りから水たまりが広がっていく。


 敵は消えたが、カームさんは油断なく辺りを見回す。

「姫は、無事のようです。しかし、タクミ殿の姿が見当たりませんが……」

「ん? その刀、まさか……」

 大神官が俺の方を指差している。

 と、地面に放り出された。

「そんな? まさか、これが?」

 カームさんも何かに驚いている。

 近寄ってきて俺を見下ろしているクラスメート達。


 ちょっと待て。

 外からは、俺の姿がどんな風に見えているんだろう?

 もしかして「ステータス」で確認できるかな?

 できた。


《鬼斬り》

『武器タイプ:切断剣 攻撃力+2000 特性:鬼型の魔物に対してダメージ二倍』


 なんてこった。

 刀だ。

 俺のステータスが人間じゃなくて武器になっている。

 たぶん、敵(?)から攻撃を受けたから、アイテム変化が発動したのだろう。そして鬼斬り(オニギリ)に変化した。


 っていうか、オニギリってそっちかよ!


武器変身

冷静に考えると物凄いチート能力のような気もするけど、主人公向きじゃないんですよね

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