第八十六話 技の試練の恐怖 中編
前回のあらすじ。
幽霊退治の基礎はまず拳から。などと。
試練の塔の2階、『技の試練』受験中のウロです。ごきげんよう!
いきなりニードルスとアルバートの男子2人と離ればなれになり、わたしとジーナと言う可憐でか弱い女子2人だけになってみたりしました。
男子2人を探しつつ、2階の攻略を目指すわたしたちだったのたけれど、行く手を邪魔するのは、通常攻撃の効かない幽霊系の『ホーント』。
しかも、MP温存のために魔法の武器で対抗しようと試みるも、何故か塔のシステム的な何かに阻まれてしまう不具合です。
なもんで、3匹目のホーントを退けた頃には、わたしたちのMPはホーントの特殊攻撃『ドレインタッチ(魔力)』のせいもあって半分以下まで減ってしまってたりでしたさ。
……現在。
わたしとジーナは、更に2匹のホーントからの追撃をかわすべく、小部屋に放置された、やや朽ち欠けの宝箱の中に身を隠している財宝ライクです。ミミックでも可。
箱の隙間から見えるホーントたちは、わたしたちを探して部屋の中をぐるぐると回っている。
重力を感じさせないその姿は、少し素早いクラゲみたいだけれど、それ程優雅でも可愛くもない。
てゆーか、あのドレインタッチを1度でも体験しちゃったら、そんな考えにはならないしなれないよ!
まるで、氷の手で掴まれたみたいな冷たさと、そのまま精神そのものに触れられてる様な不快感。
吸い取られるって言うより、触れられた部分から削り取られるみたいな。
とにかく、もう2度とくらいたくない攻撃と言えよう。
2匹のホーントたちは、しばらく部屋の中をフワフワと漂っていたけれど、追撃を諦めたらしく扉の隙間からニュルッと外へ出て行った。
「……どっか行ったかな?」
「……う、うん。たぶん」
遠ざかって行く唸り声が、完全に消えるのを確認したわたしたちは、大きなため息と共に箱の中から這い出した。
「うーん、ヤレヤレ。
早く2人と合流しなくちゃ。ね、ジーナちゃん?」
背伸びをしながら、わたしがジーナに話しかける。
だけれどジーナは、今にも泣き出しそうな顔で、うつむいたままだった。
「……どしたの、ジーナちゃん?」
「……なんで」
「む??」
「なんで、あたしばっかり狙われるの!?」
少しだけ強めの声でそう言ったジーナの顔は、疲れと困惑とで複雑な状態になっているみたいに見えた。
「じ、ジーナちゃんが可愛いからじゃない?」
「からかわないでください!」
……むう、怒られちゃった。
別にからかったつもりはないんだけれどね。
でも、確かに今まで遭遇したホーントたちは、もれなくジーナを狙って攻撃していた。
それは、わたしがジーナの前に立っていてもである。
もちろん、わたしの事も攻撃してはくるのだけれど、ファーストアタックが必ずジーナだったりで。
これじゃあ、ジーナが取り乱すのも仕方がないと言う物なのですわなあ。
可能性は2つ。
1つは、単純に、ここのホーントたちが若い娘が好きなのかも知れないって事。
冗談でも何でも無く、ホーントも元は人間なんだし。
記憶は無くなっても、本能的な物は残ってるのかも?
もう1つは、わたしがこの世界の人間ではないって事。
ヴァルキリーも言ってたけれど、わたしはこの世界に「突然現れた」存在で、そのため、この世界の神様に認識されていないのだとか。
お陰で、ヴァルキリーから『戦乙女の祝福』を貰う前は、剣技を使った時にわたし自身もダメージを受けたりしてたけれど。
この世界の理の外にいる(ある?)魂だから、幽霊系アンデッドであるホーントは、わたしを認識しにくいのかも知れない。
まあ、全部わたしの推測、憶測、妄想的な何かだけれどね。
そうは言っても、このままではジーナが精神的にやられちゃうかも知れない。
でも、どうしたら良いんだろう?
対霊魔法なんて覚えてないし、アンデッド避けに効果的なアイテムも思いつかない。ニンニク? 鰯の頭??
