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第八十九.五話 ある日の魔法学院生活

 勉強大好き。ウロです。嘘でも本当でもない何か。


 前に言ったかも知れないけれど、魔法学院の朝は早い。


 まだ、陽も昇りきらない夜明け前にも関わらず、学院内のあちこちでは活動する者の姿を見る事が出来る。


 図書室で写本をしたり、植物園で薬草を観察したり。


 まあ、そのほとんどが学生では無いのですがなあ。


 貴族出身の者が多い、ハイリム魔法学院。

 大体の者に、『側仕え』と呼ばれる身の回りの世話をしてくれる使用人が付いている。


 掃除や洗濯、食事の準備はもちろんの事、登校の用意や授業に必要な雑貨の買い出し、果ては、寮から教室までの送り迎えまでする者もいる。


 そして、教科書の写本や教材の育成なども彼らのお仕事だったりする。


 お金のある貴族ならば、学院内の御用聞きを雇って、それらの仕事をしてもらう事が出来る。


 だけれど、貴族がみんなお金持ちって訳じゃあないらしい。

 その証拠に、何人もの側仕えな方々があくびを噛み殺しながら写本をしていた。


 でも、それが出来るのは中級貴族まで。

 下級貴族ともなると、側仕え自体がまずいない。


 入学式前に、一緒になって写本をしていた下級貴族の男の子は、ペンよりも農具を握っている方が多かったと言っていた。


 そんな状況なのに、大金を払ってまで魔法学院に来る理由って何だろう?


 答えは、爵位の向上との事だった。


 わたしの元いた世界と、この世界の貴族事情が一緒かどうかは解らないけれど、爵位の向上には国への貢献が必要になるらしい。


 戦争で活躍するとか、税金や農作物を沢山納めるとか。

 何かしらの手柄を立てる事が出来れば、王様の目に停まって爵位がランクアップするのだとか。陞爵(しょうしゃく)って言うんだっけな?


 そうは言っても、戦争なんてなかなか無いし、むしろ無い方が良いし。

 税金などを多くしたくても、領民の負担が大きくなってしまい、要らぬ恨みを買う事になる。


 では、どうするのか?


『宮廷魔術師』を目指すのである。


 当たり前だけれど、新卒の魔術師成り立てが、いきなり宮廷魔術師になんてなれる訳がない。

 学院のコネやら何やらをフルに使って、宮廷魔術師の中の誰かに弟子入りしたりして、宮仕えになるのが目的! ……らしいのだけれど。


「実は、それすらも口実でね……」



 爵位の向上、宮廷魔術師への弟子入りは表向きの理由で、本当は、お給料を貰いながら魔術を学んで、後に領地をより良くする為に魔術を使うのが目的なのだそうだ。


「大体、この学院に来ている時点で爵位継承権は下位なのだ。

 だから、少しでも役に立たつ者にならなくてはな!」


 下級貴族の男の子は、そう言って笑っていた。


 むう。

 何だか、世知辛い話になっちゃった様な気がするけれど、要するに、魔法学院の朝は平民並みに忙しいって事です。


 夜が明ければ、今日も慌ただしい1日が始まります。


 まずは、朝ごはん。


 元の世界では、朝はコーヒー1杯だけで出かけてしまっていたけれど、この世界に来てからと言う物、お腹が空いて仕方がないと言えよう! あと、コーヒー飲みたい!


 身支度を済ませたら、急いで食堂へと向かいましょうそうしましょう。


 朝、食堂で食事するのは、学院のスタッフや帰りそびれた先生方、平民の生徒くらいかな?


 貴族な方々は、自宅や寮の自室で朝食を取るのが一般的らしい。


「下々の者とは、朝の優雅な一時を過ごせないのだろう。

 全く、貴族とは窮屈な物だな!」


 そう言って、蒸しパンにかぶりつくアルバート。


 それで良いのですか、王族的な大貴族!?


 とか思ったのだけれど、アルバートの隣で苦虫を噛み潰したみたいな表情のエセルを見るに、良くはないのかも知れない。


 朝食が済んだら、いよいよ魔法の授業が始まる。


 一口に魔法の授業と言っても、その科目はかなり多い。生活魔法に始まって……。


 魔法理論に魔法倫理、儀式魔術に図形魔術。

 魔法歴史学に占術学、魔界魔法学に精霊魔法学。


 必修座学だけでも、思いつく限りでこれだけある。

 この他には、必修科目では無いけれど、薬草学や錬金術、魔獣・魔法生物学に近代魔導器理論と古代魔導器理論。などなど。


 実践科目では、魔界魔法に精霊魔法、儀式魔術作法に錬金・薬学実習。……うう、頭痛い。


 あと、実践科目に必修が無いのにビビッた。

 せっかく習った魔法、ちゃんと練習しなくて良いの!?


