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第七十九話 ある意味 呪われてるわたしたち

 だいぶ寝たのにまだ眠い。ウロです。二度寝はヘブンとヘルのせめぎあい。などと。


 レティ先生が帰って来ていると知ったのは、1時限目の授業が半分ほど過ぎた頃だった。


 クラスの誰もが、だいぶリラックスした状態だったのだけれど。

 突然、バンッと言う大きな音を立てて教室の扉が開き、両手に大量の書類やノートを抱えて、何故か涙目のレティ先生が入って来た時には、全員、飛び上がるくらいにビックリした。


「ふ、フランベル先生!?」


 誰とはなく呟いた声を無視して、レティ先生は正面の石板にデカデカと〝自習〟と書きなぐると、クラス中を涙目のままぐるりと見回してから、教員用の机に抱えていた書類やノートを投げ出して、そのまま、その書類たちを漁り始めた。


 数秒間の沈黙。

 後に大騒ぎ。


 それぞれの班の代表が、試練の塔への再挑戦権を求めてレティ先生の元へ詰め寄り、残りの者は、レティ先生への質問と休講だった事への批判を大声で唱え始めた。


 何もしなかったのは、わたしたちの班と魔法使い家系の子たちの班だけ。


 彼らは「今はまだ、その時ではない」と言っていたから動かないだろうけれど。

 わたしたちは、全員が「今のレティ先生には近寄ってはいけない!」と言う嫌な予感に包まれていたりですよ。


 だって、涙目ですよ!?

 絶対、何かあったっつーの!

 超絶、怖いっつーの!!


 恐れを知らないチャレンジブルなクラスのみなさんは、それこそ我先にとレティ先生の周りに集まって行く。


 やがて、机の周りに人だかりが出来て、レティ先生の姿が完全に見えなくなった頃……。


「うるさーい!!」


 レティ先生の怒鳴り声が、まるで小規模な爆発みたいに教室内に響いた。


 同時に、レティ先生の周りに集まっていたクラスのみんなは、弾き飛ばされた様に円状に倒れる。

 更に、その衝撃は教室の後ろの方に座っているわたしたちの所にも届いてビビッた。


 再び、数秒間の沈黙。

 それから、小さなざわめきが起こり始める。


「ま、魔法!?」


「いえ、あれは魔力ですね」


 小さく呟いたジーナに、ニードルスが素早く答える。目を、好奇心に輝かせながら。


 そう、ニードルスの言う通り。

 あれは、確かに魔力だった。


 魔力が一気に吹き出して、まるで突風になったみたいな?

 わたしには、急に強い風を当てられた様に感じたけれど、レティ先生の間近にいた人には衝撃波みたいに感じられたかも知れない。たぶんだけれど。


 困惑しながら起き上がろうとている生徒たちを、涙目のまま睨んでいたレティ先生は、スウと1回だけ深呼吸すると、吸い込んだ息を一気に吐き出すみたいに捲し立てた。


「うるさいうるさいうるさーい!!

 何なのよ、貴方たち。

 口を開けば『試練の塔』の事ばかり。

 そんなに私の授業が受けたくないワケ!?

 そりゃあ、たまに休講もあるわよ?

 だからって、そんなに文句言う事ないでしょう!?

 今回だって、貴重な情報や素材が手に入ったじゃない?

 き、帰還時に座標間違えて、Sクラス魔獣舎に突っ込んだけど。そんなの、たまたまだし? 座標計算したの、シトグリン先生だし。

 なのに、何で私だけ、こんなに怒られて責められなきゃならないのよー!? 」


 そこで息の切れたレティ先生は、水差しから1杯だけカップに水を注ぐと、ローブの袖でグイッと顔を拭ってからゴクゴクと飲み干した。


 クラス中が、呆気にとられてしまった様にポカンとした表情になっていた。


 ……てゆーか、途中から罪状告白になってた気がする。

 Sクラス魔獣舎って、何ですか??


「そう言えば、学院の一区間が立ち入り禁止になっていたが。

 そう言う訳だったのだな」


 アルバートが、腕組みしながらそう呟き、ニードルスやジーナがそれにうなずいた。


 あれ?

 わたし、その情報知らないのだけれど!?


