12アイテム変化も進化する
食料、毛布、浄水器。
残りの荷物は簡単に買い集める事ができた。
「さてと、町からどうやって脱出しようかな」
ヘルマール
「普通に門から出るのはダメなのか?」
「シーフギルドが監視してるんじゃないかな? 外に出た所を追跡されて、油断した瞬間に何かされちゃうよ」
「そっか……なら、下水道か」
「下水道? 何それ?」
この世界には、そういうのないのか?
……城で使ってたトイレはどうなっていたんだろう? ボットン便所だったのかな。
「下水道って言うのは……こう、町の地下に人が通れるぐらいの直径の通路があってさ、あちこちに出入りできる蓋みたいなのがあって……そこから侵入できるようになっているんだ」
下水道本来の役割はともかく、今下水道が必要な理由としてはこんなもんだろう。
だが、ヘルマールは納得してくれなかった。
「君の故郷の町とか重要施設って、わざわざ外敵を侵入させる地下道を作っているの?」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
そうだよな。
現実には簡単に行き来できないよな。
きっと、この世界に下水道が存在したとしても、鉄格子か何かで道を塞がれているのだろう……。
「この辺りは、冬だと水は凍っちゃうし、その冬も半年ぐらい続くからね。そういう大規模な水道施設は作れないと思うよ」
「そうなのか……」
ロマンが否定されるのは、寒い気候が悪いのだ。
南の方に行けばワンチャンあるのか。……あ、南は海と魔王領だっけ。じゃあ無理か。
「それで、どうやって脱出するんだ?」
「暗くなるのを待って、警備の隙を突いて壁を乗り越える……」
「あの壁を?」
都を取り囲む壁は、高さ十メートルぐらいある上に、だった。
「ばれたら?」
「ちょっと気絶してもらうだけですむよ。でも顔は見られないように気をつけてね」
ヘルマールは笑う。
おまえの服装が特徴的過ぎて、顔とか関係なくね? と思ったけれど、そういうえばこの子、ステルス迷彩が使えるんだった。
ようするに俺が見つかるかどうかが問題なのか。
◇
夜が更けるまで、適当な食堂で時間を潰してから、俺達は壁際に向かった。
特に警備兵に見咎められる事もなく、都を囲む壁までたどり着く。
「《エア・カタパルト》」
ヘルマールの魔術で空中に飛び上がり、壁を飛び越える。
「うわっ? わああああああっ?」
なんだかわけのわからない高さまで吹き飛ばされた、
百メートルか、二百メートルか……、町の明かりが下の方に見える。空中をグルグル回転し、一瞬空中で静止、そして落下し始める。
「うわあああああっ?」
「とっ……」
何か柔らかいものに受け止められて、跳ね上げられ、また落ちた。
俺の着地点に、いつの間にか《エア・バッグ》が展開されていて、それが衝撃を殺してくれたのだ。
いつの間に壁を越えたのか、ヘルマールが駆け寄ってくる
「ごめんごめん、ちょっと威力上げすぎた」
「次からはもうちょっと優しい移動法を頼む……」
これ、人を移動させるための魔術じゃないような気がするんだけどな。本当は何に使うんだろう?
とりあえず、都から離れる。そんな思いで、二時間ほど森の中を歩いた。
「これぐらい離れればいいかな」
ヘルマールは言うと、休憩を指示する。というかヘルマール自身が限界のようで、その場に座り込むと気によりかかって目を閉じてしまった。
俺もその隣に座る。
「今日、何時間歩いたんだろ……」
壁を越える前、町中でも四、五時間は歩いているはず。足が棒のようにいう事を聞かない。
「おい、そのまま寝ると、風邪ひくぞ」
俺は荷物の中から毛布を引っ張り出して、ヘルマールを包む。
「ふにゃぁ……」
ヘルマールは変な声を上げながら、俺の方に寄りかかってくる。さらさらした髪が俺の鼻をくすぐる。
「まったく……」
俺はヘルマールの体を引き寄せると、毛布で包んだ。
寝ぼけているのか、ヘルマールも俺に抱きついてくる。
暑苦しいが、だった。
◇
意識を失うように眠りについて、気がついたら夜が明けていた。
まだ疲れは取れなかったが先へと進む。
ヘルマールは《ターミナル・コンパス》でコボルトの巣穴を探していた。
「なあ、俺、そこに行っても勝てるのか? ステータス的には勝ち目がない相手だって言われたような気がするんだが……」
「大丈夫。お兄さんが負けそうだったら、私が後ろから支援するからさ」
身の安全は確保されたけど、俺の誇りが失われたような気がする。
歩く事、数時間、昼ごろに洞窟の手前まで来た。
洞窟の前には奇妙な生き物が何匹かいる。
強いて言うなら、灰色の布をかぶった二足歩行する犬、だろうか?