こう言う時に僧侶がいれば、『ターンアンデッド』なんかで撃退できるのに。ぐぬぬ。
「……いっその事、ジーナを鞄にしまっちゃおうか?」
「う、ウロさん!?」
あうちっ、口に出てた!
「じょ、冗談だよジーナちゃん!
だ、大丈夫! 出来るだけ、わたしが前に出るから。ね?」
わたしが慌ててそう答えると、ジーナはクスッと笑って首を横に振った。
「ありがとう、ウロさん。でも、もう平気。あたしも闘うから!
ごめんなさい、ワガママ言って」
そう言って、グッと拳を握るジーナ。
おお、ええ子や。
ジーナが、割りとホジティブで良かった。
ならば、それに乗りましょう!
「うん、解った。
それじゃあ、改めてよろしくね!」
「うん!」
わたしの差し出した手を、ジーナは強く握り返してくれた。
うっし、仕切り直しじゃ!
わたしは、頭の中に2階のフロアマップを展開する。
闘いながら、逃げながらだったし、通って無い所もあるから不完全だけれど。
8割程埋まったマップは、やっぱり2階……てゆーかこのフロア自体が、塔の中とは別の場所なのかも知れない。
明らかに、塔の外観より広いし四角い。
そして、不完全だけれど『凹』の形になってるみたいだよ。
んで、わたしたちのいる場所から、やや戻った通路が、凹のへこんでる部分の真南になると思われる。
「ジーナちゃん。
もしかしたら、2階のゴールはすぐそかもよ!?」
「本当!?」
「うん。
でも、その為には少しだけ通路を戻らなきゃならないの」
「!?」
わたしの言葉に、ジーナが固まった。
それもそのハズ。
わたしたちの目指すべき通路こそ、さっきまでわたしたちを追いかけて来てた、2匹のホーントに絡まれた、まさにその現場なのだから。
あそこに戻れば、ほぼ必ずと言って良い程、ホーントたちの攻撃を受けると思う。主にジーナが。
横目にジーナを見れば、目を閉じて、口をムッとつぐんだまま下を向いてしまっている。
そりゃそうだよね。
ジーナは、この魔法学院に入るまで街から出た事も無かった様なお嬢様だった訳だし。
冒険者を見た事はあったみたいだけれど、自分が冒険者みたいな真似をするとは思ってもいなかっただろう。しかも、短期間にイロイロ。
それなのに、今、まさか冒険者でもなかなか出会わないホーントに襲われる事になるなんて。……とか思ってみたり。
いや、その、わたしだってそんな実体験は無いですよ?
あるとしたら、それこそゲームだった頃の記憶。
でも、それって疑似だし。バーチャルだし。
それはそれとしても、わたし的には、ジーナが狙われるのが確定してるなら話しは早いとか思ったり。
敵の行動をある程度コントロール来るなら、それを利用しない手はありますまい!?
つまり、ジーナを囮に……イヤイヤ、ダメダメ!!
さすがに、そんな酷な事は頼めな……。
「ウロさん!」
「んあ!? な、何、ジーナちゃん!?」
ヒドい事を考えてた為、一瞬だけ取り乱しちゃったよ。
「ウロさん、あたし、気づいた事があるの!」
「??
何に気づいたの?」
上気した表情のジーナは、わたしに促されるとコクンとうなずいてから口を開いた。
「あのホーントたち、扉から入って扉から出て行ったでしょ?
もしかしたら、壁を通れないのかな? って」
「!!」
確かに、ホーントたちは部屋への出入りは扉からだった。
それに、わたしたちを追いかけている時も壁を通り抜けては来てなかったと思う。
……だとすると、ホーントは魔法のかかった場所を通過出来ないのかも!?
前にも言ったかも知れないけれど、白い通路は、それだけで前後不覚になりそうになる。
だから、壁や床にインクで印の1つも付けてやろうとしたのだけれど。
結果は、魔法的な何かで汚す事が出来なかった。
……もしかして、壁や床の仕様って、ホーントが逃げ出さない為のセキュリティ的な何かでもあるのかな?
とにかく、これって大発見だとわたしは思う。
「ジーナちゃん、天才!
