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第七十一話 それゆけ 妖鳥捜索隊!

 飼っていた文鳥に逃げられた事があります。ウロです。どうやって逃げたんだろう? 開いていた窓。入り込んでいた近所のボス猫。転がった鳥カゴ。……うっ、頭が。


「それでは、行って参ります!」


「どうか、お気をつけて。我が娘、リュッカをお願いします」


 魔石の輝く岩屋の壁に、わたしと、老女にしてはあまりにも美しい声が響いた。


 声の主は、ハーピィの長であるエヴィンド。

 彼女は、困った様な笑顔を浮かべながらわたしたちを見送っていた。


 風の壁を通り抜けながら、昨晩の事を思い出す。


 エヴィンドから事情を聞いたわたしたちは、フリッカの姉、リュッカの救出を決意。

 それこそ、今すぐにでも出発したかったのだけれど、間もなく夜になるとあって危険と判断。

 出発は、翌朝と相成りました。


 だってほら、今回の敵、アウルベアは夜行性だと思うし。頭とか、かなりフクロウだし。


 とにかく、ゲームだった頃のままならアウルベアは、遭遇すると必ず襲いかかってくるアクティブモンスター(こちらから攻撃するまで襲って来ないのはノンアクティブ。だったかな?)で、視覚と聴覚に反応するタイプだった。

 また、夜間は視覚が倍の範囲になったと思う。


 この世界のアウルベアが、わたしの知ってるそれと全く同じとは限らないのだけれど、それを踏まえた上で警戒するに越した事は無いと言う物。

 何より、今回のアウルベアはミュータント化している可能性すらある訳だし。リスクは出来るだけ少なくしたいのココロ。


 それに、情報収集もかねて襲われた村のハーピィたちから話が聞きたいってのもあったりです。


 この意見には、基本的にみんな同意してくれました。

 ただし、ほとんどのハーピィが言葉が通じず、話せても共通語がだいぶ片言なため、要領を得るのはかなり大変だった感じです。


 また、アルバートは情報収集の合間に怪我をしたハーピィの治癒をして回っている様子で、最終的には治癒がメインになってるみたいだった。……わたしも少し手伝ったけれどね。


「フリッカちゃん?」


 ジーナの声に思考中断。

 わたしは、ヘンニーの背中越しに前を見る。


 岩屋と外を隔てた、最後の風の壁。

 その前に、村までの案内役をしてくれるハーピィ。

 その隣で、頬を膨らませながら、目には涙をいっぱいに溜めたフリッカの姿があった。


 〝あたいも行く!!〟


 そう言って聞かないフリッカには、エヴィンドの説得さえも届かなかった。

 結局、泣き疲れて眠るまでそれは続いたのだけれど。

 ここでまた、昨夜の続きですか!?


 なんて考えていましたら。


「ふりっか、ココ残ル言ッタ」


 片言の共通語で、案内役のハーピィが言った。

 そのまま背中を押されたフリッカは、両の目から大粒の涙を降らせながらコクンとうなずいた。


「……お、お姉ちゃんを、助けて」


 翻訳を通して、フリッカの涙声がわたしの耳に届く。


 わたしは、ウンウンとうなずきながらフリッカの頭を撫でた。


 フリッカは、泣き腫らした目でわたしの顔を見ながら1度だけ首を縦に大きく振って、そのまま岩屋の奥へと行ってしまった。


 〝必ず助けて来る〟


 この一言が、どうしても言えなかった。

 リュッカがさらわれてから、もう4日は過ぎている事になる。


 ドンッ


 棒立ちになったわたしの背中に、次々と衝撃が走った。


「!?」


 わたしの背中を、みんなが1回ずつ叩いて風の壁を抜けて行く。


「ゲホッゴホッ!」


 予想外に強い衝撃に、思わず咳き込んじゃったよ。

 ニードルスまで。ぐぬぬ。でも、ありがたかったり。


「行こ、ウロさん?」


 最後に、ジーナが優しくポンッ背中を叩いてくれた。


「うん、ありがとう。ジーナちゃん!」


 笑顔で風の壁を抜けたジーナの後を、わたしは追う。


「ひとノ挨拶?」


 不意に、背後から声が聞こえた。


 振り返ったわたしの目に、両足を揃えて宙に浮き、今まさに蹴ろうとしている案内役のハーピィの姿があってビビった。止めたけどな!


