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13コボルトのぼろい槍


 このタイミングでアイテム変化が発動するとは思わなかった。

 アイテム変化はこれで三度目になる。

 元に戻るのは、変身後一分以上経過してから強く念じればいいようだ。最初の時は慌てていて、よくわからないうちに戻ってしまったし、二度目は何かされて意識を失って、気付いたら元に戻っていたが。


 手に持っていた物や服はどこに消えているんだろう?

 あとたぶん、武器化している時は俺の体重より軽くなっているはずだ。質量保存の法則を無視しているような気がするんだけど大丈夫なんだろうか?

 他にもいろいろ疑問はある。まあ、そんなの魔術や魔物が存在する世界で言ってもしかたないけど。

 とりあえず、俺にとっての最大の問題は他にある。


 一度洞窟の外に戻って休憩。

 俺がぼんやり空を眺めていると、ヘルマールに頬をつつかれた。

「お兄さん。どうしたの、落ち込んじゃって」

 おう。良くぞ聞いてくれたな。

「あのさ、俺、すごい事に気付いちゃった」

「ん?」

「アイテム変化のスキルって、ゴミじゃね? ……一ダメージでも食らうと行動不能になる可能性があるって、戦闘ではまるで役立たずじゃね?」

 もはや呪いと言っても過言ではない。

 このまま狩りを続けて、どんなにステータスを上げて強くなっても、アイテム変化が発動したらおしまいだ。

 逃げる奴は戦闘力としては役に立たない。

 俺の場合は別に逃げているわけではないけれど、勝手に発動するが故に、逃げるより性質が悪い。脅しをかけても鎖をつけてもても勇気を奮い起こしても、自動発動するスキルを妨げる役には立たない。

 俺だって戦いたいのに。

「……いや、それは……でも、武器になったらダメージ受けないんでしょ? それなら、戦闘中でもお兄さんは安全が確保されるんじゃないかな?」

 それが落ち込む理由なんだよ。

 女の子と組んで、男が一方的に守られるだけって……。いや、性別が問題というわけではない。

 ただ俺は、前衛戦力としては可能性すらなく、後方支援の力も持たず、この世界の知識もない。

 そして、にぎやかしのポジションすらヘルマールの方に分がある。

 無慈悲な戦力外通知。

 ファンタジーだぞ? 異世界トリップだぞ?

「まあまあお兄さん。そんな落ち込まないで。あんなスキル、私だって見た事ないよ?」

 ヘルマールは慰めてくれる。

「珍しいのはわかるけど、どう考えても役に立たないからな……」

「じゃあこうしようよ。お兄さんが武器になって私がそれで戦うの」

 その提案は予想していた。

 でもヘルマールの場合、武器とかなくても戦えるからな……。仮に俺が武器になったとして、それで何パーセントぐらい戦力が上昇するのだろう?

 いや、比較対象がヘルマールだからダメなのか。

 いっそ、クラスメートのいる所に戻るか?

 でも王宮に戻っても、騎士団の名誉団長の人から戦力外通知されてるからな。

 自分が武器化するのは、最後の手段だな。


 つまり、俺の方針の上ではこのスキルは百害あって一理なし、だ。

 いっそ回避系の能力を育てて、敵の攻撃全てを回避していくか?

 あるいは弓か魔術の訓練をして遠距離攻撃の手段を増やすか……。

「んー。さっきは鎚になったけど、この前は剣だったよね? 他の武器にもなれるの?」

「それは、まだわからない」

 何しろ三回しかなった事が……いや、待てよ?

 スキル説明。


《アイテム変化EX(レベル2)》

『攻撃を受けると自分がオニギリ、あるいはカナヅチになる。レベルが上昇すると他のアイテムにも変化できるようになる』


 ちゃんと説明が増えていた。

 カナヅチってカタカナで書かれると泳げない人みたいだ。自分で変化した後でなかったらまた勘違いしただろう。


 しかし、いつレベルが上がった? 考えられるのは戦ってステータスを上げたから、あるいはスキルを三回使ったから。

 三回でレベル2になるなら、レベル上げも容易いのか、と思ったけれど、レベルを上げても分身したりできるわけじゃないからな。


 ……待てよ?

