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16帰還


 一日かけて移動。都の外壁が見える距離の物陰で隠れるように夜を明かしてから、北側の門へと向かう。

 一週間前、この門から外に出た時にはこんな事になるなんて思いもしなかったな。


「じゃ、ここから先は一人で行ってね」

 そそくさと俺から離れるヘルマール。

「おまえはどうするんだ?」

「私は身分証を持ってないから、ここからは入れないんだ」

 そう言ってヘルマールの姿が見えなくなっていく。ステルス迷彩か。

 そう言えば、身分証なんて俺は持ってたっけ? 大丈夫かな? ここを出る時もそんな物、持たされなかったような……。

 それでも、王宮に連絡をとればなんとかなるとは思うけど。


 門の前まで歩いて行って、門番に声をかける。

「えーと、お疲れさんです」

「何者だ。身分証を……ん?」

 門番は俺の顔をじろじろ見る。

 こっちは覚えてないんだけど、もしかして俺が出発した時と同じ人なのかな?

「身分証は持ってないけど、森橋卓巳だ。召喚者の」

「タクミさん! 生きていたんですか!」

 驚いて掴みかかってくる門番。

「二、三日前に、カームさんが来て心配していましたよ? 遭難したのかと……」

 カームさんて誰だっけ?

 あ、騎士団名誉団長のおじいさんか。

 俺の事は、あんまり気にしてなかったように思えたけれど、そこまで心配されていたのか。

「え? いや、ちょっと帰りが遅くなっただけ……っていうか、修行してくる、みたいな事を伝えたような気がするんだけど、連絡回ってなかったの?」

「あれ? そうなんですか? ……連絡の不備かな?」

 門番は首を傾げる。

「まあ、それはいいんですよ。無事に戻ってきてくれたわけですから。お疲れ様です」

「いえいえ」

「なんか、荷物が増えているような気がしますけど、その槍とか鎚とかは?」

 門番は俺が持ち運んでいる武器に気がついたようだ。

 ……まずいかな。

「これは、コボルトの槍だけど?」

「それはわかりますけど……。これ『すごい槍』の方ですよね? 出る時は持ってなかったと思うけど、どこで手に入れたんですか?」

 うわ、一発でバレた。

「まあ、コボルトを倒したら何か、これが出たんだ」

「え? 洞窟の中に入ったんですか? よく無事でしたね」

 おっとまずい。そんな設定もあったっけ。

「い、いや……洞窟の外に一匹いたのと偶然戦いになって、運よく勝てたんだ。よくわからないけど、珍しい物なのかな?」

「珍しいなんてもんじゃありませんよ……。騎士団の本部にも数本、保管されています。貴族がステータス上げのために亀狩りする時にしか出しません」

「そうなんだ。知らなかった……」

 嘘をついてしまった。

 この槍たぶんレアドロップだから、正攻法で狩をしたら、入手までに数十日は掛かるかもしれないけど。そこは俺の運が凄くよかったという事にして、ごまかしておこう。

 ヘルマールの事はさすがに言えない。


 っていうか。貴族専用かよ。楽しやがって。


「で。これからどうします? 王宮に戻るなら馬車を手配しましょうか?」

「いや、その前に行かなきゃいけない所があるんだ。武器屋とかさ」

「まさかその槍を売るつもりじゃないでしょうね?」

「ダメなの?」

「……ダメという事はないけれど、まずカームさんに相談した方がいいと思います」

 ああ、これも騎士団に寄贈するか、せめて直接売ってくれって話かな?

 別に俺はどっちでもいいんだけど。

「わかった。そうするよ。でも武器屋には他の用事もあるから」

「そうですか。お気をつけて」

「うん……ゆっくり帰るよ」

 俺は適当な事を言って、門の中に入った。


 門から少し離れた頃に、ヘルマールが戻ってくる。

「……どうやって入ってきたんだ?」

「普通に、お兄さんの後ろにいたよ?」

 全然気付かなかった。

 これ、やりようによっては暗殺とかし放題じゃないか。この世界、よく維持できているものだ。何か看破する方法とかあるのかな?

