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14バネと歯車の箱


 洞窟の外に出る。

 既に日は暮れかけていた。


 洞窟から少し離れた所で焚き火をして、夕食の準備をする。

 あいも変わらず、パンとシチューだ。

 食べながら、ヘルマールに聞いてみる。

「なあ。魔術って、俺でも使えると思うか?」

 アイテム変化の致命的な欠点が原因で、俺のスキル的に近接での戦闘は将来性がない。

 だとしたら、遠距離攻撃ができるような魔術を覚えるのが俺には有っているのかもしれない。

「んー、どうだろうね? お兄さんの適性は高めだから、いけると思うけど……教えてあげようか?」

「ああ、頼む」


 ヘルマールは手を掲げる。

「まずね、手を前に出して、ここに魔力を集めるの」

「魔力を?」

 そういう物があるらしいのはわかっているのだが……

「宝箱召喚する時も、魔力を消費しているはずだよ? それと同じ感覚でやってみて」

「んー、こうか!」

 何かの力が腕の中を走る。

 そして、俺の目の前に宝箱、いや、レッサー・ミミックが出現した。

 あー……。

 ヘルマールは何か言いたげな表情でそれを見やった後、頷く。

「うん。まあそれでいいや。つまり、意図した時に魔力を流すのは既にできてるんだよね。問題は、その魔力をミミック以外の事に使えるかどうかだよね。とりあえず、これ」

 ヘルマールは服の中から二本、棒のような物を取り出し、片方を俺に渡してきた。

 なんだこの棒、先端に星型の飾りがついているけど。

「これは、魔術のステッキか?」

「そっちは予備のだけどね。魔術を使っていくつもりならこういうのも持ってた方がいいと思うよ」

 なるほど。

 これも武器なのだろうか? 後でアイテム変化に覚えさせておくか?

 いや、何考えてんだ俺。


 と、ヘルマールに服を引っ張られる。

「ねえ。あのミミックどうするの? お兄さんが倒してみる?」

 あ、さっき俺が出しちゃったやつ、まだ箱に擬態したままなのか。

「いや、やめとくよ。下手したら俺、死ぬんじゃないかな」

「じゃ、私がやっとくよ……ほら」

 ヘルマールはステッキを振る。

「《スターガン》《スターガン》《スターガン》」


 キュィィィン と金属質の音がした。


 青白い星の固まりが空中に生み出されて、ミミックに向かって飛んでいく。ミミックは攻撃に反応して擬態をやめて横に飛び退いた。だが、その逃げる先を封じるかのように二発目が飛んで行く。ミミックは動きを止め、そこに一拍遅れて三発目の星が飛んで行き貫いた。

 ミミックは真っ二つになり、光を発しながら消える。

「これが魔術の初歩、スターガンだよ? お兄さんもやってみてよ。えへへ」

 得意げに笑うヘルマール。

 ……えー。これが一番簡単な魔術なの? 俺もこれできるようになるの? 本当に?


 いや、避ける方向の先読みは別としても、とりあえず一発目が撃てればいいか。


「スターガン!」

 見よう見まねでやってみる。

 ……何も起こらない。

「もっと、杖に魔力を通して。魔術の完成形をイメージして」

「お、おう」

「それとこれは土属性魔術だから、その辺りも考えてね」

 土? 星なのに?

 あれは石の固まりみたいなものか?

 土属性、

「《スターガン》」

 何かが突き抜けるような感覚。


 キュゥン と、小犬が鳴くような音がした。


 音違くね? と思いながら、横を見ると砂を固めていびつな星型にしたような物が浮いていた。

「え? 何これ……」

「うーん? 惜しい、のかなぁ」

 俺が困惑している間に、星型の固まりは地面に落下し、ブジュゥ、と断末魔のような音を残して消えた。

 ……今のは、どんな失敗だったんだ? 何をどう間違えた結果なのかまるでわからない。

 何にしろ、もうちょっと練習が必要のようだ。


「えっと、次行こうか。ターミナル・コンパスは風属性魔術だよ。」

 あの道案内の魔術か。

「ただ、これはちょっと複雑な仕組みがあって、言葉では伝えづらいんだよね……」

「一応説明してみてくれ」

「うん……。この魔術には大きく分けて、四つの箱があるの。矢印の形を出して、空中に浮かべておく箱。次に対象となる物を探し出すための箱。その二つを連動させて矢印の方向を決定させる箱。最後に、矢印を使用者の近くに浮かべておく箱。……ここまではいい?」

「な、なんとか……」

 まずい。

 最後までついていけないかもしれない。


 その後、ヘルマールは三十分ぐらいかけて説明してくれたのだが、もしかしてロボットのプログラミングみたいな物かな? ぐらいにしか理解できなかった。


「とりあえず、理屈はなんとなくわかったけれど、そんなの本当に俺に使えるのか?」

「やってみるしかないね。一応、呪文、唱えてみようか《ターミナル・コンパス》」

 空中に矢印のような物が浮かび上がる。

 手を伸ばしてみても触れることはできない。立体映像のような物か? 攻撃には使えないのか。

「ターミナルコンパス」

 真似して唱えてみても、何も起こらない。

 これは、どうすればいいんだ?


