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第八十八話 それぞれの勝利条件

 前回のあらすじ。


 メンズと合流してキャンプを張った3階へのエントランス。なんかリア充っぽいのだけれど、そんな事は欠片も無い不思議。


 ……どこだろ、ココ。


 そこは最初は暗くて、それから今度は、やたら明るい場所に出て。


 辺りはユラユラグラグラ。


 ヤバイ、酔うからやめれ! 何て考えてるうちに、やけにフワフワした場所に着地した。


 ああ、夢を見てるんだな。


 そう気づいたのだけれど、何だか心地好かったのでそのまま寝そべりモードになろうとしたら、スゴいわたしの名前を呼ぶ声が聞こえて来たので中断。目が覚めた。


「……んあ? あれ??」


「まあ、気がつきましたのね?」


 すぐ近くから、聞き覚えの無い女性の声が聞こえた。


 ぼんやりした視界に、白い天井が見えてくる。


 ……どこ、ココ??


「ここは医務室ですよ、ミス・ウロ!」


 考えたとたん、女性の声が響いて来てビビッた。


 あ、頭の中を!?

 なんて思ったのだけれど、かなり挙動不審状態だったみたいです。ぐぬぬ。


 てゆーか、〝ミス〟ですと!?

 てゆーか、医務室!?

 塔は? 試練は?? みんなは???


 覚醒した頭の中に、次々と疑問が浮かんで来て混乱する。


「まあまあ、何でしょう。

 これでも飲んで、少し落ち着きなさい!」


 そう言って、わたしに薬湯の入ったカップを渡して来たのは、さっきからわたしに話しかけて来ていた女性。

 ハッキリした目で、やっと姿を見る事が出来た。


 肩より長い薄い紫色の髪は、左側でまとめられて胸の前に垂れている。

 それが、白衣みたいな白を基調としたローブに淡く溶けている様に見えた。


 歳は30くらいかな?

 落ち着いた雰囲気と、知的に光る青い瞳が印象的な美人女医さんみたいだった。


 貰った薬湯は、口に含むとほんのり甘くて、混乱したわたしの頭がスウとしていく様な気がした。


「あ、あの、わたし……」


「貴女は、もう2日も眠っていたんですよ。

 魔力への、強い負担があったみたいですね?」


 わたしの言葉を遮って、女医(こっそり見た名前は、ミーガン・カンデイユ)さんは、そう言いながらベッドの端に腰を下ろした。


「2日も!?」


「ええ。

 他の3人は、1日で目が覚めたのに。

 貴女は1年生でしわたね?

 試練の塔で何があったのかは知りませんけど、あまり無茶をしても良い結果には繋がりませんよ?」


 ……あ、はい。

 全くもって、その通りでございます。


 いや、そんな事より!


「あの、ミーガン先生。

 わたしたち、一体何が??」


「あら、私の名前をご存知でしたなんて珍しい生徒ですわね!?