 理由は、貴族の子弟に危険な事はさせられない! とか言う、意味不明な苦情による物らしい。


 なんでも昔、どこぞの伯爵様のご子息が、勝手に魔法の練習をして怪我しちゃったのだそうで。

 自業自得なのにも関わらず、もめにもめたのだとか。


 それが原因で、魔法の実践は必修では無くなったのだと言う。


 ……てゆーか、魔法学院に入っておいて、危ないから魔法使わないとか、どうかしてるんじゃない!? とか思うのだけれど。

 まさか、異世界にもモンスターなペアレントがいるとは思わなかったよ。


 だけれど、試練の塔などの必須テストを見るに、〝出来なきゃ卒業はおろか進級すらさせないぞ!〟と言う学院側のハッキリとした意思が伺えて笑える。笑い事じゃあ無いのだけれどね。

 放っておいても、習ったら使いたくなるのが人情だし。問題なんて無かった。


 これだけの物を、1日に2時限しかない中で学ぶとか、絶対に無理だと思うのだけれどどうでしょう?


 なもんで、放課後は目当ての科目の先生の所へ聞きに行ったり、学生たちで勉強会をしたりしている。


 ここで問題になって来るのが、『身分の差』である。


 貴族の勉強会に、わたしたち平民が入る事は難しい。


 身分差なんて気にしない、アルバートみたいなタイプは稀で、基本的には、あからさまに嫌な顔をされる。


 幸い、わたしたちは学年主任で全教科に精通しているアルド先生と親しくなれた。

 担任のレティ先生も、かなり変わった人だけれど、やる気のある生徒には夜通し講義をしてくれたりする。ときどき迷惑なのはナイショで。


 また、科目の中には講師が重複してる場合もあるし。

 頑張れば、何とかなるレベルだと思われる不具合ですよ。


 ちなみに、この日は魔界魔法と精霊魔法の授業があった。


 魔界魔法と精霊魔法は、ゲームだった頃の知識で言うなら、どちらも妖術師(ソーサラー)の魔法だった。


 基本的には、妖術師の魔法は全て『魔界魔法』なのだけれど。

 その中で、火・水・土・風などに由来する魔法を、プレイヤーの間で『精霊魔法』と呼んでいた。


 出所は、ゲーム稼働初期にあったクエストの中で、重要なNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が語っていた事なのだとか。

 わたしがゲームを始めた頃には、そのクエストは何故か削除されてしまっていたけれど。


 古参のプレイヤーの間ではその呼び名が定着していて、続くプレイヤーたちにも受け継がれて行ったのだと、チームの先輩から聞いた思い出ですよ。


 でも、この世界では明確に分けられているみたいだった。


 魔界魔法は、『妖術師』。

 精霊魔法は、『呪術師』。


 こんな感じ。


 呪術師は、ゲームだった頃にもあったジョブ。

 攻撃魔法よりも回復魔法を主に扱う、ヒーラー的な役割だったと記憶している。


 こちらの世界でもそれは変わっていなかったけれど、


 知ってる魔法ばかりの魔界魔法に対して、精霊魔法には、回復魔法など1部知ってる魔法はあるものの、その大半はわたしの知らない魔法がドッサリあってビビッた。


 もしかしたら、これがバージョンアップで追加される要素の1つだったのかも知れない。……今となっては、解らないけれどね。などと。


 それでも、やっぱり回復魔法メインの呪術師。

 解説を聞くアルバートの顔が、何となく険しかったのが印象的だった。……ふぁいつ!


 どんなに座学で説明されても、『呪文』を習わなければ使えないのが魔法の真実。

 残念だけれど、この日は解説だけで終わってしまいました。


 放課後。

 本当だったなら、試練の塔に限定的とは言え合格したわたしたちは、それぞれに自分の求める情報を貪っている所だったのですが。


 試練に合格した者は、学生証に合格の印を刻む事になるらしい。

 刻むと言っても、担任と学年主任、そして、学院長の印を頂くだけなのだけれど。


 担任のレティ先生と、学年主任のアルド先生の印は問題なく入手出来たのだけれど、学院長であるラジウス・ダルコ先生が現在、魔術学会出席の為に不在で、印が揃わない不具合です。


 なもんで、まだまだ普通の1年生なわたしたちであります。


 いつもなら、放課後は食堂にて、みんなでお茶などしつつミーティングと言う名の雑談をするのだけれど。なかなか、そうもいきません。


 ジーナは、塔の事件でだいぶ家に帰らなかったせいか、放課後は真っ直ぐに帰宅する様にお父様から言われているとかで、ブツブツ言いながらサッサと帰ってしまった。


 ニードルスも事件以降、やる事があるとかで、外出届を出して自宅へと戻って夜まで帰って来ない。

 何してるの? と聞けば、


「まだ、秘密です!」


 と、少しだけニヤニヤしながら答えるニードルス。

 明らかに、何かを企んでいるみたいだけれど。

 その証拠に、耳がやけにピコピコ動いてたしね。


 アルバートは、普段通りに明るく振る舞ってはいるものの、どこか焦っている様に感じられた。

 それを裏付けるみたいに、エセルが神経質になってたりするし。


 やりたい事はあっても、情報不足で何も出来ないわたし。

 主に、レティ先生やアルド先生の雑用をして過ごしてたりするのでありました。


 こんな感じで、日々、新しい何かに追われる魔法学院生活。

 また明日、出会うだろう難しい課題に備える為、少しの間だけだけれど、ベッドの中に安らぎを求めたりするのでありました。ぐう。

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