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17大神官、嘘つかない


 とりあえず、俺達は王宮の中に入った。

 本来の扱いがどうなっているのか不明だが、ヘルマールも一緒に王宮の中へ。

 歩きながら、ヘルマールが俺の服を引っ張って小声で聞く。

「ねえ、お兄さん、コスプレって何?」

 委員長に言われた事が気になっていたのかね。

「……コスチュームプレイの略だよ。仮装とか、なりきりとか、そんな感じの意味」

 本当はなんかもっと違うニュアンスだったような気もする。主にエロ方面で。

 でもここでそれを言うのもどうかと思う。

 ヘルマールは自分の格好を見下ろした後、少し不満げに言う。

「もしかしてあの人達、私がこんな格好をしているのに魔術を使えないとか思ってるの?」

「だいたい合ってる」

「そっかー、そっかー……」

 ヘルマールはなんか悲しそうな顔になってしまう。

 本当は、全員でかかっても勝てるか怪しいぐらい強いのにな


 ホールのような所でクラスメートのほぼ全員が待っていた。

 俺達が入るなり騒ぎ出す。

「ホントだ帰ってきた」「よかった……遭難したんじゃなかったんだ」

 そんな声が聞こえてくる。

 これは予想していなかった。

「……冷遇されてたと思ったのに」

 俺が呟くと、横にいた委員長が言う。

「いや、誰も冷遇はしてないし……。仮にしてたとしても、さすがに死なれたら嫌でしょ」

「お、おう」

 そういえば、俺を冷遇してたのはクラスメートじゃなくてこの世界その物だったな。

 それにしても、こいつら悪い奴じゃないけど、全力でフラグ折りに来てるよね。


 と、佐々木が近づいてくる。そしてヘルマールの方を指差しながら俺を睨む。

「なんだそいつは。どういう関係だ?」

「いや、何って、え? 関係?」

 何か気に入らないところがあったのか、と思っていると、ヘルマールが俺の腕に抱きついてくる。

「遭難しているところを、お兄さんに助けてもらったんだよ。命の恩人?」

 そして笑顔。

 破壊力は抜群だった。

「うおおおおおおおっ」

 佐々木は頭を抱えてもだえ出す。

「こいつ、こいつぅ。俺達がちょっと目を離している隙に、義理の妹ゲットしてやがるぅっ……」

 血涙を流さんばかりの勢いで悔しがっている佐々木。

 意味がわからん。

 おまえ、変なゲームのやりすぎだろ。

 っていうか、この前は王女に求婚してただろうが、少し落ち着け。


「あれは許されないよな」「有罪だな」「ロリコン……」

 ひそひそと囁きあっているクラスメート達。

 おまえら、変なまとまり方するなよ。


 ◇


 カームさん、ごほんと咳をする。

「それでですね、タクミさん。そろそろお聞きしたい事があるのですが」

「はい?」

「荷物の槍、それを見せていただいても?」

「あ、はい……」

 俺は荷物を降ろして槍を渡す。

 カームさんは、槍の重さを確かめたり、穂先に光を当てて反射を見たりしていたが……力強く頷く。

「まちがいない。これは、コボルトの凄い槍……」

 この人もか。同じ物が騎士団にあるって言ってたし、なのかな?

