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25VS巨大腐敗スライム


「《宝箱設置》《宝箱設置》《宝箱設置》《宝箱設置》《宝箱設置》」

 町からスケルトンの要塞に戻ってきて……いや、戻ってきてという言い方もおかしいけれど。気がついたら、また二週間ぐらい過ぎている。


 新たな日課が加わった。

 昼間は要塞内で戦い、夜は魔術の訓練、という部分は同じなのだが。

 そこに加えてこれだ。

 宝箱設置を毎晩、MPの限界まで使う事。

 最大MPの限界を図るため、らしいのだが。

 王宮にいた頃も一日に300回以上やっていたのだが……それでも限界には程遠かった。


 今のところ、一日2000回ぐらいが限界らしい。昼間は魔術で戦ってMPを消耗してこれだから、よほどMPの最大値が大きいのか、あるいは燃費がいいのか。


「体感だと、アイテム変化十秒と宝箱設置一回の消費MPが同じぐらいみたいだ」

「んー、結構使えるんだね。数日続けてもほぼ同じ数字って事は、一日の回復量も結構多いんだ……。これは育てがいがあるなぁ」

 俺のスキルなのにヘルマールはやたら楽しそうだ。

「最大MPを増やす方法ってあるのか?」

「あるにはあるんだけど……。ウイスプ狩りしないと」

 魔術適性を上げるための狩場の話の時に出てきた魔物の名前だっけ?

「……つまり、俺の防御が低い今では、まだ早いと?」

「そういう事だね。逆を言えば、そこさえクリアできたら果てしなく急成長できるはずなんだけど……」

「なかなか難しいなぁ」

 あとどれだけステータスが上がったらヘルマール先生から合格がもらえるのか。

「話変わるけど。私、隠密のステータスが6Kぐらい上がってるんだよね」

「それは結構な事で」

 この二週間で、三万体ぐらいのレッサー・ミミックを出している。

 倒したのは全部ヘルマールだ。

 ミミック系は、隠密のステータスがやたら高いからな。だ。


 もしかしてこいつ、自分の隠密のステータスを上げたかっただけじゃないのか?

 別にいいけどさ。

 俺の方だって、スキルレベルが上がっている。


《宝箱設置EX(レベル176)》

『宝箱を設置できる。レベルが上昇すると、設置できる数が凄く増える』


 本当、すぐ上がるなこのレベル。

 ここまで上げて何の役に立つのかまるで見当もつかないけど。

 もしかして、と思って試してみたら、宝箱レッサー・ミミックを百七十個ぐらい同時設置できるようになっていた。

 レベル=設置数と考えてよさそうだ。


 でもこれ何の役に立つんだ?