「それで、これからどうするの? 王宮に行くんじゃないの?」

「いや。まずは武器屋だろ。この荷物を片付けたい」

 あの武器屋。なんかシーフギルドの認可を受けてないとか言ってたからな。王宮側の人達にも黙っておいた方がいいのか? と思ったのだ。

 でもそれだと迂闊に宣伝もできないよな。本当、どうしたらいいんだろう。


 それと、俺が背負っているこの『すごい槍』。

 本当にいいのか?

「この槍、どうする? 一応、所有権はおまえにあるような気がするんだけど」

「いや、いらないよ。私、別に亀とか狩る必要ないし。お金だったらシーフギルドからもう一回盗んでこれるし」

「だよな……」

 いや待て。おまえ、シーフギルドを何だと思ってるの?


 ◇


 アリスの武器屋についた。

「あ。また来てくれたんですか? ありがとうございます」

 出迎えてくれるアリス。

「来てくれてよかった。実は、昨日、いい物を仕入れたんです」

「いい物?」

「これです」

 ただのホウキだった。

 武器屋なのにホウキを仕入れるって……あ、そうか。

 鑑定。


《白樺のホウキ》

『武器タイプ:ホウキ、適性+15 特性:風属性魔術の威力が10%向上』


「おお」

 補正値は微妙な気もするけど、ちゃんとホウキだ。これが武器のホウキか……普通とどう違うのかよくわからん。

 と、俺の後ろからヘルマールが身を乗り出してくる。

「んー、貸して? ちょっと乗ってみる」

「え? ここでですか?」

 アリスが困っている。

 店内だぞ? 天井にぶつからないか?

 俺達が心配するのにもかまわず、ヘルマールはホウキを受け取って跨る。

 床から足を離すと、30センチほど浮いた所でふわふわしている。

「おお」

 こうやって飛ぶのか。

 ヘルマールは、横に一メートルぐらい動いたり、天井ギリギリまで上がったりしてから、床に下りて立った。

「なるほど。こんなもんか。いくら?」

「あの、仕入れ値が、銀貨四十枚なんです」

 高っ……。この前買った鎚と剣が合わせて銀貨八枚。

 単純計算でも十倍だ。

「んー。私が値段決めていいって事? じゃあ……」

 ヘルマールは、銀貨の詰まった袋を取り出し、中身を数えていたが、五枚ほど取り出して、残りの入った袋の方を渡してしまう。

 いいのか? 二百枚ぐらいあると思うんだけど……。

「代金はこんなもんかな?」

「え、いいんですか、こんなに……」

 アリスは戸惑っていたが、ヘルマールは笑顔で頷く。

「いいのいいの。来るかどうかもわからない私のために、こんな高い物仕入れてくれたんだから」

「そうですか。ありがとうございます」


 しかし、アリスさん、いい人だなぁ。

 こんな店が、あと三ヶ月でなくなってしまうなんて……実に惜しい。何で潰れちゃうんだろう。

 ……アリスがいい人過ぎるからかな? 今回だって、ヘルマールが再度来店しなかったら借金額に銀貨四十枚追加だもんな。そうやって借金が増えてったのかな。

 しかし、何とかしてあげたい。

 いっそクラスの皆を連れてこようか? でも、王宮で支給してもらった装備の方が優秀だから、そんなことする理由がないんだよなぁ……。

 そんあ事を考えているとアリスが微笑んでくれる。

「あ、タクミさんは、この前買った武器の調子はどうですか?」

「ん。悪くないよ?」

 あなたの想定とは違う意味で。

 剣の方とかは、既に別物と化しているもんな。


 待てよ? コボルトも魔術でも倒せるようになった今、俺だって亀を倒す必要はない。それなら鎚は売っちゃってもいいのか……いや、宝箱設置の実験に使うというのもあるか。まだ売らない方がいいだろう。

