第八十九話 祭りを終えて
前回のあらすじ。
ごはんは美味しく楽しく食べたいな。すごく、切実に。
「では、続きを始めようかの。
……どこまでだったかな?」
レティ先生の研究室へと戻って来たわたしたち。
みんなが席に着いたのを見渡してから、アルド先生が口を開いた。……お髭に蒸しパンのクズをつけたままだったけれど。
「……んんっ。
ジーナとウロから、2階で見た物についての聞き取りからです」
すかさず、ウディム先生からのフォローが入る。口の周りを指差しながら。
午前中もそうだったけれど、午後はもう、ウディム先生の眉間に深いシワが刻まれている。
「お、おお、そうじゃった!
君らが、2階で見たり闘ったりした物についてじゃが。
アルバート君とニードルス君の闘った物については、すでに調べがついておる。
当学院の宝物庫より持ち出された、古代に作成されたアイアン・ゴーレムを含むゴーレム群じゃった。既に回収済みじゃ。
確認したいのは、ジーナ君とウロ君の闘ったホーント群についてじゃ!」
少しだけ興奮気味に、アルド先生が言った。
同時に、わたしの隣でニードルスの耳が跳ね上がる。
「……ニードルスくん?」
「あ、あのゴーレムたちが古代に作成された物だったなんて。
ああ、何故もっとちゃんと調べなかったのでしょう?
ああ、私とした事が……ブツブツ」
はい、ニードルスは今日も通常運転です。
まあ、学院の宝物庫は基本的に学生の入室禁止だしね。
美術館とか、博物館の普段は入れない倉庫とかに興味ある感じかな?
「……聞いていますか、ウロ?」
「は、はい。聞いてます!」
ウディム先生の声に、今度はわたしの肩が跳ね上がった。
「フム、そんなに緊張する事はない。君らには、何ら問題は無いのじゃから。
さあ、あった事を話してみなさい。エセル?」
「はい」
アルド先生が名前を呼ぶと、エセルがゆっくりとわたしとジーナの近くまでやって来た。
「それではジーナ様、ウロ様、これからいくつか質問致します。
明確な解答をお願い申し上げます!」
「は、はい!!」
冷たい視線で、わたしとジーナを見下ろすエセル。
もうやだ。もう怖い!
わたしとジーナは、試練の塔の2階で体験した事をエセルの質問に従って話した。
白くて汚せない壁、魔力に攻撃して来たホーントたち。
そして、ゴースト騎士について。
初めはフムフムと聞いていた先生方だったけれど、ゴースト騎士登場の辺りから、明らかに目の色が変わったのが解った。
何て言うか、大好きなお話を聞かせて貰ってる子供みたいな感じだよ。
「ウロ君、君はホーントの掴みが何故、魔力へのみの攻撃だと思ったのじゃ?」
腕組みをして、時折うなずきながら聞いていたアルド先生が口を開く。冷静に見えて、1番目をキラキラさせてるのがアルド先生だったりして。
「あの、普通のホーントなら、魔力じゃなくて生命力の方にダメージがあるからで……」
「普通? 普通とはどう言う意味かね?
まさか君は、他にもホーントとの遭遇経験があるとでも?」
間髪を入れず、ウディム先生の質問が飛ぶ。
やけに不機嫌そうなウディム先生の雰囲気に、その言葉に棘がある様な気がして怖い。
ホーントについては、ゲームだった頃、チームの先輩方や即席パーティのみなさんたちと、それこそ、その一帯が渇れるまで狩りをした事があったけれど、当然ながら言えない。
「い、いえ。ほ、本で読んだだけですけれど……」
わたしの答えに、小さくうなずくウディム先生。
何とか、大丈夫だったみたい。
「ここまで聞いて、どうかね。エセル?」
「はい。
私どもの調査と、ホーントの特徴が一致します。
個体数も、私どもの倒した2体。ジーナ様とウロ様の倒した5体。回収した10体で、資料にあった数と一致します!」
エセルが、表情を全く変えずに言った。
てゆーか、〝調査〟って何よ? 〝資料〟って何よ??
一体、何がどうなってるの??
「……で、君たちはどうやってゴーストから逃れたのかね?」
混乱しているわたしなどお構い無しに、ウディム先生が質問して来た。
もはや、圧迫的な何かだよ。
元の世界より先に、異世界で体験するとは思わなかった!!