 一つのダンジョンに百七十ヶ所も鬼脈はないし、複数のダンジョンに跨って仕掛けるとしても、あちこち回ってる間に三日間過ぎちゃうだろ……。


 ◇


「そろそろいい頃かな、と思うんだよ」

 その日、ヘルマールが言った。

「巨大腐敗スライムを狩りに行こう。お兄さんが、ソロで」

「マジで?」

 現時点で俺は、幾つかの魔術をマスターし、宝箱設置の連続使用のおかげで、スキルを連射する事も可能になっている。

 スケルトン三体が同時に来ても、対応できる程度には強い。

 だが巨大腐敗スライムは、ちょっとステータスが高すぎるのではないか。

「あれ、どのステータスも俺の十倍ぐらいあったよな」

「大事なのは先手を取る事だよ。そして先手で決定的な状況を生み出す事。それをすれば、相手が速くても何とかなるもんだよ」

「簡単に言ってくれるけどな……」

「非生物的な形の魔物って、感覚器官を閉じてる事が多いから先手を取りやすいんだよね」

「そんなもんか?」

 ヘルマールがそう言うなら、そうなんだろう。


 俺達は地下室の奥までやってくる。

 鬼脈にそって歩いた突き当りの扉。

 俺は扉を開ける。


 扉の向こうは直径三十メートルほどの円形の部屋。

 そして、中央に鬼脈が柱のように突き刺さり、それに寄り添うように、巨大腐敗スライムが鎮座していた。

 俺達が室内に入るのと同時に、もぞもぞ動き出す。

 先手を取りやすいとは何だったのか。

「動いてるじゃないか!」

「無駄口叩かない。来るよ」

 言いながら部屋の入り口の外に出るヘルマール。

 くっ、仕方ない。後で覚えてろよ。


 とにかくこれだ。

「《フリーズ・ショット》」

 巨大スライムの足元にツララを撃ち込む。

 動きを止めるスライム。

 命中はしなかったが、足は止まった。

 そこから先はこちらのターンだ。

「《ファイア・ダート》《ファイア・ダート》《ファイア・ダート》《ファイア・ダート》《ファイア・ダート》」

 俺は魔術を連射。

 炎の塊が何発も、巨大スライムに撃ち込まれる。

 ジュウジュウと焦げるような音がする。多少はスライムの体を蒸発させているのだろう。

 だが、目に見えて体積が減った様子はない。

 それも当然か。

 通常サイズの腐敗スライムですら一撃では倒せなかった魔術。

 大きさで五、六倍、体積なら二百倍はあろうかと思える巨体を倒せるわけがない。


 しかもスライムは体をくねらせて転がりながら、半分ほどの攻撃を避けた。巨体のクセになんて奴だ。


 だがこれは予測済み。いや、予測したのは俺ではなくヘルマールかも知れないが。

 俺は氷獄属性の魔術も習得しているのだ。

 巨大腐敗スライムに左手を向ける。

「《アブソリュート・フィールド》」

『ピギィィィィッ』

 巨大腐敗スライムは何かを感じて逃げようとするが、そうはいかない。これは範囲攻撃だ。


 凍り付いていく床面。ヘルマールが使ったときほどの威力はないが、部屋の半分は氷の世界と化している。

 そして巨大腐敗スライムも氷の塊となり、身動きが出来なくなっていた。


 これが氷獄属性。

 対象は絶対零度の凍気に晒され、身動きが取れなくなる。

 水分率の高いスライムなど、氷の塊だ。


 これでいいんだろう? とヘルマールの方を見ると、首を横に振っていた。

「残念。それじゃ、ダメなんだよね」

「何がいけないんだ?」

「魔物は、死ぬと光になって消えるんだよ。でも消えてないでしょ?」

「……む」

 確かに。

 コボルトの時はヘルマールが氷漬けにしただけで光になって消えたが、スライムは水分率が高いのが逆に仇となったか。

 魔物とは言え、普通の生物と構造が同じだったり違かったりするのだ。

 どうする?

 トドメを刺せ、という事か。


 とりあえず動きは止まっているので、考える時間はいくらかあるが……どうする?

「まてよ?」

 鑑定。



《巨大腐敗スライム》


攻撃: 6K(不可)

防御: 6K

追尾: 4K(不可)

回避:16K(不可)

探知: 5K

隠密: 8K

適性: 7K


スキル、打撃半減(封印中)、切断無効(封印中)



「あ、あれ?」

 なんだ、この不可とか封印中って。

 もしかして、氷った事によって、能力が低下しているのか?

 確かに多くのゲームで氷状態は行動不能に設定されているし、全身が凍ってしまえば動けなくなるのは当然だ。

 それをこの世界のステータスと鑑定の使用に反映させたら、攻撃と追尾と回避が使えなくなるのは理解できる。

 というか、探知と隠密は不可にならないのか。そして適性も。


 だが、今問題になるのはスキルだ。

 打撃半減が封印されるのはなぜか? これは、たぶんスライムが液体のボディーを持つために得た特性。凍らせればその特性も失われるのではないか。

 それなら。

「《スターガン》」

 俺が呪文を唱えると星型弾が飛んでいく。

 氷ったスライムの体を砕き、破片を散らす。

 問題ないようだ。

「《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》」

 星型弾を連続して放つ。

 抉られていくスライムの胴体。


 欠け散った破片は体積が足りないのか光となって消滅していく。それでも、胴体はまだ残っている。氷から脱出しようとしているのか、ぶるぶると振動している。


「《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》《スターガン》」

 無駄無駄無駄無駄ァ!