 それより、新たに武器を買って、宝箱に放り込みたい。

 だけどヘルマールがお金をほぼ全部使っちゃったからな。先の事になりそうだ。

「買いたい物もあるんだけど、それは、また今度にするよ」

「新しい武器種を試すんですか」

「いや、そうじゃない。ちょっと新しい商売を思いついたんだ」

 安い剣を買う。宝箱設置を利用してオプションをつける。そして転売する。

 このやり方で大もうけができそうな気がする。

 問題は、アリスの武器屋に売り払うとサイクルが崩壊するって事だ。客も来ない武器屋じゃ、高級品を買い取る資金なんかないだろうし。

 現実は上手く行かないものよな。


 ◇


 ヘルマールは新しいホウキが気に入ったのか。武器屋を出てからずっと空中一メートルぐらいの高さを飛びながら俺についてくる。

 いいのか、目立つぞ?

「次は王宮だけど、どっちにあるかわかるか?」

「んー、《ターミナル……、あ、やめた。ちょっと待っててね」

 ヘルマールは上空まで飛び上がり、少ししてから戻ってきた。

「向こうだったよ」

「ありがとう」

 王宮なら、大きな建物だろうし、空から探した方が早いもんな。



 一時間ぐらい歩いて王宮までつく。

 王宮の正門の前には騎士団名誉団長のカームさんと、委員長が立っていた。門番の人が連絡してくれたのかな?

 カームさんは、一週間ぐらい前に会った時と殆ど変わっていなかった。

 だが、委員長の方は姿が変わり果てている。灰色の全身を覆うローブを羽織り、枝がグルグル巻きになったような形の杖を持っていた。

 委員長のスキルとステータスは、魔術系の構成だっけ??


「タクミさん。今までどこにいたんですか」 

 カームさんが少し怒ったような顔で言う。

「いや、どこって都の外の森で魔物狩りを……」

「それは知っていましたよ。でも、三日分の食料しか持っていかなかったし、無茶はしないようにと言ったではないですか……」

「……」

 カームさんはまだ何か言いたそうだったが、委員長が前に出てくる。

「昨日、あなたを探すための捜索隊が出たのよ? まだ帰ってきてないけど……」

 え? 昨日なら俺も森にいたけど……行き違いになったのか?

 森は広いから、知らなければそうそう会えるものでもないけど。

「俺はミミックランドで修行してるって事になってなかったっけ?」

「何それ? 聞いてないわよ」

「いや、だから……シーフギルドの人達がみんなを騙して」

「シーフギルド? 騙す?」

 ……ああ、そうだ。すっかり忘れてたけど、あれハッタリだったのか。

 どうしよう。

「っていうか、ミミックランドってなんだっけ? ……高橋君が言ってたアレの事?」

「あ、それは知ってるけど……。ごめん、俺は関係ないから忘れて」

「……あなた何言ってるの?」

 俺も何言っているのかわからないけど。

 うかつな事を言うと、宝箱設置の事まで話してしまいそうだ。

 シーフギルドのいう事がどこまで本当なのか、わからない。けれど、このスキルの事は大神官の人も知らなかったぐらいだ。迂闊な情報公開は危険を伴う気がする。

「それに、その女の子は何? コスプレ?」

 委員長は、俺の後ろに立っているヘルマールの方を指差しながら言う。

 コスプレ?

「いや、別にコスプレとかではないと思うけど」

「コスプレって何?」

 この世界にはそんな言葉ないらしい。 

「だって、変な服を着て、ホウキ持って……魔女っ娘のコスプレ、だと思うけど……違うの?」

 委員長、しっかりしてくれ。

 自分が魔術士のコスプレみたいになってるのに何を言ってるんだ。



都築一美


攻撃:1800

防御:1950

追尾:4500

回避:3600

探知:2500

隠密:3600

適性:4600


スキル:ワーグ語、火属性魔術、水属性魔術、MP超回復、高速詠唱

固有スキル:魔術取得ボーナス



委員長のステータスを復習


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