 もしかすると、レベルが上がったから他の物に変化したのではなく、その逆に、他の物に変化したからレベルが上がったと言う事はないのか?

 つまり、俺が金槌を持っている時にスキルが発動したから金槌に変化した?

 だとすると、俺が斧を持っている時に変化すれば斧になり、槍を持っている時に変化すれば槍になるのだろうか?


 一応、試してみる価値は、あるか?


 ◇


 俺はまた洞窟に入る事にする。ヘルマールは暇そうな感じで後ろからついてきた。

 今度の武器は、さっきコボルトを倒した時にドロップした槍だ。


《コボルトのぼろい槍》

『補正なし』


 果てしなく頼りないが、一応武器だ。

 戦いには使えるだろう。マイナスがないだけありがたいと思う事にしよう。


 むしろ今回怖いのは、自分から刺されなくてはいけない事だ。

 攻撃を受ければ普通に痛いし、変化が発動せずに死ぬ可能性もある。

「できるだけ普通に戦ってみて、無傷で勝てるならそれでよしって事にしよう」

 自分から刺されに行くのはなしの方向で。

 それに、ステータスが上がれば攻撃で死ぬ危険が減るから、攻撃を受けやすくなる。HPがどうなっているのかはわからないけど、発想はあっているはずだ。

 どこか矛盾している気もするけれど、戦わないためには、戦ってステータスを上げていくしかないのだ。

「マイペースが一番だよね」

 ヘルマールが、支援魔術をかけてくれる。


 さて。

 コボルトが出てくるか、と思っていたら三匹でてきた。これはマズイ。

「《グラビティー・バインド》」

 ヘルマールが重力魔法で動きを止めてくれたので、一匹ずつ槍で突き刺していく。

 これはこれでよし、と。


 次。

 数分歩くと、一匹だけでやってくるコボルトと遭遇する。

 今度は俺一人で戦う。


 突き出される槍を避けながら、槍で突き返す。

 外れた!

『キエッグ!』

 こっちをバカにしたように喜ぶコボルト。

 イラっとくる。おまえも外したくせに!

 もう一度、狙いをつけて攻撃すると、今度は当たった。

『キエェ……!』

 アースブランドの効果もあって、一撃だ。

 光になって消えていくコボルトを見送りながら、俺は安堵のため息をつく。

「おお。槍でも意外と戦える感じ?」

「いや、ちょっと厳しいかもしれない」


 力に任せて振り回す金槌は線の攻撃だった。

 敵の懐に潜りこむ必要はあるが、距離さえ合っているなら振れば当たる。

 だが、突き刺す槍は点の攻撃だ。精密さが要求される。

 今の戦闘だって、一回外している。どうせ一撃なら、確実に当てられる攻撃を放って行きたい。


 とりあえず次だ。

 ると、またコボルトが来た。

 今度は二匹。

「んー、私はどうする?」

「一匹が来た時だけ普通に戦う事にしようかと」

「オッケー。《グラビティー・バインド》」

 地面に貼り付けにして、槍で刺す。

 ……そうだ、魔術も覚えないといけないんだった。特にバインド系は早く使える様になりたい。


 そんなこんなで、十匹ぐらいのコボルトを倒しながら洞窟を進む。

 また一匹のコボルトが出てきた。

 俺は一人で挑む。

 これに無傷で勝てたら、次からは二匹相手にも挑戦してみ……、ぐえっ。


 油断していたのか攻撃を受けてしまい、俺はアイテム化してしまう。

 例によって、コボルトはヘルマールが吹き飛ばした。


 そして拾われる。

「うーん。槍になったね……」

 やれやれだな。

 このスキル、自分でやってて本当に嫌になる。

 早く一分過ぎないかな……。

 あ、ステータスはどうだろう?