「はい、逃げたんじゃなくて、ウロさんがやっつけちゃいました!」
ノォオオー、ジーナ!?
思わず叫びたくなる程、超絶ビックリした。
元気に嬉しそうに、ジーナはそう答えて、「ねっ!」とばかりに輝く様な笑顔でこちらを見て来るけれど。
わたしの顔は、作り笑顔もままならないグニグニしたイビツな物になってたと思う。
「本当か、ウロ!?
君らはまだ、対霊魔法の講義を受けていないはずだが。
一体、どうやって??」
目を見開いて、ウディム先生が問う。
問いかけはウディム先生だったけれで、それは、他の先生より速かっただけみたいだった。アルド先生とレティ先生が、ゆっくりと椅子に座り直している。
……どうしましょう?
正確に、本当の事を話してしまってもわたしは構わないのだけれど、その後の質問とか、イロイロめんどくさい気がする。
何より、変な誤解が生まれそうで怖いそれです。
ならば、ここは無難に参りましょう。そうしましょう。
「え、えと。
最初は、ゴーストとの会話を試みましたが、狂気状態により不可能でした。
直後、襲われて逃げ場がありませんでしたので、持ち込んだ魔法の剣で。ウリャッと……」
「魔法の剣だと!?
そんな物で、どうやって……」
わたしの答えに、ウディム先生が解りやすく困惑している。
同時に、先生方がザワザワし始めちゃった。
「失礼、皆様。
ここにあるウロくんは、魔術師見習いとは思えぬ程の剣の腕の持ち主ですぞ!
そうだな、エセル?」
「はい、アルバート様。
彼女の剣の腕は、不肖、私が保証いたしましょう。
先日、ダングルド山にて確認済みでございます。
まさに、魔術師にするには勿体無いと言う物です!」
アルバートとエセルの言葉に、先生方は納得した様に唸っている。
な、ナイスフォローよ2人とも!
けれど、素直に喜べないのはナゼなんだぜ!? 特に、エセルの最後ら辺。などと。
「な、なるほど。
では、ウロ。ゴーストは、消滅したのだな?」
「た、たぶん。
実際のゴーストと闘ったのは初めての事ですから……」
わたしの答えに、ウディム先生は何か言いたげにしたけれど、アルド先生に肩を叩かれて、言葉を飲み込む様にして黙った。
「箱の中から、ゴーストを発見する事は出来んかったのは事実じゃ。
これ以上、この子らを問い詰めてもしかたあるまい?
この子らは被害者なんじゃからな?」
「……はい、ウェイトリー先生」
アルド先生の言葉に、まだ納得いかない様子のウディム先生は、うなずきながら小さくため息を吐いた。
「良し、話しはこれで終わりじゃ。
エセル、詳しい報告はワシの部屋で聞こう。
ウディム君も来なさい!」
「はい!」
「……はい」
アルド先生に応えて、エセルとウディム先生が部屋を出て行った。
「はぁ、やっと終わった。
全く、人の部屋で~。話が長いのよね!?」
3人が出て行くのを確認して、レティ先生が大きく背伸びをした。
同時に、緊張の糸が切れたみたいに空気が緩くなるのを感じる。
って、まだだよ!
わたし、何の説明もされて無いのですけれど!?
こんな状態では、イロイロ気になって夜も眠れなくなりそうだし。
「あの、レティ先生!」
「何?
貴女たちも、もう戻っても良いわよ!?」
「あの、お聞きしたい事があるんです。何をって言うより、何もかも、ですが……」
「……そう言えば、貴女は眠ってたんだったわね」
レティ先生は、少しだけ考える様な素振りを見せたけれど、キチンと説明してくれた。
「まず、今回の件は、私たち学院の不祥事です。
生徒を、危険な目にあわせてしまって本当にごめんなさい!」
そう言って、レティ先生は目を伏せた。
……まさか、レティ先生が謝るなんて。
でも、聞きたいのは謝罪じゃなくってですな。
「レティ先生、何故、わたしたちが狙われたんでしょうか?
