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9シーフギルドのみが王国の歴史に責任を負うのだ


 ダンジョンから戻って、ミミックランドの建物の二階。

 ギルド長の部屋で紅茶を出された。

「どうしました? よほどショックでしたか?」

 ロクシエールは微笑む。

 俺は返事をせずに部屋を見回す。


 座敷牢の時も思ったが、いい部屋だ。

 金が掛かっている気がする。

 長の部屋だからということもあるだろうけど、シーフギルド自体が儲かってるんだろうな。


「それでは、今後の事について話し合いましょう」

「その前に、いくつか質問があるんだけど?」

 今後の事なんて、聞く必要がない。

 だって状況がテンプレ過ぎるから。

 こいつらは、シーフギルドが五百年守ってきた秘密を俺に教えたのだ。はいさようなら、とはいかないだろう。

 仲間になるか、否か。それを問われるのだ。もちろん断れば、殺されるのもテンプレ。

 ならば、てみる。

「私も忙しいのですが……、三つまでならいいですよ」


 三つか……十分だな。


「一つめの質問。宝箱設置の正しい使い方について、改めて説明してもらえるか? さっきの実演だけだと、まだよくわからなくて」

「いいですよ」

 ロクシエールは微笑む。

「まず一つは、場所を選びます。私には見えないのですが、この世界には鬼脈とよばれるエネルギーの流れがあるそうです。その流れを吸い取るような位置に宝箱を設置すれば、うまくいくそうです」

「鬼脈って、どこのダンジョンにでもある物なのか?」

「当然です。鬼脈を流れるエネルギーは、魔素と等価交換される物ですから」

 ダンジョンがあるなら魔素があり鬼脈もある、と。

 魔素があれば魔物が沸いて、その地がダンジョン化する。つまり全ては切れない関係にあるという事か。

「ダンジョンによって、向き不向きもあるそうです。ちなみに、ここのダンジョンは刃物に特化していますよ。他にも、防具に向いたダンジョン、薬品に向いたダンジョンというのもあるそうです」

「なるほど」

 薬品か。この世界にもエリクサーとかあるんだろうか?

「もう一つ、大事なのはタネとなるアイテムを入れる事。入れなくても魔石が生成される事はあるけれど、入れた方がいいです。武器自体は変化していなくても、補正値が上がっているそうです」

「そういえば、さっきのも、鉄の剣を入れたんだっけ?」

「そうですよ。入れる前は何のステータス補正がついていなかったのですが、そこそこの品になったようですね」

 安物の武器を業物に変える、というのか。

「最後に時間ですね。置いてからすぐだと何の効果もありません。逆に時間をかけすぎるのもよくないそうです」

「なんで?」

「魔素は魔物を生み出す物質です。そんな物に長時間触れていたら、人に仇なす邪悪な存在となる事もあるのですよ」

 欲張ると取り返しのつかない事になると。

 俺の場合は、鑑定があるからまだリカバリーがきくけど、みんながこのスキル持ってるわけじゃないもんな。

 とりあえず、宝箱設置の使い方はわかった。



 さて、ちょっと危険な領域に最大の懸案事項について聞かねばなるまい。



「質問の二つ目。なんでおまえら、宝箱設置の事を隠しているんだ?」

「公開する必要がないから、ですね」

 ロクシエールはすまし顔で言う。

「でもそれだと、宝箱設置のスキルを得た人間は困るだろ? 俺みたいに……」

「問題ありません。シーフギルドは国全体に情報網を持っています。宝箱設置のスキルを持った人間が現れたと聞けば、いち早くその人物に接触、保護する体制を整えているのです」

