24王都観光
朝にスケルトンの要塞近辺から出発。
また俺がホウキに変化させられて、それにヘルマールが跨って、二人で空を飛んでいく。数時間で、都に到着。まだ昼前だった。
これ、あっという間に来たけど、普通に歩いたら一週間ぐらい掛かるんだろうな。空を飛べるって本当に便利だ。
何事もなく壁を飛び越えて都の中に入る。
どうやら、俺がアイテム状態だとヘルマールの隠密ステータスのおかげで俺も含めてステルス状態になれるようだ。
便利だな。これ、あちこち潜入し放題じゃないのか。
都の中ほど、アリスの武器屋の近くの建物の屋根の上に着地した。
俺はホウキから人間に戻る。
途端に、どっと疲れが襲ってきた。足がふらつきそうになったところをヘルマールに支えられる。
「お兄さん? なんか顔色悪いよ?」
「いや、大丈夫だよ」
「座って。とりあえず座って」
引っ張られるまま屋根の上に座らせられた。熱でも測るつもりなのか額に額を当てられる。顔が近くて鼻先にキスされそうだった。
「んー、熱はないね。ホウキ状態でも疲労とか溜まるのかな?」
「わからない。というか、疲れているのとは違う気がするんだ……」
少なくとも、筋肉の疲労ではない。ただ、脳が疲れて酷い眠気に襲われているような感じ。
「もしかして、ホウキになっている間はMP消費してるのかな?」
だろうな。代償なしで武器に変身し続けられるとしたら、いくらなんでも便利すぎる。
「って事は、飛んでる途中で落っこちちゃう可能性もあるのか?」
「だねー」
「残りMPの目安みたいなのってわからないのか?」
「今用意できる範囲ではないよ。たぶん、一日休めば元に戻ると思うけど。しょうがないから、今日は都の中で一泊しようか」
「それで大丈夫なのか?」
朝に立てた計画では、昼過ぎに用事を終えて飛び立ち、夕方には向こうに戻るはずだった。
「別に、一日や二日こっちにいたからって不都合が起こるわけじゃないでしょ?」
「それもそうか」
一瞬、シーフギルドの動きがわかるまでは保留にするべきじゃ? と思ったのだが、ヤバいと思ったら壁一枚越えればいいだけの話だからな。
屋根の上に座ったままぼんやりと空を見上げていたら、た。
五分ほどすると、頭の痺れる感じも薄れてきた。
人通りが途切れるタイミングを待って、下にエアクッションを設置して、屋根から飛び降りる。
とおりを少し歩けば、アリスの武器屋はすぐそこだ。
「いらっしゃいませ」
中に入ると、アリスはカウンターから俺達に挨拶する。
「あ、アリスさん、ちょっとこれを見て欲しいんだけど」
俺は荷物を下ろし、五本の剣を見せた。
「えっと、これは何ですか?」
「鉄の剣だよ。三本はここで買った物。残り二本はスケルトンの要塞でドロップした物だ」
「あの、スケルトンの要塞って狩りに行くと一ヶ月ぐらい掛かるって聞きましたよ? あなた達が最後に来たのって、二週間ぐらい前だから、往復するだけで時間の殆どを使っちゃうのでは?」
「それはホウキのおかげだよ。この前ここで買ったアレ」
ヘルマールが言う。
まあ、今はあのホウキじゃなく俺に跨って移動してるんですけどね。
「そういうものですか?」
「今朝まで、スケルトンの要塞にいたんだよ。すっごい便利だ」
「ホウキってそんなに速いんですか? ……知らなかった」
アリスは驚いたように言った後、ポケットから紙と鉛筆を取り出して何かメモしていた。
こんな情報、何に使うつもりだろう? 自分でホウキを買って飛ぶ練習でもするのかな?
「あ、すみません。えっと、それでこの剣は、何でしたっけ?」
「ああ。だから、そのうち三本がここで買った剣で……」
「えっと、返品、ですか?」
「ちょっと違うな……これ、全部オプションがついてるんだよ」
俺は、鑑定しながら一つ一つのオプションを読み上げていく。
メモを取りながら聞いていたアリスは、一つ一つ説明するたびに顔色が悪くなっていった。
「冗談、ですよね?」
「いや、本気だよ?」
「そんな……だって、この剣一本で、一年遊んで暮らせるぐらいの価値がありますよ?」
「これ、そんなに凄いの?」
三日に一本ぐらいの割合で作れるんだけどな?
