第八十三話 魔力修行じゃ!
前回のあらすじ。
夢も見ない圧倒的な眠り!!
魔力酔いで身体ゆわんゆわん。脳疲労で頭ぐらんぐらん。
同時に来ると、死ぬ程つらいと知りましたがウロです。
この1週間、授業終了と同時にレティ先生に拉致られて、魔法陣補強に強制参加させられたりしてました。
主食にマジックポーションをがぶ飲みさせられたりですが、栄養失調にはならなかった不思議。
てゆーか、わたし以外の人たちって、学院の先生方やその助手の方たち。
或いは、既に一線を退いている大ベテラン魔術師の方々しかいないのですがなあ。
そんな方々から、「ホレホレ、頑張れ少年!」やら「気合いを入れんか小僧!」など、暖かいご声援を給わったりしました。
制服の、スカート標準装備なのにですか。そうですか。
そんな感じだったものだから、せっかく習った『読解』の魔法を練習する余裕なんて無くって、部屋に帰れば、それこそベッドにバタンキュー状態でありましたよ。
……やってみたら、1回で出来ちゃったんですけれどね。わたしってば天才!? などと。
魔法の矢みたいに、何かをイメージする必要がないからかな?
或いは、木の枝じゃあなくって、ちゃんとした魔法の杖を使っているから!?
とにかく、魔法は成功!
そこいら辺にあるタペストリーや張り紙が、みんな日本語になってスゴい和風に見えた。
持続時間は大体5分で、消費MPは3ポイント。
うむ、コスパはまあまあかな。などと。
それより問題なのは、アルバートとジーナの魔力アップ修行ですよ!
この1週間、みんなとはろくに会話すら出来なかったのですから。
わたしの方は進捗状況を知りたかったりなのですが、だいぶヘロヘロで呂律も回らないわたしを気づかってか、みんな話しかけずに微笑みながら見守ってくれてましたしね。
だけれど、そのお陰かどうかは解らないけれど、ウディム先生を始め様々な方々からレティ先生にクレームが入り、「事故起こした張本人が来いや!」って事になったみたいで。
わたしの奴れ……助手生活は、1週間で終了したのでありました。自由って素晴らしい。
なもんで、今日からわたしもアルバートとジーナの修行をお手伝いですよ!
図書室へと続く、長い廊下の真ん中くらい。1番に目に付く扉があった。
複雑な細工の施された扉は、他のどの教室のそれとも違っていて、そこだけ遺跡から抜き出したみたいに見える。
そんな扉の奥が、アルド・ウェイトリー先生の研究室である。
……で。
扉の前には、絶望にうちひしがれているエセルの姿があったりするのですがなあ。
「大丈夫ですか、エセルさん?」
「……ああ、ウロ様ですか
」
うむ、まるで覇気の無いエセル。
聞けば、アルバートの護衛なのに、アルド先生から入室を断られてしまったらしい。
「……フランベル先生の研究室でも入室を断わられ、今度はウェイトリー先生です。
ウロ様、私はどうしてアルバート様のお近くにいる事が叶わないのでしょうか?」
いつもなら、鋭い眼光がたまらなく怖いエセルなのに。
今日のエセルは、捨てられた子犬みたいな目をしててビビッた。
「叶わないも何も、エセルさんはこの学院の生徒じゃないから。
魔術師の研究室って、貴重な本とか大切な研究資料とかあるし……」
「……!?」
わたしの言葉に、明らかにショックを受けているエセル。少し傾いでるし。
エセルには悪いのだけれど、わたしは急いでいるのですよ。
「ごめんなさい、エセルさん。
わたし、急いでいるので!」
そう言いつつ、わたしは扉をノックする。
コンコンコンッ
「こんにちは、ウロです。
アルド先生、いらっしゃいますか?」
「ああ、ウロくんか。入りなさい!」
扉をノックしたわたしに、アルド先生の声が返って来た。
「失礼します!」
装飾の割に軽い扉を開けて、わたしは中へと入った。
後ろで、エセルの声が聞こえた様な気がしたけれど気のせいなので平気です。
アルド先生の研究室は、通常の教室より少しだけ広い造りになっているみたいだった。
良く整頓されており、レティ先生とはエライ違いだよ。
床は黒い石が敷き詰められており、顔が写りそうな程に磨かれている。
壁には、天井まで届く程の本棚がズラリと並べられていて、その全てが本で埋められている。
天井からは、中くらいのシャンデリアが下がっていて部屋全体を明るく照らしている。
光源は魔法の光だけれど、鏡を使って光量を増やしているみたいだった。
「よく来た、ウロくん。
フランベルくんの用事は、もう済んだのかな?」
部屋の奥から、笑顔のアルド先生が迎えてくれた。
「お邪魔します、アルド先生。
お陰さまで、何とか」
「それは結構!」
わたしの答えに、ウンウンとうなずくアルド先生。
「ところでアルド先生、ニードルスくんたちは?」
そう言いつつ、わたしは辺りを見回した。
部屋に入った時から気にはなっていたのだけれど、ニードルスたちの姿がどこにも無かった。
「彼らなら別室におるよ。
それじゃあ、付いて来なさい」
わたしの言葉を受けて、アルド先生は、手招きしながら振り返った。
壁際まで進んだアルド先生は、壁に手を当てながら何事か呟いた。
一瞬、壁に当てられた手が魔力に輝くと、それを中心に、壁に淡く輝く光の扉が現れた!
