第八話 修行おかわり
あれから2日がたった。
連日、マーシュさんの元で魔法の修行をして、魔力コントロールはほぼ完璧!
また、『生活魔法』なる物の修得に成功しました。
生活魔法は、ゲームの頃には存在しなかった物で、その名の通り生活に根差した魔法みたいです。
何やらイロイロありましたが、わたしは、『灯り』と『種火』と『清水』を学びました。
灯りは、魔法の灯りを作り出す魔法。
この間、マーシュさんが天井の燭台に点けたアレだ。明るいは正義です!
種火は、小さな火を一瞬だけ作り出す魔法。
いつかみたいに、点火に苦労しなくてすみそうです。切実だぞ!?
清水は、コップ1杯分くらいの水を作り出す魔法。
無味無臭の、まるで蒸留水みたいな水が出来ます。
もしもの時のソレ。備えあれば嬉しいな!
ただ、マーシュさんみたいに魔力を吸い取る技は出来ずにいます。
どうやら、魔力譲渡を応用した技らしい。
じゃあ、わたしにも出来るかも!? とか思ったのだけれど、まずは魔力譲渡を習得しないといけないらしい。
それなら、近い事は出来てるんじゃね? とか思ったのだけれど、どうやら、魔力コントロールとはまったく違う物らしい。
魔力コントロールで、魔力を送り出したり受け取ったりするのは、お互いに魔力をある程度扱えないとダメみたい。
一方的に魔力を送り出しても、相手に受け取る要素がなければ、魔力の無駄になってしまうのだとか。
むう。
何やら、大変なんだなぁとか思った。いや、ちゃんと理解してますよ? していますとも! 魔力の無駄遣い、ダメ、絶対!!
それはそうと、昨日辺りから不思議な事が起こっているのですがどうでしょう?
目の前に、何やらもやの様な物がかかっているみたいな。
疲れ目かも? とか思ったのだけれど、ステータスには異常無し。……まあ、ステータスに疲れ目が出るかどうかはアレな感じだけどね。
それが、今朝にはもっとひどくなってしまった不具合ですよ。
畑では、作物からまるで湯気みたいな揺らめきが昇り、水汲みでは、水が不自然に波紋を浮かべているみたいに見える。
どれも、まばたき1つで消えちゃったりするのだけれど、気にはなるのですよ。
ゲームとは違い、ここは別の世界と言う現実かもしれないのが今の状態。
ならば、わたしの知らない身体異常があって、しかもステータスには表示されないのかも知れない!?
何それ恐い!!
もしかしたら、魔力を吸われすぎておかしくなってるのかも?
なんだか、ひどく恐くなってきちゃったのですがなぁ。
と、とにかく、このままでは不安で体に悪いので、マーシュさんに聞いてみましょう。そうしましょう!
「さあ、解らないねぇ?」
何とも心強いお言葉を賜りました。どうしましょう!?
「あたしも、あたしの師匠に同じ修行をされたけど平気だったがねえ?」
マーシュさんは女傑でありました!
てゆーか、マーシュさんのお師匠様があんな無茶荒行編み出した憎いアンチクショウなのですね!?
「いや、お待ち! もしかしたら……」
お!?
何かあるかしら?
マーシュさんは、小さな器に水を入れると、わたしの前に置く。
「何か見えるかい?」
むう?
水じゃないの?
「……水が見えます」
ベチッ
「うぎっ!」
柄杓でぶたれた。頭頂部を。
「それは見れば分かるんだよ! 水以外に、何か見えるか聞いてるんだよ!!」
ぬう。
水以外。あ!
「波紋が立ってます」
「!!」
マーシュさんの目がカッと見開かれた!
「もっと、その波紋を良くご覧!」
むむむ!?
そうは言っても、波紋は波紋だし。
……ぬ!?
良く見てみると、波紋があちこちから出来てる?
「これは炭酸水ですか?」
ベシッ
「うぶっ!!」
柄杓でぶたれた。あごを。下から。
「そんなもん、ここいら辺には涌いてないよ! あんたが汲んできた井戸水だよ!!」
……そんなに怒んなくっても。
「……じ、じゃあ、波紋が不規則って言うか不自然な感じです」
「それは、魔力で見てるんじゃないんだね?」
ぬ!?
魔力で見る??
「い、いいえ。普通に……」
「良し。なら、今度は魔力で見てご覧!」
え!?
魔力で??
「眼を魔力で包む感じさね」
む、むう。
わたしは、魔力を眼に集中させる。
眼が熱くなる感じ?
やや、冷め気味の蒸しタオルを眼に当ててるイメージ?
何も見えない。
バチッ
「はぶっ」
叩かれた。両手で。ほっぺたを。
「眼をつぶってどうするんだい!?」
あ、魔力に集中するあまりに眼を閉じてた。こりゃ失敬!
改めて、集中!
あれ?
今、波紋の中に何か……?
もっと集中!
波紋と波紋の中に、何か動いてる?
でも、ボヤけて良く見えない。
わたしは、魔力の集中法を変えてみた。
眼を包む感じよりも、目の前に魔力のメガネのレンズを作る感じ!
魔力のレンズ越しに、ボケたピントを少しずつ修整していくイメージ。顕微鏡とか。 高い双眼鏡とか?
メモリをいじる感じで。
そ~れ、キリキリッとね!
徐々に、視界がクリアになっていく。
「……女の子?」
波紋と波紋の間に。
或いは、その波紋の真ん中に。
小さな、まるで蟻くらいの大きさの、半透明な女の子たちが漂って遊んでいる様に見えた。
「見えたね。それが水の精霊『水の乙女』だよ!」
うおおおお!!