「情報を公開すれば、そんな事をする必要だってなくなるんじゃないか?」

「そんな事をしてみなさい。地方の貴族が宝箱設置のスキルを持った人間を探し出して、秘密裏に誘拐するようになってしまいます」

「……でも、おまえらも似たような事をしてるんだろ」

 そうじゃなきゃ、五百年も秘密を守れるわけがない。

 ロクシエールは奇妙な笑みを浮かべる。

「人聞きの悪い事を言わないでください。シーフでも、法律は守ります」

 嘘だ。

 俺を誘拐しておいて、そんな言い訳が通るわけないだろ。

「誘拐した宝箱設置のスキル持ちが歯向かう事はないのか」

「もちろん奴隷リング……ああいえ、ええとですね。国の未来のために快く協力してくれていますよ」

 今こいつ、奴隷リングって言ったぞ。

 もしかしてアレだろうか? 首に嵌められると主人の命令に逆らえなくなる上、主人が死ぬと一緒に死ぬという、テンプレ異世界物のお約束アイテム……。

 でもネット小説とかで、転生者が奴隷にされてそれを嵌められる展開って、そうそうないよな。だって、完全に詰むもん。


 こいつ、もしかして俺にもそのリングを嵌める気なのか? だとしたら、殺されても拒否しなければ。


「隠す理由はまあわかったとしても、あんたはちゃんと平等に管理しているのか?」

「もちろんです。シーフギルドには、それをする責任がありますから」

 怪しい。

「どこのダンジョンに宝箱設置のスキル持ちを派遣するかも。あんたが自由にできるわけだ」

「できますけど……、そんな面倒な事はしません。王都の周辺のダンジョンにしか送っていませんよ」

「地方はいいのか?」

「大事なのは、レアアイテムの数です。発生地を分散させる意味はありません」

 ロクシエールは平然と言ってのける。

「その方が、国が発展するではありませんか? 国のためを思えば、強力な魔具は優秀な騎士に与えられるべき。そしてその騎士を任命するのは王。となれば、王のお膝元で魔具が産出される方が何かと都合がいいのです」

 言ってる事は正しく思えるが、俺は知っているんだぞ?

「……大神官も宝箱設置の事を知らなかった」

「は?」

「王様は、知ってるのか? 宝箱設置の秘密」

「……さあ? 教えた事はありませんが?」

 やはりか。

 要するに、国のためとか語ってるけど、嘘って事じゃないか。


 ロクシエールは窓辺に立つと、窓の方を向く。

「この国は、大陸の北限にあります。ここから北に一週間ほど歩けば、夏でも溶けない雪を見る事ができる。王都の周りでも農業はあまり発展していない……寒すぎるのです」

「……」

 こいつ、話を逸らしやがった。

「国王は南に領土を広げたい。けれど国の南西は海、そして南東には……あー、魔王? 魔王がいます」

 何か歯切れの悪い感。

「魔王と戦うには、大きな戦力が必要なのです。その戦力を生み出すためには強力な武器や防具が必要になる。戦えば負傷者がでるから薬品も欲しい……宝箱設置は必要なのです」

「そこまで重要なら、隠さないでちゃんと守った方がいいんじゃないか……」

「ここまで重要だからこそ、隠すのです」

 秘密主義にも限度ってあると思うけどな。


 さて。

 質問の三つ目は、俺をどうするつもりか、と聞くつもりだった。

 けれど、そんなの意味あるか?

 俺に奴隷リングをはめて言いなりにするつもりなんだろ? わかってるんだよ。

 だから、あえて別の事を聞く。


「質問の三つ目なんだが……さっきあんたが使ってたダガー、かなりいい品だったよな」

「ええ。あれはシーフギルドに代々伝わる装備です。大抵は、ステータス強化ぐらいしかでませんから。あそこまでいい物は百年に一つとかのレア物ですよ?」

「なるほど。やっぱりそうなのか」

 魔剣とかってレベルじゃないからな。あんな物が量産できるならこの世界はバランス崩壊している。

 それは予想していた。

 だからこそ聞かなければいけない事がある。

「あれは、王宮の宝物庫にある装備よりもいい物なのか?」

「……」

 ロクシエールは不満げに口をゆがめる。

 図星か。

「……あなたは、我々が、表向きには平等や国益を口にしながら、その実、一番いい物を独占して荒稼ぎをしていると、そうおっしゃりたいのですか?」

 仕組みを知っている以上、そういう事が可能になる。

「あんた、言ったよな? 宝箱を開けるのが早すぎると意味がなく、遅すぎると悪い結果がでるって。……って事は、宝箱を空ける人間はその宝箱がいつ仕掛けられたか、知っていなければいけない」