あの日、わたしたち以外にも塔に挑んだ生徒は何組もいたのに……」
「それは、貴女たちが1階の試練を突破したからよ。
後で確認したけど、あの日、1階に設置されていた試練は、そもそも1年生に解ける物ではなかったわ。
逆に、どうして解けたのかの方が謎なくらいよ?」
レティ先生の話しによると、あの日、1階に設置されていた試練は通常のレベルを遥かに超える難易度だったらしい。
文字読みもそうだけれど、隠された魔法陣は、1年生のこの時期の魔力コントロールでは、到底見つけられる物ではなかったとの事だった。
「犯人が何を考えてたのかは解らないけど、生徒を標的にしていたとは考えにくいのよ。
でも、生徒がかかってしまったの」
ため息を吐きながら、レティ先生がそう呟いた。
「じ、じゃあ、調査に何でエセルさんが?」
「それは、被害者の中に私がいたからだ!」
わたしの言葉に、アルバートが食い気味に答えた。
「貴族が事件に巻き込まれでもしたら、それだけても大事になるのに。
アルバートくんは、貴族の中でも少し生まれが複雑なのよ。
だから、その縁のある者が調査に当たった。それだけの事よ」
そう言いながら、レティ先生はヒラヒラと手を振って見せた。
……アルバートくんて、たぶんだけれど王族的な何かだよね?
もし、そんな人が事件に巻き込まれて。更に、死にでもしたら。
名前を変えて入学してるのだから、身分を隠しての事だと思う。
だとしたら、外部の者に表立って調査させる訳にもいかない。
幸い、エセルはアルバートの側仕えだし、腕も十分に立つ。
まさに、うってつけだったって訳なのですな。
……でも、それなら学院の魔術師も調査に同行すれば話しは早かったのでは?
それについて質問すると、レティ先生はヤレヤレと言った風にため息を吐いた。
「学院の中で事件が起きたのよ?
学院関係者が動く訳に行かないでしょう!」
……あ、そっか。
学院の関係者が調べちゃったら、証拠隠滅とかしかねないって事ね。たぶん。
「それだけじゃ無いわ。
この件の犯人、私かシトグリン先生のどちからかと見られてるのよ!」
レティ先生が、吐き捨てる様に言った。
どうやら、ここ最近の事件に関わっている2人が、今回の犯人と思われてるらしい。
勝手に遺跡調査へ向かったり、S級魔獣舎を破壊したり。
特にS級魔獣舎破壊の件では、沢山の学院スタッフや引退した大先輩の方々にも補修の手伝いをお願いし、結果、学院のセキュリティーが著しく低下してしまったのだとか。
……な、なるほど。
それじゃあ、疑われてもしかたがないかなあ?
ウディム先生は、レティ先生のとばっちりの様な気もするけれど。
エセルが調査してる理由は解った。
あと1つ、わたしには疑問があったりする。
それは、ホーントやゴースト騎士についてだよ!
わたしは最初、あれは“試練の1部”であり、その為に用意された人の手の加えられた人工物。もしくは、先生の中の誰かが使役している“使い魔”的な何かだと思っていた。
でも、違ってた。
だって、ホーントはまだしも、ゴースト騎士は本気で殺しに来てたからね!
てゆーか、MP削りホーントの群れの後に殺るきMAXのレイスもどきゴーストとか、かなり無理ゲーだからね!?
これがゲームのクエストだったら、公式掲示板が荒れるイキオイだし。などと。
その上で、何でエセルがホーントの数とかカウントしてるの??
学院が用意した何かでないなら、あれは一体、何だったの?? 資料とか言ってたし。
わたしが再び声を上げると、レティ先生は机に両手で頬杖を着きながらこちらを見詰めて来た。
貴女、『イグナーツの壺』って、知ってるかしら?」
!?
どこかで聞いた事がある様な気が?