 後で解った事だけれど、廊下や掲示板など、学院の至る所に『重要 立ち入り禁止区域について』なる貼り紙がしてありましたよ。

 ほ、ほら、朝って眠いじゃない? などと。


「……フランベル先生。

 先生のご事情は良く解りませんが、私たちには試練の塔に挑む権利がありますの。

 私たちが塔に挑む事と、先生の授業を受けたいかどうかは、今は関係ございませんわ!」


 涙目のまま、下唇をギュッと噛んでいるレティ先生に、強気と言うか命知らずな言葉を放ったのは、アレクシアだった。


 アレクシアの言葉に、クラス中が喝采を贈る。


 同時に、わたしたちの恐怖指数は跳ね上がって行く。


 お願いだから、もうその人を追い込まないでください! 割りとマジで!!


「……るさい」


「えっ?」


 レティ先生が何か呟き、アレクシアが聞き返す。

 盛り上っていた大勢も、ザワザワし始めた。


「うるさいって言ったのよ、アレクシア・ブルーム。

 て言うか、もう面倒だわ。

 私のクラスは今後、試練の塔への挑戦を禁止します!」


 へわっ!?


 な、なんですとおぉー!?


 にわかに、クラス中がざわめき立った。

 その中には、当たり前だけれどわたしたちも含まれている。


「そ、それはあんまりではありませんか。フランベル先生!」


 今まで、あまり取り乱す事の無かったアルバートが叫びながら立ち上がった。


 そりゃそうでしょう。

 あんなに大変だったんだもん。

 それに、アルバートにはあんまし時間が無いのだから。


「私たちが、どんな思いであの山まで行ったのか。

 先生には、お解りに……」


「そうだそうだ!」

「あんまりだ!!」


 アルバートが言い切る前に、大勢の怒声にかき消されてしまう。


 お前ら、山になんて行っておらんじゃろ? なんて言葉が出かかったけれど、無理矢理に飲み込んでみる。


 騒然とする教室の中、再びローブの袖で顔を拭ったレティ先生は、小さくため息を吐いてから口を開いた。


「……試練の塔の1階って、どんな試練があったかしら?」


 その途端、クラス中が大変な事になった。


 さっきまで怒声を上げていた全ての者が、口を内側に巻き込む様に歪ませて苦しみ始めたのである。

 当然、その中にはアレクシアの姿もあった。


 わたしたちと、他数名は無事だったけれどね。


 苦悶にうごめくクラス中を眺めながら、笑顔の戻ったレティ先生が続ける。


「はあ、やっと少し静かになったわ。

 〝あんまりでは〟か、それもそうね。

 じゃあ、こうしましょう!」


 嬉しそうに、手をパチンッと鳴らしたレティ先生。

 その顔には、悪い笑みが浮かんでいる。


「それでは皆さん、まずは、今かかっている呪いを解いてください。

 更に、抗呪の(すべ)を身につけたなら、試練の塔への再挑戦を許可する事にします。

 これは、担任として皆さんの身の安全を考えた上での苦しい決断です。

 どうか、頑張ってくださいね?

 それじゃあ、今日はここまででーす!」


 気がつけば、終了の鐘が鳴っている。


 まだ、呪いのダメージから抜けきれないみんなを余所に、レティ先生は、書類をまとめてサッサと教室から出て行ってしまった。


「……なんて事だ」


 机に伏して、頭を抱えてしまったアルバート。


「どうするの? 」


「これは、何とかして呪いの対策をしなくてはなりませんね」


 動揺しているジーナに、ニードルスが少し困った様に答えた。


 さて、どうしたものでしょう?

 寝過ぎでボンヤリした頭は回復したけれど、考えるには負担の大きな問題が出てしまった不具合ですよ。


 放課後、いつもの様に食堂の一角に陣取ったわたしたち。

 議題はもちろん、『呪い』についてだ。


「君ら、レティくんの生徒じゃろ? レティくんに直接教えを受けた方が良いのではないか?」


 そう言ったのは、もうお馴染みになりつつあるアルド・ウエイトリー先生。

 本日は、ハチミツ蒸しパンで買しゅ……相談に乗って頂きました。


「……その、レティ先生の所へは、もう行ったんです」


「ですが、『うるさい!』『忙しい!!』と、取りつく島も無い有り様でして……」


 わたしとニードルスがそう告げると、アルド先生はやれやれと小さく首を振った。


 ……そう。

 わたしたちは、呪いについての教えを受けるため、最初にレティ先生の所を訪れたのである。


「我々の師はフランベル先生なのだから、フランベル先生に伺うのが筋である!」


 と言う、アルバートの意を尊重しての事だけれど。

 わたしやニードルス、ジーナもだけれど、そろって「絶対無理!」とか思ってました。

 そして、その通りでしたさ!


