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20ハズレ武器


 都の外へと続く北門。

 なんだか物々しい雰囲気が漂っている。兵士の数も前回より増えているような気もする。

 俺は少し離れた所で待って、ヘルマールがステルスで門番の詰め所を調べてきた。

「どうだった?」

「ダメかも。なんかお兄さんの手配書が回ってるみたい」

「そっか……」

 大神官を敵に回した上に、城の衛兵と戦闘しているからな。これはまずいかもしれない。

「どこかに抜け出せる道とかないのか?」

「私の知る限り、そんな物はないよ……」

「それもそうだな」

 誰もが知っているような抜け道なんてあるわけない。そんな物があったら、塞がれるか見張りを置かれるかしてしまう。

 上手く行かないもんだな。

「じゃあ、魔術で壁を吹き飛ばしちゃおうか?」

「……もうちょっと穏便な方法で頼む」

「穏便とか言われてもさぁ。私一人ならホウキで飛んでいければいいけど……あ、その手があったか」

 ヘルマールは何か思いついたらしい。

 またカタパルトなのか?


 ◇


 結果から言えば、カタパルトではなかった。

 ヘルマールがホウキで飛ぶ。それだけだ。

 まずホウキに布袋のような物をぶら下げて、そこに重そうな物は全部……というか、俺自身以外のほぼ全てを入れる。それらの荷物を洞窟前の宿泊地に置いて戻ってくる。

 そして今度は俺を布袋に入れて飛ぶ。


 人を一人ぶら下げても、すいすいと飛んで行くヘルマールのホウキ。

 下を流れる景色が綺麗だ。

 森が夕暮れの光に染まって赤くなっている。

 木々の途切れている細い線のような物が見えるが、あれはヘルマールと会った川だろうか? 歩く時はあんなにかかったのに、こうして空を飛ぶとあっという間だ。

 やはりホウキは凄い。

 速くて安全なのはわかる。だけど、なんか納得いかない。

「俺もとうとう荷物扱いか……」

「今はしょうがないよ。もっといい方法を思いついたから、次からはそれで行こう」

 俺の真上から言うヘルマール。俺の顔の両側に、ヘルマールの靴がぶらぶらしているような感じだ。

「っていうか、これ俺の位置からだとスカートの中が丸見えないんじゃないの?」

「んー、別にいいよ。見ても」

「……」

 なんで俺が下の景色ばっかり見てると思ってるんだ。少しは恥らってくれよ。

「でも触ったりしたらダメだよ。そういうのは、下におりてからね」

「やらないよ。ここでも、下におりても」

「えー……」

 人として、やっていい事とダメな事って、あるだろ。


 そんなこんなで、洞窟前に到着した。

 歩いて一日かかる道のりが、三十分も掛からなかった。飛ぶとこんなに速いとは。

「どうする? もう行っちゃう?」

「いや、洞窟に入るのは明日からにしよう」

「そう?」

 中に入ってしまえば太陽の光はないのだから昼でも夜でも同じに思えるかもしれないが、こっちだって二十四時間戦い続けるわけには行かない。

 寝る時は洞窟の外でなければ危険だし、それなら、夜に休憩を取りたい。

 時々、一週間とか一ヶ月ぐらいダンジョン内で過ごしている奴の話とか聞くけど、あれって体内時計大丈夫なのだろうか?

 いや、永久に外に出るつもりがないなら、そんな事を心配する必要はないのか。



 適当に夕食を終えてから、ヘルマールが言う。

「ねえお兄さん。風属性魔術も試してみない?」

「風属性?」

 今、俺が使いまくっているスターガンは、土属性だったはず。

 それとは別の魔術に挑戦しろと言うのか。

「このホウキって、風属性魔術に補正がついてるんだよね。と言う事は、お兄さんも風属性の攻撃魔術を覚えてみるべきだと思うんだ」

「そう言えば俺、いつの間にか風属性を習得してたぞ?」

「ターミナル・コンパスも風属性だからね」

「なるほど」

 あれと似たような物なら、俺にも使えるだろう。

「じゃお手本ね《エアカッター》」

 ヘルマールが呪文を唱えると、半透明の刃のような物が飛んで行き、木に命中した。

 一拍のタイムラグを置いて、当たった所から上がずれていき、木は倒れてしまう。

 どーん、と音がして、鳥がバサバサと飛び立った。

 あーあ、なんてことを……。

「ステッキの時と同じでいいのか?」

「基本的には同じだよ」

 なんだそれ?

「そもそも、ステッキとホウキって、どう違うんだ? あと委員長が使ってた長杖とか」

 やる事は全部同じ魔術じゃないか。なんで形が違うものを使う?