でも、良く覚えていない不具合。
わたしは頭を振って、レティ先生に答えた。
「……やっぱり知らないか。
イグナーツの壺には、貴女が闘ったって言うゴーストが封じられていたのよ!」
レティ先生の説明によると、イグナーツの壺は、今から800年以上も前に作られた封印の壺で、その名の通り、『騎士イグナーツ・フューゲル』の魂が封じられた物なのだとか。
騎士イグナーツ・フューゲルは、この世界の暦である〝リヴエーデ暦〟の元となった『リヴエーデ王国』の騎士の事なのだそうで。
それが、王殺しの罪で処刑されてしまい、その魂が封じられたのが、〝イグナーツの壺〟って訳である。
エセルは本来、独自にアルバートの救出を考えていたのだけれど、幽霊系アンデッドの存在に気づいたアルド先生の依頼により、調査する事になったのだと言う。
「フランベル先生。
どの様にして、塔の中にいるアンデッドの存在に気づいたのでしょうか?」
ずっと黙っていたニードルスが声を上げた。
さっきまでの興奮は消えたみたいで、今は、いつもの冷静な顔をしている。
「塔の近くに、簡易封印に用いる水晶の欠片が散らばっていたのよ。
それに気づいたウェイトリー先生が、塔の中を調べた所、複数の実体を持たないアンデッドの存在を確認したの。
学院の保管庫から、その手の物は盗まれていなかった。だからよ!」
ニードルスに答えて、レティ先生が言った。
何でも、試練の塔を設計したのはアルド先生なのだそうで。
通常なら、自分の椅子に座ったままで塔の隅々まで見る事が出来るそうなのだけれど。
封印に阻まれて、アンデッドの存在までしか感知出来なかったのだとか。
スゲェ、アルド先生。
ちょっとファンキーなお爺ちゃんじゃあ無かった!!
「……それで、エセルが調べた所、他所から持ち込まれた魔法の壺と、その周辺で起こっていた事件が浮上。
そこから、壺の出所を探ったと言う事の様だ」
レティ先生に続いて、アルバートが口を開いた。
ううむ。
わたしたちが、体感で1日くらいの間に、外では大騒ぎだった訳ですな!
「壺の形状は、情報通り〝イグナーツの壺〟で間違い無かったけど。中身が、本当にイグナーツ・フューゲルとその部下たちかは解らなかったわ。
ウロ。貴女、ゴーストの名前を聞かなかったかしら?」
「い、いいえ。
自分が誰か、覚えてはいないみたいでした」
わたしがそう答えると、レティ先生は小さく「そう」とだけ呟いた。
それから、1つため息を吐いて立ち上がった。
「とにかく、皆さん無事で何よりでした。
本来、塔の屋上に魔石を置いてくるまでが試練なのですが、今回は、それ以上に困難な状況を乗り越えています。
それにより、アルバート、ニードルス、ジーナ、ウロの4名を、試練の合格と認めます!」
……えっ?
な、何ですと!?
あまりに唐突な言葉に、一瞬、レティ先生が何を言ったのか解らなくなった。
それは、みんなも同じだったみたいだよ。
「ほ、本当ですかフランベル先生!?」
最初に声を発したのは、アルバートだった。
「ええ、本当です。学院長の許可も出ています。
ただし、条件があります!」
瞬間、ようやく理解の追いついたわたしたちが喜びモードに突入しようとしたのに。超急ブレーキ。
「じょ、条件って、何ですか?」
早る気持ちを抑えきれず、口元をニヨニヨさせながらジーナが言った。
「今回は、変則ですが合格は合格です。
ですが、貴方たちはまだまだ学習が必要です。
通常合格同様の資格は与えられますが、可能な限り、授業には出席して下さい。
また、魔石作成には必ず参加してください。
以上です。改めて、おめでとう!」
そう言って、レティ先生は小さく拍手をしてくれた。
こうして、わたしたちは無事……かどうかはアレだけれど試練の塔に合格する事が出来たのでありました。
1年生では観覧不可能な魔導書や、立ち入り不可な研究室。先生の助手などが可能になったのであります。
一方で、犯人は解らないまま。
事件は、迷宮入りとなったのでありました。
その後、学院内の全ての施設の点検作業が行われたり。
また、今回の事件を受けてかどうかは解らないけれど、1年生の中から試練の塔に挑戦する者がいなくなり、試練の塔ブームは静かに終了したのでありましたとさ。……呪い、解けなかったのかもだけれど。うひひ。
名前 ウロ
種族 人間 女
職業 召喚士 Lv10 → Lv11
器用 24 → 27
敏捷 31 → 33
知力 51 → 56
筋力 29 → 31
HP 40/40 → 42/42
MP 70/70 → 73/73
スキル
ヴァルキリーの祝福
知識の探求
召喚士の瞳 Lv2
共通語
錬金術 Lv30
博学 Lv2
採取(解体) Lv1
魔法
召喚魔法
《ビーストテイマー》
コール ワイルドバニー
コール ハーピィ
《パペットマスター》
コール ストーンゴーレム(サイズS)
《アーセナル》
コール カールスナウト
魔界魔法 Lv1
魔法の矢
生活魔法
灯り
種火
清水




