第七話 修行じゃ!
魔法使いの朝は早い。
畑仕事とか。除草メインで。スローライフ?
村人生活も5日目。
前日の夜、わたしは魔術修行についてトーマスさん(あとジャン)に話した。すると。
「なら、マーシュの手伝いをしてやればいい。村の仕事に変わりはないから、こっちは構わんよ?」
「そうだよ。しっかり勉強してきなさい!」
ぬう。
嬉しいお言葉と上から目線のコラボレーション。
サムズアップのジャンにイラッ。……でも。
「ありがとうごさいます。頑張ってまいります!」
はい、ありがたくご厚意に甘えましょう。そうしましょう。
そんな訳で、わたしは、マーシュさんの畑で雑草をつまんでおります。
畑には、トマトなどの普通の野菜が植えられていた。
もっと、魔法使いッポイ物が植えられてるとか思ってたけれど。マンドラゴラとか。ベラドンナとか?
午前中は、主に畑仕事とお掃除と水汲みと……。今までとあんまし変わんないな。などと。
お昼を頂いたら、いよいよ魔法修行です。
「魔法と言ってもいろいろあるけど、扱うには魔力が必要だね」
魔力。
わたしたちが『MP』とか『精神力』なんて呼ぶソレは、ネイティブに言うと魔力になるらしい。
ステータスではMPと表記されてるから、同じってトコで。
魔力は誰にでもあるけれど、その大きさ(多さ?)は人それぞれ。
使う魔力量によって、同じ魔法でも威力や範囲が変わってくるようだ。
ふむふむ。
ゲームだった頃の『ダメージ拡大』とか『範囲(対象)拡大』とかですね。wikiで見た事ある!
「ただし、魔法構築となる基本の魔力は誰も同じ。……もっとも、達人になるとそれを抑える事も出来るらしいね」
あ~、『消費MP軽減』なんてスキルがあったかも!?
こんな事なら、もっと、ちゃんと魔術師まとめ読んどきゃよかった!
「さて、魔法を使うにはいくつかの方法があるけど……」
魔法を使うには、次の方法がある。
1 呪文を唱える
2 魔法陣を展開する
3 マジックアイテムの使用
たぶん、まだまだイッパイあるのだろうけれど、とりあえずこんな感じ?
呪文は、使いたい魔法の呪文を詠唱する事で、必要な魔力が消費されて魔法が構築、発動する。
魔法陣は、呪文を図形化した物みたい。
これに必要な魔力を込めると、魔法が発動する。紙に描いたり。地面に描いたり。
マジックアイテムは、魔法陣を様々な形に変えた物みたい。剣とか。指輪とか?
キーワードなどの条件(擦る、叩く等)が合うと発動。
その時、使用者の魔力を消費したり、あらかじめ込められた魔力を消費したりする。使用回数があったりもするみたい。
「で、問題なのは魔力の使い方さね」
キタコレ!!
そうです!
それが聞きたかったのです。
ゲームだった頃、魔法リストから選べば勝手にMPを消費して魔法が使えた。
たぶん、今も呪文を読み上げれば、普通にMPを消費して魔法は使えたりするのだろうけれど。
……でも。
そーじゃなくってさ!
どうせなら、「魔法を覚えて使いたい」じゃない?
それに、MP消費をコントロール出来ないと、サラマンダーの時みたいになっちゃうかも知れない不具合ですよ。
「……座って。ちゃんと聞いてるのかい?」
「ご、ごめんなさい。聞いてます!」
……迂闊!
歓喜のあまり、立ち上がってたみたいです。落ち着きのない子。
「語るより、やってみた方が早いやね」
そう言って、マーシュさんは右手の人差し指を立てた。
「¥◎ゐ∑≠ 灯り!」
眩い光が、マーシュさんの人差し指の先端に灯った。
てゆーか、今、なんて??
辛うじて「灯り」だけは判ったけれど、翻訳切っててほとんど解らなかった!!
「これが、『灯り』の魔法だよ」
ほいっと、マーシュさんは人差し指から天井の燭台に光の玉を放った。
ゆらゆらと揺れながら、光の玉は燭台に当たって燭台を発光させる。
柔らかな魔法の光が、部屋の中を明るく照らし出した。見た目には、白色蛍光灯みたいだ。
「い、今の言葉は何ですか?」
「今のは『古代語』だね」
古代語!?
何それ恐い!!
「古代語って言うのは、かつての魔界の言葉だそうだよ」
古代語は、魔法を創ったとされる魔人(魔神?)の使っていた言葉だと言われている。
そのため、魔法のほとんどは古代語での発音が必要になるらしい。
ちなみに、マーシュさんのジョブ『妖術師』は『魔界魔法』を使ったりします。 ……だったかなぁ?
「魔導書のほとんどは古代語で書かれてるから、覚えなくてはね!」
「が、頑張ります!」
「まあ、今日の所は魔力の使い方をやろうかね。あんまり時間も無い事だしね」
そうだった。
あと4日後くらいには、村を離れる予定だった!
