22シーフギルドのパーティー
灰色の石レンガを積み上げられて造られた建物。
床も石、壁も石、天井はアーチ状に組み上げられた石。
少し前から、天井を光の粒子が流れていた。
鬼脈だ。やはりここもダンジョン。鬼脈はある。そしてそれこそが俺が探していた物だった。
今度こそ、ちゃんとした剣を手に入れたい。
鬼脈を辿って、歩く事数分、鬼脈は通路の端の暗がりの辺りで、床に流れ込んでいた。
「《宝箱設置》」
設置されるレッサーミミック。
そして剣を食わせる。
……。もうやる事がなくなってしまった。
「……買った剣は、これで最後の一本なんだよな」
これから二三日待って、剣を回収したら都に戻る……何か物足りない気がする。
移動に掛かる時間は短縮されるようになったとは言え、何かもったいない気がする。
「ここのモンスターって、倒したら剣とかドロップするのか?」
「さあ? 倒してれば、そのうちなんか落とすんじゃない?」
適当だな。
まあ、ステータス上げも目的の内だし、気長にやろう。
「とりあえず、端から端まで歩いてみるか……」
「何かおもしろい物あるかな?」
城内を、しばらく適当に歩き回ってみたが、どこもかしこも酷い有様だった。
換金できそうな物は片っ端から持ち去られてしまったみたいだ。
木の破片らしき物が床に散らばっているが、放置されて何年も経っているのか黒ずんでにカスのようになっていた。
室内には何もない。
中庭に出る。
空から降る光が、ていた。
「っ?」
スケルトンが一体、中庭の中央に立っていた。
いや、立っているだけ? 銅像のように動かない。肩の辺りから枝が生えて葉っぱが茂り、木のようになっている。
骨っぽくないスケルトンの外観とあいまって、まるで朽ち果てたロボット兵だ。
「ラ○ュタは本当にあったんだ!」
思わず言ってしまった。
ヘルマールは意味が解らなかったのか首を傾げている。
「スケルトンさえ出なかったら、観光地にできそうな場所だったんだろうけどな……」
◇
いつまでも中庭で日向ぼっこしているわけにも行かないので、建物の中に戻る。
高い天守閣の一階に入る。
窓もなく薄暗い廊下を歩く。
何度かスケルトンと遭遇したが、それは俺が難なく撃破した。
五体目のスケルトンを撃破した後に上へと続く階段を見つけた。
登ろうと足をかけた所でヘルマールに服を引っ張られた。
「お兄さん、上から誰か来るよ。魔物じゃなくて人間っぽい」
「人間?」
人間なら味方、と思いたいが……ダンジョン内で会う人間が味方とは限らない。
人の目がないのをいい事に悪さを働く奴だっているかもしれない。それに、今の俺達の立場は少々特殊だ。
「隠れよう」
「オッケー。ちょっとこっちに……。《アンコンシャス・フィールド》」
ヘルマールに引っ張られて階段の横に。さらに、何かの魔術が発動する。
「この魔術、どんな効果があるんだ?」
「フィールド内の物は、隠密のステータスが+5000ぐらいされるよ」
「……ずいぶん便利な魔術もあったもんだな」
「でも相手の視界をごまかすだけだよ。音とか外に聞こえるから静かにね?」
俺達は階段の横に張り付いたまま、足音が通り過ぎるのを待つ。
トコトコと降りてくる複数の足音。六人ほどのグループ……いや、この場合はパーティーと呼ぶべきか? そう、六人のパーティーが上階の探索を終えて降りてきたようだ。
もしかして、俺のクラスメートじゃ? と思ったけれど、別にそんな偶然は起こらなかった。
見た事もないやつらだ。
年齢も、二十歳ぐらいから、四十歳位までバラバラ。
なんだあいつら?
パーティーは、俺達に気付く事無く階段を下りて、どこかに行ってしまう。
「装備的には、シーフに、戦士二人、魔術士と……、真ん中で護衛されている二人は何だろう?」
「俺が鑑定してみるか?」
「うん、やってみてよ」
俺は遠くなった後姿に向かって、鑑定。
カイル・マーガス
攻撃:280
防御:250
追尾:180
回避:200
探知:300
隠密:400
適性:250
スキル:ワーグ語、
固有スキル:宝箱設置
ミシア・レイルバート
攻撃:220
防御:230
追尾:170
回避:190
探知:250
隠密:320
適性:180
スキル:ワーグ語、
固有スキル:宝箱設置
なん、だと?
「あいつら、宝箱設置の固有スキルを持ってる……」
「ホント? お兄さんのお仲間って事なのかな」
「どうかな」
宝箱設置のスキルを持ち、それをダンジョン内で使用しているなら、シーフギルドの一員はずだ。
本人が進んで協力しているのか。あるいは捕まって強制されているのか……。どちらにしても、俺の仲間とは呼べないだろう。
後者なら、場合によっては救出を考えてもいいが……。
「どうする? 行って話だけでも聞いてみる?」
「行くって、どうやって?」
見つからないように隠れたのに?