「ホレ、こっちじゃ!」
やや背の低い扉を開けながら、アルド先生が再び手招きした。
今更ながら、ファンタジー感溢れる秘密の扉に、言葉無く感動していたわたしは、慌ててアルド先生の後を追った。
「あ、ウロさんだ!」
!?
聞き覚えのある女の子の声に、少しだけビックリする。
ジーナの声だ。
「ジーナちゃん?」
いつの間にか閉じていた目を、わたしはしっかりと見開いた。
そこは、さっきよりも1周りくらい小さな部屋だった。
フカフカの絨毯が敷かれた床。
ソファがコの字型に並べられ、その中央にはテーブルあり、その上ではお茶が湯気を漂わせている。
ソファに腰を下ろしているのは、わたしの良く知るみんなだった。
「もう、遅いですよウロさん!」
「いやいや、息災で何よりだな!」
ジーナとアルバートが、立ち上がってわたしを出迎えてくれた。
その後ろから、少し遅れてニードルスが現れた。
「ウェイトリー先生、今日の分の資料はまとめ終わりました」
「おお、すまんなニードルスくん。
丁度、ウロくんが来たから君もこちらに来なさい」
書類束を抱えたニードルスは、学生と言うよりどこかの事務員さんみたいだよ。
わたしに気がついたニードルスは、驚いた様な笑顔の様な表情をしてから口を開いた。
「……待ってましたよ、ウロさん!」
うぬー!!
待ってましたよ、じゃないよ!!
何、この待遇の差は!?
ここは天国ですか??
みんなでお茶とか。
こっちは、マジックポーションがぶ飲みだったっつーの!!
なんてセリフが、一瞬だけ頭をよぎったけれど、グッと我慢してみたり。
ニードルスめ、後で茶渋を制服になすってやる! などと。
「あんまし無事じゃあないけれど、取り合えず大丈夫だよ。
遅くなって、ごめんなさい!」
そう言ったわたしは、正直、かなりホッとしていた。
たった1週間、まともに話す機会が無かっただけなのに。
何だか、ひどく懐かしい気がする不思議です。
「さて、全員そろった所で、本格的な修行に入ろうか。
皆、まずは座りなさい」
わたしの肩をポンポンと叩きながら、アルド先生が言った。
それに従って、わたしたちはソファに腰を下ろす。
「これから、魔力を増やす修行について説明する。
皆には1度話しているが、確認の為に聞いておくように!」
アルド先生に答えて、全員が「はいっ!」と返事をした。
「魔力を増やす修行には、2つの方法がある。
1つは、『賢くなる』。
もう1つは、『魔力を使う』じゃ!」
アルド先生の説明はこんな感じだった。
『賢くなる』は、そのものズバリ、知力を上げる事だ。
この世界の最新の研究で、賢い者ほど、魔力の上昇が著しい事が解ったのだと言う。
確かにゲームだった頃には、知力が高ければ高い程、レベルアップ時のMPの上昇値が大きかった。
でも、今現在、知力を数値として確認出来るのは、恐らくだけれどわたしだけだと思う。
わたしも、どれだけ勉強したら知力が上がるのかは不明だし、ゲームだった頃には見えていた〝レベルアップまでどの位の経験値が必要か〟は、今は見えないし解らない。
と、不確定要素がだいぶ多くって、とても現実的では無い様な気がするのですがどうでしょう?
では、もう1つの方法『魔力を使う』は?