 岩屋の外は、早朝と言う事もあって鼻が痛くなる位に寒くてビビった。

 良く考えたら、ここってそれなりの高さの山の上でしたよ。


 雪こそ無いものの、風はとても冷たい。

 時おり吹く強い風に、いかに岩屋が守られていたかを実感したりしました。温もりをください!


「良し行こう。隊列は、昨日と同じだ!」


 アルバートの号に、エセルを中心に隊列が組まれて行く。並んだだけとも言うけれど。


「皆さんを村まで案内します、スヴァードです。

 私の後に付いて来てください。村は、ここからそう遠くはありません!」


 スヴァードと名乗った案内役のハーピィが、隊列先頭の少し先を飛びながら進んで行く。……あ、言葉が片言なので、これ以降はわたくしウロの同時通訳でお送り致します。


 ちなみに、スヴァードのステータスはこんな感じ。



 名前 ドゥレンマ


 種族 ハーピィ

 職業 戦士 Lv10


 HP 32/32

 MP 16/16


 む?

 名前が違う!?


 ……あ、もしかして。


「スヴァードさん。スヴァードさんのお名前って、受け継がれるのですか?」


「本当に私たちの言葉が話せるのですね!?

 ええ、その通りです。

 スヴァードは、誇り高き長の守り手の名前です!」


 驚きつつも大きな胸を張って、スヴァードは少しだけ笑顔を見せた。……自慢か!?


 それはさておき、やっぱり襲名でした。


 んん?

 でも、クイーンの名前も襲名なのにエヴィンドはエヴィンドのままだった気がする。何でだろう?? 謎仕様!?


 こうしてわたしたちは、辛うじて道と呼べる様な岩場を、転落しない様に下って行く。


 下り始めて1時間。

 彼女らの〝そう遠くない〟は、翼の無いわたしたちにとって途方も無く遠く感じた。


 村とは言っても、実際には岩屋と同じ様な洞窟であり、立体的に移動出来ないわたしたちは、横に少しずつジグザグと降りなくてはならない。


 そんな最中。

 最初に遅れだしたのは、まさかのアルバートだった。


 顔色が悪く、玉の様な汗をかいている。

 それを見て、1番驚いていたのは言うまでも無くエセルだった。


 それはそうでしょう。

 だって、アルバートを鍛えた張本人だし、絶対的な自信を持っていたんだもん。


「大丈夫ですか、アルバート様!?」


「だ、大丈夫だ。ただ、少し疲れただけだ。情けない事だがな」


 青白い顔で、力無く笑顔を作るアルバート。

 そして、本人以上に動揺しているエセルの姿があった。


 何故? どうして?? と慌てるエセル。


 わたし、その理由知ってます。

 何故なら、わたしやニードルスにも経験があるからです!


 昨晩、アルバートは情報収集の合間に、怪我をしているハーピィに治癒魔法をかけて回っていました。


 わたしも少しは手伝ったけれど、アルバートは次々と、と言った感じだった。


 当然、魔力が無くなって昏倒寸前になってしまう。

 昏倒すれば、丸1日は起き上がれなくなっちゃう。

 そんなアルバートに、わたしの魔力を少しだけ注入して事無きを得たのだけれど。


 はい、魔力酔いです!

 更に、寝不足です!!


 朝、早かったからね。


 魔力って、あれだけ魔石があれば大丈夫じゃない? とか思うかも知れない。


 確かに、魔石は山ほどあります。

 けれど、ここにある魔石は風の魔力に染まっていて、光属性の治癒魔法には使えない不具合です。


 ならば、魔石から純粋な魔力だけを取り出せば?