超絶素敵着眼点!!」
「そ、そん事は……」
ニヘラと笑って、照れるジーナ。可愛い。
同時に、わたしも1つ、気づいたと言うか思いついた事がある。……でも、その為には。
「ジーナちゃん、実はわたしも思いついた事があるんだけれど、聞いてくれる?」
「うん。
なあに、ウロさん?」
素直にうなずくジーナに、わたしは、深呼吸してから話し始めた。
「さっき、わたしたちを2匹のホーントが追いかけて来たでしょう?
でも、あの場所には3匹のホーントがいたハズ。
なのに、追って来たのは2匹だった。
たぶんだけれど、1匹は、あの場所を離れられない理由があると思うの!」
「!?」
わたしの言葉に、ジーナは目を丸くして瞬きした。
小さくため息を吐いてから、わたしは説明を続ける。
わたしの考えが正解なら、動かなかったホーントの後ろの壁には、見えてはいないけれど扉が隠されていて、それを守っていると思われる。
わたしたちが最初に入って来た扉も消えたのではなくって、それと同じ様に見えなくなっただけだったのかも知れない。
妖術師の魔法の中には、見えない扉や階段なんかを見つける魔法がある。……覚えてはいないけれど。
でも、1階の魔法陣みたいに目に魔力を集めれば!
ただ、それを確認するにはある程度の距離まで近づく必要があるけれど。
そこでだ……。
「ジーナちゃんには、囮になって欲しいのです!」
「!!」
ジーナの顔が、一気に険しいものへと変化した。
いや、予想通りなんだけれどね。
「ホーントたちは、わたしよりジーナちゃんを狙って来る。
だから、2匹を引き付けてもらいたいの。
守ってる1匹は、素早くわたしがやっつけるから。
扉を見つけたら、わたしが援護するから何とか逃げ出して!」
「と、扉が無かったら?」
「その時はその時!」
わたしの言葉に、ジーナが絶句する。
……うん、スカスカ作戦なのは、自分でも解ってる。
だけれど、引き出しの無いわたしたちには、これしか無い。たぶん。あるかな?
可能なら、ホーントを1匹ずつ倒してしまいたいのだけれど、魔法の矢は必中じゃあないから避けられちゃう確率が結構高い。
例え当たったとしても、倒しきるまでには、最低でも2発必要になる。
そんな暇は、絶対に無いしね。
もし掴まれてしまったら、魔力集中が難しくなっちゃうから、もう魔法は使えない。
あと、ホーントがこの3匹だけとは限らない不具合です。無限湧きだっりして。
つーか、こんな準備不足でダンジョンに挑む方がどうかしてるんだっつーの!!
聞いてるか、アルバートこんちくしょう!! なんつって。ウソウソ。
「……やる」
「えっ!?」
ジーナの絞り出す様な声に、わたしは我に帰った。
「あたし、やる。
あたし、ウロさんを信じる!!」
「ありがとう、ジーナちゃん!」
わたしとジーナは、もう1度だけしっかりと握手をしてから、ジーナから貰った魔石の欠片で魔力を満タンにした。
欠片を半分くらい使っちゃったけれど、出来るだけ不安は取り除きたいのココロ。
「じゃあ、行くよ!」
「はい、ウロさん!」
わたしたちは、可能な限りの警戒をしつつ、小部屋を後にした。
通路を戻るだけに、これ程まで緊張した事があっただろうか? たぶんあった。でもナイショ。
幸いにも、途中で別のホーントに遭遇する事無く、目的の通路手前まで戻って来る事が出来た。
曲がり角に身を隠しつつ、わたしたちは状況をうかがった。
「……いるね」
「うん、いる!」
小声のジーナに、わたしも小声で答える。
目的の壁の前には、3匹のホーントが漂っている。
2匹はフワフワと移動しているけれど、1匹は1ヶ所にとどまっていて動いていない。
距離、30メートルくらいかな?
魔法の矢の効果範囲は10~15メートル。
20メートルを超えると、威力がガクンと下がってしまうし、ヘタすると消えてしまう。
ここからじゃあ狙えないし、隠れる所が無い以上やるしか無いよ!!