「……よくわかっていますね」

「結局の所、間違いで関係ない人間に見つかって開けられてしまったりしない限り、宝箱はシーフギルドの管理下で開けられるわけだ」

「そうですね」

「何で平然としてるんだよ! そんな事をして!」

「……いいでしょう。それぐらい。役得ですよ」

 役得?

 そんな話じゃないだろ。

「宝箱設置のスキルを持った人間を見つけて誘拐する、いう事を聞かなければ奴隷にする。それは悪だ」

「そうですか?」

「いくらシーフギルドの情報収集能力が高いと言っても、宝箱設置のスキルの事がシーフギルドの耳に入る前に、それ以外の人の耳にはいっているはずだ。家族とか友達とか……。どうやって口をふさいだ?」

 殺したのか?

 私利私欲のために、罪もない人を何人も何人も……。


 ロクシエールは平然と俺を見ている。

 視線を逸らさない。

「俺は異世界から来た。この国には思い入れも、義理もない。けどな……」

 シーフギルドに対してだって、思いいれも義理もない。

 いや、出会ってから高感度下がる要素はあったけど、上がる要素は一言もなかった。

「悪人に手を貸すつもりは、ない!」

 どうだ、言ってやったぞ!



「ふふふふふ、あはははははは」

 ロクシエールは口に手を当てて笑い出す。

「何がおかしい」

「おかしいって、何もかもおかしいでしょう」

「だからどこが」

「うふふ。弱者に正義を語る資格はない、という言葉を聞いた事は?」

 何? 俺が弱者?

 いや確かに弱いけどさ。

「……あなたは、昨日。自分がどこで何をやっていたのか、覚えていないようですね」

「昨日なら、朝から夕方まで森を歩いていて……あ、違う、一昨日か。あれ?」

 昨日は、ずっと寝ていたんだっけ? じゃあ、何もしていない。

「教えてあげましょう。昨日、あなたは王宮に一度帰ったのです」

「バカな!」

「寝ている間に、魔術で操りました。そして騎士団の名誉団長の前で、『ミミックランドで三ヶ月ほど修行してくる』と宣言したのです……」

 なんだと?

 いやいや、ちょっと待て。それはおかしい。

 騙されないぞ?

「あんたはシーフであって魔術士じゃない。そんな高度な魔術、使える物か……。こっちの記憶が曖昧なのをいい事にハッタリをかましているんじゃないか?」

「確かめてみますか? まあ、確かめるために、あなたを王宮に連れて行くほど、我々はバカじゃありませんけどね。信じたくないならご自由にどうぞ」

 くっ。

「それとシーフギルドにも普通に魔術士はいますよ」

「え……」

 そういえば、シーフスキルは存在しなくて、全部魔術の系統の内なんだよな。この世界だと。

「スキル構成の問題もそうですが、ダンジョンの奥深くに宝箱を設置しに行くのです。攻略用のパーティーぐらい、確保していますよ?」

「……」

「ブライアンさん、もういいですよ、入ってきてください」

 扉が開いて、ブライアンが入ってくる。

「この物を牢へ」

 俺を指差してそう言う。


「俺に、いう事を聞かせられると思うなよ」

 俺が言って見せると、ブライアンは微笑む。

「……ハイパーミミック、見てみたいかね? もっとも、出した後操れるわけではないから、ワシも責任を取れんが」

「すいませんでした、牢に入ります」


 これ以上続けると、ブライアンのミミックで王都がヤバイ。



 ブライアンに引っ張られていく俺の背にロクシエールが問う。

「お金儲けは悪い事でしょうか?」

「いや、悪い事じゃない……」

 その過程で悪い事をしていない限りは、な。



 さて、カッコつけちゃったけど、これからどうするか……。


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