これもそのままズバリで、魔力は使えば使う程に伸びるとされている。
ただし、ただ単に魔力を使えば良いと言う物ではない。
魔力を、〝限界を超えて使う〟必要があるのである。
「ウェイトリー先生、〝限界を超えて〟って、どう言う意味ですか?」
当然の疑問に、ジーナが手を上げて質問する。
「言葉通りじゃよ、ジーナくん。
通常、魔力を使い果たした者は昏倒してしまう。
じゃが、昏倒した者に魔力を注入する事で、意識を回復する事が出来るのじゃよ!」
おおーっと、声を上げて驚くアルバートとジーナ。
アルバートは、妖鳥の風切り羽根探索の際に少しだけ体験してるけれど、昏倒からの回復は未知だもんね。
そのかたわらで、わたしとニードルスは顔を見合わせて苦笑いですけれどね。
アレは辛いもん。それはもう、死ぬ程に。
「だが、注意が必要じゃよ。
下手をすれば、命を落としかねんからのう」
何ですと!?
今、聞き捨てならないワードが出てたみたいだけれど。
「はい、アルド先生。
魔力注入って、そんなに危険な事なんですか?」
わたしが質問すると、アルド先生は一瞬だけニヤリと笑ってから口を開いた。
「うむ、かなり危険じゃ。
そもそも魔力は、人それぞれ違う物なんじゃ。
そこへ、全く別の魔力を注入すればズレが生じる。
ズレによって、様々な体調不良が発生するのじゃが、これを総じて〝魔力酔い〟と呼ぶ。
魔力が枯渇し昏倒して、精神が剥き出しになった状態の者に別の魔力を注入すれば、昏倒からは回復するじゃろうが、精神には、少なからずダメージを及ぼすし、場合によっては、その者の魂にさえダメージを与えかねんのじゃ!」
そう言って、アルド先生は自分のカップにお茶を注いだ。
その時のわたしとニードルスは、一体、どんな顔をしていたのでしょうか?
きっと、とてもとても酷い顔だったに違いありますまい! とか思う。
てゆーか、何してんのよマーシュさん!?
そんなわたしたちを見渡したアルド先生は、小さくため息を吐いてから口を開く。
「昔、学院に変わり者の先生がおってな……」
アルド先生がまだ、この学院の学生だった頃。
学院に、風変わりな先生がいたのだとか。
その先生の研究室には、今のアルバートやジーナの様に魔力不足で悩む学生が1人いたらしい。
そこで、その学生の為にある方法が編み出されたのだと言う。
「それが、『無属性魔力注入法』じゃ。
魔力には、それぞれ必ず〝波〟がある。だが、ごく稀にじゃが全く揺らぎの無い魔力が存在する。
それが、〝無属性魔力〟じゃ。
それを人工的に作り出す事で、注入しても極力ダメージの少ない魔力にするのじゃ!」
そう言って、アルド先生は20センチメートル幅の木箱を取り出した。
「ウェイトリー先生、それは?」
やや混乱気味のニードルスが、震える声で言った。
きっと、ニードルスも気づいてるのだと思う。
その魔力不足の生徒って言うのが、マーシュさんなんじゃないかって事。たぶん。
「これは、ワシが集めた魔石の欠片たちじゃ。
これを使って、君らには魔力上昇訓練を行ってもらう。
ウロくんはジーナくんと、ニードルスくんはアルバートくんと組みなさい」
不安の中、ペアを組んだわたしたちに説明された訓練は、想像以上に恐ろしい物だった。
アルバートとジーナは、昏倒するまで魔法を使用して魔力を消費させる。
昏倒した2人に、それぞれのペアが自分が昏倒しない程度に魔力を注入する。
その際、出来るだけ魔力から波を消す事を試みる。
回復した2人は、再び昏倒するまで魔力消費を繰り返す。
一方で、魔力を失ったペアの2人は、ジャンク魔石から魔力を吸収して回復を計る。
ただし、吸収する魔力を自分の波に近い物へとコントロールする。
以下、ループ。
「良し、早速始めるのじゃ!」
笑顔でそう話すアルド先生。
ヤバイ、こっちも地獄だったかも知れない!
そこで、わたしは1つの疑問に気がついた。
「あの、アルド先生。
魔力の波が魔力酔いの原因なら、マジックポーションで酔ったわたしは、どう言う状態なのでしょうか?」
「それは、単にポーションの飲み過ぎじゃよ。
飲み過ぎで、自分本来の魔力の波がズレてしまったんじゃ。
あんな物、日に何本も飲むもんじゃあないわ!!」
わたしの問いに、呆れた様に答えてくれたアルド先生。
やっぱりかあ。
てゆーか、わたしってば完全にキマってたんだー!
こうして始まった魔力上昇訓練は、上昇組もサポート組も、連日の強烈な魔力酔いにより、だいぶヘロヘロな日常を過ごす事になるのでありました。
果たして、訓練の結果は!?
あと、薬物の過剰摂取ダメ絶対!!