《コボルト》
攻撃:500
防御:300
追尾:200
回避:180
探知:150
隠密:100
適性:100
スキル:なし
「弱そう」
敵としては今一つな感じがする。
だが、攻撃と防御は俺の倍ぐらいある。真の意味で弱いのは俺の方だ。
こいつらと正面から殴り合ったら、確実に負けるだろう。
コボルト達が手に持っているのは木の棒を削って作ったような槍。洞窟の入り口を警備しているのだろうか?
『キエッグ!』『クエッグ!』
変な声を上げて、何か会話をしているが、こっちには気付いていないようだ。
と、コボルトを観察していた俺の服を、ヘルマールが引っ張る。
「ねえ、お兄さん。そろそろご飯の時間だと思うんだ?」
「え? いや、戦う前に腹ごしらえはいいけどさ、臭いとかでコボルトに気付かれたらまずいんじゃないか……?」
「うーん、じゃあ先に戦う? 洞窟の外にいるのだけでもさ」
「……お、おう」
「じゃ、行くよ。《グラビティー・バインド》」
ヘルマールが呪文を唱えると、三匹のコボルト達は、その場にひっくり返った。
俺は鎚を構えて近寄ると、一匹の頭めがけて振り下ろした。ゴキッ、と音。もう一度。
ドシャッ、と音がして、コボルトの頭が潰れた。うう……やっぱりこの武器、失敗だったような気がする、ビジュアル的な意味で。
コボルとはしばらくぴくぴく動いていたが、光の粒になって消えた。
俺は、残り二匹のコボルトも同じように倒す。
「ステータス、上がってる?」
「まあ、少しはな」
本当に、ごくわずかな上昇。
こんなんで、クラスの皆に追いつけるんだろうか?
無理か。でも絶対諦めないぞ。
◇
少し離れた所で昼食を取って、重い荷物は茂みに隠した。
さて、洞窟探索だ。
ヘルマールが魔術で浮かぶ炎を出して、その光を頼りに俺達は洞窟の中に進む。
天井を見上げると、何か光の粒のような物が流れている。
これは……魔素? まさか鬼脈があるのか?
いや、コボルトも魔物だし、この森自体が一種のダンジョンだと聞いた。鬼脈がどこかにいるのは当然か。
後で計画を実行しよう……
洞窟の奥へ百メートルほど進んだところでコボルトが出現した。
俺は鎚を構える。
「俺一人でやってみる」
「うん、今回は一応支援魔術かけとくね《ウレイズ・ヘイスト》《アース・ブランド》」
ヘルマールが呪文を唱えると、俺の体が少し軽くなった。そして鎚が重くなったような気がする。
鑑定する限りではステータスは変化していないけれど、ヘイストなら行動速度が速くなっているのだろうか? 武器にも、何か補正が掛かっているのか?
『キエッグ!』
叫び声を上げながら襲ってくるコボルト。
俺は突き出された槍を、危なげなく避ける。
体が軽い。こんな気持ちで戦うのは初めてだ。
「うりゃぁ!」
振り下ろす鎚。コボルトの頭部を一撃で破壊した。
コボルトは光になって消えて、槍だけが残る。
なんだこの槍?
消える時に落としたのか? いや、入り口で倒したあいつらは、何も残さなかったような……。何か条件があるのか、あるいは単に確率の問題なのか。
「支援ありとは言え、意外と勝てるもんだな」
「この槍はどうする?」
「え……」
持って帰って売る、というのを考えた。
いくらになるのかは知らないが。
「余裕があったら後で回収しよう」
「私がいるから余裕はあるに決まってるんだけどね」
ヘルマールは言いながら槍を拾い上げる。
さて、支援が切れる前に次の敵と戦いたい。
俺は洞窟の先へと進む。
現れたのはコボルト二匹。
「……あれ? 二匹同時はちょっとまずくないか?」
「さすがに即死はしないと思うし、大丈夫じゃない?」
「それもそうか、よし」
先制攻撃で右のコボルトを一撃。光になって消えるコボルト。しかし左側のコボルトが槍を突き出してくる。
俺はその穂先を華麗に避け、……られなかった。
「ぐあっ?」
胸を抉るような痛み、そして体が動かなくなる。そんな……俺は、死ぬのか?
「とりゃっ」
ヘルマールがコボルトを軽くキックで吹き飛ばしてから、倒れている俺を見下ろす。
「あー、お兄さん。またやっちゃったね」
またって何が? 苦言の類は後で聞くから、治癒系の魔術とか使えたりしない?
俺の内心を知ってか知らずか、ヘルマールは俺を拾い上げた。
「始めて見た時はビックリしたよ。人間が剣になるなんて思わなかったからさ……」
あ、またって、もしかしてそういう事か?
アイテム変化が発動してるのか?
ステータス。
《鍛冶の金槌》
『武器タイプ:軽鎚 攻撃力+3975 特性:防御ステータス20%上昇、命中ステータス10%低下』
あれ? 鎚?
今回は剣じゃないのか?
下水道を通って侵入、あるいは脱出するゲームってなんかあったっけ、と考えたけど、わりと数え切れないほどある件
今回はやらなかったけれど、いつか必ず
(一部、斧になってた箇所があったので修正)




