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1トリップ、そして一人だけ落ちこぼれ


『こちら、シライア王国第一皇女、イリス・アークレイです。聞こえてますか?』


 天井から声が響いた。

 ある九月の放課後。授業もホームルームも終わって、みんな家に帰るなり部活に行くなりしようとしていた時だ。


 俺も、さっさと帰るつもりだった。

 ところが上から響いた謎の声。

 何が起こっているのかわからないが、聞くだけ最後まで聞いてみようと思ったのだ。

 他のクラスメート達もそう思ったのか、無言で続きを待つ。


『あ、ごめんなさい。こっちからはあなた達の声を聞く事ができません。なので、聞こえている物として話を進めますね』


 この人、聞こえてなかったらどうする気なんだろう?


『私は、あなた達から見て、別の次元にいます。この国は危機に瀕しています。魔王と呼ばれる強敵によって土地を奪われ、滅亡の危機に瀕しているのです』


 あーはいはい。

 なんかテンプレ的なアレね。

 そういうのもういいよ。正直、飽きたし。


『魔王を倒すためには、この世界の人間の力だけでは足りないのです。異世界のあなたがたの助けが必要なのです』


 話は理解できるけど、なんで見知らぬ世界を助けなきゃいけないんだろうか? 報酬とかあるのかな?


『次元の壁を越えれば、力を得る事ができます。運がよければ、どんな事象も思いのままにする最強の力を手に入れる事も可能でしょう』


 運がよければとか言ってるし、運が悪かったらどうなるんですか? そこも説明して欲しいんですけど?


『というわけで、あなた達に助けて欲しいのです』


 どういうわけなのか、全然わからなかった。できれば、もう一回最初から説明してください。


『はい! 召喚されたい人は、いいともーって叫んでください』


 その番組、もう終わりました!

 俺は何も言えなかった。

 教室内も静まり返っている。

 そりゃそうだ。いきなり異世界なんて言われてもな。困るよな。


『はぁい! ご協力ありがとうございます! じゃあ、喚びますね』


 え? 何言ってんの? 誰も返事してねぇよ!

 いや待て?

 さっきこっちの声が聞こえてないって言ってなかったっけ? つまり、最初から同意なしで誘拐する気なんじゃ?

「ちょっと待って! 俺は嫌だよ!」

「わけの解らない世界に行きたくない、て」

 クラスメート達のざわめきも無視して、視界が奇妙な光に満ち溢れる。

 何だこれ。何もない空中が光ってるのか?

「嫌だ、嫌だ、嫌だ!」

「来週のアニメ見たいのに!」

 俺達がいくら叫んでも、もちろん聞こえるはずがない。

 そもそも同意ありで異世界トリップしたケースなんて滅多にないよね、っていう……。


 ◇


 光が消えた。

 どこだここは?


 白い石造りの壁と柱、床も白い。アーチ状の天井と、大きな窓に嵌められたステンドグラスが、光を照らしている。

 これは、神殿、だろうか?

 神聖で厳かな雰囲気。

 そして俺も含めて四十人の高校生がばたばたと倒れていた。イケメンの富田も、眼鏡の学級委員の都築も、あんまり目立たない清楚系の高崎さんも倒れている。

 あ、スカートの中見えた。委員長は水色で高崎さんは黒か、へぇ……。


 そして俺達を囲んでいる人々。

 鎧を着ている兵士や、神官のような人々が、何人も壁際に立っている。だいたい男ばっかりだ。

 そんな中に一人、赤いドレスを着た少女が立っていた。

 姫、と形容するに相応しい。

 あれはもしかしてさっき喋ってた人か? 確か第一王女の……イリスだっけ?

 俺達に向かって深々とお辞儀をしてみせる。

「よくいらっしゃいました。異世界の方々」

 いらっしゃいました、じゃないよ! 誘拐だよ!

「おい。帰らせろよ!」

 富田が食って掛かるが、王女は、その手を掴み、顔を近づける。

「お願いです。私の話を聞いてください」

「い、いや……」

 富田は顔を赤くして後ずさった。

 王女は微笑むと、話を始める。


「現在、この国は、魔王の侵攻によって、危機に瀕しています」


 へぇ。魔王ね。またっすか。いや、実際に魔王討伐を頼まれたのは初めてだけれど。なんだか始めての気がしないぐらい、ありふれているように思える。


「土地は奪われ、残った農地もやせ細り、国民達は食べる物にすら困る日々を送っているのです。私達は魔王に戦いを挑みました。しかし、力が及ばす勝てなかったのです」


 大変だな。生活が掛かっているというのはよく解る。

 しかしテンプレだよな。


「だから私達は、異世界から勇者を召喚する事を決めました。もちろん、同意を取らない無礼な行為であった事は否定しません。しかし、私達にはもう、この方法しか残されていなかったのです」


 そうは言うけど、こっちにだって言い分がある。

 誘拐はダメだろ。しかも誘拐した人を鉄砲玉にするって、どこのテロ組織だ。

 誇りある人間種のやる事か?


「勇者たるあなた達は、大いなる力を持ってこの国を救ってくれる物と思います。どうか、お願いします……」


 王女は深々と頭を下げた。

 周りの人々も、同様に頭を下げる。

 こんなに丁寧に頭を下げられちゃ……、いやいや、そうは行かないだろ。


 ……と俺は思ったのだが、クラスメート達を見ると「じゃあ仕方ないよね」的な空気が流れていた。

 おいおい。

 おまえら人が良すぎるだろ。将来詐欺に会うぞ。そして詐欺られたのに「あの人もお金がなくて困っていたから仕方ないよね」とか言っちゃう人になっちゃうぞ。


 それはさておき。

 お調子者の佐々木が、手をあげてる。

「はい! 俺が魔王を倒したら、結婚してください!」 

 王女は首を傾げる。

「あら? プロポーズですか? うーん……本当はダメなんだけれど、魔王を倒してくれたら、それもありですよ?」


 わーお。体張ってるのな。

 それとも、約束を守る気がないのに、適当な事を言ってるんじゃないだろうな?

