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第九十話 魅惑の第2図書室

 〝限定〟と言うとプレミア感があって素敵。ウロです。〝訳あり〟と言うとディスカウントされてる気がして何かモヤッとする。わたし、高くってよ?


 わたしたちが試練の塔から脱出した日より、今日で1週間が経ちました。


 その間、学長のラジウス・ダルコ先生が帰って来たりしたけれど、特別に会う訳でもなかったり。

 学長の帰った翌日、何故かレティ先生が涙目になってたりしましたが、無事にわたしたちの学生証は2年生仕様(仮)になったので良しです。


 これで、今まで行く事の出来なかったあんな場所やこんな場所に、思うさま入れる様になったのですよ! うひひ、テンション上がるぜえ!!


 ……などとアッパーになっているのは、何もわたしだけではありません。


 アルバートは、光属性魔法の書物を読み(ふけ)っているし、ニードルスも、同じ様に付与魔法関連の資料を熱心に集めている。


 図書室組とは別のジーナは、魔導器を扱う先生の研究室に入り浸っているみたいで、口を開けば、どこかで聞いた事のあるマジックアイテムの名前を呟いて、ホウとため息を吐きながらニヨニヨと口元を緩めている。


 みんな、時が動き出したみたいに楽しそうで何よりなのだけれど。

 一方で、授業以外でのミーティングと言う名のお茶会がほとんど無くなってしまって、ちょっぴりばかり寂しくなったりしました。


 ……まあ、わたしも大体は図書室通いなんですけれどね。


 初めて奥の通路を進んだ時は、何やら、ワクワクが止まらなかった。

 新しいエリアに入る喜び? みたいな。


 司書の先生方が『本館』と呼ぶ『第2図書室』は、細い通路の奥、通用口の様な小さな扉の先にあった。


 司書の先生に学生証を提示すると、「ほほう?」と言った驚きの声と共に、本館への入室を許可してくれた。


「この扉より先は本館になります。

 基本的に、本館への杖の持ち込みは禁止です。入口の司書に、必ず杖を預けてください。

 杖以外でも、何らかの魔法の発動体を持っているなら同様です。

 故意で無くともそれらを持ち込み、万が一にも事故が起こった場合、国への反逆と見なされるので注意ですよ?」


「は、はい!」


 いつもは無表情で、淡々と仕事をこなす司書の先生が、クワッと目を見開いて圧迫感たっぷりの説明に、思わずカクカクと首を縦に振って返事をする。


「では、気をつけて!」


 〝気をつけて〟の一言が、だいぶ気にはなったけれど。

 期待2、不安8な状態で、わたしは小さな扉をくぐる。

 扉の先に続く細い廊下は、少しずつ広くなって教室大の部屋に繋がっていた。


 部屋にはカウンターと、沢山の簡単な椅子があるだけで、病院の待合室を思い起こさせる。


 ここで、杖などの〝魔法の発動体〟を預けるみたいだよ。


 既に待っている生徒に混じって、わたしもカウンターで手続きを行った。


 手続きと言っても、杖と一緒に学生証を提出。

 手続きが終了して、入館許可が出るまで座って待つだけである。


 椅子に座って待つ事、数分。

 わたしの学生証が返却されて、入館が許可される。


「これで、入館手続きは終了です。お帰りの際、再度、学生証をご提示ください。杖の返却を行います。

 初めての本館利用ですので、中の司書から詳しい案内を受けてください」


「はい、解りました!」


「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 受付のおじ様に笑顔で見送られつつ、わたしはカウンターの横を抜けて行く。……また、気をつけてとか言ってだけれど。


「……うおう」


 目の前に広がる光景に、思わず感嘆の声が出た。


 てゆーか、学院の図書室の本気にビビッた。


 巨木をくり貫いたみたいな、円柱状の大空間。

 広いフロアの中央に、円状の受付カウンターがあって、多くの司書な方々が働いている。


 周りには、大きな閲覧机と立派な椅子が立ち並んでいて、何冊もの本を積んだ、2年生と思われる生徒の姿があった。


 閲覧机とは別に、仕切りの付いた個別仕様の自習机もあって、勉強するにはかなり良い環境な気がする。


 肝心の本はと言うと、フロアの壁一面が本棚であり、吹き抜けになった天井をめがけて高く高くそびえ立つ全てを本で満たしている。


 その周りには、一体何段あるのか見当もつかない長くて幅広な螺旋階段と、いくつもの移動式梯子。

 どんな仕掛けか、宙に浮かぶ何本もの渡り廊下。


 そして、本を抱えて忙しなく動き回る沢山の人形の姿が見受けられた。


「おおう、『オートマトン』だ!」


 今度は、懐かしさに声がもれた。


『オートマトン』は、イマージュ・オンラインの中に出てきた〝魔法人形〟の事だ。

 お店やお城、魔術師の館なんかで働く姿を良く見かけたりしたっけ。


 大きさは1メートルちょっとで、身長の割りに大きな頭と、縦長でエメラルドグリーンに光る楕円の目が2つ。

 細長い2本の腕には、3本指の手がついている。

 足の代わりに、ボーリングの玉の様な球体が1つ。球体と身体は密着しておらず、その間には小指の先が入る位の隙間が空いている。球体の上に身体が浮かんでいる感じかな?