一年続けたら、一生かかっても使い切れない額の収入になるのだろうか?
いや、その前に相場が崩壊するかな?
でも、一年で百本しか作れないとなれば、全員にいきわたるまでには時間が掛かるはずだし、品質はいいのだから、商売として成立する事に異論はないだろう。
やってみようかな。武器商売無双。
でも、そのためには店と店員が必要になるから……アリスの武器屋で代売りしてもらうのが一番効率がいいんだよな。
大体、そういう考えの元で、ここに持ち込んだのだが……価値、高すぎたか。
アリスは並んだ剣を見下ろして困っている。
「こんな物、どうすればいいんですか?」
「とりあえず、預かっておいてもらえないか? もし、これが欲しいって言う客がいたら、売ってくれ」
「タクミさんの代わりに私が売る、という意味ですか?」
「ああ。後で代金の回収に来るから」
「で、でも……。攻撃+300って……そんなの、市場に出回るわけありません。王宮に収めた方がいいですよ。うちで預かるわけには行きません」
「そうか?」
「保証金とか、払えませんよ」
「保証金?」
何の保証? もしかして、俺が払わないといけないのか?
「アリスがお兄さんにお金を払うって事でしょ? 売れた時のお金を前払いするみたいな感じで」
ヘルマールが補足してくれる。
なるほど……。
「保証金は要らないよ」
そもそも、俺一人では、この剣の値段すらわからないのだ。鑑定スキル、使えん。
「わかりました……ただ、あのですね。実は、この一ヶ月で来たお客って、タクミさん達のほかには二、三人しか……」
ああ……看板出せないもんな。
「売れなかったら、それは仕方ないよ。保管しておいてくれるだけでも構わない」
荷物になるからな。あまり持ち歩きたくない。
「あと、俺のクラスメート……えっと、委員長ってわかるか? この前、俺と一緒に来た女子なんだが」
「あ、はい。あの魔術士の人ですね」
「そう。その委員長が来たら、この剣は全部渡しておいてくれ。その場合、お金はいらない」
というか、そっちが本当の目的だよな。
正直、俺達はそんなにお金に困ってるわけじゃないし。この世界、普通にドロップアイテムを売り捌くだけでも食費は稼げそうな気がする。
アリスは少し安心したようだったが、まだ納得したわけでもないようだ。
「でも、委員長さん、必ずここに来るとは限りませんよ? それに、私がこっそり別の人にこの剣を売って、あなたには委員長さんに渡したって嘘をついたらどうなるんですか?」
その可能性も、あるのか。
でもこっちからすればスキル検証の時に発生した副産物に過ぎない。元手だってタダみたいなものだしな?
他人に有効活用してもらえるなら、それでいいのだ。
「そこは君を信頼しているからさ」
「そっ、そんな……。わかりました。これは委員長さん必ずお渡しします。もしその前に売れた時もちゃんと報告しますから」
アリスは必死に頭を下げながら言う。頼んでいるのは俺の方なのに。
あ、俺が保証金をいらないって言ったからか?
でも本当にそういうんじゃないからな。
◇
武器屋を出て、町を歩く。
「これからどうする?」
「明日の朝か昼まで滞在するわけでしょ? だったら、遊んでいこうよ」
「そうだな」
シーフ? 見つかったらその時はその時だろ。
大通りにいくと、たくさんの人が行き交っている。
露店を開いて大声で売り込んでいる人。どこかに行く途中でその露店を除いている通行人たち。
その間を、沢山の荷物を載せた手押し車が行き交う。
「そこの君、果物、新鮮な果物だよ! 買って行かないかい?」
一人の商人が大声で俺達を呼び止めてくる。
せっかくだから見ていこう。
店先には、赤い果物と紫色の粒々の果物が並んでいた。
「これはリンゴとブドウか?」
「そうさ。この都から南に行った所に、果樹園がいっぱいあるんだ。取れたてだよ」
南?
リンゴって、北の方で取れるイメージがあったんだけどな。
いや、この国は寒かったっけ?