 考えていると、ヘルマールが顔を近づけてくる。

「えっとね、魔術式はこんな感じ?」

 熱を測るように額と額が合わさる。

 何か甘い臭いがする。なんだ、こいつ何する気だ。

「はい、行くよ」

「ぐおわっ?」


 何かが頭に流れ込んでくる。図形のような物、たくさんの数式、何かバネと歯車のような物の塊が四つあって、それぞれが複雑に影響を与えあっているかのような……。


「お兄さん、お兄さん」

 なんか、心配そうな顔のヘルマールに肩を揺すられていた。気付けば、なぜか地面に横たわっている。

 俺は、意識を失っていたのか?

「お兄さん、大丈夫?」

「お、おう……」

 何か大切な物を掴みかけたのに取り逃がしたかのような感覚。

 今ので大丈夫なんだろうか?

「いきなりだと刺激が強すぎたかな」

「そうでもないさ。おかげでだいたいわかった」

「……いや、私もこれやるの初めてだったから、ちょっと転送する情報量を間違えたような気がするんだけど……」

 ヘルマールは何か言っているが、一回使ってみれば、安定するような気がする。


「《ターミナル・コン













 木の隙間から差し込む光で目が覚めた。

 なんだ、もう朝か?

 ……っていうか、昨日の夜、俺はいつ寝たんだっけ?

 物凄い夢を見たような気がするんだけど、よく思いだせない。

「うにゃー」

 何か柔らかい物が抱きついてくると思ったら、ヘルマールだった。


 普通の朝だ。

 昨夜の記憶がなければ、何の問題もないんだけど。


 空を見ながらボーっとしていると、ヘルマールが目を覚ました。

「……あっ、お兄さんおはよう。今日は何月何日かわかる?」

 わからないよ。

 記憶がどうこう以前に、こっちの暦なんて教わってない。

「昨日はコボルトの巣に入って宝箱設置をしてきた、であってるよな?」

「なら大丈夫かな」

 ヘルマールは安心したようだった。


 おかしいな、何か隠してないか?


 ◇


 朝食を終えてから再び洞窟に潜る。


 今日の武器はステッキだ。魔術でコボルトに挑んでみる。

 早速、一匹目を発見。


「《スターガン》」

 キュイン、と金属質の音がして、飛んでいった星の固まりがコボルトを打ちのめした。

『キエッグ!』

 それでも立ち上がるコボルト、ならもう一発。

「《スターガン》」

 今度はトドメをさせた。

 コボルトは倒れ、光になって消えていく。


「あっ、あれ?」

 ヘルマールが驚いている。

「おかしくない? それ、もう使いこなせるようになったの?」

「ん? ああ、なんかできた」

「……昨日はあんなだったのに? まずいな、私やっちゃったかな。知識を流した時に間違えて……」

 え? 何をしたの?

 俺は少し待ってみたけど、ヘルマールは何も説明してくれそうになかった。

 何か、ダメなフラグの臭いがするんだけど、大丈夫かな?


 それはさておき、

 俺は遠距離攻撃ができるようになったので、コボルト二匹が来ても危なげなく倒せる。

 昨日の倍以上の速度で洞窟の中を進んでいく。


 鬼脈の流れに従って歩いて、洞窟の行き止まりにたどり着いた。

 昨日、俺が設置した宝箱だ。


《普通の宝箱》

『成長期のミミック。まだだめよ、まだだめよ』


 うん、そうだよな。仕掛けたのは昨日の夕方。まだ二十四時間経っていない。

 夕方ごろに、もう一度来てみよう。


 洞窟内を適当に歩いていると、天井を流れる光の粒子が見えた。

 鬼脈?

 さっきのとは違う、別の鬼脈があるのか?

 せっかくだし、こちらにも宝箱を仕掛けてみよう。


 俺が鬼脈を追いかけながら歩いていると、ヘルマールが心配そうに言う。

「あの、お兄さん、そっち行くの?」

「そのつもりだけど、何かマズイのか? 嫌ならやめるけど」

「いや……私がいるから問題はないと思うけど、たぶん気付いてないかな、と思って」

「気付いてないって、何に?」

「大した事じゃないよ。この先に、コボルトがいっぱいいるってだけだから」

 俺では戦えない数のコボルトが?

「いざと言う時は助けてくれるんだよな?」

「もちろん。コボルトなんか一万匹が襲い掛かってきたって私の敵じゃないよ」

「ははは、一万匹だなんて大げさな……」

 笑っていられたのは、その場所に到着するまでだった。


 ◇


 直径百メートルか、それ以上の広大な広間。

 天井は吹き抜けで日の光が差し込んでいる。

 そこに無数のコボルトがいた。


『キェッグ』『キェッグ』『キェッグ』『キェッグ』『キェッグ』『キェッグ』


 叫び声が重なって、ぐわんぐわんと鳴り響いている。

 一万、はいないだろうが、百より少ないという事はないだろう。大変な数だ。


 さらに真ん中に、一匹。普通の二倍以上の大きさの巨大なコボルトがいる。


《コボルト・キング》


攻撃:3000

防御:1800

追尾:1200

回避:1080

探知: 900

隠密: 600

適性: 600


スキル:ブラッドヒート、バーサーカー、食いしばり



 やばい、先に予告されていたとはいえ、こんな凄い数だとは思わなかったぞ?

 俺の後ろから部屋の中を覗いているヘルマール。

「うわー、なんかいっぱいいるね」

 呑気な事を言っている。

 少しは慌てろよ。これゲームだったらBGM変わってるぞ。


モンスターハウスだ!

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