「み、見えました! 女の子がいっぱいいます!」
「おめでとう。さすがは召喚士ってところだろうね」
「??」
「魔力の集中だけで、精霊が見えたんだ。あたしには、到底出来ない芸当だよ」
マジですか!?
「あたしは、『精霊感知』の魔法を使う必要があるね」
む!? もしかして、わたしのも魔法!?
コッソリとステータスを開く。
名前 ウロ
HP 16
MP 17/18
むむ!?
MPが、1ポイント減ってる!?
慌ててスキルを確認。
『召喚士の瞳』
おお!?
新しいスキルだ。
『召喚士の瞳 Lv1
精霊などの、普段は見えないものが見える能力』
ほうほう!
これは良い物ですね!?
レベル1って事は、高くなれば、もっとイロイロ見える様になるソレですね!?
「これで、ついに精霊召喚が!?」
「いや、無理だろうね」
えー?
なんでぇ??
「召喚魔法は『契約』が必要と聞いた事あるが、出来たのかい?」
……契約。
言われてみれば、そんなのがあったかも?
聖騎士だった頃、大規模戦闘のハズレ報酬の中にたしか……。
どうしたっけな?
あとでウロに覚えさせようとして……。
倉庫にしまったんだった!!
お、王都に行かねば!!
「わたし、持ってるかも知れないです。王都の倉庫にあるかも!」
「あるのかい!? 驚いたね。なら、その時に備えて修練しなくちゃね!」
……その後、召喚士の瞳を(現段階で)完璧に使える様に、繰り返し練習する事になりました。
魔力が枯渇すると、マーシュさんから緊急チャージ。
また枯渇すると、チャージ。
こ、この反復はやっぱりキツいのですがなぁ。
お陰で、陽が暮れる頃には自由に切り替えが出来るようになってたりしました。
そして、気になっていた眼の不調は、召喚士の瞳が開花しかかっていたせいだったと理解しました。
わたしってば、やっぱり天才ね! などと。
千鳥足で帰るのも、もはや慣れたもの。ええ、平気ですとも。
さて、帰ってみますと、何やらドタドタ騒がしい。
どうやら、トーマスさんたちが罠にかかったワイルドバニーを生け捕りしてきた模様。
「明日、商人連中が来るだろうからコイツを買い取ってもらうんだよ」
ジャンが、嬉しそうに話す。
なんでも、生きたままのワイルドバニーは、通常の倍の値が付くのだとか。
ただ、輸送なんかが大変だったり、上手く商人が来るタイミングで捕まえないといけないらしく難しいみたい。
木の檻に入れられたワイルドバニーは、しばらく暴れていたけれど、やがて大人しくなった。
あれ?
ワイルドバニーから、妙な煙が出てる?
「何か、ウサギから煙出てない?」
「いや、出とらんよ?」
「ウロ、大丈夫? 魔法の使いすぎで壊れちゃったの?」
し、失礼な!!
でも、トーマスさんもジャンも見えてないみたい?
もしかして?
わたしは、召喚士の瞳を試みた。
ワイルドバニーから立ち上っていた煙が、ワイルドバニーその物に変化する。
半透明のワイルドバニーは、わたしの前に寄って来る。
タスケテ!
「えっ?」
タスケテ、タスケテ!
「助けてって、どうするの?」
タスケテ。
なんだろう。
わたしの中で、閃きみたいな『何か』が動く感じがした。
「……いいよ、その代わりにキミはわたしの僕ね?」
ワカッタ。アリガト!
わたしが手を出すと、半透明のワイルドバニーはわたしの手の中に吸い込まれて行く。
同時に、檻の中のワイルドバニーは霧の様にかき消えてしまう。
おお~!
ステータスを確認する。
召喚魔法
《ビーストテイマー》
コール ワイルドバニー
キタコレ!!
初めての召喚魔法!!
コール ワイルドバニー!!
喚べちゃうの?
ウサギを!?
早速、メニューから魔法コール ワイルドバニーを選択。
わたしの足元に、淡い魔法の光が現れる。
光は円を描き、強く発光して消えた。
そして、わたしの足元には1匹のワイルドバニーの姿があった。
「出来た!!」
ステータスを確認する。
HP 16
MP 13/18
消費MPは4ポイント。
それ以上は減らないみたい。
でも、魔力的な繋がりは感じる。絆? 絆なの!?
「良し、お帰り!」
わたしは、魔力の繋がりを断った。
すると、ワイルドバニーはクルッと丸まって、地面に溶け込む様に消えて行った。
おおおお!!
感動!
スッゴい泣きそうなんですけど、どうしましょう!?
と、不意に背後で叫び声が響いた。
「うわぁああ! う、ウロが、野ウサギを生きたまま丸飲みしたー!!」
な、何を言ってんだこのクソボンズ!!
誰が丸飲みなんかするか、このクソボンズ!!
その後、ジャンを納得させてトーマスさんに謝るのに、かなりの時間がかかったのはナイショであります。
名前 ウロ
種族 人間 女
職業 召喚士 Lv1
器用 8
敏捷 10
知力 30
筋力 9
HP 16
MP 18
スキル
知識の探求
召喚士の瞳 Lv1
共通語
錬金術 Lv30
博学 Lv1
採取(解体) Lv1
魔法
召喚魔法
《ビーストテイマー》
コール ワイルドバニー
生活魔法
灯り
種火
清水