 まあ、本当に国を救ったら、ハーレム作れそうなぐらいの金と地位はもらえるかもしれないけど。



「そろそろ、よろしいでしょうか?」

 おっさん、というかおじいさんと言った方がいいかもしれないような人が、前に出て来た。顔は老けているが、豪華な鎧を着ている。

「私、王立騎士団、名誉団長のカーム・スロットと申します。これから皆さんには魔王と戦っていただく事になるわけですが、その場合には、騎士団も全力でサポートさせていただきますので、何か足りないものがあればお申し付けください。よろしくお願いします」

 深々としたお辞儀。

「さて。とりあえず、皆さんの名前、そしてステータスとスキルを確認したいのですが、よろしいでしょうか?」

 来た。ステータス確認。

 自分にはどんなチートスキルが与えられているのやら。

 いや、集団転移だと一人ぐらい落ちこぼれがいる可能性が……。

 あるいは、ほぼ全員が平凡で、一人だけチートってパターンも見た事があるような気がするけど……。

 これは、どのパターンなのかね。


「では、ステータス、と唱えてください」

 ステータスか。

 またSTRとかAGIとか、意味の解らない文字がいっぱい並んでるんだろうな。そして今後の物語にも何の影響も与えないんだ。

 だいたい、翻訳技能があるはずなのに読めない略語が表示されるっておかしいよな?

 まあ一応見ておくか。

「ステータス!」

 俺の前の空中にウインドウが表示された。


森橋卓巳


攻撃:250

防御:180

追尾:250

回避:250

探知:200

隠密:600

適性:540


スキル:ワーグ語、鑑定(万能)、交渉、マイナスカリスマ

固有スキル:宝箱設置EX、アイテム変化EX


 おお?

 日本語として認識できる。でも逆に解らないんですけど?

 攻撃と防御って事は、魔法は存在しないのかな? よくわからん。


 一応、数字は軒並み100越えだから、悪くはないだろう。通常スキルもテンプレ気味だが悪くない感じだ。

 ただ「マイナスカリスマ」って何だよ。ステータスからケンカ売られてる気がするんだけど? 交渉スキルと矛盾してないか?


 固有スキルはEXとかついてて凄そうだ。内容はよくわからないけど、名前からある程度は予想できる。一回使ってみればわかるだろう。


 召喚者は、みんなこんな感じなのかな? ちょっと、隣にいる奴のステータスを覗いてみよう。

 佐々木。さっき王女にプロポーズしてたバカ。


「な、なんだよ。覗くなよ」

 そいつは、俺からウインドウを隠すように腕を振る。

 でも無駄なんだよ。

 俺は小声で唱えてみる。

「鑑定……」

 ほら見えた。



佐々木宗太


攻撃:2000

防御:4500

追尾:2200

回避:1300

探知:2500

隠密:1000

適性:2800


スキル:ワーグ語、

固有スキル:影縫い


 うわぁ。なんか俺と一桁違うんですけど?

「ち、防御型かよ……」

 そいつは文句言ってるけど、攻撃型らしい俺の攻撃力と比べても8倍ぐらいある。

 強いて言うなら、俺はスキル次第で化ける可能性があるってぐらいだろうか?

 でも、いくら便利スキルがあっても、基本が弱すぎると話にならない場合が多いんだよな。特に防御力関連とか。命中関連とか。

 どうしよう。


 騎士団のカームおじいさんが近くに来たから聞いてみるか。

「あの、俺のステータスって、どうなんでしょう?」

「どれどれ……ああ、これは、うーん?」

 カームさん首をかしげている。やっぱり、ヤバイ?

「町人なら、これぐらいの数字でもおかしくはありません、はい」

 この世界の戦闘職業ではない一般人並み。

 それって、戦闘では万に一つも役に立たないって事ですね。

「モンスターのステータスってどれぐらいですか」

「そうですね。一般的なコボルトが、攻撃500、防御300ぐらいですね」

 俺の力はコボルトの半分。いや、攻撃防御で掛け算になるなら、戦闘力は四分の一か。

「スキルに始めて見る物がありますが……、何か凄い力を秘めているのかもしれません。諦めてはいけませんぞ」

「は、はい。大丈夫ですから」

 そういった自分の声が震えているのを感じる。

 嫌だ。これは嫌な予感しかしない。


 ちなみに。

 イケメンの富田、眼鏡の学級委員の都築さん、清楚系の高崎さん。この三人のステータスも覗いてみた。


富田聡


攻撃:3500

防御:4180

追尾:2540

回避:3000

探知:2000

隠密:1800

適性:1400


スキル:ワーグ語、広域防御、カリスマ

固有スキル:勇者



都築一美


攻撃:1800

防御:1950

追尾:4500

回避:3600

探知:2500

隠密:3600

適性:4600


スキル:ワーグ語、火属性魔術、水属性魔術、MP超回復、高速詠唱

固有スキル:魔術取得ボーナス



高崎麻衣


攻撃:4650

防御:1500

追尾:5000

回避:7500

探知:2300

隠密:1000

適性:900


スキル:ワーグ語、ダンスブレード、クリティカル率上昇

固有スキル:超魅了



 うわー、みんなすごいなー


 どうしよう。俺、本当に最弱っぽい。


 テンプレさん。今までバカにしてごめんなさい。

 俺のスキルはチートなんだよね? ちゃんとテンプレ通りの物語展開をしてくれるんだよね?



当面はテンプレ通りに進みます

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