「どうやって手に入れたのですか? いや、その前に、コボルトに勝てたのですか?」

「あ、剣じゃなくて魔術で戦ったら、なんか勝てたんだ」

 俺は、そこだけは正直に言う。

 魔術は、この後も使って行く事になるだろうから。

「魔術ですか? ……そういえば、あなたは適性のステータスが高めでしたっけ。しかしよく習得できましたね」

「私が教えたからね」

 得意げに言うヘルマール。

 するとカームさんはヘルマールの方を見る。

「一週間で、ですか?」

「実質、一日かな」

「どうやって教えたんです? そもそも、あなたはどこまで魔術を使えるのですか?」

「え、いや……第一階梯はだいたい全部?」

 いやいや。おまえ第三階梯までいけるだろ、と思ったけれどもちろん俺はそんな事口にしない。

 言ったら面倒事が起きるのは、だいたい予想がつく。


 改めて思うけど、チート主人公って凄いな。

 だってあいつら、能力について聞かれても、全部うまくごまかすか、全部平然と言いふらすか、どっちかだもん。俺からしたら、そのコミュ力がすでにチートだよ。


 カームさんは納得が行かなかったのか、首を捻る。

「まあいいか……その年齢で実戦レベルとは末恐ろしいですね」

 本当に末恐ろしいですよ。

 これは、ステータスまで見られたら、何を言われるのかわかったものじゃないな。

「しかし、この槍はレアドロップのはず。そう簡単には手に入らないと思うのですが、一体、何匹のコボルトを狩ったのですか?」

 やたのはヘルマールだけど、たぶん千匹は超えてましたね。

「えっと、五十匹か六十匹ぐらいだと、思うけど……」

 あれ? 俺、門番の人に聞かれた時はなんて答えたっけ? 覚えてないぞ。

 ばれたらどうしよう?

「たった五十匹で、すごい強運ですな」

 ああ、不可能だろうな。

 俺が三日で五十匹以上のコボルトと戦って、ドロップした「ぼろい槍」は五本ぐらい。一方、ヘルマールがコボルト千匹オーバーを倒した後にドロップした「すごい槍」はこれ一本だけだ。

「普通は、どれぐらい掛かるものなんだ?」

「そうですね……、年に一本、出るか出ないか、ぐらいの物ですよ? コボルトの頭数で言うなら……二千匹か三千匹ぐらいじゃないでしょうか」

 三千匹か。

「もしかして、あなたのスキルにはレアドロップを誘発する能力があるのでしょうかね?」

「そうなのか?」

 とぼけてみるが、絶対違うと思う。

 だって、あのコボルト千匹は超えていたから数的におかしくないし、そもそも倒したの俺じゃない。

「あなたの固有スキルには謎が多かったから、調べてみる価値はあると思いますよ」

 勝手に納得しているカームさん。



 そう言えば、宝箱設置の秘密について話した方がいいのだろうか?

 いや、……カームさんも、何も知らない可能性が高い。というか、知ってたら普通に教えてくれただろ。


 なにしろシーフギルドが五百年も隠し続けてきた情報。

 シーフってあれだ。日本で言うニンジャだ。下手な事をするとナムサンされかねない。

 情報を安易に扱うと俺の身が危険だ。


 それならこの情報、誰にも公開しない、というのもありか?

 少なくとも、俺は別に困らないんだよな。既に使いこなせてきているし……。


 ……いや、ダメか。これじゃ、シーフギルドに消極的な協力をしているのと同じだ。

 秘密を守ったりはしない。

 今すぐでなくとも、いつか必ず公開しなければ。

 たぶん、これは俺に与えられた使命だ。他のクラスメート達に魔王を倒す使命が与えられたのと同じように。

 俺は独自のノルマを達成しないといけないのだろう。



 俺がそんな事を考えていると、大神官がやってきた。

「おや、タクミさん。ご無事でしたか」

「ええ。なんとか」

 スキル説明の時の人だ。

 この人も、《宝箱設置》の謎は知らないはずだ。

 でも、この人の《スキル説明文解放》でも、宝箱設置の情報は出なかったんだよな。

 それもシーフの力だろうか? そんな事、可能なのか?

 それともまさか……。


 などと悩んでいる暇は与えられなかった。

 大神官は、ヘルマールの顔を見て、目を見開いた。

「デモニックイーター、だと?」

 あれ? なんか嫌な予感が……。この人、鑑定スキルなんか持ってたっけ?

 いや、それ以前に俺はこの人を鑑定してなかったか。

 えっと、鑑定?


『エラー:この対象は鑑定できません』


 は? 何それ? ふざけてるの?

 こいつ魔王か何か?