《トンボキリ》

『武器タイプ:切断槍 攻撃+3360 特性:虫型の魔物に対してダメージ二倍』

『空気が読めるあなたは、ロボットのように振舞い、無言を貫き、徳川家康に忠義を尽くすべし』


 はいはい。

 そんなフレーバーテキストいらないから。というか何のネタなのかまるでわかん。徳川って名前が出てくるって事は日本人が使ってたのかね?


 ◇


 一分経ってから人間に戻ったついでにスキル説明を見る。



《アイテム変化EX(レベル3)》

『攻撃を受けると自分がオニギリ、あるいはカナヅチ、トンボキリになる。レベルが上昇すると他のアイテムにも変化できるようになる』


 これで、レベルアップの条件が回数ではない事はほぼ確定だな。

 たぶん「特定の武器で敵を倒す」「特定の武器を持っている時にダメージを受ける」のどちらか、あるいは両方だろう。

 これからは、多種多様な武器を経験してみようと思う。

 一応、あらゆる事態に備えて、思いつく限りの武器を登録しておく必要があるからな。


「問題は、一々痛いって事だよな。もっと安全に変化する方法はないかな?」

「いっそ、自分を自分で攻撃するとかじゃダメなの?」

「それも考えてはみたけれど……」

 自傷するとか、なんか嫌だ。

 もっと安全かつポジティブな感じで変化したい。


 いやいや、ちょっと待て? 何でアイテム変化を受け入れてるんだ俺。

 少しずつ、人としての誇りを失っているぞ。


 ◇


 洞窟の天井を見上げれば、ヘルマールが出した炎の向こうに見える。

 光の粒が流れる透明なパイプのような物。

 宝箱設置のスキルを持つ者にしか見えない力の流れ。


 鬼脈だ。


 俺は鬼脈の流れを頼りに洞窟の奥を目指す。

 分かれ道で左に。

「あれ? そっちなの?」

 後ろからヘルマールの声が掛かる。

「え? 違うのか?」

「いや、……なんか敵の気配が多い方に向かって行くから、戦いを望んでいるのかと」

「俺にはそんなのわからないし、一対一でも命がけなのに行くわけないだろ」

「それもそうか。でも、さっきから確信を持って歩いてるみたいだったからさ」

「今の俺には、別の目的地があるんだ」

「んー、何それ?」


「宝箱設置を試したい。だから鬼脈を追っている」


 俺が言うと、ヘルマールは、あーなるほど、と頷く。

「いい装備を作れたら、高く売れるんじゃないかと思ってさ」

 洞窟の行き止まりについた。

 天井を走っていた鬼脈が地面へと流れ込んでいる。ここか。

 使う前に、ちょっとスキル説明を確認。



《宝箱設置EX(レベル33)》

『宝箱を設置できる。レベルが上昇すると、設置できる数が凄く増える』



 あれ? レベル33?

 いつこんなにレベルが上がったんだろう?

 王宮の庭で高橋を相手に千回以上召喚した事ぐらいしか思い当たらない。確実にあれだな。


 さて。

 ロクシエールは、核となるアイテムを置くと言っていた。でも何も置かないでも魔石が出てくるんだっけ?

 じゃあ最初はそれでやってみるか。補正なしの剣は用意してきたけれど、どこに使えばいいのかよくわからないし

「《宝箱設置EX》」

 俺が念じながら呪文を唱えると、何の変哲もない箱が設置される。

 一応鑑定してみる。


《普通の宝箱》

『生まれたばかりのミミック。まだだめよ、まだだめよ』


 あー、えーと。この説明が出るって事は一応、成功してるっぽいな。説明の内容にはツッコミ所しかないけど。


 さてと、一日ぐらい待てばいいんだったかな?

 洞窟を出て時間を潰すか。


騎士団の名誉団長の人(作者も名前忘れた)

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