 それが出来たら良かったのだけれど。

 マーシュさんみたいに、魔力を吸い出すなんてえげつない技、今のわたしにはとても出来ません!


 もちろん、アルバートにも。ニードルスにも。


 こっそり、アルバートのステータスを確認してみる。



 名前 アルバート・タヴィルスタン(状態異常:魔力酔い)


 HP 32/38

 MP 9/25


 寝不足は無かったけれど、やっぱり魔力酔いだし。

 あと、魔力減りすぎだから!


 狼狽するエセルに、わたしは急いで声をかける。


「エセルさん、アルバートくんは体力不足じゃないですよ。

 昨夜、魔法を使い過ぎて倒れそうになったから、わたしの魔力を分けたんです。それで……」


「!?」


 意味が解らないと言う顔のエセル。


「ああ、魔力酔いですか。

 それは、時間が解決するしかありませんね!」


 なるほど! みたいな顔でうなずくニードルス。


 と言う訳で、魔力酔いを知らないみんなに、わたしとニードルスで解説したりしました。

 不思議そうに見詰めるスヴァードには、少し休憩と伝える。


 話を聞き終えたエセルは、神妙な顔で深く大きなため息を吐いた。


「……解りました。

 アルバート様はお優しくていらっしゃいますから。ですが、ご無理召さるなとあれ程……」


「ああ、私が悪かったエセル。心配をかけてすまなかった。許してくれ!」


 アルバートの真っ直ぐな謝罪に、言いかけた小言を慌てて飲み込むエセル。

 そして、昇る陽の光を浴びて輝く2人。

 それを見て、口角上がりっぱなしのジーナ。


 そんな休憩の一時。ヤレヤレだよ。


 まあ、アルバートのお陰で解った事もあるのだけれど。


 わたしやアルバートが使える『ささやかな治癒』。わたしは指輪使用だけれど。

 これ、ゲームみたいに単純にHPの数値が戻るだけじゃあないみたいだよ。


 ゲームだった頃なら、瀕死状態でも死んでさえいなければ、ささやかな治癒でもHPは回復する。


 今でも、瀕死のザフザに魔法をかけた時には回復してくれた。


 だけれど、肉を裂き骨を砕いた深い傷は、単純な回復には繋がらなかった。


 重傷のハーピィに対して、繰り返し何度も何度も魔法をかけて、少しだけ傷が塞がり出した頃、そこで初めてHPの数値が回復した。


 どうしてなのかは解らないけれど、それが今の現実。


 瀕死のザフザが助かって、重傷だけれど瀕死ではないハーピィが回復しないのは何故なんだろう?


 もしかしたら、怪我の状態によっては回復が追いつかないのかも!?


 まだ、解らない事ばかりだけれど、これが今回解った事の1つだった。



 さて。

 休憩中を利用して、わたしたちは昨夜入手した情報の擦り合わせを行った。


 本当は、昨夜の内にやりたかったのだけれど。

 フリッカが泣いちゃったので。


 なんとか聞き出せた情報はと言いますと……。


 1 この山で、今までにアウルベアを見た事なんて無かった。


 2 多数の証言から、アウルベアはフリッカを狙っている様に見えた。


 3 最近、緑山(もう一方のダングルド山)の方で度々ヒト族を見かけた事がある。


 重要そうなのは、こんな感じ?


 1については、ゲームだった頃の知識と取り合えず一致します。


 アウルベアは、古代遺跡とか、やたら魔法的な洞窟なんかに出現してた様な気がします。

 自然発生した魔物ではなくって、魔法的に産み出されたキメラみたいな存在だからと説明された事があるけれど。


 ……ううむ。

 魔物の出典とか、もっとちゃんと読んでおくんだった。やや後悔。


 2については、えと、何でだろう?

 単純に、子供だったからかな?