 それと、貴女たちに何があったのかは私には解りません。

 詳しくは、フランベル先生から直接聞いてください。

 貴女が目を覚ましたら、研究室に来る様にと(ことづ)かってますよ?」


 そう言うと、ミーガン先生はベッドから立ち上がってわたしの頭をポンポンと叩いた。


「それを飲んだら、もう少し休みなさい。

 明日の朝には、ご自分の部屋に戻ってもかまいませんよ!」


 笑顔のミーガン先生は、そのまま奥の部屋へと引っ込んでしまった。


 むう。

 何だか、釈然としないんだけれど。

 とは言え、頭がクラクラするのも本当の事だったり。


 薬湯を一気に飲み干したわたしは、モゾモゾとベッドの中へと潜り込む。

 間も無く訪れた睡魔に、抗う事もしないまま、再び眠りに落ちたりしました。ぐう。


 翌日。

 早い時間に目を覚ましたわたしは、まだ静かな学院から寮へと戻った。

 本当なら、ミーガン先生にご挨拶したかったのだけれど。いなかったので。


 寮でお風呂や着替えを済ませたわたしは、謎の空腹感に襲われたりしましたよ。


 お腹が空いては力が出ないと、昔の偉い人も言ってた気がするので、その教えに従って食堂へ向かいます。


「ウロさん!」


 食堂に入ってすぐ、聞きなれた声に呼ばれる。


「ニードルスくん!?」


 まだ、生徒もまばらな食堂の一角から、ニードルスが手を振っている。

 ニードルスだけじゃあなくって、アルバートとジーナの姿も見える。


「おはよう……って、どしたのみんな。

 まだ、ずいぶんと早いよ?」


「あたしたち、朝一でウロさんの様子を見に行こうって決めてたの。

 でも、医務室にウロさんいないんだもん!」


「心配していたんですよ、ウロさん。

 貴女1人だけ、目を覚まさなかったから……」


「そうだぞ、ウロくん。

 ニードルスは、君が心配でずっと付いていると言ってきかなかったかったのだ。

 残念ながら、カンデイユ先生に追い払われてしまったがね!」


「ちょっ、アルバート!?」


 ……ああ、この空気に何だか癒される。

 みんな、元気で本当に良かった。

 あと、ニードルスとアルバートがお互いに呼び捨てになってるッポイ?


「みんな、ありがとね。

 ちょっとだけ、魔力の使い過ぎだったみたいだから、もう大丈夫だよ。

 それより、お腹が空いて……」


「良し、では行くか!」


「そうですね。

 早く、フランベル先生から色々と聞かなくては!」


「うふふ、ウロさん行こう!」


 そう言って、早々に立ち上がる3人。


「ちょっ、先に朝ごはんを……」


 そんな訴えも虚しく、わたしは連行されて行くのでありました。

 やむを得ず、アルバートに引きずられながら鞄に入っていた干し肉を貪るわたし。肉食系。携帯食って便利。


 って、そう言えば。


「あ、アルバートくん。

 エセルさんは?」


「エセルなら、先にフランベル先生の所に行っている。

 まあ、行けば解るだろう」


 何か知ってる風のアルバート。

 それに、ニードルスもジーナも、やけに無口で怖い。


 程無くして着いたレティ先生の研究室は、まだ朝も早いせいか、人通りが無くて不気味に感じる。


「フランベル先生、アルバート以下3名。参りました!」


 扉をノックしながら、アルバートが声をかけた。


「入りなさい!」


 む!?

 中から返事はあったけれど、明らかに男性の声だった。


「失礼します!」


 頭に〝?〟を浮かべるわたしをよそに、アルバートは大きな声で応えると扉を開けて中へ、ニードルスとジーナもそれに続いた。


 慌てて、わたしも中に入るのだけれど。

 何となく漂う〝置いてかれてる感〟は何故なんだぜ??


 相変わらずの本の迷路を抜けると、そこにはレティ先生の姿が。

 また、それとは別にアルド・ウェイトリー先生とウディム・シトグリン先生。その隣には、何故かエセルの姿があった。


「おはよう、諸君。

 どうやら、揃った様じゃな?

 まずは、無事で何よりじゃった。助け出すのが遅くなって済まなかったのう!」


 アルド先生が、笑顔でそう言った。


 何?

 今、〝助け出す〟とか言った? しかも、遅くなったって??


 ますます訳の解らなくなっているわたしに気づいたのか、ウディム先生がアルド先生に何事かを耳打ちする。


「おお、済まん済まん。

 ウロ君にはまだ、何の説明もしておらんかったのう!

 他の3人には、昨日の内に軽くじゃが説明してあるじゃよ!」


 そう言って頭をかいたアルド先生は、コホンッと咳払いをしてから話してくれた。


 アルド先生の説明によると、わたしたちが〝試練の塔〟に入って間も無く、塔全体に結界が現れたらしい。


 それに気づいた、管理人のハルドールさんがレティ先生に報告。塔のある区画を立ち入り禁止にした。


「塔は、内側から封じられていて、外から結界を破るのに1ヶ月もかかってしまったんじゃよ」


 !?

 今、何て??


「あ、アルド先生。今、1ヶ月って言いました!?」


「そうじゃ。遅くなって済まなかったのう!」


 いやいやいやいや!

 全っっ然、意味が解んない!!