 なので、いつも暇そ……じゃなくって、快くお時間割いてくださるアルド先生にお願いしたのでありました。


「しょうがないの。

 えー、君らは『呪い』の授業はもう受けた事があるのかな?」


 アルド先生の質問に、わたしたちは首を横に振る。


「まあ、そうじゃろうな。

 呪いについては、基本的に1年生の最後に習うはずじゃからの。

 レティくんも、意地が悪いのう」


 そう言って、ホッホッホッと笑うアルド先生。

 いやいや、笑い事じゃあねいですよ!?


「さて、呪いには大きく別けて2種類ある。

 それが何か、解るかな?

 ……ニードルスくん?」


「はい。

『念』による物と、『魔法』による物です」


 ニードルスの答えに、アルド先生は「その通り!」と手を叩いた。


 アルド先生の説明によると、呪いとは、その興りは死に行く者の『負の念』とされているらしい。

 場所や物など、所有者の想いが強ければ強い程、所有者が亡くなった後に想いの念が呪いに転じる事があるのだとか。


 それ以外にも、志し半ばで死んだ者の念や、命を奪われた場合にもそれは起こる事がある。

 もちろん、それは人に限った事では無い。


 対する魔法による呪いは、魔力と術式によって擬似的に呪いを再現する方法。


 いつ、誰の手によって開発されたかは不明だが、約千年前にはすでにあったと思われるらしい。


 魔法による呪いは、儀式魔法によって術式を組み込み、魔力によって発動・再現する方法である。


「もちろん、これは大雑把な分け方じゃがな。

 もっと大雑把にするなら、呪いは祈願なんかと同じ、神の奇跡に属し、反対に魔法は、学問じゃ!」


 そう言って、アルド先生はお茶を一口飲んだ。

 今日のお茶は、カモミール的な何かかな?


「さてさて、試練の塔に施されている呪いは、当たり前じゃが『魔法』による物じゃ。

 生徒に、『念』の呪いなぞ当てられんし、解呪なんか出来やせんからな。

 問題は、どうやって防ぎ、どうやって解くかじゃ。

 解るかな、ウロくん?」


「ふえっ!?

 えと、その、あの……」


 うぬぬ。

 全っ然、解んないよ。

 てゆーか、ゲームだった頃はアイテムで防いでたし、万が一に呪われたとしても、神聖魔法で即解呪だったし。

 あ、でも、魔法だって言うのなら……。


「えと、防ぐのは抵抗力を上げる……とか?

 解呪は、解りません」


「ホッホッホッ。

 防ぐに関しては正解じゃな!」


 わたしの答えに、アルド先生は目を細めて喜んでくれてるみたいだった。


 良かった~!

 当たってた~!!


 ゲームだった頃あった、『耐性魔法』を思い出しているわたし。


『耐性魔法』は、その名の通り様々な事象の耐性を上昇させる魔法の事で、火耐性魔法なら火系魔法や炎ブレスなどへの耐性が上がり、ダメージを軽減する。

 火・風・水・土・雷・氷・光・闇があって、それぞれに対応した耐性魔法があった。

 バージョンアップで対応が変わったとかで、チームの先輩方が戦々恐々としてたっけ。

 のほほんと見ていたら、「ちゃんと覚えなさい!」って、対応表をメールで送られたりもした思い出です。

 だから、防ぎ方は何となく解ったのだけれどね。


 じゃあ、解き方は?


「魔法で呪われたなら、必ずしもそうではないが、かけられた術式を読み、無効化するのが一般的じゃ」


 2つ目の蒸しパンに手を伸ばしながら、アルド先生が説明する。


「……なるほど、術式の無効化ですか」


 それを聞いて、ニードルスが目を輝かせた。


「でも、術式なんて見える物なんですか?