これ。味もリンゴと同じなのかな?
「一個買ってみるか?」
「そうだね」
銅貨五枚だった。高いのか安いのかよくわからん。
齧ってみる。
「……甘い」
「ホント? 私にも一口」
ヘルマールが横から顔を出して、齧りついてくる。
「ちょっ、おまえ……」
「えへへ」
これどうしよう。……間接キスじゃないか。
文句を言うのも恥ずかしかったので、俺はまるで気にしていない振りをして齧る。
いや、ヘルマールが二個買おうと言わなかった時点でなんとなくこの展開は予想してたけど。
適当なレストランで昼食を取る。
変哲もないパンとスープだったが、なかなかおいしかった。
けれど、このレストランにはお茶とかコーヒーがないらしい。
「そんなの私も飲んだことないよ……王族とかじゃないと無理じゃない?」
「そうなのか? ……そういえば、王宮を出てから、そういうの見た事なかったな」
王宮にいた時は何度か出た気がする。
普通のお茶だと思って飲んでたけど、あれでもこの国的には最高のもてなしだったのだろうか。
完全にスルーしちゃったけど、王宮の大臣とか内心がっかりしてたかな。もうちょっと感謝しながら飲んどけば良かった。
「お茶って、この辺りじゃ取れないのか?」
「寒いからね」
この国の農業事情って、だいたいがその一言で片付くんだよな。
本当、どこも苦労してるみたいだ。
「お兄さんの故郷だと、お茶って安いの?」
「あ、ああ。かなり安いよ」
日本のレストランだと無料で出るからな。
昼食の後も、広場を歩き回ったり、高台から町を見下ろしたりしているうちに、いつの間にか夕方になっていた。
都の南端の方の宿屋に入る。
俺は、この辺りなら北門からもシーフギルドからも遠いから見つかりづらい、と思ったのだけれど、ヘルマールは、そうかなぁ? と疑問げだった。
宿屋の女将さんに声を掛ける。
「部屋開いてる?」
「開いてるよ? 一部屋でいいかい? 一晩で銀貨一枚だよ」
女将さんは鍵を差し出す。
「二人とも、兄妹かい?」
「えー。恋人だよぅ」
「おいおい……」
「ははは、そうかい。楽しんで行きな。部屋は二階だよ」
女将さんは特に怪しむ事もなく笑ってそう言う。
こっちの世界ではこれぐらい珍しくないのかな?
がする。
「あ、お湯は売ってる?」
「銅貨五枚だよ。後でもって行くからね」
階段を上りながら聞く。
「お湯って何に使うんだ?」
「何って……もちろん体を洗うんだよ」
「風呂、か?」
ここしばらくの間、体を洗うのは川だった。水が冷たかったからな。
宿屋の部屋は、三メートル四方ほどの狭い部屋だった。内装は端の方にベッドが一つあるだけだ。
「……ま、野宿よりはいいか」
雨風をしのげるだけでも、文明的だ。
小さな窓から外をのぞくが、隣の建物の壁が見えるだけだった。
扉がノックされた。
開けてみると、女将さんとメイドらしき少女がいた。
「お湯を持ってきたよ。使い終わったらカウンターに言ってくれれば、片付けにくるからね」
二人は直径一メートルぐらいのタライとお湯の入ったバケツ二つを室内に運び込むと出て行った。
え? 何の説明もなかったけれど、風呂のための部屋とかなくて、ここで水浴びするのか?
ヘルマールは俺の事を気にせず、するすると服を脱ぎ始めてしまい、俺は慌てて壁の方を向いた。
だから恥じらいを持てと。
「あれ? お兄さん、一緒に体洗おうよ」
「い、いや……俺は後でいいからヘルマールが先に体洗っていいぞ」
美少女と一緒に入浴とかあれなんですけどね。
チキンな俺をお許しください。
「えー、お湯冷めちゃうし、汚れちゃうよ?」
「お、俺は気にしないから」
体が緊張でガチガチになってくる。
「えー、つまんないの……」
後ろでジャバジャバとお湯が跳ねる音を聞きながら、俺は深いため息をついた。
あれ。これもしかして、この後、俺がヘルマールの前で体洗うのか。それもそれで精神的ダメージ大きいな。