 大神官は、俺が鑑定しようとした事に気付いたのか、こっちを睨みつけてから、すぐにカームさんの方を見る。

「なぜだ! なぜこんなやつを王宮の中に入れた!」

「はっ? 落ち着いてください。その少女は別に悪い事をしたわけでは……」

「バカ者! 見てわからんのか!」

「わかりません。何をおっしゃっているのです?」

 カームさん混乱中。

 そりゃそうだ。見えるわけないんだから。むしろなんで大神官はステータス見えてるんだ。

 と思っていたら……

「《ステータス強制表示》」

 大神官が、何か妙なスキルを発動させる。

「えっ? ちょっ……ひっ」

 ヘルマールは悲鳴を上げながら両手で胸の辺りを隠す。



ヘルマール・アンカーボルト


攻撃: 48K

防御: 52K

追尾: 42K

回避: 36K

探知: 35K

隠密: 42K

適性:257K


スキル:ワーグ語、マズラグ語、タフス語、第一階梯属性魔術、第二階梯属性魔術、第三階梯属性魔術

固有スキル:デモニックイーター(強欲)



 ヘルマールのステータスが強制表示された。

 ありえない。

 ステータス表示を当人の同意もなしに?


「攻撃48K? バカな、何かの間違いでは……」

 カームさん驚愕。そうだよな。ありえないもんな。

 この中で一番攻撃ステータスが高い人の十倍ぐらいある。

 適性にいたっては、さらに一桁多い。

「どういう事? 魔術を使ったら私の五十倍以上の威力になるって事」

 委員長は顔を真っ青にして震え上がる。

 うん。

 俺は理解した。

 これがこのステータスを見た時の普通の反応なのだ。

 というか、俺だって最初は、魔王幼女との遭遇イベントかと警戒したもんな。



 騒ぎを聞きつけたのか、ゾロゾロと衛兵達が集まって来る。

 衛兵達は、俺達を……いや、ヘルマールを取り囲む。

 俺はカームさんに掴まれて成すすべもなく輪の外に引っ張り出され、委員長や大神官は自力で退避。

「あの……その子、そんな危ない子じゃないんで、そんな警戒する必要ないと思うんですけどね……」

 俺は弁護を試みたが、誰も聞いてはくれなかった。


 衛兵達は、ヘルマールに斧槍を向けているものの、攻撃には出られず、小声で囁きあっている。

「どうする? 俺達で抑えられるのか?」「ワンチャン、練兵場からドラゴンを連れてくれば……」「やめろ、ドラゴンの方が死ぬぞ」


 ヘルマールはそんな会話を悲しそうに見ていたが、肩をすくめた。

「やれやれ……。お兄さん、またね」

 そしてヘルマールの姿が消えた。


 大神官が叫ぶ。

「おい、何をやっている!」

 衛兵達は数秒、思考停止したように固まっていたが、慌てて動き出す。


「しまった? 逃げられた」「探せ!」「いや、玉座だ。王だけでもお守りしろ!」

 わらわらと動き回る衛兵達。

 三十秒も経った頃には、一人も残らず姿が消えていた。

 忙しないやつらだ。



 というか、ヘルマールはどうやってあの場から抜け出したんだ? 衛兵を飛び越えたとかならわかるんだが、普通に姿が消えたけど。

 テレポートでも使ったんだろうか?


 いや、待てよ?

 鑑定、鑑定、鑑定……。


《木の壁》《石の床》《立派な絨毯》《木の扉》《木の壁》《不審者》


 あっ?


 一瞬、ヘルマールが壁際に背を預けてこっちを眺めている姿が見えた。

 目が合った、ような気がする。

 ヘルマールは驚いたような表情になって、そしてすぐに姿が消える。

 だが、もう俺には理解できた。

「なるほど……そういう仕掛けか」

 ストーンタートルやガートスネークと同じだ。鑑定スキルを連発すれば、捉える事ができる。

 とは言え、二十四時間、ずっとこれを続けるのは無理だけどな。


 ヘルマールがこの人達に何をしたのかはよくわからないけど、上手く逃げてくれればいいと思う。

 たぶん、俺が心配するまでもないんだろうけど。



ウィルワード・リグルス


攻撃:180

防御:150

追尾: 80

回避: 75

探知: 80

隠密: 60

適性:250


スキル:ワーグ語、マズラグ語、光府魔術、鑑定(対人)

固有スキル:スキル説明文解放、ステータス強制表示、スキル説明文強制捏造



悪人ではあるが、別に魔王とかではない


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