 この球体が転がる事で、人が小走りする位のスピードで移動する。


 小柄だけれど、ある程度の力仕事と片言だけれど会話が可能な、イマージュ・オンラインのマスコット的存在だった。


 今、目の前で働いているオートマトンたちも同じみたいだけれど。

 制服なのか、紺色のローブと三角帽子で統一されていてカワイイ。


 懐かしさのあまり、オートマトンたちの姿を少しだけ目で追ったりしながら、わたしは中央の受付へとやって来た。中で働く司書の1人に声をかける。


「あの、すみません。初めての利用なんですけれど……」


「……はい。

 では、学生証を出してください」


 少しだけ気だるそうな、女性の司書さんが、手元の書類から目を上げずに手のひらだけをこちらに向けて来た。


 わたしは、その上に学生証をソッと置く。


 司書さんは、学生証を無言で受け取ると書類の上に置き、何事か呟いた。

 その言葉に反応して、わたしの学生証がボウッとした鈍い光を放った。

 同時に司書さんが、「へえ……」と小さく呟いたのが聞こえた。


「では、ウロさん。

 本館について、少し説明します」


 クイッと首を上げてわたしを見た司書さんは、わたしに学生証を返却しながら口を開いた。


「ご存知かとは思いますが、ここにある本は全て、ハイリム国が指定した貴重な魔導書です。

 間違っても盗もうとしたり、汚したり破壊したりはしないでください。高額の弁償金や、場合によっては捕まってしまいますからね?

 また、魔導書の中には読むだけで精神に影響を与える物や、呪われる可能性のある物も存在します。

 安全対策はされていますが、もしも何か影響を受けたと感じたなら、隠さずに必ずおっしゃってください。……迷惑ですから」


 早口に、何やら物騒な事を言い放つ司書のお姉さんに、少しだけゾッとしてみたりして。


 その後も、本館利用の説明が続いた。要約すると……。


 1 館内での魔法の使用は、特別な場合を除き、禁止である。


 2 危険な本があるから気をつける事。もし、体調に変化があった場合は、隠さずに申し出る事。


 3 本館所蔵の書物は、特別な場合を除いて完全に貸出禁止である。もし、勝手に持ち出した事がバレたなら、その身分に関係無く投獄される可能性がある。


 4 本館所蔵の書物は、許可無く写本してはいけない。一部メモなどは許可されるが、呪文などを自分の魔導書に書き取ってはいけない。発覚した場合は、最悪、投獄される可能性がある。


 5 館内での火の使用は、特別な場合を除いて禁止である。


 6 オートマトンに無茶な注文をして混乱させたり、いたずら・ラクガキなどの破壊行為をしてはいけない。破壊行為が発覚した場合、弁償の上、退学。


 7 館内での飲食は、完全に禁止である。


 8 ゴミは各自持ち帰り、図書室は綺麗に使いましょう。


 大体、こんな感じかな?


 基本的には、元の世界の図書館と変わらないみたいだけれど。


 それより、何? 精神に影響を与える本とか、呪われる本って!?


 分類的には、呪いのアイテムみたいな物なのだろうけれど。

 恐るべし魔法学院の本気! などと。


「以上で、本館の説明を終わります。何かご質問は?」


 説明を終えた司書のお姉さんが、首を少しだけ傾げて見せた。


「えと、読みたい本がどこにあるのか知りたい場合は、どうすれば良いですか?」


 質問はと聞かれたので、1番気になってた事を聞いてみる。

 だって、見渡す限りの本なのに検索するマシン的な何かが見当たらないんだもん。


「本は、基本的にオートマトンが探して席まで運びます。

 席に着いたら、オートマトンを呼んで言いつけてください」


 受付のお姉さんは、羽根ペンでオートマトンを指しながら答えてくれた。


「解りました。ありがとうございます!」


「入館時と退館時、学生証の提示を忘れずに。それが、閲覧履歴になりますからね?

 では、お気をつけて」


 3度目の〝気をつけて〟に、やたら不安になるのですがなあ。


 そんな心持ちになりつつ、わたしは個別の席の1つに腰を下ろした。

 一応、周りの目……と言うか耳を気にしてみるの構え。


 仕切りの付いた個別席は、荷物を置く小さな棚と、少しだけ奥行きのある机で出来ていた。机の幅は、2人で使っても余裕がある位に広い。……魔導書の中には大きな物もあるから、これは妥当なのかな?


 棚の端には魔法の灯りが設置されていて、2重のシャッターをスライドさせる事で明るさがイロイロと調節出来る様になっていて便利だった。


 棚に鞄を置いたわたしは、近くを通ったオートマトンに声をかけてみる。


「あの~……」


「ハイ。オ呼ビデゴザイマスカ、オ嬢様?」


 首、身体の順番で、キュリッとこちらを向いたオートマトンが、スルスルとバックしつつわたしの前で止まる。

 片言だけれど、お嬢様とか。えと、その。……よせやい!