「それはいろいろ違うよ。物理アタッカーで、剣と斧と鎚がどう違うか、ってぐらいには違うんじゃないかな」

「そういうもんか?」

 ヘルマールが例に挙げたのだって、全部振り回すという意味では同じだと思うけど。

 いや、この世界ならスキルの補正とかがあるのか……逆に言えば、俺見たいな奴は何を使ってもあまり変わらないって事だな。

 ヘルマールからホウキを受け取った俺は、やってみる。

「《エアカッター》」

 透明な刃が生み出され、狙った木に当たる直前に霧散した。

「あれ?」

「ま、最初はそんなものだよね」

 ヘルマールにとっては、これも予想通りだったようだ。

「魔術って、集中力が途切れると消えちゃうんだ。透明な物は、出すのは簡単だけど、逆に維持するのは難しかったりするよ」

「そうなのか……」

 もう一度挑戦。

 集中。集中だ。

「《エアカッター》」

 今度の刃は、綺麗な形を保ったまま飛んでいき、木を半分ほどえぐった。

「んー、いい感じだね」

「初めてにしては、うまいもんだろ」

「そだね。さすがお兄さん。じゃ、次は三つ同時にやってみようか」

「無茶言うな」

「いやいや。だって洞窟内でコボルトが三匹同時に出てきた時に、それできないと困るでしょ?」

 それもそうか。

 仕方ない。もうちょっと頑張ろう。


 ◇


 翌日は、ホウキを武器に洞窟に潜る。


 コボルトが一匹、コボルトが二匹……出てくる側から延々と倒し続ける。

「危なげなくいくね」

「やっぱり、俺には魔術で戦うのが合ってるんだな……」

 目指すはこの前設置した宝箱だ。

 コボルトが三匹、コボルトが四匹……ってちょっとまて。

 さすがに四匹はまずい。


 俺は、突き出される槍を避けながら、エアカッターを三連射。一匹はしとめたが、残り二匹は当たり所がよくなかったのかまだ生きている。しかも最後の一匹が俺の足を槍で刺す。

「ぐっ……」

 俺は膝を付きながらも、もう一度エアカッター。今度は二発当たった。だが、生き残りの一匹が俺の体を槍で……


 体が動かなくなった。


《ハキステ》

『武器タイプ:ホウキ 適性+5460 特性:火炎に弱点を持つ魔物に対して火炎属性魔術で攻撃した場合、ダメージ二倍』


 はい。変化してしまいました。

 ヘルマールが残ったコボルトを消し飛ばしてから、俺を拾い上げる。

「やっぱりホウキになったね。それじゃ、試してみよっか……」

 何を? と俺が言う間もなく……いや、声は出せないんだけど……ヘルマールは俺に跨った。

 おい、おまえ何するつもりだ?


 ホウキ状態の俺とヘルマールは音もなく浮き上がり、洞窟の天井ギリギリまで上がった。

「よしよし。ちゃんと飛ぶのにも使えるんだ」

 よくない……。

 まさか、俺を荷物扱いするよりもいい考えって、そういう事か? 次に長距離移動する時は、俺に跨って飛ぶつもりなのか?


 俺が気を抜くと一分で元に戻るんだけどいいのか。あと冷静に考えると、ヘルマールがホウキ状態の俺に跨ると言う事は……


 意識が緩んだ瞬間、俺は人間の状態に戻っていた。

 成すすべもなく、地面に落下して背中をぶつけた。

「痛たたた」

 ヘルマールはと見れば、俺の上に馬乗りになっている。

「あれ? もう元に戻っちゃった? もうちょっとホウキでいられないかな?」

「い、いや……ちょっと待て。それはむりだ」

 っていうか、この体勢、なんかヤバイから。早くそこからどいてくれ。

「あー……なるほどね」

 俺の

 ヘルマールは手を自分のスカートに当て、布越しに自分を撫でている。なんかやたら扇情的だ。

 そして倒れたままの俺に顔を近づけてくる。

「お兄ちゃんも男の子だもんね。私のここで、興奮しちゃったんだ」

「いや、違う」

 違いませんごめんなさい

「興奮するのは別にいいよ。むしろどんどんそうなってくれた方が私は嬉しいかな」

「おまえなぁ」

「でも、飛んでる時にホウキの状態を解除されるのはちょっと困るよね。そっちの方も、少し訓練しておこうか……」

「待ってくれ、話し合おう……」


 ◇


《アイテム変化EX(レベル4)》

『攻撃を受けると自分がオニギリなどになる』

『変化アイテム。オニギリ、カナヅチ、トンボキリ、ハキステ』


 これでホウキも登録されたようだ。

「ステッキは、まだないのか」

 つまり武器変化に新しい武器が登録される条件は、該当する武器を持っている時に攻撃を受ける必要がある、というのが確定してしまった。

 何気につらいな。

 ステッキを登録するためにわざと攻撃を受けるべきだろうか? いや、やめておこう。


 俺はホウキをヘルマールに返して、武器をステッキに持ち替えて洞窟を進む。

 コボルトの二匹ぐらいまでなら余裕だ。


 前回仕掛けた二つの宝箱を回収。

 どちらも爆炎の魔石だった。……なんで被るのかな。もしかして、ここに箱を仕掛けてもそれしか出ないのだろうか?

 両方に箱を設置し、剣を入れて……。また三日ほど待つとしよう。


 ◇


 三日ほど経った。

 その間、昼間は洞窟に入ってひたすらコボルトを狩り、夜は今まで以上にヘルマールにベタベタされ……。

 まあ悪い気はしないんだけどな。俺の中の何かが、超えてはいけない一線を頑なに主張しているんだ。


 さて、お楽しみの宝箱タイム。

 一つ目は……。


《微妙なの鉄の剣》

『武器タイプ:剣 攻撃+90 特性:攻撃が当たっても10%ほどの確率でダメージが発生しない』


「微妙って言うか、ゴミアイテムじゃないか……」

「まあ、そう言う事もあるよね。諦めたらダメだよ?」

 ヘルマールは励ましてくれるが、何か嫌な予感がしたので、ここに新たに仕掛ける箱には何も入れないでおく。次。


《斬撃のコボルトキラー》

『武器タイプ:剣 攻撃+180 特性:コボルトに対してダメージ三倍』


「うわああああっ……」

 この前の激戦と被っているし、どう見ても下位互換だし、どっちにしろコボルト特攻なんて欲しくないんですけど?



コボルトの巣穴は宝箱を仕掛けてもろくな物が出ない。

シーフギルドの宝箱がないのがその証拠。


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