予定を変えて村にいてもいいのだけれど、まずは王都に戻ってみる必要がある。……と思う。
「よろしくお願いします!」
改めてお願いする。挨拶重要、いや基本!
さあ、呪文ですよ呪文!
翻訳機能オンでばっちこ~い!!
「手を出して、あたしの手を握って」
マーシュさんが、わたしより細い両手を差し出してきた。
「は、はい」
うお? っとか思ったけれど、その手を握る。
向かい合って、両手をつないでいる状態。
何? 何展開!? 先生、そーゆーのあんまり許しませんよ!?
「まず、あたしが魔力を送るからね」
言うが早いか、マーシュさんの右手から温かいモノが流れ込んでくる!
「うわわわっ!?」
「集中して、流れを掴んでごらん?」
慌てて集中!
血流みたいな、でも血管とは違う。
もう1つの何か別の器官がある感じ?
なんだろう?
一定の間隔で流れてくる魔力(?)。
何となく、リズムゲームやってるみたいとか思った。
ならば、逆らわずに流れを作ってつないでみましょう!
マーシュさんの右手からわたしの左手に魔力が入る。
わたしの胸を通って右手に渡った魔力は、マーシュさんの左手に抜けて行く。
「戻す量が多いね、少し抑えて」
「は、はい!」
抑える!?
どーしよう??
わたしは、薄目でマーシュさんを見つめる。
マーシュさんのステータス表示!
名前 マーシュ
HP 130
MP 288
MPがゆっくり変化してる?
286、290、288……。
今度は自分のステータス表示!
名前 ウロ
HP 14
MP 16
何故かHPも減ってるけれど気にしない方向で。
16、18、14……。
ヤベ!
2、余分に出してた!
2、抑える!
流れる管を細くするイメージにしてみる。
14、16、14、16……。
よし!
「いいね。飲み込み早いよ」
「あ、ありがとうございます!」
壮大にカンニングしましたが、何を隠そう秘密です。
なるほど、これが魔力!
あの時、わたしから抜けていった物の正体は魔力だったのですなぁ。
「では、今度は抑え込んでみな!」
えっ?
瞬間、マーシュさんからの魔力の流れが止まる。
……いや、止まってない!
今度は両手から。
でも、なんか、こう……。
ズズズズ……。
ぎぇええええ!
吸われてる!!
14、10、6……!
えっと? あっと?? はわわわわ……。
あ、これ知ってる。
暗くなるやつだぁ……。
「大丈夫かい?」
「ら、らいじょうぶれす」
……大丈夫じゃないよ!?
頭、ぐらんぐらんですよ!?
「魔力を使い果たすと、失神しちまうんだよ」
……はい、知ってます。
すでに体験済み、更にナウです!
ゲームの時には無かった、MP0の恐怖。ちなみに今はMP1ですよ。
ずっと寝ていたい頭痛とダルさのハーモニー。
「召喚士なら、この制御が出来ないと呼び出したヤツに喰われちまうよ?」
……あ、そうか。
つまり、わたしってばあの時、喰われたんだ。
主に精神面で。
メンタルブローって恐くね?
喋るのも辛いわたしの肩に、マーシュさんはそっと手を置いた。
「魂の絆、心の源、我が元より給え。魔力譲渡!」
翻訳機能で、今度は呪文の意味が解った。
何気に恥ずかしいですけど!?
黒歴史ノート気味?
すると、にわかにマーシュさんの手が熱くなる。
同時に、わたしの中に、まるで渇いた喉に水が注がれて行く様な、全身が清涼感に包まれていく!
頭、超絶スッキリ!!
かなりリフレッシュ!!
「ぶはぁあ!!」
「戻ったね」
「はい、ありがとうございます」
改めて理解。
なるほど、あの時のわたしはこんなんだったんだ。
あぁ、おっかねえ!!
「じゃ、もう1回いってみようか!」
えっ!?
ちょっ!?
ぎぇええええ!!
……10回から先は、もう数えてないです。
なんか、もう、好きにしてって感じになりましたよ。
「どうだい? 魔力制御、出来ただろ?」
「は、はぁい」
出来た。
出来ましたとも!!
失神 → 復活 → 失神 → 復活……。
ここは鬼の棲み処だよ!!
「じゃあ、今日はここまでにしようか。続きはまた明日だね」
「はい、ありがとうございました!」
ヨロヨロと、マーシュ宅を後にする。
外は、もうすっかり夜でした。
魔法の灯りのせいで、眼が闇に慣れずに難儀してみたり。
てゆーか、足がガクガクなんですけれどね。
なんでですかね?
家に帰ると、2人がギョッとした顔で迎えてくれました。
かなり酷い顔してたみたい。
ジャンに、
「なんか、生気を吸い取られたみたいだよ?」
とか言われてみたり。
ええ、たっぷり吸われてきましたとも。
でも、お陰で魔力の流れを理解できました。
コントロールも、今度はきっと出来ると思う。……たぶんだけれど。
寝る前に、今日の復習をしたかったのだけれど、ベッドに倒れ込んだわたしは、そのまま、泥の様に眠ったのでしたさ。
朝起きたら、靴履いたままだったしな!