「喰うなら、若い方が良いんじゃないのか?」


「そうだな。大人のモモ肉は筋張ってていけねえ。

 やっぱり、ある程度は若い方が柔らかくて美味いんじゃねえか?」


 ヘンニーとダムドの貴重なご意見。

 意識は、酒場か市場の露店にあるモモ肉焼きに飛んでますよね!?


「味の良し悪しは別として、何故、獲物の乏しい岩山の方に現れたのでしょうか?

 何故、鹿や猪などではなくハーピィだったのでしょうか?」


 ヘンニーとダムドを視線で牽制しつつ、エセルが首をかしげた。アルバートとジーナが、それにウンウンとうなずいている。


 ……むう。

 これについては、少しだけ思う所があったりするけれどどうでしょう?


「ウロさん、やはりあの事を皆に話しておくべきだと思うのですが?」


「えっ!? ……ああ、うん。でも、違うと思うよ?」


 急にニードルスに話しかけられて、少しだけ戸惑っちゃったよ。


 ニードルスが言っているのは、以前にわたしたちが闘ったミュータント・オークの事だ。


 今まさに、わたしも思い出していたソレだけれど。


 フリッカから、4本腕のアウルベアの話を聞いたからだと思う。

 あの時とは、イロイロと違う気がするけれどなあ。


「ニードルス様、何か思う所があるのでしょうか?」

「少し前の話しになりますが……」


 エセルの言葉に、ニードルスが答える。

 話したのは、もちろんミュータント・オークについてだった。


 ニードルスは、一緒に闘ったゴブリンのザフザたちの事を上手く隠しつつ、ミュータント・オークの事を話して聞かせた。


 みんな黙って聞いていたけれど、明らかに表情が強張っている。


「……それじゃあ何か? 街道を襲ってたゴブリンの背後にはオークがいて、更にその後ろには怪物オークがいた。それで、そいつらをお前ら2人が始末したってのか!?」


 話し終わって、最初に口を開いたのはダムドだった。

 その表情は、驚きと疑いの入り交じった微妙な物だった。


「私たち2人だけではありません。イムの村人や狩人など、〝森やオークを良く知る皆〟で、です。

 その後の事は、村に派遣されて来た騎士団にお任せしましたから解りませんが」


 そう話を締め括ったニードルス。……森やオークを良く知る皆って。


「なるほど。

 ならば今回の件も、魔力欲しさにハーピィを襲ったかも知れないと言う訳だな?」


 エセルと何やら小さく話していたアルバートが、ニードルスに問う。


「そう言う可能性があります。

 ですが、それだったら子供のフリッカより、魔力の多い大人を狙うと思うのですが……」


 腕組みをして、眉間にシワを寄せるニードルス。


 そこなのですよ!

 魔力が目的なら、子供より大人を狙うだろうし。


 実は本当に食糧目的で、緑山の動物たちをみんな食べ尽してしまった……は、さすがに無いと思う。

 だって、アウルベアの目撃情報は、村を襲われた時が初めてだったみたいだし。


 村が襲われたのって4、5日くらい前の事だし。

 いくらなんでも、それまで1度も、ハーピィはもちろん、人間にも見つからなかったなんてあり得ない! ……と思う。


「だああ、もう!

 いくら考えても、俺はアウルベアじゃあないから解らねえ。

 目的が魔力だろうとメシだろうと、鳥娘の姉ちゃんを助けに行くのは同じじゃないか?

 だったら、やる事は変わらないだろ!?」


「ああ、そうだな。

 出て来たのが鳥娘なら助ける。

 化物なら、殺しゃあ良いんだ。簡単な話だ!」


 ガシガシと頭をかきながらヘンニーが吐き出し、ダムドがそれに賛同する。


 ……まあ、その通りなんですけれどね。

 暗殺者、おっかないよう。


 そして、最後の3なのだけれど。


 わたしとしては、まあ、素材のいっぱいある山だし。

 人がいても問題は無い気がするのですが、どうでしょう?