「いくよ、ジーナちゃん!」
「はい、ウロさん!!」
かけ声と同時に、杖を構えたわたしとジーナは走り出した。
少し遅れて、2匹のホーントが反応する。
ホーントたちは、先行するわたしに気を止め……て来ちゃった!?
一直線にわたしに向かってくる2匹のホーント。
ヤバイ、いきなり作戦失敗!?
間もなく接敵する刹那、2匹のホーントがピタリと止まった。
!?
走りながら、訳が解らなくなっているわたしをよそに、ホーントたちは、明らかに小首をかしげて見せた。
何??
何か、迷ってるの!?
なんか、スゴい失礼じゃね?
ホーントに言うのも何だけれど、感じ悪いよ!
「ウロさん、前!!」
ハッ!?
ジーナの声に、慌てて前を見た。
わたしの前方20メートルくらい。
壁を守るホーントが、わたしを見据えていた。
「……違う!?」
壁守りホーントは、ただわたしを見ていただけではなかった。
その手の中に、黒く輝く“何か”があった。
それは、小さくなったと思った瞬間、恐ろしい速さでわたしめがけて撃ち放たれた。
!!
とっさに壁を蹴って、わたしは右へと転がる。
ほとんど同時に、わたしのいただろう辺りを真っ黒な線が高速で通過して行った。
「……今のって!?」
「きゃーっ、ウロさーん!!」
困惑するわたしの耳に、ジーナの悲鳴が轟いた。
さっきまでわたしを見ていた2匹のホーントが、ジーナに向かって突進している。
マズい。
完全に出鼻を挫かれた!!
「頑張って、ジーナ!
すぐ行くから!!」
そう叫んだわたしだったけれど、まだ困惑は続いている。
さっきの、確かに『影の矢』だった。
だとすると、壁を守ってるホーントは……。
わたしは、ホーントのステータスを確認する。
ホーント Lv 12
HP 25
MP 40
ドレインタッチ(魔力)
死霊魔法
影の矢
やっぱり。
コイツ、死霊魔術師のホーントだよ!!
そして、なんか強いよ!!
でも、魔法は死霊魔術師版の魔法の矢である『影の矢』だけ。
威力は魔法の矢と同じだけれど、アンデッドからのダメージが上昇する付加があったと思う。
しょ、正体が解れば、こ、怖くなんかないんだからね!? などと。
とにかく、魔法を使われないくらいに接近しなくちゃ!
バタバタと立ち上がったわたしは、低い姿勢で地面を蹴った。
あと15メートル!
既に壁守りホーントは、追撃の体制に入っている!
撃ち出す瞬間を見据えて、今度は左へ転がる。
チッ
「痛っ!!」
直撃こそ免れたけれど、影の矢はわたしの右頬をかすめて行った。
ドクンッ
その瞬間、わたしの身体に悪寒が走った。
名前 ウロ(状態異常 死者の呼び声)
ギニャーッ、貰っちゃった!!
これで、アンデッドからのダメージにプラス数パーセントの追加ダメージが付いちゃう。
でももう、わたしの距離だよ!
迷いながらだったけれど、わたしはホーントへの接敵に成功。
この距離なら、魔法を唱えてる余裕は無い! と思う。
「オ……オオオオッ!」
唸り声を上げて、ホーントがわたしに掴みかかって来た。
遅い!
右腕の攻撃をかわしつつ、わたしは拳に魔力を集める。
続け様に振り下ろされるホーントの左腕をかわして、わたしは、そのまま力一杯ホーントの顔を拳で打ち抜いた!
ドギャッ
「クォオオオッ」
ダメージは大した事はないけれど、ホーントがバランスを崩して宙を泳ぐ。
ここだ!
わたしは、素早くメニュー画面を開く。
そして、魔法の欄から魔法の矢を連打した。
ゲームの頃と違って、魔法にリキャストタイムが無い。
ならば、連発が可能だと思う。
MPの急激な大量消費が怖くって、ずっとやれずにいた事。
ぶっつけ本番とか、だいぶアレだけれどかまってられません!