 胴体の半分が欠け散り、さらに中央をくり貫かれて、巨大腐敗スライムは自律性を失った。

 光になって消えていく巨大腐敗スライム。

 氷も崩れて、部屋は元に戻る。


「つ、疲れたー」

 俺はその場に座り込んでしまった。

 何か一方的に魔術を連射しているだけだったような気もするが。

 手を緩めたら反撃されたら、こっちは即死するんじゃないかという思いがあって、わりと必死だった。

「んー。危なっかしくて手を出したくなった所もあったけど。一応、合格かな」

 部屋のギリギリ外で様子を見ていたヘルマールがやってくる。

「そりゃどうも……」

「次はウイスプの所に連れてってあげるよ。でもその前に、今夜は水属性魔術の勉強だね」

「やれやれ」


 ◇


 地上へ戻った時、ヘルマールが言った。

「あのさ、お兄さん。おかしいと思わない?」

「何が?」

「……いつものパターンだと、四日前と今日、シーフギルドのパーティーが宝箱の回収と再設置に来ているはずだよね?」

 そのはずだ。

「会わないようにしていたじゃないか」

「そうだけど。こっちの索敵呪文に掛かってないみたいでさ……。私達、一ヶ月ぐらいここに滞在してて、向こうは必ず三日ごとに来てたのに」

「どういう意味だ?」

 シーフギルドの側に何かあったのか?

 俺にとっては願ったり叶ったりな気もするが……でも、宝箱設置のスキル持ちは、奴隷リングとかで無理やり従わせてる説があったよな。

 だとすると、なんか後味悪い。

 やっぱりあの人達は例外的に生きていて欲しいような……。

「それでさ……ちょっと、危険は覚悟で、あれ登ってみようと思うんだけど」

 ヘルマールが指差したのは、天守閣。

 要塞の中央にそびえる石造りのタワーだ。

「いいのか、またこの前の魔術士と会ったら……」

「大丈夫だよ。たぶん」

 ヘルマールは何か思いつめたような顔をして言った。

 ぜんぜん大丈夫そうに見えないんだけど、俺が言っても仕方ないか。


 俺達は階段を上る。

 ギシギシ軋む段。古びている。

 シーフギルドの連中が普通に歩いていた場所なのだから、床を踏み抜いたりはしないはずだが。いかんせん信用ならない。


 五階。

 最上階の部屋の隅の暗がりに、鬼脈が流れ込んでいた。

「鬼脈はあそこにあるんだが……」

 宝箱はない。

 どうしてだ? シーフギルドのパーティーが回収したから。それしか考えられない。

「異変があったのは四日前じゃない。その前、一週間前からだ」

 三日に一度、宝箱を回収して次の箱を設置する。そのループだった。

 それを崩さなければならない何かが、一週間前に起こった。

 そしてシーフギルドのパーティーは、設置されていた宝箱の回収だけをして、この地から去った。

 だとしたら、問題はその理由。

 なぜ行動を変えた?

 俺達に気付いたのか? そして正面から戦っても勝てないと踏んで逃げた?


 いや、それだけではないような気がする。

 何かとても嫌な予感が……



 ◇


森橋卓巳


攻撃:1620

防御:2150

追尾:1400

回避:2020

探知:1250

隠密:1450

適性:2100


スキル:ワーグ語、鑑定(万能)、交渉、マイナスカリスマ、風属性魔術、土属性魔術

固有スキル:宝箱設置EX、アイテム変化EX


ステータス、計算してみたら予想外の数字になっていました

効率がいいからと言って、同じ狩場に一ヶ月も篭ったりするのは逆に効率が悪いと思います


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