「いいえ、それは無いと思います。

 少なくとも、普通の人たちじゃありません!」


 そう言ったのは、ジーナだった。


「何故、そう思われるのですか。ジーナ様?」


「はい、ええと……」


 エセルの鋭い眼光に、少しだけ首をすくめながらジーナは話し始めた。


「えと、王都の北、ダングルド山麓付近には、盗賊が出る事で有名なんです。

『ジュール盗賊団』って言う、とても残忍な盗賊たちです。

 盗賊団の首領ジュールは、通称『皮剥ぎのジュール』って言って、襲った相手の積み荷の他に頭の皮を剥いで、集めているんだそうです!」


 ジーナの話しによると、王都の北を旅する荷馬車は、盗賊避けに大商隊を組み、大勢の冒険者を雇って行くのが通例らしい。

 中には、商人では無い普通の旅人もいるけれど、安全のために参加費を払って加わっているのだとか。


「ですが、ジーナさん。

 そんな大所帯の山越えなら、ハーピィでも解るのではありませんか?

 馬車の目撃は、報告にありませんでしたよ?」


「山は、越えるんじゃなくって潜るんです!」


 ニードルスの問いに、ジーナがキッパリと答えた。


 ダングルド山麓には、トンネル状になった道が存在する。

 完全な地下ではないけれど、巨大な岩と岩の間を通り抜ける道は、昼間でも薄暗くて危険を伴う。

 だけれど、山を登らずに済むし、ほぼ平坦な道が続くため、荷馬車でも問題なく通過出来ると言う。


「まあ、あたしは通った事ありませんけど」


 そう言って、ジーナはペロッと舌を出して見せた。カワイイ。


 ……ちなみにわたし、その道知ってます!

 てゆーか、バリバリ通ってました。ゲームだった頃にね。


 ジーナの言う通り、山の下を半地下みたいなトンネルが通っていて、短時間で反対側のエリアに抜ける事が出来る。


 もっとも、ゲームだった頃にはここにこそ盗賊まがいのプレイヤーキラーがいて、だいぶ酷い目にあった苦い思い出ですがなあ。


「なるほど。

 では、ハーピィたちが見たのは、盗賊団の可能性があると言う訳だな?」


「そう思います。

 いくら資源が豊富な山でも、盗賊団と遭遇する危険を侵してまで入る人はいないと思います!」


 少しだけ元気を取り戻したアルバートに、ジーナも元気に答える。


「……ああ、もしかしたら、盗賊団はあんまり気にしなくても良いかも知れないな」


 ふと、ヘンニーがボソリと呟いた。


「何故、そう思うんだ。ヘンニー?」


 それを聞き逃さなかったエセルが、片眉を上げてヘンニーを睨んだ。


「えっ!? いや、その、な、何となくだよ。なあ?」


「へ? あ、ああ。

 勘! そう、冒険者の勘って奴だよ旦那!!」


 明らかに挙動の怪しくなった、ヘンニーとダムド。


 コイツら、何か知ってるのかな?

 或いは、コイツらが盗賊団なのでは!? などと。


 それから更に1時間。


 岩と岩の隙間の様な場所を抜け、裂け目を飛び越え、再び岩肌を登った先。

 わたしたちは、ハーピィたちの岩屋とそっくりな洞窟へとたどり着いた。


 先行して様子を伺っていたダムドが、立ち上がってわたしたちを手招きする。

 どうやら、危険は無さそうだった。


 うかない顔のスヴァードが、翼を小さく畳んで辺りを気にしている。


 奥へと進んだスヴァードは、目を伏せてため息を吐いた。


「……ここが、村だった所です」


 天井から射し込む陽の光が、何本もの白い帯の様に垂れ下がっている。

 その中にわたしたちが見た物は、真っ黒なインクをぶち撒けた様にくすんだ地面と、岩壁に浮かび上がった人型の赤黒い大量の染み。


 それは、惨劇の現場に他ならなかったのでありました。

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