左手に握った魔法の杖に、わたしの魔力がドッと流れ出るのが解った。
その途端に、杖の先端から5発の魔法の矢が、ゼロ距離でホーントに注がれる。
ドドドドドンッ
目の前で、強めのストロボでも焚いたみたいな閃光が走り、遅れて5発の爆発音が響いた。
「フォオオオ……オォ……」
マンガみたいに穴だらけにはならなかったけれど、水に波紋がいくつも広がるみたいになったホーントは、そのまま、黒い塊みたいになって消滅した。
「やった!」
そう思ったのもつかの間、わたしの身体がガクンッと重くなった。
……むう、やっぱりMPの大量消費は無茶だったッポイ!?
なんだか、このまま寝そべってしまいたい衝動がわたしにのしかかってくるけれど、そう言う訳には参りません。参りませんとも!
わたしは、重たいまぶたをクワッと開いて目に魔力を集める。
「あった! 扉だ!!」
ホーントのいなくなった壁には、魔力で隠された扉がキラキラと光って見える。
次は、ジーナ!
ジーナは、何度かホーントに触れられながらも何とか掴まれずに逃げ続けている。
「ジーナ、伏せて!」
わたしは、叫ぶと同時に魔法の矢を2発、続けてホーントたちに放った。
この距離では、ダメージは見込めないけれど、ジーナが逃げ出す隙になれば良い!
2筋の光が、消えかけながらも辛うじてホーントたちに吸い込まれて行く。
ババシュッ
「ウォオオオオッ」
「フォオアアアッ」
叫び声を上げて、ホーントたちの身体が大きくズレた。
「ジーナ、扉があった!
早くこっちへ!」
「……はい!」
かなり魔力を削られてフラフラになりながらも、ジーナが懸命に走って来る。
「オオオオッ」
少し遅れて、雄叫びを上げながらホーントたちがジーナを追い始めた。
わたしは、壁に向かって魔力を込めた手を当てた。
ブ……ウン
空気が震動するみたいな音が、鼓膜に微かに響いた。
音に遅れて、魔力が壁に両開きの扉を浮かび上がらせる。
扉は、音も無く勝手に開いて行く。
眩い魔力の光で、その中をうかがう事は出来ないけれど。
「ジーナ、早く!」
振り返って伸ばしたわたしの手に、ジーナの手が重なった。そのすぐ後ろには、ボロ布の様な2つの腕が伸びている。
ジーナの手を力一杯に引っ張りながら、わたしたちは光の中へと倒れ込んだ。
バチチッ
「クォオオオッ」
光の壁に阻まれて、ホーントたちが悲鳴を上げる。
時を置かずに扉が閉まり、そこは、再び白い壁へと戻ってしまった。
「……やった」
「……やったね、ウロさん!」
ジーナが、わたしに抱き着いて喜んでいる。
わたしも、嬉しさのあまりジーナを抱き締めた。
ジーナの温もりが心地良い。
むう。
魔力を使い過ぎたかな?
少しだけ寒く感じた。
「……ウロさん」
ジーナの声が、小さく震えて聞こえた。
「なあに、ジー……」
そう言おうとして、わたしはがく然とする。
吐く息が白い!?
てゆーか、やっぱり寒いよ!?
ジーナも震えているみたいだし、何か、この部屋寒いよ!!
「ウロさん!!」
ジーナの絶叫に、ガバッと顔を上げる。
目をカッと見開いて、ガクガクと震えるジーナ。
その視線の先を、わたしは恐る恐るたどって行く。
広くて何も無い部屋。
奥には、両開きの大きな扉がそびえ立っている。
そんな扉の前に、1つの人影が見えた。
フルプレートの鎧に身を包んだ、あご髭を蓄えた初老の騎士。
だけれど、その瞳には光が無かった。
良く見れば、その身体は半透明で、後ろの扉が薄く透けて見える。
そんな騎士の姿を見ているだけで、身体が冷えていく様な錯覚に囚われそうになる。
「う、ウロさん。あれって?」
震える声で問うジーナに、わたしは、答えを躊躇する。
だけれど、わたしの意思とは裏腹に、わたしの記憶がその答えを紡がせた。
「……ゴーストだ」