 理解が追いつかずに混乱しているのは、どうやらわたしだけみたい。

 先生方やエセル、他の3人は理解してるみたいだよ。


 つまり、塔の中での数時間が外では1ヶ月だったって事なのだけれど。何かのマンガですか? 異世界、恐るべし。


「この現象が、何故に起こったのはまだ不明である。

 あくまでも推測の域だが、複雑に組まれた結界が、ある種の時空魔法の体を成したのかも知れない」


 そう言って、ウディム先生が腕組みする。


 ……ぬう。

 現地でも、珍しい現象なんですね。


「では、気づかなかったとは言え、私たちは1ヶ月もの間、塔の中に監禁されてた事になるのでしょうか?

 さすがに、それ程の結界を維持出来るとは思えないのですが……」


「いや、それはこれから説明するんじゃが……」


 ニードルスの質問に、アルド先生が口ごもる。


「用意出来ました、ウェイトリー先生!」


 ずっと黙って何かの作業をしていたレティ先生が、フーと息を吐きながら声を上げた。


「おお、ご苦労!

 4人共、これが何か解るかの?」


 レティ先生から何かを受け取ったアルド先生は、わたしたちの前にそれを置く。


「……箱?」


 ジーナが呟いた。


 確かに、わたしにもそれは箱に見える。


 ホールのケーキが入っていそうな大きさの、白い箱。

 石で出来ているのか、アルド先生は少し重そうにしていた。

 パーティグッズなんかにありそうな、大きなサイコロを思わせる立方体で、その上に、サイズの合っていない、やや大き目の上蓋が乗っている。


「そう、箱じゃな。

 では、中身はどうかな?」


 そう言って、アルド先生が蓋を取った瞬間、わたしは急激な恐怖に襲われた。


 箱の中は、薄い板がいくつもはめ込まれていた。

 それは、一見すると迷路のオモチャみたいなのだけれど……。


「ウェイトリー先生、これが何か?」


 中を覗いていたアルバートが、疑問の声を上げる。


「解らんか?

 しかし、ウロは解ったみたいだな?」


 ウディム先生が、フムとうなずきながらわたしを指差した。


「……これ、わたしたちがいた塔の2階にそっくりです」


 震える声でわたしがそう答えると、3人も見る間に顔色が変わっていった。


「その通り。

 これは、君らが塔の2階だと思っておった所、そのものじゃ!」


 アルド先生の説明によれば、1階から2階への転送魔法陣に何らかの細工がされていた為、わたしたちは本来の2階ではなく、塔の中の使われていない部屋に設置された、この箱の中へと転送されてしまったのだと言う。

 当然だけれど、箱はイレギュラーな物だよ。


「しかもの、この箱のあった部屋全体に魔力を吸収する魔導器が仕掛けられとったんじゃ。

 お陰で学院内は、魔力不足で暗くてしかたなかったわい!」


 そう言って、アッハッハッと笑うアルド先生。


 いえ、笑い事ではありません!

 その証拠にホラ、ウディム先生がスッゴイにらんでます。


「お、オホンッ。

 とにかく、さっきニードルス君が言った〝結界維持の魔力〟は、こうして賄われとったんじゃな!」


 慌てて取り繕うアルド先生。

 話しは、さらに続く。


「問題なのは、この箱の方じゃな。

 何せ、この箱。出口が無いのじゃから!」


 サラッとスゴい事を言う、アルド先生。


「あの、出口が無いってどう言う事ですか?」


 オズオズと手を上げた、ジーナが問う。


「聞いたままじゃよ。

 要は、入った者を殺す気だったんじゃよ!」


 アルド先生の答えに、ジーナの目がカッと見開かれた。

 ニードルスもアルバートも、もちろんわたしも、その言葉に戦慄した。


「補足させて頂くなら、諸君は〝魔石〟にされる所だったのだ。

 見たまえ、薄くだが箱の蓋裏に魔法陣が見えるだろう?」


 アルド先生に続いて、ウディム先生が説明してくれた。

 確かに、蓋の裏に魔法陣の様な物がボンヤリとだけれど浮かんで見える。


「もし、君らがあの場で休まずに3階へと向かっていたら、あの魔法陣に飛び込む形になっていただろう。

 そうしたなら今頃、君らの魂は強力な魔石だったな」


 ウディム先生が、パッと手を開いて見せた。


 ……要するに、あの箱は人の魂を魔石化する為の罠だったって事みたいだよ。

 もしあの時、キャンプせずに鍵を開けて3階への階段を昇っていたら。


 うぎぎ。

 考えただけでお腹痛くなりそうだよ。


 ……んん?