「あ、あの、召喚魔法に関する本を探して欲しいのですけれど?」


「カシコマリマシタ、オ嬢様。少々、オ待チクダサイ!」


 わたしがそうお願いすると、オートマトンは目の色を深みのある赤色に変えて滑る様に移動しながら本を探しに行った。


 ……うーむ。

 オートマトンとゴーレムって、どう違うのかな?


 オートマトンは〝魔法人形〟だけれど、カテゴリー的にはゴーレムと同じく『魔法生物』って事になるのかな?

 ……ぬう。

 考えても良く解らないので、後でニードルスに聞いてみようとか思った。


 そんな事より、召喚士ですよ!


 ふと、オートマトンが帰って来る間に、召喚士について思い返してみたり。


 ゲームだった頃の召喚士は、〝廃人ジョブ〟なんて呼ばれていた。


 その理由は、妖術師や呪術師など他の魔法職みたいに、召喚魔法が簡単には手に入らないからだった。


 他の魔法職が、街中の魔法屋さんで基本的な魔法が買えたり貰えたりするのに対して、召喚魔法だけは召喚獣との契約を行う『契約書』を入手する事から始めなくてはならない。


 契約書は、ダンジョン内の宝箱や魔物からの戦利品。闘技場での報酬などで手に入る……ハズなのだけれど、これがなかなか出て来ない。


 ドロップ率が超絶低い上に、特殊レアアイテム扱いだからバザーにも出ていないので、欲しければ、やっぱり自力で手に入れるしか方法が無いし。


 運良く手に入ったとしても、契約書に対応する召喚獣にしか使う事が出来ないし、対応する召喚獣を見つけても、契約するには戦闘で召喚士本人がトドメを刺さなくてはならない。


 ここで、もう1つ問題が出て来る。


 それは、召喚士が弱いって事。


 召喚士は、召喚魔法以外にも魔界魔法や治癒魔法の一部が使えるのだけれど、本職と比べると、だいぶ劣ってしまう。


 それらを乗り越えて、何とかトドメを刺せる位に召喚士が強くなる頃には、その召喚獣は弱くて実戦には使えなくなってしまっている。


 そんな状態だから、召喚士を極めるには、寝食を忘れてゲームに没頭せねばならない! なんて(ささや)かれていた。


 イマージュ・オンライン公式掲示板では、召喚士の改善を求める書き込みが沢山あるのだと、チームの先輩方から聞いた事があったし。


 わたしのいたサーバでは、ウロを含めて5人しか召喚士がいなかっし、みんな初期レベルのままだったと記憶している。


 じゃあ、何で召喚士になんてしたのか?


 ……だって、今までのイマージュシリーズでは、召喚士は強くてカッコイイ人気ジョブだったんだもん。


 伝説の神獣や幻獣を喚び出して、わたしもヒャッホーッてやりたかったんだもん!!


 それに、ゲームだった頃は、召喚獣と言えば精霊や神獣とかだったけれど、今みたいにワイルドバニーやハーピィなんて無かったし。


 だから、この世界では状況が違うと思うしね!? なんて期待してみたりですよ。


「オ待タセシマシタ、オ嬢様!」


 おおっと!!

 オートマトンが帰って来たので、妄想中断。


「お帰……え!?」


 振り返ったわたしの目に、高く高く積み上げた本を抱えてヨロヨロと戻ってくるオートマトンの姿が飛び込んで来た。


 しかも、抱えている本はと言えば、『魔物図鑑』とか『儀式魔術』とか。

 召喚魔法の名前は、どこにも見当たらない物ばかり。


 それらを、わたしの机の上にドサッと置いたオートマトンは「デハ、オ待チクダサイ!」と言って、赤い目を輝かせながら再び本を探しに行こうとしている。


「ちょ、ちょっと待って!」


 慌てて止めるわたしの声に、オートマトンはゆっくりと振り返った。


「何デショウカ、オ嬢様?」


「あの、これは?」


「ゴ注文ノ、召喚魔法ニ関スル書物デゴザイマス。

 召喚魔法ハ、ソレ単体デハまとめラレテハオリマセンノデ、召喚魔法ノ記述ノアル物ヲオ持チシテオリマス」


「き、記述のある物!?」


「ソウデス。

 チナミニ、関連スル書物ハ、約1万冊ゴザイマス!」

「ギニャーッ!!」


 図書室に、わたしの叫び声と椅子から崩れ落ちる音が響いたのは、仕方が無い事であると言えよう。


 てゆーか、どこまでもアレな感じのジョブだよ召喚士!!


 まさか、異世界でも〝廃人ジョブ〟に相応しいの召喚士!?


 これからのわたしは、約1万冊にのぼる大量の文献から、召喚魔法に関連する部分を抜き出す作業に埋没していく事になるのでありましたとさ。ぐにゃあ。

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