確かにヘルマールが本気を出せば、あの全員を吹っ飛ばすぐらいは簡単かもしれないけど。
「あんまり乱暴はよくないだろ。目の前にいるのだけが敵とは限らないぞ」
ここで下手な事したら、他の町にまで手配書が出回りかねない。
「それもそうか……。お兄さんがそれでいいって言うなら私は何もしないけど……」
「それより、あいつらがここで何をやってるのか知りたい。後を付けてみようと思うんだけど」
「うん、行こう」
とはいえ、なんとなくやる事は解っていた。
宝箱設置を持ったあまり強くない人がダンジョン内でやる事。
それはもちろん宝箱設置だ。
残りの四人は護衛か何かだろう。
◇
六人組は要塞内を勝っ手知ったかのように歩く。シーフギルドのやっている事を考えれば、既に何度も来ているのかもしれない。
廊下をあちこち曲がり、どこかの部屋に入っていく。
一分ほど待ったが、出てくる様子がない。
二十メートルほど離れて追いかけている俺達は動きに困る。
「……どうしよう」
「行っちゃおうか? 鉢合わせしちゃったら、ピカってやってダッシュで逃げればいいよ」
まあそれでいいか。
俺達は扉の所に行き、部屋の中を覗く。
あいかわらず荒れ果てた部屋。
本棚だった物、が並んでいる壁の一角に、四角い穴があった。ちょうど人が背をかがめれば通り抜けられるぐらいの大きさ。
「……もしかして、本棚でふさがれている隠し通路、だったのか?」
「みたいだね」
何てことだ。
「隠し階段が、隠されてない、だと?」
こうやって追跡していて、相手が中に入ったら、追いかけていた方はいろいろ困惑して辺りを探し回ったあくげ、偶然隠し通路を見つけ出す。
テンプレとはそういう物ではないのか?
閉めていけよ……と言いたいところだったが、閉めるべき本棚は俺達の足元で朽ちた木片となっていた。
時の流れとは残酷な物である。
俺達は、隠し通路に入る。少し行った所で下へと続くハシゴ。
「先に降りてるよ」
ヘルマールは言うなり、飛び降りてしまった。
着地する音が聞こえなかったけど、大丈夫なのか? かなり深そうだぞ?
俺はハシゴを降りる。
百段位降りた先に、下の床があった。
真っ暗な中、手を伸ばすと「ふにゃっ」とヘルマールの声。
「灯りは?」
「こんな所で火をつけたら、見つかっちゃうよ? それに、あれ見える?」
底なしの闇に、濃淡がある。
あれは?
「さっきの人達が、灯りを使ってるんだと思う。あの辺りにいるんだよ」
「結構遠いな……」
暗い中、あそこまで歩くのか?
「行くよ。私から離れないでね……」
ヘルマールはそう言って、俺に腕を絡めてくる。
俺達は慎重に暗闇の中を歩く。
こつこつ、と硬い音。
ヘルマールは、ホウキの先を使って地面を確かめながら歩いているらしい。
デモニックイーターでも夜目とか利かないのか、ちょっと意外だ。
地下室は予想以上に広かった。
なんとなく、すぐ近くに壁があるような気もする。
部屋ではなく、通路のような所なのかもしれない。脱出の時に使ったのか。
気付けば、天井に光が流れていた。
ここにもさっきとは別の鬼脈が流れている。コボルトの巣穴で見た物と比べて、かなり光の量が多い。
もしかして、この鬼脈に宝箱を設置したら、他の所よりもいい物が取れるのか?
これは捗りそうだ。
「……あ、ここで曲がってるよ?」
ヘルマールが言う。
光は右側から来ているようだった。
そちらを覗き込むと、数十メートル先の天井に浮いている炎が見えた。
鬼脈は通路の先で曲がっていて、先行するパーティーも、そちらに歩いていく。
そろそろ目的地のはずだ。
宝箱設置の感がそう告げている。
「《宝箱設置》」
ほら、聞こえた。スキルを使っている。
俺達が、そっと通路を覗くと、さっき鑑定したカイルとかいう男が、箱を設置した所だった。
シーフが剣をそっと差し出したとたん、がガタリと動いてそれを飲み込む。
これで用は済んだのだろうか。
後は、彼らは帰るだけ。俺達はそれをやり過ごしてから、今後の方針を話し合えばいい。
「……《アンコンシャス・フィールド》」
壁際に張り付いてから、ヘルマールが呪文を唱えてステルスモードに。
これで大丈夫だと思ったのだが……。
「っ?」
魔術士がこちらを見た、杖を振り上げる。やばい、気付かれた?
「業火よ焼き尽くせ、ブリューク・オブ・インフェルノ!」
「っ!」
聞くだけでヤバそうな呪文を唱える魔術士。
ヘルマールは、何かの防御呪文を唱えようとしたまま動きを止めていた。失敗? いや、わざと?
魔術士の方も、インフェルノ的な現象を引き起こした様子はない。
両方が何もしないまま、時が流れる。
静まり返る地下室。
戦士の一人が魔術士に問う。
「おい。今のはなんだよ? 敵がいたのか?」
「いや……気のせいだったようだ」
ブラフだった。
ヘルマールが慌てて防御呪文を使っていたら、声でばれていたかもしれない。
それを期待して、あの魔術士は、爆発音のする魔術を発動させず静かに待ったのだ。
だが、魔術が発動しそうにないのを先読みして、ヘルマールはとっさに防御魔術をキャンセルした。だから見つからずにすんだ。
高度な読みあいだった。
「本当か? 万が一にも目撃者がいたら。必ず殺さないとダメなんだぞ?」
「解っている。だが、ここは町から離れている。こんな所に来る奴なんて、そうそういないだろう」
そんな事を言いながら去っていく一行。
ヘルマールは俺の隣でへなへなと座り込んでしまった。
ところで、なんか宝箱設置のスキル持ちの二人だけは、きっちり俺の方を見ていたような気がするんだけど、本当に大丈夫だったんだろうな?
同じスキル持ちの好で、感知できるとか、そういうのやめてくれよ?