 でも、待って。


 何か、おかしくね?


 敵は、わたしたちを殺すつもりだった。

 にも関わらず、魔物に鍵を持たせて3階への道を用意してた。


 逆に、わたしたちを魔石化したかったのなら、それこそ2階は素通り出来る様にしといた方が良かったんじゃね? とか思うのですがどうでしょう?


 それを質問してみますと……。


「どちらでも良かったのよ。生きて進もうが、死んで残ろうが。

 どの道、魂は箱から出られないのだからね」


 机に頬杖をついて、レティ先生が答えた。


 どうやら、あの箱自体が魂捕獲の罠みたいな物の様だ。

 もし、対象が2階で配置した魔物に殺された場合、魂は箱の中に残って逃げられない仕様。

 だけれど、万が一に対象が配置した魔物を退けてしまった場合、この罠の性質上、対象が死ぬまで箱を回収出来ないらしい。


 そんなに時間はかけられないと言う訳で、魔物を突破された時には、対象自ら魔石になりに来て貰うと言う恐ろしい仕掛けになっているとの事だった。


 だ、誰が作ったの、こんなデス・トラップ!?


「しかし、そんなにまでして魔石が欲しいものなのですかな?

 こんな危険を犯さなくても、魔石は手に入るだろうに」


 首を傾げながら、アルバートが呟く。


 うん、わたしもそう思う。

 魔導器の授業の中で、魔石は、この世界のいたる所にあると習った事があった。


 魔石は、魔力が結晶化した物であり、魔力のある所ならばどこでも魔石が見つかる可能性がある。


 鍛冶屋さんの炉の中からは、希に火属性の魔石が見つかるし、大きな河や滝の近くでは水属性の魔石が見つかるらしい。みたいな。


 以前行ったハーピィたちの岩屋には、大量の風属性の魔石が落ちていた。


 また、魔物の中からも魔石が採れる事がある。……あんまし思い出したくないけれど。


 そうは言っても、使えるレベルの魔石を見つけるのは、やっぱり大変だったり。

 だから、大きくて魔力量の多い魔石には高い値が付くのだけれどね。


 そんな考えを巡らせていましたら、レティ先生から盛大なため息が聞こえて来てビビッた。


「アルバートくん。貴方、何も解っていないのね?

 この犯人が求めているだろう魔石は、そんなゴミとは訳が違うのよ?」


 相変わらず口の悪いレティ先生に、アルバートが肩をすくめる。


 レティ先生の話はこうだ。


 古い文献によると、遥か昔の魔法文明華やかなりし頃は、様々な物から魔力を抽出、精製して魔石を作り出す技が存在したらしい。

 そんな中でも、禁忌とされたのが『人の魂から魔石を作り出す技』なのだと言う。


「人の魂から作り出した魔石は無属性で、驚異的な魔力量を含んでいるとされているわ。

 自由都市グレイヒルズにある魔法大学には、魔力量5千を超える無属性の魔石が展示されているけど、その大きさは人の頭くらいあるわ。

 ……もしかしたら、本当に人の魂から作り出した物かも知れないのよ。

 そして、そんな物を大量に集めているとしたら、その目的は何なのかしらね?」


 そう言って、今度はレティ先生が肩をすくめた。


 ……まさか、魔王召喚とか言わないでしょうね? などと。

 それは冗談としても、普通に悪い事を考えてるとしか思えない不具合です。殺されかけたし。



「さて、残るは……アレじゃな。

 その前に、少し休憩するかの?

 その後は、エセル。よろしく頼むぞ?」


「はい。

 それでは休憩後、ジーナ様とウロ様からの聞き取り調査を行わせて頂きます!」


 アルド先生に応えて、エセルが不敵な笑みを浮かべながらこちらに視線を送って来た。


 な、何それ怖い!!

 思わず、ジーナと並んじゃったよ!?


 いつの間にか、時刻はもうすぐお昼になろうとしていた。

 待ちに待ったお食事なのにも関わらず、エセルに恐怖しているわたしには、せっかくのお料理が砂を噛んでいるみたいで、まるで食べた気がしないのでありましたとさ。げふう。

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