 魔力ならなんとか見えるけど……」


 たどたどしく、ジーナが呟いた。


「何じゃ?

 ジーナくんは、術式が読めんのか!?

 君は将来、魔導器を扱う商人になりたいのではなかったかな?

 呪われた危険な代物を見極められなけりゃ、魔導器なぞ、とても扱えやせんぞ?」


 アルド先生の言葉に、ジーナの目つきが鋭くなった様な気がしたけれど。良いと思います。


「呪いについては解りました。

 しかし、今の我々には、防ぐ事も解く事も叶いません。

 これでは、塔に挑めないのです!」


 やり場の無い憤りを、当然だけれどアルド先生にはぶつけられず、穏やかじゃない状態のアルバート。


 それを聞いて、アルド先生はフムと小さくうなずいた。


「アルバートくん。レティくんは、皆に何と言ったのかな?」


「は、はい。

 まず、今かかっている呪いの解除。そして、抗呪の術を身につけたらなら、塔への再挑戦を許す。と」


「君らは今、何かに呪われとるのかの?」


 !?


「それに君ら、まだ1度も挑戦してはおらんのではないかな?」


 キタコレ!!


 言われてみれば、その通りじゃん!!


 にわかに色めき立つわたしたち。

 だけれど、アルド先生の顔に笑みは無い。


「さて、ワシはこれで失礼するよ。

 塔に挑戦する道は示したが、抗呪や解呪を学んでおくのは悪い事ではありゃせんよ?

 良く考えてから、行動するようにの?」


「はい、色々とありがとうございました。アルド先生!」


 食堂を去るアルド先生に、わたしたちはお礼を言った。

 アルド先生は、手をヒラヒラさせてそれに応えてくれた。


「さて、どうしましょう?」


「さても何も、まずはフランベル先生の所へ行こう。

 私たちは、スタート地点にすら立てていないのだからな!」


 わたしの問いに、アルバートが上気した表情で答えた。


 ……それで良いのかな?

 わたしたちってば、話しは聞いたけれど何の対策も出来てないのだけれど。


「に、ニードルスくんはどう?」


 わたしの問いに、少しだけ考えるニードルス。

 ややあって。


「そうですね。

 呪いの内容が〝塔内での出来事を、どの様な手段をもってしても同行した者以外には伝えられなくなる〟ですから。

 1度くらい、呪いを体験しても良いのではないか。と思います」


 ……何を言ってんだ、このエルフ??


「それに、塔を突破出来れば呪いも解ける様ですし。

 あまり、問題無いと思います」


 何と言う、強気な発言!


「ニードルスさん、すごい!!

 そうですよ、頑張って突破しちゃいましょー?」


 そして、乗っかっちゃうジーナ。


「良し、決まった。

 早速、フランベル先生の所へ行こう!」


 アルバートの号に、立ち上がるニードルスとジーナ。


「ちょっと待って!

 せめて、呪いの術式の解析だけでもしてから挑もうよ! ね?」


 わたしの案に、ニードルスとジーナが賛同。アルバートも、渋々だけれど了解した。


 その後、わたしたちはレティ先生の元へ許可証を貰いに向かった。

 レティ先生は「キーッ!」とかなってたけれど、それこそ、かなり渋々ながら許可証をくれた。

 ちなみに、圧力に負けたジーナが、アルド先生の発案だと口を滑らせると、


「あんのクソジジイ!!」


 と、地獄の底から聞こえてきそうな声でうなってビビッた。恐ろしい。


 んで、問題である呪いの解析だけれど。


 ニードルスが、間近で呪いを見なくては解らないとおっしゃるので……。


 アルバートがアレクシアをナンパ。食堂にてお茶に誘う。


 2人の真後ろに陣取ったニードルスが、アレクシアをガン見。呪いの解析を行っていただきました。


 端から見ると、デート中の貴族カップルの、女性の方を後ろから息もかからん距離でガン見しているフードを目深に被ったエルフの図で、超絶面白かった!


 また、そんなアルバートを苦虫噛み潰したみたいな表情で見ているエセルの姿が。


 そんなエセルの姿を見て、とても楽しそうに微笑むジーナの姿が、試練の前の癒しとなったのは、ナイショの話でありましたとさ。ぐふふ。

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